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第五十五話 珍しく唯菜と二人で
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バイト終わりに唯菜と二人で帰ることは日常の一コマになっているのだけれど、今日は珍しく学校の帰り道で一緒になったのだ。バイトも休みで用事もない俺はまっすぐに家に帰ろうと思っていたのだけれど、唯菜の提案で新しく出来たラーメン屋さんに言ってみることになったのだ。
「ラーメン好きなんで新しく出来たところが気になってたんだけどさ、なかなか女子一人で入れなくて困ってたんだよね。友達もラーメンには付き合ってくれないからどうしようかって思ってたんだけど、右近が一緒に行ってくれるって言ってくれて良かったよ。右近は行ったことあるの?」
「新しく出来たとこも何回か行ってるよ。一通り食べてみたけど、どれを食べてもハズレは無いって感じかも」
「そうなんだ。さっきよりも楽しみになってきたかも」
唯菜がラーメンを好きだというのは初耳だった。どちらかと言えば麺類よりもパンの方が好きなのかと思っていたのでラーメンが好きという話はちょっと意外だった。
女の子同士でラーメン屋に入りにくいというのは少しわかる気がするのだけれど、どうせ誘うなら俺ではなく政虎を誘ってあげればいいのになと思っていた。でも、唯菜はなぜか政虎に対して悪い印象を抱いているようで二人で食事に行くことなんてないんだろうなというのは理解している。何度か政虎と一緒に困っている唯菜を助けた事はあったはずなのに、そんな時でも唯菜は政虎にちゃんと礼をしていないような気もしていたのだった。
「ラーメンなら俺よりも政虎の方が詳しいと思うよ。今度政虎も誘って美味しい店に行ってみる?」
「いや、それは遠慮しとこうかな。政虎君は美味しい店とか知ってそうだけどさ、ラーメンだけ食べて帰るのも申し訳ないしね」
「そんな事気にしなくてもいいと思うけどな。それだったらさ、ラーメン食べ終わった後にどこか遊びに行けばいいんじゃないかな」
「そうだね。祖かもしれないね。じゃあさ、今日はその予行演習って事でラーメン食べ終わったらどこか行って遊ぼうか。右近は今日暇だって言ってたから時間は大丈夫だよね?」
俺が唯菜のこの誘いを断る理由なんて無いので問題はない。ここで断らないことによって政虎と一緒に遊んでくれる可能性も出てくるという事になるのではないだろうか。でも、そんな風な感じで誘ったところで政虎は喜んでくれるのだろうか。たぶん、唯菜が一緒にいるという事を聞いただけでも政虎は喜んでくれるんだろうな。
「大丈夫だよ。唯菜は何かしたいこととかあるの?」
「あるんだけど、それはラーメンを食べ終わってから教えるね。そっちはラーメン屋さんよりも行ってみたいとこだったんだ。右近は何回も言ってるかもしれないけど、私はまだ行った事ないから気になってるんだよね」
ラーメンを食べ終えた俺達は少しだけ涼しくなってきた街を二人で歩いていた。唯菜が行きたい場所というのがどこなのか教えてもらっていないので俺は唯菜の隣をただ歩くだけではあるのだけれど、この辺は何度か歩いたことがあるというのを思い出した。目的地に向かってまっすぐ進むタイプの俺はあまり周りを見ながら歩くことは無いのだけれど、店頭に並んでいる商品や書かれている文章がもう間もなく季節が変わっていくという事を告げているのを感じていた。
「新しく出来たお店ってなんかワクワクしちゃうよね。新しい建物が出来ることってあんまりないからさ、今まであった建物に新しいお店が入ってると違う場所に来ちゃったのかなって思っちゃうんだよ。この辺ってあんまりお店も無いから特にそう感じちゃうよね」
「そうだな。この辺って割と古い店が多いみたいだもんな。大学に入ってから出来た店っていくつかあるみたいだけどさ、ほとんど入った事ってないんだよな。古い店の方が多いみたいだけど、俺達がバイトしてるカフェは新しいのか古いのかわからないけどな。あの店って結構古いのかな?」
「結構古いみたいだよ。建物自体は移転したりで変わってるみたいだけどさ、常連さん達が若いころからお店自体はやってるんだって。結構アンティークな感じの食器とかカトラリーセットあるもんね。入ったばっかりの時は落としちゃったらどうしようって緊張してたもん」
「意外と歴史ってあるもんなんだな」
俺と唯菜はその後もバイトの話や学校の話なんかをしていたのだけれど、目的地がどこなのかわからない俺は何となく話に集中することが出来なかった。歩きながらもこの辺はきたことがあるような気がするな、なんて思っていたのだけれど、今自分がどこを歩いているのかという事はよくわからい状態だったのである。
「もう少しで見えてくるよ。右近はこの辺って来たことある?」
「あるようなないような。ここって何があるのかな?」
「何にもないと思うよ。ただの公園だからね。ほら、森林公園って覚えてないかな?」
「森林公園って、一年生の時のレクリエーションで散策に来たところだっけ?」
「そうそう、そこに来たかったんだ。ちょっと確かめたいこともあったからね。歩いてくるにはちょっと遠いかもしれないけどさ、右近はあれ以来来たことあるのかな?」
「あったような気もするけど、その時は明るい時間だったから自信ないかも。違う公園だったかもしれないしね」
「じゃあ、食後の運動ってわけでもないけどさ、軽く公園を一周しようよ。池の周りに蛍がいるかもしれないんだって。私は蛍って見た事ないんだけど、右近は見たことある?」
「いや、俺も見たことは無いかな。池のある森林公園ってこの辺にいくつかあったっけ?」
「ないんじゃないかな。他の公園には池なんて無いと思うしね」
ちょっと前に唯と千雪が愛華を怖がらせるためにこの公園の話をしていたような気がする。二人の話ではこの公園の池には幽霊の目撃情報がそれなりにあるようなのだけど、幽霊ではなく人魂は頻繁に目撃されているという話だった。
蛍も人魂も見た事が無い俺はその違いをどうやって見分けるのだろうと思っていた。楽しそうにしている唯菜を見ると、その怪談は唯と千雪が作った話なのだろうなって思っていた。だって、唯菜はこんなに楽しそうにしているんだし、幽霊の話なんて知らないんだろう。ぼんやりと見える池のほとりにいる人達も幽霊が出るなんて話は知らずに蛍を探しに来ているんだろうなと思いながら俺は公園の中へと入って行ったのだった。
「ラーメン好きなんで新しく出来たところが気になってたんだけどさ、なかなか女子一人で入れなくて困ってたんだよね。友達もラーメンには付き合ってくれないからどうしようかって思ってたんだけど、右近が一緒に行ってくれるって言ってくれて良かったよ。右近は行ったことあるの?」
「新しく出来たとこも何回か行ってるよ。一通り食べてみたけど、どれを食べてもハズレは無いって感じかも」
「そうなんだ。さっきよりも楽しみになってきたかも」
唯菜がラーメンを好きだというのは初耳だった。どちらかと言えば麺類よりもパンの方が好きなのかと思っていたのでラーメンが好きという話はちょっと意外だった。
女の子同士でラーメン屋に入りにくいというのは少しわかる気がするのだけれど、どうせ誘うなら俺ではなく政虎を誘ってあげればいいのになと思っていた。でも、唯菜はなぜか政虎に対して悪い印象を抱いているようで二人で食事に行くことなんてないんだろうなというのは理解している。何度か政虎と一緒に困っている唯菜を助けた事はあったはずなのに、そんな時でも唯菜は政虎にちゃんと礼をしていないような気もしていたのだった。
「ラーメンなら俺よりも政虎の方が詳しいと思うよ。今度政虎も誘って美味しい店に行ってみる?」
「いや、それは遠慮しとこうかな。政虎君は美味しい店とか知ってそうだけどさ、ラーメンだけ食べて帰るのも申し訳ないしね」
「そんな事気にしなくてもいいと思うけどな。それだったらさ、ラーメン食べ終わった後にどこか遊びに行けばいいんじゃないかな」
「そうだね。祖かもしれないね。じゃあさ、今日はその予行演習って事でラーメン食べ終わったらどこか行って遊ぼうか。右近は今日暇だって言ってたから時間は大丈夫だよね?」
俺が唯菜のこの誘いを断る理由なんて無いので問題はない。ここで断らないことによって政虎と一緒に遊んでくれる可能性も出てくるという事になるのではないだろうか。でも、そんな風な感じで誘ったところで政虎は喜んでくれるのだろうか。たぶん、唯菜が一緒にいるという事を聞いただけでも政虎は喜んでくれるんだろうな。
「大丈夫だよ。唯菜は何かしたいこととかあるの?」
「あるんだけど、それはラーメンを食べ終わってから教えるね。そっちはラーメン屋さんよりも行ってみたいとこだったんだ。右近は何回も言ってるかもしれないけど、私はまだ行った事ないから気になってるんだよね」
ラーメンを食べ終えた俺達は少しだけ涼しくなってきた街を二人で歩いていた。唯菜が行きたい場所というのがどこなのか教えてもらっていないので俺は唯菜の隣をただ歩くだけではあるのだけれど、この辺は何度か歩いたことがあるというのを思い出した。目的地に向かってまっすぐ進むタイプの俺はあまり周りを見ながら歩くことは無いのだけれど、店頭に並んでいる商品や書かれている文章がもう間もなく季節が変わっていくという事を告げているのを感じていた。
「新しく出来たお店ってなんかワクワクしちゃうよね。新しい建物が出来ることってあんまりないからさ、今まであった建物に新しいお店が入ってると違う場所に来ちゃったのかなって思っちゃうんだよ。この辺ってあんまりお店も無いから特にそう感じちゃうよね」
「そうだな。この辺って割と古い店が多いみたいだもんな。大学に入ってから出来た店っていくつかあるみたいだけどさ、ほとんど入った事ってないんだよな。古い店の方が多いみたいだけど、俺達がバイトしてるカフェは新しいのか古いのかわからないけどな。あの店って結構古いのかな?」
「結構古いみたいだよ。建物自体は移転したりで変わってるみたいだけどさ、常連さん達が若いころからお店自体はやってるんだって。結構アンティークな感じの食器とかカトラリーセットあるもんね。入ったばっかりの時は落としちゃったらどうしようって緊張してたもん」
「意外と歴史ってあるもんなんだな」
俺と唯菜はその後もバイトの話や学校の話なんかをしていたのだけれど、目的地がどこなのかわからない俺は何となく話に集中することが出来なかった。歩きながらもこの辺はきたことがあるような気がするな、なんて思っていたのだけれど、今自分がどこを歩いているのかという事はよくわからい状態だったのである。
「もう少しで見えてくるよ。右近はこの辺って来たことある?」
「あるようなないような。ここって何があるのかな?」
「何にもないと思うよ。ただの公園だからね。ほら、森林公園って覚えてないかな?」
「森林公園って、一年生の時のレクリエーションで散策に来たところだっけ?」
「そうそう、そこに来たかったんだ。ちょっと確かめたいこともあったからね。歩いてくるにはちょっと遠いかもしれないけどさ、右近はあれ以来来たことあるのかな?」
「あったような気もするけど、その時は明るい時間だったから自信ないかも。違う公園だったかもしれないしね」
「じゃあ、食後の運動ってわけでもないけどさ、軽く公園を一周しようよ。池の周りに蛍がいるかもしれないんだって。私は蛍って見た事ないんだけど、右近は見たことある?」
「いや、俺も見たことは無いかな。池のある森林公園ってこの辺にいくつかあったっけ?」
「ないんじゃないかな。他の公園には池なんて無いと思うしね」
ちょっと前に唯と千雪が愛華を怖がらせるためにこの公園の話をしていたような気がする。二人の話ではこの公園の池には幽霊の目撃情報がそれなりにあるようなのだけど、幽霊ではなく人魂は頻繁に目撃されているという話だった。
蛍も人魂も見た事が無い俺はその違いをどうやって見分けるのだろうと思っていた。楽しそうにしている唯菜を見ると、その怪談は唯と千雪が作った話なのだろうなって思っていた。だって、唯菜はこんなに楽しそうにしているんだし、幽霊の話なんて知らないんだろう。ぼんやりと見える池のほとりにいる人達も幽霊が出るなんて話は知らずに蛍を探しに来ているんだろうなと思いながら俺は公園の中へと入って行ったのだった。
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