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第九十五話 俺と政虎で久々の二人の夜

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 政虎と一緒にいられる時間が久々にとれると思っていたのだけれど、俺が思い描いていたのとは違って政虎はほとんど千雪と一緒に過ごしていた。それ自体は特に問題はないと思って見逃がしていたのだけれど、ここに向かう車の中からやたらと千雪が政虎に対してベタベタしているのが気になっていた。いつもの千雪であればそんな事はしないはずなのにまるで唯が乗り移っているのではないかと思えるくらいに政虎に対して必要以上にスキンシップをとっていたのだ。
「なあ、政虎は今でも家に残ってゲームしたり漫画読んでた方が良いって思ってるのか?」
「どうだろうな。俺が思ってたよりはここも楽しいんじゃないかなって思ってたりはするけどさ、ゲームとか持ってきても良かったんじゃないかなって思ってたりはするよ」
「そうなんだよな。なんでみんな持ってこなかったんだろうな。政虎は絶対に持ってくると思ってたんだけど持ってこなかったし、唯菜も持ってくるんじゃないかなって思ってたのにな。千雪もなぜかいつも持ってるゲーム持ってきてなかったし、ここ来るのにゲームを持ってきたらダメって話は出てないよな?」
「そんな話は聞いてないな。そもそもだけど、俺はほぼ何も知らない状況でここに来てるんだからな。あと何泊するのかも聞いてないんだけど、右近は知ってるのか?」
「いや、俺もそれは知らん。唯の話だと、あと二泊くらいはして欲しいみたいなことを言ってたよ。そうすれば今よりも具体性のあるレポート欠けるんじゃないかって話だからな」
「そうだった。感想を書かないといけないんだよな。でも、ここでしたことって海で遊んだのと蛍を見に行ったのと神社を掃除したくらいだもんな。他に書けることと言えば、ご飯が美味しいってのと自然が豊かだって事くらいか。俺達みたいなやつがまた遊びに来たいのかって言われたらさ、正直そんなに魅力的じゃないんだよな。確かに綺麗で静かでいいところだとは思うんだけど、何かちょっと普通じゃないような気がしているんだよな。遊んでいる時は何とも思わないんだけど、気付いた時には凄く疲れている事が多いんだよ。昨日もそうだったんだけど、今日は特に疲労感が凄かったんだ。やってることと言えば、初日にろくに休憩も撮らずに海で遊んでいた時が一番疲れてそうなんだけど、神社裏の祠の周りを掃除し終わった時の疲労感が一番凄かったよ。どうしてそんなに疲れてるんだろうって思っちゃうくらいに疲れてたからな。髑髏沼愛華も同じくらい疲れてたって言ってたし」
「お前らってさ、こんな言い方したらアレかもしれないけどさ、あんまり信心深くない二人だよな。まあ、俺も唯菜もたぶんそこまで信心深くない方だとは思うけど、そんな俺達よりは確実に神様なんて信じてないよな。それなのにさ、なんでそこまで必死になって熱心に掃除してたんだろうな。何か理由でもあったのか?」
 俺の質問を聞いた政虎は今年一番驚いたような表情を見せてきた。オカルト的な話は政虎も好きだというのは知っているのだけれど、だからと言って政虎は神様を信じてはいないと思う。正月にみんなで神社に参拝に行こうと言った時も政虎はしぶしぶと言った感じで付き合ってくれていたし、お祭りだってそんなに積極的に参加しようなんてしていなかった。人が多い場所が嫌いだと言ってしまえばそれまでかもしれないが、神様を本気で信じているのであればそんな事は口が裂けても言ったりしないだろう。
「理由か。何だろうな。掃除をし始めてすぐなんだけど、髑髏沼愛華か千雪ちゃんが何か動物を見たって言ったのがきっかけだったような気がするな。俺はその動物は見てないんだけど、動物がいた場所を見ていたらさ、もっと綺麗にしなくちゃいけないって思うようになったんだよ。なんでそう思ったのかわからないが、とにかくその時は綺麗にしないとって思って頑張ってたんだと思う。あんまりその時の事は覚えてないんだけど、千雪ちゃんが動物を見付けるたびにもっとやらないとって思ってたような気がするんだよな。それっていったいどういう事なんだろうな?」
「さあ、俺にはさっぱりわからないな。で、掃除して戻ろうとしたら疲れ果てて寝てしまっていたって事なのか?」
「だな。そう言うことになるな。でも、なんであそこで寝ちゃったんだろうな。この旅館まで戻ってくることも出来たとは思うんだけど、あの時はあそこで寝ておかないと危なって思ってたのかもしれない」
「俺から見たらあそこで寝てる方が危ないと思うんだけどな。あんな堅い床で寝てたら体も痛くなって大変だっただろ?」
「そうだな。起きてすぐは体が固まってしまったんじゃないかってくらいバキバキになってたよ。起き上るだけじゃなくて寝返りもうてないくらい体が痛かったな」
 横たわっている二人を見た時は本当に心臓が止まるかと思ったものだ。近付いてみると寝ているという事はすぐに理解出来たのだけれど、なぜこんなところで寝ているのだろうという疑問は残っていた。廃神社とはいえ、その境内で寝るのなんて平気かなと思って見守っていたのだが、今のところ二人に何か異常は出ているという感じは無かった。いや、政虎に対する愛華の態度がいつもよりも柔和になっているような気がしていた。
「なあ、掃除している時に愛華と何かあったりしたか?」
「何も無かったと思うけど。それがどうかしたのか?」
「俺の気のせいかもしれないけど、いつもとは違って愛華がお前に対する態度が違うように見えるんだよな。愛華が気付いているかは知らないけど、お前を見る愛華の目は恋する乙女みたいだったぞ」
「ああ、それは何となく気付いてるよ。でも、そんなのを見せられたところで俺にはどうする事も出来ないからな。大体、あいつが俺に対してそんな風に缶がることなんてないだろ。たぶん、唯か千雪ちゃんに何か言われて俺の事をからかってみようってだけなんだと思うぞ」
「そうだとは思うけどさ、ここに来てから皆前と違う感じになってるような気がしてるんだよな。俺と政虎は何も変わってないと思うけど、女性たちは前と違うような気がしてるんだよ」
「それはお前の気のせいだと思うけどな。でも、俺には気付けないけど右近には気付く何かがあるのかもしれないな。それが俺がモテなくてお前がモテてるって理由なのかもしれないよな」
 政虎のこの発言が本気なのか冗談なのか俺にはわからなかったので流すことにしたのだが、その表情を見る限りでは本気のような気もしてきた。確かに、モテる要素として女の子をちゃんと見ているという事もあるのかもしれないけど、それだけが大きなウエイトを占めているわけではないと思う。
 ただ、政虎がモテるようになっても俺は嬉しいと思わないので今みたいな関係が続いている方が良いと思うんだよな。政虎が好きなのは唯菜のままでいてくれた方が俺としても都合がいいし、間違っても千雪と付き合うような事にはなってはいけない。倫理的にとか道徳的にとかそういう問題じゃなくて、政虎と千雪が付き合うことになったら色々と面倒な事が増えそうな予感がしている。
 それだったら、まだ愛華と政虎が付き合う方が平和的な気もするんだよな。
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