百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎

文字の大きさ
上 下
18 / 127

第18話 新たな悩み

しおりを挟む
 栗宮院うまなは悩んでいた。
 たい焼きが和菓子なのか微妙だと思うけれど、餡子を使っているという事を考えるとギリギリ和菓子と言っていいような気もしていた。ただ、クリームの場合は和菓子なのか洋菓子なのか判断に迷ってしまう。和菓子でもいいような気もするのだけれど、クリームを使っていることから洋菓子と言った方がいいのかもしれないという迷いがあった。

 そんな栗宮院うまなの事などお構いなしに工藤珠希は別のたい焼きも購入していた。

「実はね、普段滅多に見かけないたい焼きが売っていたから買っておいたんだよ。一人で食べるには多すぎるからうまなちゃんと分けて食べたいんだけど、大丈夫かな?」
「半分にするんだったら大丈夫だと思うけど、何味なのかな?」
「えっとね、味はあんこだって。普通のたい焼きよりもあんこが多いのが特徴なんだって」
「あんこのたい焼きならさっき買ったと思うんだけど、見たことないってどういうことなのかな?」
「えへへ、それは見てからのお楽しみだよ。前から気になっていたんだけど、一人だとなかなか買う勇気が出なかったからうまなちゃんが一緒で良かったよ。買うのに結構勇気がいるんだよね」
「へえ、そうなんだ。ちなみになんだけど、どの辺が珍しいのかな?」
「これは答えになっちゃうかもしれないけど、ヒントを出すね。たぶんうまなちゃんはこれを聞いたらすぐにわかっちゃうと思うんだけど、中華風たい焼きだよ」

 ヒントを聞いたところで全く想像がつかない栗宮院うまな。
 中華風と聞くとちょっとピリ辛だったりするのか、はたまた餡は餡でもとろみのある中華餡だったりするのだろうか。ますます何が何だかわからなくなってしまった栗宮院うまなは今すぐにでもバスを降りてそのたい焼きを確かめたいと思ってしまった。
 何でもすぐに中華風を名乗ることはあると思うのだが、知識がまったくない栗宮院うまなにとって中華風と言われてもまったくイメージすることが出来ない。栗宮院うまなの中で中華のデザートは杏仁豆腐かマンゴープリンか胡麻団子くらいしか思い浮かばない。中華料理と言われればいくらでも思いつくのだけど、デザートで中華風と名前の付くものと出会った記憶がないのだ。

 一体どんなたい焼きが出てくるのか興味はあるのだけど、それと同じくらい不安もあったりする。
 もしも、あんこではなく中に入っている餡が春巻きや餃子の餡が入っていたとしたら、それはもう完全に和菓子でも洋菓子でもなくなってしまう。そうなると、お菓子を食べたいと言っていた工藤珠希の気持ちが満たされないのではないかとも思えた。
 しかし、世の中にはおやつ代わりに肉まんを食べる人だっているし、インスタントラーメンがおやつだという人も見たことがあるような気がしていた。記憶力の良い栗宮院うまなではあったが、その辺の記憶は意識的に覚えないようにしているのかもしれない。

「次の停留所で降りるんだよ。うまなちゃんってバスの降車ボタンを押したことある?」
「押した事は無いかも。路線バスは何回かしか乗ったことないし、乗ったとしても終点までだったり誰かが押してくれてたりするかな」
「そうなんだ。それだったら、次の停留所のアナウンスが聞こえたら押してもいいよ。他に誰も乗っていないから押すチャンスだね」

 ボタンを押したら次の停留所で止まってくれる。それくらいはわかっている栗宮院うまなだったが、特にこのボタンを押してみたいと思った事は無かった。
 ただ、工藤珠希にとってはこのボタンを押すことによって幸福感を感じるとでも言いたいかのような顔をしていたのだ。
 確かに、ボタンを見れば押したくなるのが人情というものなのかもしれないが、サキュバスである栗宮院うまなにとってはボタンを押すという行為に何か特別な意味など感じてはいなかった。それでも、工藤珠希が譲ってくれるというのであれば押してみようという気にもなっていた。
 しかし、後者ボタンがあるのは窓のすぐ横なので通路側に座っている栗宮院うまなが押すには不自然な気もしていた。工藤珠希の前に割り込んでまでボタンを押すことが本当に正しいことなのか悩んでしまう。
 ボタンを押す体勢によっては工藤珠希に自分の胸を押し付けてしまう事になってしまいそうだ。いや、ここはあえて自分の胸を押し付けるべきなのではないだろうか。自分の方が降車ボタンに近いのにもかかわらず、押すように言ってきたという事はそういう事なのではないか。
 おそらく、工藤珠希は自分が降車ボタンを押すことで感じる幸せよりも、栗宮院うまなの胸が自分に当たるという幸せを選んだという事なのだろう。
 言ってくれれば胸くらいいつでも押し付けてあげるのに。そう思った栗宮院うまなであった。

 次の停留所のアナウンスが終わったので工藤珠希の前に自分の体を入れて降車ボタンを押した栗宮院うまな。
 当初の作戦では自分の胸を工藤珠希に押し付けて幸せな気持ちになってもらおうと考えていたのだが、今は生活しやすいように胸の成長を控えめなところで止めていたという事を思い出すことが出来た。
 サキュバスの女王である本来の姿であれば間違いなく胸が当たっていたと思うのだが、今は生活しやすいように控えめな大きさにおさえているのだ。

 降車ボタンを押して自分の座っていた場所に戻った栗宮院うまなを見た工藤珠希は何故かドヤ顔だったのだが、バスの降車ボタンを押すという事が特別なコトなのだという事は何となく理解することも出来たのだ。

 あとは、中華風たい焼きの正体を知るだけだなと思う栗宮院うまなであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

天才たちとお嬢様

釧路太郎
キャラ文芸
綾乃お嬢様には不思議な力があるのです。 なぜだかわかりませんが、綾乃お嬢様のもとには特別な才能を持った天才が集まってしまうのです。 最初は神山邦弘さんの料理の才能惚れ込んだ綾乃お嬢様でしたが、邦宏さんの息子の将浩さんに秘められた才能に気付いてからは邦宏さんよりも将浩さんに注目しているようです。 様々なタイプの天才の中でもとりわけ気づきにくい才能を持っていた将浩さんと綾乃お嬢様の身の回りで起こる楽しくも不思議な現象はゆっくりと二人の気持ちを変化させていくのでした。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」に投稿しております

処理中です...