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第五十六話 唯と政虎の家で二人きり
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政虎の家で唯と二人きり。当然何も起こるはずはないのだが、家主のいないこの空間で二人とも何をしたらいいのかわからず、お互いに今まで一度も読んでいない本を試してみることにしたようだ。
俺は唯が置いていったと思われる少女漫画を読んでみたのだけれど、今まで読まず嫌いをしていたことを後悔してしまうほど夢中になってしまった。あっという間に五冊も読み終えたのだけれど、こんなに長い時間が経過しているにもかかわらず政虎が帰ってくることは無かった。
「随分と遅いな」
俺はつい無意識に言葉を発していたようで、突然のセリフに唯は少し驚いてこっちを見返していた。
「そうだね、いつもの政虎ならもう帰って来てる時間だと思うんだけど、何かあったのかもしれないね」
「何かあったら困るけどさ、そう思ってるわりにはあんまり焦ってる様子ないね」
「それは右近君も同じでしょ。私は政虎に何も無いってわかっ……信じてるからね」
「何も無いのが一番だけどさ、連絡くらいは欲しいよね」
唯は何か言い直したような気がするけどあまり気にしない方が良いかもしれないな。話題をちょっと変えてみようかな。
「今読んでる漫画ってさ、唯がもってきたやつなのかな?」
「右近君が呼んでるやつだよね。私のじゃないよ。愛華ちゃんのでもないと思うけどね」
「それだったら千雪のやつかな?」
「うーん、千雪ちゃんのでもないと思うよ。千雪ちゃんは漫画とか買わないからね。政虎が読みたくて買ったやつなんじゃないのかな。それって映画とかアニメにもなってるし、男子にも人気がある作品だと思うよ。私も高校生の時に見たことあるけど、面白かったのを覚えてるな。途中までしか読んでなかったからさ、完結した今なら読み返すのにちょうどいいかもね」
「そうなんだ。完結してるんだったら読みやすいかもな」
なぜか唯は俺のすぐ隣に座ってきて俺が読み終わった漫画を手に取って読みだした。少しでも動けば触れ合ってしまいそうなくらいの距離にいることになるのだが、これだけ近いと興味が無いとしても多少は意識してしまう。男女がどうとかそういうのではなく、今の状況を政虎に見られでもしたモノなら何か盛大に誤解されてしまうのだろうという思いはあったのだ。
そんな事を唯は全く考えていないのか、俺の方へと体を預けると壁にもたれかかってるのではないかと思うくらいに体重を俺に預けてきたのだ。それほど重くはないので負担は何も無いのだけれど、さすがに今の状況を政虎に見らえるというのは先ほどよりも気まずくなってしまいそうに思えるのだ。
「久しぶりに読むとあまりないようって覚えてないもんだね。大まかなところは覚えてたんだけどさ、細かいところって割と忘れてるもんなんだなって思うよ。でも、今右近君が読んでるところは覚えているよ。その辺の話って好きでさ、何回か読み返してるからね。ほら、その主人公の女の子が黒魔術をかけてるんじゃないかって思われてるあたりだよ」
黒魔術と言えば、政虎と一緒に唯の家に遊びに行った時に見た魔法陣とぬいぐるみは何だったんだろう。今なら聞けるような気もするのだけれど、その答えを聞いてしまったらいけないような気がしていたのだ。
「どうしたの。急に黙っちゃって。右近君はいつも女の子と一緒にいるんだから私みたいなのが隣にいても気にならないでしょ。それとも、何か別の事を考えてたりするのかな?」
「いや、そういうのじゃないけどさ」
「嘘でしょ。何となくわかってるよ。右近君が何を考えてるかなんて目を見たらすぐに分かっちゃうからね。私と政虎がお似合いだって思ってくれてるんだよね?」
「ちょっと違うかな」
「そっか、ちょっとだけ違うんだね。ちょっとだけ違うんだ」
ちょっとどころか一ミリもそんな事を考えてもいなかったのだが、完全に否定するのも良くないような気がして俺は当たり障りのない答えを返してしまった。ここで否定してあの魔法陣とぬいぐるみの話を出来ない俺は弱い男なのかもしれないな。
「なんてね、本当は違う事を考えていたでしょ。私は右近君の目を見たら違う事考えてるってのに気付いたからね。本当に思ってたこと言っていいんだよ。私がちゃんと答えるかはわからないけど、気になることは今のうちに聞いておいた方が良いんじゃないかな」
俺は本当にあの事を聞いても良いのか死ぬほど悩んでいた。本当に聞いてちゃんと答えてもらえるのだろうか。そもそも、あんなことが出来るんであれば俺の事を呪ったりも出来るじゃないか。ただ、あのぬいぐるみが何だったのかだけ聞いても怒られないんじゃないかと思う。まるで生贄のように見えたぬいぐるみではあったけれど、俺にはあのぬいぐるみがとても大切に扱われているように感じていた。大切に育てたからこそ生贄としての効果を発揮すると言われればそのような気もするのだけれど、あれが何のためにあそこにあったのかその答えを聞くだけでもいいような気もしていた。
「あのさ、聞いていいのかわからないんだけど、前に政虎と一緒に唯の家に行った時の話なんだけど」
「ああ、それね。その事は右近君に言っておきたかったんだよね。政虎には内緒にしてもらえるっていう事だったら教えるけど、ちゃんと約束を守ってもらえるかな?」
「もちろん約束は守るよ。政虎も気にしてたみたいだけどさ、絶対に教えたりなんてしないからね」
俺の言葉を聞いた唯は全く俺を疑う事もせずに何のためにあんなものがあったのかを教えてくれた。
あの魔法陣は好きな人を招くためのモノであって、その好きな人の代わりにあのぬいぐるみを置いていたそうだ。あのぬいぐるみの中身は招きたい人の髪の毛が入っているらしいのだが、唯が政虎の髪の毛を集めたのはこの部屋なのでその中には俺の髪の毛も入っていたと思われる。それなので俺も政虎と一緒に唯の部屋に行くことになったのだけれど、そんな事をしなくても俺達は唯に誘われたら遊びに行っていたとは思っている。
ただ、あの魔法陣とぬいぐるみを見てドン引きしていたのは俺だけではなかったという事だけは黙っておこう。その方が唯も傷付かずに済むのではないかと思ってしまったのだった。
それにしても、政虎の帰りが遅いな。
俺は唯が置いていったと思われる少女漫画を読んでみたのだけれど、今まで読まず嫌いをしていたことを後悔してしまうほど夢中になってしまった。あっという間に五冊も読み終えたのだけれど、こんなに長い時間が経過しているにもかかわらず政虎が帰ってくることは無かった。
「随分と遅いな」
俺はつい無意識に言葉を発していたようで、突然のセリフに唯は少し驚いてこっちを見返していた。
「そうだね、いつもの政虎ならもう帰って来てる時間だと思うんだけど、何かあったのかもしれないね」
「何かあったら困るけどさ、そう思ってるわりにはあんまり焦ってる様子ないね」
「それは右近君も同じでしょ。私は政虎に何も無いってわかっ……信じてるからね」
「何も無いのが一番だけどさ、連絡くらいは欲しいよね」
唯は何か言い直したような気がするけどあまり気にしない方が良いかもしれないな。話題をちょっと変えてみようかな。
「今読んでる漫画ってさ、唯がもってきたやつなのかな?」
「右近君が呼んでるやつだよね。私のじゃないよ。愛華ちゃんのでもないと思うけどね」
「それだったら千雪のやつかな?」
「うーん、千雪ちゃんのでもないと思うよ。千雪ちゃんは漫画とか買わないからね。政虎が読みたくて買ったやつなんじゃないのかな。それって映画とかアニメにもなってるし、男子にも人気がある作品だと思うよ。私も高校生の時に見たことあるけど、面白かったのを覚えてるな。途中までしか読んでなかったからさ、完結した今なら読み返すのにちょうどいいかもね」
「そうなんだ。完結してるんだったら読みやすいかもな」
なぜか唯は俺のすぐ隣に座ってきて俺が読み終わった漫画を手に取って読みだした。少しでも動けば触れ合ってしまいそうなくらいの距離にいることになるのだが、これだけ近いと興味が無いとしても多少は意識してしまう。男女がどうとかそういうのではなく、今の状況を政虎に見られでもしたモノなら何か盛大に誤解されてしまうのだろうという思いはあったのだ。
そんな事を唯は全く考えていないのか、俺の方へと体を預けると壁にもたれかかってるのではないかと思うくらいに体重を俺に預けてきたのだ。それほど重くはないので負担は何も無いのだけれど、さすがに今の状況を政虎に見らえるというのは先ほどよりも気まずくなってしまいそうに思えるのだ。
「久しぶりに読むとあまりないようって覚えてないもんだね。大まかなところは覚えてたんだけどさ、細かいところって割と忘れてるもんなんだなって思うよ。でも、今右近君が読んでるところは覚えているよ。その辺の話って好きでさ、何回か読み返してるからね。ほら、その主人公の女の子が黒魔術をかけてるんじゃないかって思われてるあたりだよ」
黒魔術と言えば、政虎と一緒に唯の家に遊びに行った時に見た魔法陣とぬいぐるみは何だったんだろう。今なら聞けるような気もするのだけれど、その答えを聞いてしまったらいけないような気がしていたのだ。
「どうしたの。急に黙っちゃって。右近君はいつも女の子と一緒にいるんだから私みたいなのが隣にいても気にならないでしょ。それとも、何か別の事を考えてたりするのかな?」
「いや、そういうのじゃないけどさ」
「嘘でしょ。何となくわかってるよ。右近君が何を考えてるかなんて目を見たらすぐに分かっちゃうからね。私と政虎がお似合いだって思ってくれてるんだよね?」
「ちょっと違うかな」
「そっか、ちょっとだけ違うんだね。ちょっとだけ違うんだ」
ちょっとどころか一ミリもそんな事を考えてもいなかったのだが、完全に否定するのも良くないような気がして俺は当たり障りのない答えを返してしまった。ここで否定してあの魔法陣とぬいぐるみの話を出来ない俺は弱い男なのかもしれないな。
「なんてね、本当は違う事を考えていたでしょ。私は右近君の目を見たら違う事考えてるってのに気付いたからね。本当に思ってたこと言っていいんだよ。私がちゃんと答えるかはわからないけど、気になることは今のうちに聞いておいた方が良いんじゃないかな」
俺は本当にあの事を聞いても良いのか死ぬほど悩んでいた。本当に聞いてちゃんと答えてもらえるのだろうか。そもそも、あんなことが出来るんであれば俺の事を呪ったりも出来るじゃないか。ただ、あのぬいぐるみが何だったのかだけ聞いても怒られないんじゃないかと思う。まるで生贄のように見えたぬいぐるみではあったけれど、俺にはあのぬいぐるみがとても大切に扱われているように感じていた。大切に育てたからこそ生贄としての効果を発揮すると言われればそのような気もするのだけれど、あれが何のためにあそこにあったのかその答えを聞くだけでもいいような気もしていた。
「あのさ、聞いていいのかわからないんだけど、前に政虎と一緒に唯の家に行った時の話なんだけど」
「ああ、それね。その事は右近君に言っておきたかったんだよね。政虎には内緒にしてもらえるっていう事だったら教えるけど、ちゃんと約束を守ってもらえるかな?」
「もちろん約束は守るよ。政虎も気にしてたみたいだけどさ、絶対に教えたりなんてしないからね」
俺の言葉を聞いた唯は全く俺を疑う事もせずに何のためにあんなものがあったのかを教えてくれた。
あの魔法陣は好きな人を招くためのモノであって、その好きな人の代わりにあのぬいぐるみを置いていたそうだ。あのぬいぐるみの中身は招きたい人の髪の毛が入っているらしいのだが、唯が政虎の髪の毛を集めたのはこの部屋なのでその中には俺の髪の毛も入っていたと思われる。それなので俺も政虎と一緒に唯の部屋に行くことになったのだけれど、そんな事をしなくても俺達は唯に誘われたら遊びに行っていたとは思っている。
ただ、あの魔法陣とぬいぐるみを見てドン引きしていたのは俺だけではなかったという事だけは黙っておこう。その方が唯も傷付かずに済むのではないかと思ってしまったのだった。
それにしても、政虎の帰りが遅いな。
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