上 下
85 / 111
勇者の試練

勇者の試練 第七話

しおりを挟む
 今まで歩いていたとてつもなく長い階段が地下二階だったのか、今いるこのフロアが地下二階なのかわからない。
 どっちでも気にすることはないと思いつつも、その事が少しだけ気になって頭の中がモヤモヤしていた。

「真琴さん真琴さん。あそこを見てくださいよ。何か書いてありますよ」
「本当だ。看板があるんだけど、なんて書いてあるんだろう。そもそも、これって言葉なのかな。何かの記号とか図形だったりするんじゃないかな?」

 愛華ちゃんは鞄からタブレットを取り出してその看板を撮影していた。電波なんて無いのでネットに繋いで検索することも出来ないのにどうするのだろうと思っていたのだが、その写真を様々な角度から見ている。何がわかるのかなと思っていたら、愛華ちゃんは何かを思い出したように一瞬だけ声を出していた。

「どこかで見たような気がしてたんですけど、城下町を歩いているときに見かけた休憩所と同じ看板ですよ。ココに書かれているのは文字ではなく休憩所を表す記号だって中にいた人に教えて貰ったんでした。他にも色々と教えて貰ったんですっかり忘れてましたけど、これは休憩所を表すってのは思い出しました」
「俺も何度か休憩所には行ったことあったけど、看板までは気にしてみたことはなかったな。その辺が俺と愛華ちゃんの頭の差なのかもね」

「意識してないだけでお兄さんも気付かないうちに理解してるって事じゃないですかね。私と真琴さんに違いがあるとすれば、そのあたりだけだと思いますよ」
「そんな事はないと思うけどね。でも、せっかく休憩所があるんだし少し休んでいこうよ。歩きっぱなしで疲れてるでしょ?」
「そこまで疲れてはいないんですけど、この先何があるかわからないですよね。少し休んでいくのもありですね。では、私が飲み物を探してきますので真琴さんは座って待っててください」

 ここまでほとんど何もせずに後を付いて来ただけの俺が座って休憩するのも申し訳ないよな。ここはカフェの店長でもある俺が何か美味しいものでも作ってあげるチャンスなのではないだろうか。

「いや、愛華ちゃんの方こそ座って休んでてよ。俺は何もせずにただついてきただけだし、役に立たせてほしいな。あそこに使えそうなものもあるし、カフェの店長でもある俺に任せてよ」
「そうですか。それもそうですね。真琴さんの方が美味しいモノを作れると思いますし、ココはお願いします」
「ありがとうね。俺も愛華ちゃんの役に立ちたいなって思ってるからね」

 そこまで道具に期待はしていなかったのだが、一般家庭くらいの道具は普通に揃っていたので普通に美味しいモノを作れそうな感じにはなっていた。
 水道水がの飲料用なのか気になる所ではあったが、冷蔵庫の中に未開封のミネラルウォーターが何本か入っていたのでそれを使うことにした。
 なぜここに冷蔵庫があるのかも疑問ではあるが、そんな事は気にせずに使うのもいいだろう。きっと、俺たちの事を心配した誰かが用意してくれたに違いない。

「こんなに欲しいものが揃っている休憩所もあるもんなんだね。さすがは全国勇者連合の作った試練のダンジョンだね」
「いくら連合でもここまでの物は作れないと思いますよ。第一、ペットボトルなんてこの世界に来てから始めてみましたもん。水筒も動物の胃袋で作られた物だったり瓶だったりしてましたよね?」
「そう言われたらそうかも。じゃあ、この冷蔵庫とペットボトルの水はいったい誰が置いたんだろう?」

 ペットボトルなんてあって当たり前だと思っているので何の違和感も無かったのだけど、愛華ちゃんに言われた通りでこの世界にこんなものがあるのはおかしい。
 何者かの罠なのかもしれないと思う気持ちが半分、もう半分は神様的な存在が俺たちの事を気遣ってこの休憩所を設置してくれたという事だ。
 そんなに都合の良いことなんて起きてたまるかという気持ちもあるのだけど、ココは俺たちの住んでいた世界とは違う異世界なのだからソレくらいのサービスがあっても罰は当たらないと思うことにした。

「愛華ちゃんはコーヒーと紅茶ならどっちがいいかな。誰でも作れるようなインスタントから本格的なものまで何でもあるみたいだよ」

 さすがにカフェとは揃えているものが違うのだが、ダンジョンの中で飲めるものとしてはこれ以上を求めるのも贅沢といえるだろう。ただ、ココにあるものだけでも普通に美味しい物が出来上がる自信はあった。

「あの、すいません。この椅子に座ったところ、手足を固定されて動けなくなっちゃいました。私としたことが油断してしまったみたいです」
「え、休憩室なのにそんなトラップとかあるの。ちょっと信じられないよね。怪我とかはない感じかな?」

「怪我とかはないですね。締め付けられてはいるけど痛くなるほどでもないですし、指先を動かすことくらいしかできそうにないです。これだとカップを受け取ることも出来ないので、真琴さんに飲ませてもらうことになっちゃいそうですね」
「飲ませてあげるのは構わないんだけど、それだとホッと寄りアイスの方がいいよね。ストローもあるし、美味しいのを作って飲ませてあげるよ」

「え、ちょ、本当ですか。冗談のつもりだったんですけど、冗談でも言ってよかった」

 身動きが取れないのはかわいそうだと思うのでどうにか仕掛けを解除できないかと思ったのだけど、愛華ちゃんはしばらくこのままでもいいという事でドリンク作りを再開することにした。
 甘くてミルク多めの美味しいカフェオレでも作ろうかな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

風切りのルーチェ

古池ケロ太
ファンタジー
十四才の少年ジュリオは、竜に乗って戦う戦士『竜撃士』を目指している。  ふとしたことから憧れの竜撃士・レオンに気に入られ、鷹のような姿の白竜『ニワトリ』を狩ることになったジュリオ。標的を追い詰めるも、土壇場でレオンに捨て駒として使われ、ニワトリもろとも墜落させられてしまう。  絶望するジュリオの前に、人間の少女の姿となったニワトリが登場。彼女の正体は、人間と鳥の合成生物だった。  レオンへの復讐に燃える少女・ルーチェと、行動をともにすることになったジュリオは、竜撃士同士の空中戦『ジオストラ』でレオンへと挑む――  弱気な少年と強気な竜少女の、王道空戦ファンタジー。

処理中です...