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勇者の試練
勇者の試練 第十五話
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今まで二人だけだと思っていたところに何の前触れもなく現れたイザーちゃんに驚いて声も出なかった。愛華ちゃんは何となく予想していたのか俺とは違って驚いているようには見えなかった。
イザーちゃんは愛華ちゃんによって顔を吹き飛ばされた男のもとへ近づくと手を合わせて頭を下げていた。
「あとは最後のフロアを突破するだけだよ。私はちょっと野暮用でやってきただけなんですぐに帰るけど、二人なら心配いらないって信じてるからね。お兄さんには申し訳ないと思うってるけど、この試練が終わったらすぐにお姉ちゃんと一緒に勇者の試練に挑んでもらうことになるからね。だから、無事に帰ってきてくれないと困るんだからね」
「イザーさん帰っていきましたね。どうせだったら一緒に戦ってくれても良かったんじゃないかなって思ったんですけど、そうはいかなかったみたいですね」
「二人で挑めって言われてたし、助けてくれるとは思ってなかったけどね。でも、やっぱりここに来たんだったら手伝ってもらいたかったなとは思うよね」
俺たちはイザーちゃんが消えていった壁を入念に調べながら思っていることを言っていたのだが、ココにある壁をいくら調べても人が入れるような場所はどこにも見つからなかった。
そんな事をいつまでも気にしている暇はないという事で、俺たちはこの試練の最終ボスが待っている部屋への扉を開けることにした。
愛華ちゃんが開けようとしてもビクともしなかった。
それではと思い、俺が開けようと努力したのだが動く気配は見られなかった。
一人でやっても開かないのであれば二人で力を合わせてみようという事になったのだが、最初に開けた扉と同様で俺たち二人が力を合わせると何事も無かったかのように扉は開いていった。
何の感触もなく開いたことに驚いたのだが、それ以上に驚いたことがある。
「どうしてそうやってすぐに撃ち殺しちゃうのかな。さっきもイザーちゃんに言われていたと思うんだけど、殺す前に相手の話を聞かないとダメだって忘れちゃったのかな?」
扉が開いて中を確認しようとした時には俺の横にいた愛華ちゃんが銃を抜いて椅子に座っている男に向かって発砲していた。
すぐ隣で銃を使っているという事がしばらく理解出来なかった俺ではあったが、椅子に座っていた男がそのまま前のめりになって椅子から崩れ落ちたのを見て何をしたのか理解してしまった。
「すいません。私もいきなり銃を使うのはダメだとは思っていたんですけど、あの顔を見るとどうしても我慢出来なくて撃ってしまいました。ラスボスであるのなら素顔を隠してほしかったなんて思ってるんですけど、それって私のわがままになるんですかね」
「わがままになるかはわからないけど、もう少し様子を見てほしいとは思ったよ。でも、あの男の人から向けられている殺気は俺も感じていたから仕方ないことなのかなとも思ってるよ」
一瞬だけ目が合ったと思う男は俺に向かって憎悪の念を抱いているように思えた。
理由はわからないのだけれど、俺の事を相当に組んでいるようにも見えた。
この世界に知り合いなんていないんだけどなと思ってはいたけれど、元の世界にも友人はおろか知り合いすらいないのを思い出してしまった。
少しだけ、悲しい気持ちになってしまった。
「でも、やってしまった事は仕方ないよね。ここを出たらイザーちゃんに頼んでもう一度やり直せるか確認してみようか」
「それは無理なんじゃないですかね。あの人がどこの誰かもわからない状態だし、そんな感じだとさすがのイザーさんもあの人と同じ人を見つけるのは困難だと思いますよ」
「この人がどこの誰かわかればいいって事だったらさ、身につけている物とか持っている物をちゃんと調べて遺族に帰した方がいいと思うんだけどな。あんまり近付きたくないって思ってるんだけど、調べないことには何も始まらないんだよね」
俺の言葉に小さく頷いた愛華ちゃんは俺よりも先に行こうとしていた。
さすがにここでも愛華ちゃんを縦に使うような真似はしたくないと思った俺はゆっくりと愛華ちゃんの前に出ると、そのまま真っすぐ男のもとへと向かっていった。
倒れている男を中心に赤い水が広がっていっているのだが、これだけの血を失っているという時点で確実にこの男は死んでいるのだろう。そうでなければ、この男はとんでもない再生能力を持っているという事にもなってしまうのだ。
当たり前ではあるが、話しかけても体を揺さぶっても男は起きることが無かった。
このままでは俺は何の役にも立たない男で終わってしまうと思ったので俺は男の遺体をうつ伏せから仰向けにしようとした。
俺の意図を読んでなのかただただ空気を読んだだけなのかわからないが、この男を仰向けにするためにそれなりの努力は必要となってしまった。
仰向けになった男の顔を見て俺は驚きのあまり言葉を失ってしまった。
ちょっと前に知り合ってそれなりに仲良くしていた野城圭重君がこの試練の最終試験官だったという事だった。
「このタイミングでいう事ではないと思うんですけど、次からはちゃんと相手が誰か確認してから撃つことにします」
「相手が誰であれいきなり殺すってのは良くないと思うんだよね。イザーちゃんもこの男の死体を運ぶのなんて嫌だと思うし」
「そういうところも考えないといけないんですよね。イザーさんがやってることって、かなり心に負担をかけるみたいですし、これ以上余計な心配はかけさせないようにしないとですね」
心配をされるようなことをしているのは間違いなく愛華ちゃんではあるが、俺も愛華ちゃんも一瞬で何かをしてあげようという気持ちにはなれなかったみたいだ。
勇者の試練を乗り越えた俺たちは部屋の奥にあったエレベーターに乗って地上へと戻っていった。
エレベーターがあるのであれば、俺がわざわざ歩いてやって来ることもない。そう思って俺は階段で元の場所に戻ろうと思ったのだが、さっきまで俺が歩いていた階段はどこにも見えなくなってしまっていた。
こんな事でいいのかなと思いつつも、全国勇者連合が監修している勇者の試練は一人の死者も出すことなく無事に終了したのだ。
イザーちゃんは愛華ちゃんによって顔を吹き飛ばされた男のもとへ近づくと手を合わせて頭を下げていた。
「あとは最後のフロアを突破するだけだよ。私はちょっと野暮用でやってきただけなんですぐに帰るけど、二人なら心配いらないって信じてるからね。お兄さんには申し訳ないと思うってるけど、この試練が終わったらすぐにお姉ちゃんと一緒に勇者の試練に挑んでもらうことになるからね。だから、無事に帰ってきてくれないと困るんだからね」
「イザーさん帰っていきましたね。どうせだったら一緒に戦ってくれても良かったんじゃないかなって思ったんですけど、そうはいかなかったみたいですね」
「二人で挑めって言われてたし、助けてくれるとは思ってなかったけどね。でも、やっぱりここに来たんだったら手伝ってもらいたかったなとは思うよね」
俺たちはイザーちゃんが消えていった壁を入念に調べながら思っていることを言っていたのだが、ココにある壁をいくら調べても人が入れるような場所はどこにも見つからなかった。
そんな事をいつまでも気にしている暇はないという事で、俺たちはこの試練の最終ボスが待っている部屋への扉を開けることにした。
愛華ちゃんが開けようとしてもビクともしなかった。
それではと思い、俺が開けようと努力したのだが動く気配は見られなかった。
一人でやっても開かないのであれば二人で力を合わせてみようという事になったのだが、最初に開けた扉と同様で俺たち二人が力を合わせると何事も無かったかのように扉は開いていった。
何の感触もなく開いたことに驚いたのだが、それ以上に驚いたことがある。
「どうしてそうやってすぐに撃ち殺しちゃうのかな。さっきもイザーちゃんに言われていたと思うんだけど、殺す前に相手の話を聞かないとダメだって忘れちゃったのかな?」
扉が開いて中を確認しようとした時には俺の横にいた愛華ちゃんが銃を抜いて椅子に座っている男に向かって発砲していた。
すぐ隣で銃を使っているという事がしばらく理解出来なかった俺ではあったが、椅子に座っていた男がそのまま前のめりになって椅子から崩れ落ちたのを見て何をしたのか理解してしまった。
「すいません。私もいきなり銃を使うのはダメだとは思っていたんですけど、あの顔を見るとどうしても我慢出来なくて撃ってしまいました。ラスボスであるのなら素顔を隠してほしかったなんて思ってるんですけど、それって私のわがままになるんですかね」
「わがままになるかはわからないけど、もう少し様子を見てほしいとは思ったよ。でも、あの男の人から向けられている殺気は俺も感じていたから仕方ないことなのかなとも思ってるよ」
一瞬だけ目が合ったと思う男は俺に向かって憎悪の念を抱いているように思えた。
理由はわからないのだけれど、俺の事を相当に組んでいるようにも見えた。
この世界に知り合いなんていないんだけどなと思ってはいたけれど、元の世界にも友人はおろか知り合いすらいないのを思い出してしまった。
少しだけ、悲しい気持ちになってしまった。
「でも、やってしまった事は仕方ないよね。ここを出たらイザーちゃんに頼んでもう一度やり直せるか確認してみようか」
「それは無理なんじゃないですかね。あの人がどこの誰かもわからない状態だし、そんな感じだとさすがのイザーさんもあの人と同じ人を見つけるのは困難だと思いますよ」
「この人がどこの誰かわかればいいって事だったらさ、身につけている物とか持っている物をちゃんと調べて遺族に帰した方がいいと思うんだけどな。あんまり近付きたくないって思ってるんだけど、調べないことには何も始まらないんだよね」
俺の言葉に小さく頷いた愛華ちゃんは俺よりも先に行こうとしていた。
さすがにここでも愛華ちゃんを縦に使うような真似はしたくないと思った俺はゆっくりと愛華ちゃんの前に出ると、そのまま真っすぐ男のもとへと向かっていった。
倒れている男を中心に赤い水が広がっていっているのだが、これだけの血を失っているという時点で確実にこの男は死んでいるのだろう。そうでなければ、この男はとんでもない再生能力を持っているという事にもなってしまうのだ。
当たり前ではあるが、話しかけても体を揺さぶっても男は起きることが無かった。
このままでは俺は何の役にも立たない男で終わってしまうと思ったので俺は男の遺体をうつ伏せから仰向けにしようとした。
俺の意図を読んでなのかただただ空気を読んだだけなのかわからないが、この男を仰向けにするためにそれなりの努力は必要となってしまった。
仰向けになった男の顔を見て俺は驚きのあまり言葉を失ってしまった。
ちょっと前に知り合ってそれなりに仲良くしていた野城圭重君がこの試練の最終試験官だったという事だった。
「このタイミングでいう事ではないと思うんですけど、次からはちゃんと相手が誰か確認してから撃つことにします」
「相手が誰であれいきなり殺すってのは良くないと思うんだよね。イザーちゃんもこの男の死体を運ぶのなんて嫌だと思うし」
「そういうところも考えないといけないんですよね。イザーさんがやってることって、かなり心に負担をかけるみたいですし、これ以上余計な心配はかけさせないようにしないとですね」
心配をされるようなことをしているのは間違いなく愛華ちゃんではあるが、俺も愛華ちゃんも一瞬で何かをしてあげようという気持ちにはなれなかったみたいだ。
勇者の試練を乗り越えた俺たちは部屋の奥にあったエレベーターに乗って地上へと戻っていった。
エレベーターがあるのであれば、俺がわざわざ歩いてやって来ることもない。そう思って俺は階段で元の場所に戻ろうと思ったのだが、さっきまで俺が歩いていた階段はどこにも見えなくなってしまっていた。
こんな事でいいのかなと思いつつも、全国勇者連合が監修している勇者の試練は一人の死者も出すことなく無事に終了したのだ。
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