上 下
68 / 104
おパンツ戦争

第68話 イザーと野生のサキュバス達

しおりを挟む
 野生のサキュバスと零楼館のサキュバスが関わる時は基本的に争いごとが起きた時なのでイザーがやってきたことに対して野生のサキュバス達に動揺が走っていた。
 これだけの人数がいたとしても絶対にかなわない相手。イザーとはそれほどの戦闘能力に差があるのだが、今回は両者の間で争いごとが起こる気配はなかった。

「君たちが珠希ちゃんにカボチャの馬車を貸した人たちかな?」
「そうですけど、何か悪い点でもありましたか?」

 サキュバスのお姉さんはなるべくイザーの気を悪くしないようにと気を配ったのだが、カボチャの馬車を貸したことに関しては良いことをしたと思っているので少し複雑な気持であった。このまま野生のサキュバスと零楼館の抗争になったとしたら、明らかにこちらには非が無いと思うのだ。圧倒的な戦力差を考えると野生のサキュバスに勝ち目は全くないのだが、そんな理不尽なことで滅ぼされるのはごめんだと考えながらもイザーに逆らうことは出来ないというあきらめの心境に達していた。

「悪い点なんて何もないよ。凄く良いことをしてくれたと思うよ。私は長く生きてきたんだけどさ、カボチャの馬車の実物を見たのが初めてだったんだよ。ほら、昔の話で出てくるのが実際に見ることが出来るなんて思わないでしょ。あんなに可愛い馬車を作れるなんて凄いなって思ったんだよね。それに、何と言ってもあの馬車に珠希ちゃんを乗せてくれてるってのが良いじゃないですか。あのお話のカボチャの馬車って王子様が見惚れるくらい可愛らしいお姫様が乗ってたと思うんだけど、それってまさに珠希ちゃんの姿だよね。普通に制服を着てたのでちょっとアレってもうこともあったんだけど、ドレスじゃなくて制服姿だったってのは“逆に”珠希ちゃんの清純さをアピールする材料として申し分ないよね。私は野生のサキュバスってそういう感覚もってないんじゃないかと思ってたんだけど、良いものをより良くするって気持ちがあるって知れて嬉しかったよ。私たちとあなたたちって遠い昔に枝分かれしちゃってはいるんだけど、もとをただせば同じサキュバスだもんね。こうして分かり合える時が来るなんて夢にも思っていなかったんだけど、やっぱり君たちも珠希ちゃんのことを可愛いって思うのかな?」

 イザーの恐ろしさしか知らない野生のサキュバス達。目の前で工藤珠希とカボチャの馬車について熱く語るイザーの姿を見た野生のサキュバス達はさらに動揺を強くしてしまった。
 こんな風に一気に早口でまくし立てるような人だとは思っていなかったイザーの一面に驚いていたのは事実だが、それ以上に自分たちはそこまで深い意味を込めていなかった事に対してイザーが自分なりの解釈を当てはめて理解しているという事に対してどういうことなのか理解出来ずにいたのだ。

「そんなわけで、君たち野生のサキュバスに対して私が独断で何か賞を差し上げようと思うんだけど、副賞としてお願いを一つ聞いてあげるよ。ただし、私の出来る範囲で決めてくれると嬉しいな」
「あの、それってみんなで一つって事ですよね?」
「そういう事になるんだけど、どうしてもみんなの意見をまとめることが出来ないって時に限って、いくつか意見を出してくれてもいいからね。その全てを叶えてあげることは出来ないと思うけど、素晴らしい行いをしてくれたあなたたちに対して私は全力で答えるつもりではあるからね。さあ、少し考える時間をあげるのでみんなで答えを出すんだよ」

 思わぬ展開に野生のサキュバス達はどうしたものかと考えていた。
 ただ、全員の願いは最初から一つにまとまって入るのだ。問題は、その願いを叶えてもらえるかどうかというところにある。こんなに大それた願い事などは一蹴されてしまい一族が滅亡するきっかけになる可能性もあるのだけれど、今のイザー相手であればその願いも通るのではないかと思い始めていた。
 それほどに今のイザーは優しく穏やかな顔をしているように見えていたのだ。
 今ならどんなことでも言って大丈夫だろうという意見。さすがにそれは度を越してしまっているから様子を見ようという二つの意見に分かれていた。
 野生のサキュバス達の願いは一つなのだが、それをこのタイミングで言っても良いのかという悩みが生まれていたのだ。
 それでも、サキュバスのお姉さんはみんなを代表してイザーに願いを言ってみることにしたのだ。自分の命一つで願いを伝えることが出来ればそれでいい。そんな心持であった。

「あの、どんな事を言っても怒ったりしませんか?」
「余程の事ではない限り怒ったりはしないよ。でも、珠希ちゃんをくれとかはダメだからね。珠希ちゃんはサキュバス全員の希望であるけれど、今は私たちの大切な仲間だから」
「それはわかってます。若干それに近いかもしれないです。でも、珠希ちゃんをどうこうして欲しいってのとは違いますからね」
「ダメだったらダメでハッキリ言うからさ、軽い気持ちで言ってちょうだいよ。その方が私としてもスパッと答えられると思うからね」

「それでは、怒らないで聞いてください」
「うん、怒ったりなんてしないよ」
「あの、私たちは、前からずっと考えていた事なんですけど、出来ればでいいんです。出来ればで」
「何かな?」
「本当に無理は承知で言うだけ言っちゃおうって思ってます」
「どんなお願いなのかな?」
「本当に出来ればでいいんです。無理は百も承知です。なので、もしもイザーさんの気分を害してしまうようなことがあれば、私の命でみんなを見逃してください」
「命なんて奪わないよ。それに、そんなに思いつめるようなことでもないと思うけどな。ほら、もっと気軽に言っていいよ。それと、私の事はイザーさんじゃなくてイザーちゃんって呼んでくれてもいいんだからね」

 笑顔を見せてくれるイザーに願いをちゃんと伝えようと思ってはいるサキュバスのお姉さんではあったが、極度の緊張からか喉が完全に乾いてしまって言葉を上手く発することが出来ずにいた。
 サキュバスの一人が水を持ってきてくれたので一息ついて、身も心も落ち着かせてから真っすぐにイザーを見つめて口を開いた。

「私達野生のサキュバスを零楼館の傘下に入れてください。それが私たちの望みです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合系サキュバス達に一目惚れされた

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...