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第七十八話 蛍を見た帰り道
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蛍を見ている時も感じていたのだけれど、唯も千雪もいつもとどこか違うように思えた。今にして思えば、この旅行が決まった時から違和感が拭いきれないのだ。言葉ではうまく説明することが出来ないのだが、今まで政虎と二人になることを極力避けていたはずの千雪ちゃんが積極的に政虎と一緒に行動するようになっているし、誰かと政虎が二人きりになるのを嫌がっている唯もそれを容認しているところが見受けられるのだ。
とはいっても、俺もこの時間に廃神社に行くというのはあまり気が進むものではないし、誰かが言って唯の気が済むのだったら政虎に犠牲になってもらうしかないだろう。クールに見えてそう言った者も平気そうに見える愛華は実は怖がりで一人では絶対に心霊系の作品に触れようとはしないし、唯菜は過去に遭ったストーカー事件を思い出すからなのか誰よりも暗がりを避けているのだ。一緒にバイトから帰る時も唯菜は近道ではなく安全な人通りの多いところを選んでいて、俺は多少遠回りになったとしてもそれに最後まで付き合っているのだ。
「なあ、今更聞くのはどうかと思うんだけど、千雪と柊政虎を二人っきりにして大丈夫なのか?」
「大丈夫だと思うよ。この辺はそんなに強い悪霊とかいる感じもしないし愛華ちゃんが心配しているような祟りとかも無いからね」
「ちょっとそういう冗談は良くないと思うな。でも、本当にあいつと千雪を二人だけにして平気なのか?」
「平気だよ。愛華ちゃんは何か心配事でもあるのかな?」
「そう言うわけじゃないけどさ、今日は車の中からずっとあの二人が一緒だったから唯ちゃんは心配じゃないのかなって思って。柊政虎にそのつもりはないと思うけどさ、もしかしたら千雪があいつの事を好きになることもあるんじゃないかなって思ったんだけど」
「それこそ大丈夫だよ。何の問題も無いよ。千雪ちゃんは私が政虎の事を好きだって知ってるからね。その為に色々と協力もしてくれてるからさ、今更千雪ちゃんが政虎を好きになったとしてももう遅いからね」
唯は愛華の問い掛けに対して力強くそう断言したのだが、なぜそこまで強く言い切ることが出来るのだろうと思ってしまった。政虎は聖人君子とは言い難いし、何だったら真逆の人間性だと思う。見た目だって誰もがうらやむような美貌を持っているわけでもないし、何か特別秀でている才能があるのかと言われると俺にもそれはわからない。だが、そんな政虎もある程度は面倒見もいいし、軽く付き合う分には悪いやつではないのかもしれないと錯覚をする事もあるだろう。大半の人はそこで気を許してから裏切られた気分になって離れてしまうのだが、それを乗り越えた先には俺や唯のように政虎の事をちゃんと好きになる可能性があるのだ。愛華は政虎と軽い気持ちで接した後に気持ちが離れた側の少数の人間である。唯菜はそのスタートラインにすら立つことが無かった大多数の人間なのだ。丸一日一緒にいても距離を取ろうとしない千雪は俺や唯みたいにほんの一握りもいない少数の側に立っていると言えると思うのだが、それにしては唯は政虎を取られるかもしれないという危機感を一切抱いていないように見えるのだ。
「右近君も千雪ちゃんが政虎の事を好きになるかもって思ってるんでしょ?」
「そうは思わないけど、一日一緒にいてもまだ離れてないってのはそういう可能性もあるんじゃないかなって思うんだよな。唯はそういう心配もしてないの?」
「全然してないよ。千雪ちゃんは政虎の事を好きになることは無いと思うし、政虎も千雪ちゃんの事は好きにならないでしょ。大体、そんな簡単に千雪ちゃんの事を好きになるような政虎だったら私は苦労なんてしてないと思うしね。右近もそれは理解出来るでしょ?」
「確かにな。政虎はああ見えて昔から一途なところがあるからな。小学校の時に片思いをしていた子を諦めたのだって高校が別になって会えなくなってからだからな。諦めが悪いって言えばそれまでだと思うけど、あいつってそういうところは頑固だったりするからな」
「そうなんだよね。じゃあ、どうやったら政虎は桜さんの事を諦めることが出来るんだろうね。もうみんな大人なんだからちょっとくらい距離が離れたからって諦めたりしないだろうしな。何かその思いを断ち切るような何か強い力でもないと無理なのかもしれないね。例えば、強力な力を持った縁を切る神様とか」
俺は政虎がどうしてそこまで唯菜の事を好きなのか本音を聞いたことは無い。上辺だけの取り繕ったような理由なら何度も聞いている。毎回聞くたびに答えが違っているので本音ではないという事は確かなのだが、どうしてそこまで政虎が唯菜に惹かれているのか俺には理解出来なかった。
唯菜をストーカーから守ったのは間違いなく政虎である。なぜかその後に唯菜を守るような形で俺が唯菜と同じバイトをするようになり、シフトが同じ日は毎回一緒に帰るようになっていた。本来であればそれは俺ではなく政虎が行うべきことであると思うのだが、不思議な事に唯菜はどんな状況でも政虎の事を受け入れたりはしなかった。今回は蛍を見ることが出来るという理由があって尋常じゃなくテンションが上がっていたからなのか、唯菜から政虎に話しかけることもあったりしたのだ。それなのに、蛍を見た帰り道では政虎の事を一切見ようともしていなかった。その行動も俺の目には不思議なものだと写ってしまっていたのだった。
とはいっても、俺もこの時間に廃神社に行くというのはあまり気が進むものではないし、誰かが言って唯の気が済むのだったら政虎に犠牲になってもらうしかないだろう。クールに見えてそう言った者も平気そうに見える愛華は実は怖がりで一人では絶対に心霊系の作品に触れようとはしないし、唯菜は過去に遭ったストーカー事件を思い出すからなのか誰よりも暗がりを避けているのだ。一緒にバイトから帰る時も唯菜は近道ではなく安全な人通りの多いところを選んでいて、俺は多少遠回りになったとしてもそれに最後まで付き合っているのだ。
「なあ、今更聞くのはどうかと思うんだけど、千雪と柊政虎を二人っきりにして大丈夫なのか?」
「大丈夫だと思うよ。この辺はそんなに強い悪霊とかいる感じもしないし愛華ちゃんが心配しているような祟りとかも無いからね」
「ちょっとそういう冗談は良くないと思うな。でも、本当にあいつと千雪を二人だけにして平気なのか?」
「平気だよ。愛華ちゃんは何か心配事でもあるのかな?」
「そう言うわけじゃないけどさ、今日は車の中からずっとあの二人が一緒だったから唯ちゃんは心配じゃないのかなって思って。柊政虎にそのつもりはないと思うけどさ、もしかしたら千雪があいつの事を好きになることもあるんじゃないかなって思ったんだけど」
「それこそ大丈夫だよ。何の問題も無いよ。千雪ちゃんは私が政虎の事を好きだって知ってるからね。その為に色々と協力もしてくれてるからさ、今更千雪ちゃんが政虎を好きになったとしてももう遅いからね」
唯は愛華の問い掛けに対して力強くそう断言したのだが、なぜそこまで強く言い切ることが出来るのだろうと思ってしまった。政虎は聖人君子とは言い難いし、何だったら真逆の人間性だと思う。見た目だって誰もがうらやむような美貌を持っているわけでもないし、何か特別秀でている才能があるのかと言われると俺にもそれはわからない。だが、そんな政虎もある程度は面倒見もいいし、軽く付き合う分には悪いやつではないのかもしれないと錯覚をする事もあるだろう。大半の人はそこで気を許してから裏切られた気分になって離れてしまうのだが、それを乗り越えた先には俺や唯のように政虎の事をちゃんと好きになる可能性があるのだ。愛華は政虎と軽い気持ちで接した後に気持ちが離れた側の少数の人間である。唯菜はそのスタートラインにすら立つことが無かった大多数の人間なのだ。丸一日一緒にいても距離を取ろうとしない千雪は俺や唯みたいにほんの一握りもいない少数の側に立っていると言えると思うのだが、それにしては唯は政虎を取られるかもしれないという危機感を一切抱いていないように見えるのだ。
「右近君も千雪ちゃんが政虎の事を好きになるかもって思ってるんでしょ?」
「そうは思わないけど、一日一緒にいてもまだ離れてないってのはそういう可能性もあるんじゃないかなって思うんだよな。唯はそういう心配もしてないの?」
「全然してないよ。千雪ちゃんは政虎の事を好きになることは無いと思うし、政虎も千雪ちゃんの事は好きにならないでしょ。大体、そんな簡単に千雪ちゃんの事を好きになるような政虎だったら私は苦労なんてしてないと思うしね。右近もそれは理解出来るでしょ?」
「確かにな。政虎はああ見えて昔から一途なところがあるからな。小学校の時に片思いをしていた子を諦めたのだって高校が別になって会えなくなってからだからな。諦めが悪いって言えばそれまでだと思うけど、あいつってそういうところは頑固だったりするからな」
「そうなんだよね。じゃあ、どうやったら政虎は桜さんの事を諦めることが出来るんだろうね。もうみんな大人なんだからちょっとくらい距離が離れたからって諦めたりしないだろうしな。何かその思いを断ち切るような何か強い力でもないと無理なのかもしれないね。例えば、強力な力を持った縁を切る神様とか」
俺は政虎がどうしてそこまで唯菜の事を好きなのか本音を聞いたことは無い。上辺だけの取り繕ったような理由なら何度も聞いている。毎回聞くたびに答えが違っているので本音ではないという事は確かなのだが、どうしてそこまで政虎が唯菜に惹かれているのか俺には理解出来なかった。
唯菜をストーカーから守ったのは間違いなく政虎である。なぜかその後に唯菜を守るような形で俺が唯菜と同じバイトをするようになり、シフトが同じ日は毎回一緒に帰るようになっていた。本来であればそれは俺ではなく政虎が行うべきことであると思うのだが、不思議な事に唯菜はどんな状況でも政虎の事を受け入れたりはしなかった。今回は蛍を見ることが出来るという理由があって尋常じゃなくテンションが上がっていたからなのか、唯菜から政虎に話しかけることもあったりしたのだ。それなのに、蛍を見た帰り道では政虎の事を一切見ようともしていなかった。その行動も俺の目には不思議なものだと写ってしまっていたのだった。
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