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第七十二話 俺と唯菜は飲み物が欲しいのです
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運転自体も久しぶりだったし慣れない車だったという事もあるのだけれど、自分が想定していた以上に疲労というものは蓄積していたようだ。休憩時間を当初の予定よりも多く長くとっていたとはいえ、みんなを乗せている車を運転するというのは心身共に疲れがあったようだった。本来であれば俺も政虎と一緒に千雪を連れて海まで行って遊んでいたと思うのだけれど、俺の体はさり気なく休息を求めてしまっていたのだ。二人には悪いと思うけれど、晩御飯の時間まで少し休ませてもらうことにしたのだった。
仮眠をとる前に何か温かい物でも飲んで落ち着こうと思って自販機を見に行ったのだけれど、夏だという事もあってホットドリンクは一種類も無くどこにでもあるようなよく見かけるジュースとお茶とコーヒーが並んでいるだけだった。冷たいものでも問題はないのだけれど、出来れば温かいココアかスープを飲みたいと思っていた。
「右近も飲み物を買いに来たの?」
自販機の前で何を買うべきか悩んでいた俺に唯菜はちょっと疲れた感じの笑顔を向けていた。車に乗っているだけでもあれだけの時間であれば疲労も溜まるものだろう。その上、唯菜は唯と一緒に地図を見てくれたりしていたのだから疲れているのも当然だと思う。
「うん、何か落ち着けるようなものが飲みたいなって思ってね。唯菜も何か買いに来たの?」
「ううん、私はちょっと部屋に居づらくて出てきちゃったんだ。私達の部屋で愛ちゃんと唯ちゃんが寝ちゃってるから起こさないように出てきたんだよ」
「それって、唯にベッドを取られたって事なのか?」
「そうじゃないの。唯ちゃんは愛ちゃんが使うベッドで寝てて愛ちゃんはベッドとベッドの隙間で寝ちゃってるの。なんでそんな場所で寝るんだろうって思ってたんだけど、唯ちゃんと同じベッドで寝るのは出来ないってよくわからないことを言ってるんだよ。それだったら私のベッドを使ってもいいよって言ったんだけどね、愛ちゃんはソレも申し訳ないから遠慮するって言って床で横になってるんだよ。なんでそんな事するのかさっぱりわからないよね」
「確かによくわからないな。でも、唯と愛華が同じ布団を使って寝てるところって見た事ないかも。それ以前に、愛華が誰かと同じ布団に入ってるのって見た事ないな」
俺の家で飲み会をやった時になぜか政虎と唯がベロベロに酔っぱらったことがあったのだ。正直に言えば遅い時間になっていたので帰って欲しかったのだけれど、その時はそんな事も言っているわけにはいかず政虎と唯のお酒が抜けるまで待つことにしたのだ。
そのまましばらく待っても二人の酔いがさめることも無く時間だけが過ぎていき、気付いた時には深夜を大きく回っていたのだ。仕方なくその時は二人を泊めることにしたのだけれど当然男の一人暮らしの家に来客用の布団なんてあるはずもなく、酔って前後不覚になっている唯は俺が普段使っているベッドに寝かせて政虎はその辺の床に毛布を敷いて寝かせることにしたのだ。
その時にいた愛華は普通に帰ろうとしていたので俺は何とか説得して一緒にいてもらうことにしたのだ。政虎も唯も俺は大切な友達であり大好きな友達でもあるのだけれど、さすがに一人で酔っ払い二人の相手はしたくなかったという事もあるのだけれど、愛華にとっても唯と一緒にいられる時間が伸びているというメリットもあったと思う。
でも、そんな愛華は唯と同じベッドには入ろうとせずベッドのすぐ横に座って何をやっているのかわからないようなテレビをじっと見ているのであった。
そんな愛華に俺は色々と聞いてみたのだけれど、愛華から返ってくる答えは適当に思いついたとしか思えないようなモノばかりであったのだ。
なぜ同じ布団で一緒に唯と寝ないのだろうという思いと同時に、このまま愛華が起きているんだったら俺も寝ることが出来ないなと勝手に思い始めたりもしていた。だが、そんな心配をよそに愛華は座った姿勢のまま小さな寝息を立てながら体を小さく丸めていたのだった。
「何でかわからないけど、愛華って誰かと一緒に寝るのって好きじゃないのかもな。前に俺の家で飲み会をやった時があったんだけど、その時はなぜか政虎と唯が潰れてしまって俺の家に泊まることになったんだけどさ、愛華はなぜか唯と同じ布団に入らなかったんだよな。床に座って寝るよりもちゃんとベッドで寝た方が良いよって言っても聞いてくれなかったんだ。あとで理由を聞いても教えてもらえなかったよ」
「愛ちゃんって誰かと一緒にいるのが得意じゃないのかもね。私もちょっとだけその気持ちはわかるんだ。でも、誰かと一緒にいたいなって思う事もあるよね」
唯菜は俺に顔を向けずに自販機の方を向いたまま話をしている。顔が見えないのでどんなことを考えているのか想像も出来ないのだけれど、俺にとって良くないことを考えているような予感はしていた。こういう時の俺の予感は冴えている事が多く、物語も嫌な方へと少しずつ近付いて行っているように感じてしまう。たぶん、唯菜はとんでもないことを言ってくる。
「さすがに食堂とかロビーで仮眠をとるわけにもいかないよね。でも、私達の部屋は唯ちゃんと愛ちゃんが寝ちゃってるしどうしたらいいのだろうね。唯ちゃんの部屋は千雪ちゃんも海に遊びに行ってるんで誰もいない状態だけど勝手に使うのも悪いしね。どこか私が横になっても問題無い場所ってあったりしないかな?」
急に振り返った唯菜の顔は今まで見た事も無いくらい純粋な瞳を輝かせていた。どうしてそんな目をすることが出来るんだろうって思っていたのだけれど、純粋な視線は俺にとって凶器なんじゃないかと思ってしまうほど真っすぐすぎて胸が痛くなってしまっていた。
仮眠をとる前に何か温かい物でも飲んで落ち着こうと思って自販機を見に行ったのだけれど、夏だという事もあってホットドリンクは一種類も無くどこにでもあるようなよく見かけるジュースとお茶とコーヒーが並んでいるだけだった。冷たいものでも問題はないのだけれど、出来れば温かいココアかスープを飲みたいと思っていた。
「右近も飲み物を買いに来たの?」
自販機の前で何を買うべきか悩んでいた俺に唯菜はちょっと疲れた感じの笑顔を向けていた。車に乗っているだけでもあれだけの時間であれば疲労も溜まるものだろう。その上、唯菜は唯と一緒に地図を見てくれたりしていたのだから疲れているのも当然だと思う。
「うん、何か落ち着けるようなものが飲みたいなって思ってね。唯菜も何か買いに来たの?」
「ううん、私はちょっと部屋に居づらくて出てきちゃったんだ。私達の部屋で愛ちゃんと唯ちゃんが寝ちゃってるから起こさないように出てきたんだよ」
「それって、唯にベッドを取られたって事なのか?」
「そうじゃないの。唯ちゃんは愛ちゃんが使うベッドで寝てて愛ちゃんはベッドとベッドの隙間で寝ちゃってるの。なんでそんな場所で寝るんだろうって思ってたんだけど、唯ちゃんと同じベッドで寝るのは出来ないってよくわからないことを言ってるんだよ。それだったら私のベッドを使ってもいいよって言ったんだけどね、愛ちゃんはソレも申し訳ないから遠慮するって言って床で横になってるんだよ。なんでそんな事するのかさっぱりわからないよね」
「確かによくわからないな。でも、唯と愛華が同じ布団を使って寝てるところって見た事ないかも。それ以前に、愛華が誰かと同じ布団に入ってるのって見た事ないな」
俺の家で飲み会をやった時になぜか政虎と唯がベロベロに酔っぱらったことがあったのだ。正直に言えば遅い時間になっていたので帰って欲しかったのだけれど、その時はそんな事も言っているわけにはいかず政虎と唯のお酒が抜けるまで待つことにしたのだ。
そのまましばらく待っても二人の酔いがさめることも無く時間だけが過ぎていき、気付いた時には深夜を大きく回っていたのだ。仕方なくその時は二人を泊めることにしたのだけれど当然男の一人暮らしの家に来客用の布団なんてあるはずもなく、酔って前後不覚になっている唯は俺が普段使っているベッドに寝かせて政虎はその辺の床に毛布を敷いて寝かせることにしたのだ。
その時にいた愛華は普通に帰ろうとしていたので俺は何とか説得して一緒にいてもらうことにしたのだ。政虎も唯も俺は大切な友達であり大好きな友達でもあるのだけれど、さすがに一人で酔っ払い二人の相手はしたくなかったという事もあるのだけれど、愛華にとっても唯と一緒にいられる時間が伸びているというメリットもあったと思う。
でも、そんな愛華は唯と同じベッドには入ろうとせずベッドのすぐ横に座って何をやっているのかわからないようなテレビをじっと見ているのであった。
そんな愛華に俺は色々と聞いてみたのだけれど、愛華から返ってくる答えは適当に思いついたとしか思えないようなモノばかりであったのだ。
なぜ同じ布団で一緒に唯と寝ないのだろうという思いと同時に、このまま愛華が起きているんだったら俺も寝ることが出来ないなと勝手に思い始めたりもしていた。だが、そんな心配をよそに愛華は座った姿勢のまま小さな寝息を立てながら体を小さく丸めていたのだった。
「何でかわからないけど、愛華って誰かと一緒に寝るのって好きじゃないのかもな。前に俺の家で飲み会をやった時があったんだけど、その時はなぜか政虎と唯が潰れてしまって俺の家に泊まることになったんだけどさ、愛華はなぜか唯と同じ布団に入らなかったんだよな。床に座って寝るよりもちゃんとベッドで寝た方が良いよって言っても聞いてくれなかったんだ。あとで理由を聞いても教えてもらえなかったよ」
「愛ちゃんって誰かと一緒にいるのが得意じゃないのかもね。私もちょっとだけその気持ちはわかるんだ。でも、誰かと一緒にいたいなって思う事もあるよね」
唯菜は俺に顔を向けずに自販機の方を向いたまま話をしている。顔が見えないのでどんなことを考えているのか想像も出来ないのだけれど、俺にとって良くないことを考えているような予感はしていた。こういう時の俺の予感は冴えている事が多く、物語も嫌な方へと少しずつ近付いて行っているように感じてしまう。たぶん、唯菜はとんでもないことを言ってくる。
「さすがに食堂とかロビーで仮眠をとるわけにもいかないよね。でも、私達の部屋は唯ちゃんと愛ちゃんが寝ちゃってるしどうしたらいいのだろうね。唯ちゃんの部屋は千雪ちゃんも海に遊びに行ってるんで誰もいない状態だけど勝手に使うのも悪いしね。どこか私が横になっても問題無い場所ってあったりしないかな?」
急に振り返った唯菜の顔は今まで見た事も無いくらい純粋な瞳を輝かせていた。どうしてそんな目をすることが出来るんだろうって思っていたのだけれど、純粋な視線は俺にとって凶器なんじゃないかと思ってしまうほど真っすぐすぎて胸が痛くなってしまっていた。
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