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勇者の試練

勇者の試練 第三十一話

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 使い慣れたいつものカフェとは少し趣が異なるものの、美味しいコーヒーを入れるのには十分に感じられた。
 柘榴ちゃんは俺の入れたコーヒーを飲み終えるとそのまま部屋を出ていったのだが、代わりに戻ってきたのはうまなちゃんだった。

「私もコーヒーをいただいていいかな?」
「もちろん、何か飲みたいものでもあるのかな?」
「甘いやつがいいかも。ちょっと疲れちゃったんでうんと甘くしてもらえると嬉しいです」

 うまなちゃんのリクエストに応えて甘めのコーヒーを出してみた。一応砂糖も一緒に出したのだけど、うまなちゃんは一口飲んで甘さに満足できたのか砂糖は入れずにそのまま飲み続けてくれた。

「私を助けに来てくれたのは嬉しいんだけど、私だけみんなに迷惑をかけているみたいでちょっと嫌なんだよね。私は一人でも平気なんだけど、ダメな子だって思われちゃってるのかな?」
「誰もそんな風には思ってないよ。うまなちゃんだけ広い地域をまわらないといけなかったから仕方ないんじゃないかな」

「広いって言っても、この世界の半分だけだからそんなに大変じゃないと思うんだけどな」
「世界の半分でも大変なことだとは思うけど。それに、魔王と同じくらい強い魔物がたくさんいるって聞いてたんだけどな」
「そんなに強い相手はいなかったような気もするけど。私の使ってる斧が殺した相手の力をそのまま奪って強くなるから段々手ごたえも無くなってきてるんだよね。それが原因だったりして」

 うまなちゃんが持っている斧は前に見た時は体よりも大きく見えていたと思うんだけど、今は俺でも持てそうなくらいの大きさに縮んでいる。小さくなって強くなるという事なんてあるのかと思ったが、うまなちゃんがわざわざそんな嘘をつくことも無いと思うので信じることにしよう。
 仲間を疑うなんて良くないことだし。

「そう言えば、瑠璃先生も愛華もこっちに来てるんだよね。まだ私は会ってないんだけど、お兄ちゃんは二人がどこに居るか知ってるかな?」
「俺もどこに居るかは知らないな。でも、うまなちゃんを助けるって言ってたから別の地域に行ってるんじゃないかな。ここがどの辺にあるのかわからないけど、たぶんうまなちゃんがいないところで頑張ってるんだと思うよ」

「そうなんだ。それなら良かった。私ももう少し頑張ってみようかなって思ってるんだ。お兄ちゃんは私と一緒に来てくれるよね?」
「もちろん。でも、さっき出ていった柘榴ちゃんが戻ってくるのを待ってからにしないとね」

「柘榴ちゃんも来てたんだ。皆来てくれて嬉しいな。って事は、お兄ちゃんは勇者の試練もほとんど終わらせたって事なのかな?」
「うん、あとはうまなちゃんと一緒に試練を乗り越えれば終わりだよ」
「そっか、私が最後になっちゃったんだね。それだったら、協会の人達に話を付けて勇者の試練を受けに行かないとね」

「話をつけるってのは、ここを平和にしてからって事だよね?」
「ここが平和にならなくても問題ないでしょ。お兄ちゃんは知らないかもしれないけど、この世界の北半球って魔物の領土なんだよ。今は協会が頑張って前線を維持してるってだけだし。資源をとりに来るだけだったら魔物と戦う必要もないんだけどね。それでも、協会の人達はみんな頭がおかしいから魔物は全部倒しちゃうんだろうね。魔王はお兄ちゃんに任せるとして、それ以外はみんな私が倒してあげるからね。魔物じゃなくても邪魔する奴がいれば私が何とかしてあげるよ。協会とか連合とか連盟とか評議会とかそう言うのは関係なしに、私がお兄ちゃんの事を勇者だってちゃんと認めてあげるから」

 いつものうまなちゃんと何かが違うと思うんだけど、この世界に来たばっかりの時に魔王と戦った時もこんな感じだったような気がする。今まで見たことが無かったうまなちゃんの姿に驚いていたのを覚えているが、この世界で戦いが日常になったうまなちゃんは今の状態が当たり前になっているようにも思えた。

「うまなちゃんはこの世界をどうしたいのかな?」
「さあ、どうしたいんだろうね。最初はみんなで仲良く平和に暮らせるようになったらいいなって思ってたんだけど、協会の人と関わりを持って色々と見ていたらその考えはどうなんだろうなって思ってきたんだよ。だって、みんなこの世界を平和にすることなんて考えてないんだよ。この世界が平和になってしまったら自分たちの仕事がなくなるって思ってるみたいなんだ。それってさ、どうなんだろうって思っちゃうよね。お兄ちゃんは自分が倒す魔王がいなくなることはイヤだって思うかな?」

 俺が倒すべき魔王ってのはいまだによくわかっていないのだけど、俺にしか出来ないことがあるのならそれをやるべきだと思う。
 ただ、本音を言えば魔王を倒しつくして俺が戦うべき魔王がいなくなればいいと思っている。

 俺は別に戦闘狂ではないし平和に暮らせれば一番だと思っているのだ。

「出来ることなら、俺が倒さないといけない魔王がいなくなって平和になってくれたらいいなって思ってるよ。正直に言うと、俺はみんながいるからどんな敵がいても安心できてるんだけど、みんなには魔物と戦うなんて危険なことはやめてほしいって思ってる。みんなの力を信じていないとかそういう事じゃなくて、女の子にばっかりそんな危険なことをやらせるのはどうかと思ってるってだけの話なんだけどね」

「お兄ちゃんってやっぱり優しいんだね。私たちを倒せるのなんてワタシタチしかいないから平気だよ。魔物なんて相手にもならないって事なんだよ」
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