上 下
47 / 100

第四十七話 鵜崎千雪は俺の部屋に馴染んでしまう

しおりを挟む
 俺の部屋にある本棚から何の躊躇もなく漫画を持っていった鵜崎千雪であるが、彼女が手に取ったのは一冊ではなく十冊にも及んでいた。あれだけの量の漫画を鵜崎唯が迎えに来るまでの間に読み終わるはずはないのだけれど、一体どういうつもりなのだろうか。
「そんなにたくさん漫画を持ってきても読み切れないんじゃない?」
「大丈夫だと思いますよ。読み終わらなかったら借りていきますし。別にいいですよね?」
「結構前に読み終わったやつだからいいけどさ、どうせだったら最後までもっていっても良いよ」
「うーん、最後までもっていきたいとは思うんですけどさすがに重いと思うんですよ。それに、全部持っていったら千雪は寝る間も惜しんで呼んでしまうんじゃないかって考えます。なので、また今度遊びに来た時に続きを読むことにしますよ。その時はお姉ちゃんに美味しいご飯を作ってもらっちゃいますから」
 俺は冷蔵庫に入っているりんごジュースとお茶のどちらをあけて飲むか迷っていた。自分一人で飲むんだったらどっちでもいいとは思うのだけれど、鵜崎千雪にも分けてあげるのだとしたらりんごジュースの方が良いのかなと思っている。さっきもジュースを飲んでいたと思うのできっとお茶よりもりんごジュースの方が喜ばれるんだろうな。
「あ、飲み物だったらお茶が良いです。お姉ちゃんから貰ったお菓子があったんでお兄さんも一緒に食べましょうよ。甘いのって嫌いじゃないですよね?」
「嫌いではないけど、お茶で良いの?」
「はい、今はお茶が良いです」
 俺としてはどちらでも良かったのでアレだが、中学生だからと言って何でもかんでも子供っぽく考えない方が良いのかなとも思ってしまった。
 お菓子を持ってきていると言っていたけれど、鵜崎千雪がもっている大きさの鞄であればそこまで量も無いと思うので俺の家にあるお菓子も出してしまおうかな。いつか誰かが来た時用に多少のストックはあるのだけれど、お茶に合わせるんだったら甘いものの方が良いのかもしれないな。
「別にお茶だけでも良かったんですけど、ありがとうございます。お兄さんって普段からドーナツとか食べるんですか?」
「家にいる時はあまりお菓子とか食べないかな。みんなが遊びに来た時に一緒に食べるくらいなんだよね」
「へえ、そうなんですね。実はお兄さんってお姉ちゃんたちが遊びに来るのを楽しみに待ってたりするんですか?」
「そう言うわけではないけどさ、いつもみんな何か持ってきてくれたりするし、そのお礼って感じかも」
「意外ですね。お兄さんってお姉ちゃんたちが遊びに来るの迷惑なのかなって思ってたんですけど、本当は少し楽しみにしてたんですね。今日も千雪と二人でご飯を食べに行ってくれたし、実は口にしてるほど一人が好きってわけでもないんじゃないですか。本当はみんなと仲良くしたいって思ってたりします?」
「まあ、俺も絶対に一人が良いってわけじゃないからな。一人の時が好きってのはあるけどさ、右近たちと遊んでるのが楽しいって思う事だってあるよ。唯の作ってくれるご飯はいつも美味しいし右近はなんだかんだ言って俺が嫌がることは絶対にしないしな」
「あの、愛華ちゃんはどうなんですか。お兄さん的にどう思ってるんですか?」
「どう思ってるって言われてもな。みんなが思ってるよりも面白い女だとは思うよ。外見と口の悪さで誤解されているところもあると思うけどさ、やっぱり面白い女だと思うな。うん、話してたり行動を見ていると面白い女だと思う」
「お兄さんから見て愛華ちゃんって美人だとか綺麗だって思わないって事ですか?」
「最初は思ってたけど、今はそういうのよりもやっぱり面白い女だなっていうのが一番かな」
 鬼仏院右近や鵜崎唯からも言われるのだけれど、俺はたぶん髑髏沼愛華の事を女性ではなくただの人間としか認識していないのだと思う。最初はこんなに美人が近くにいるんだという感想もあったのだけれど、何回か話してみてこの女は美人とかよりも面白さの方が際立っていると思ってしまった。それからはもう美人とかではなく何か面白いことをしてくれるのではないか、俺に面白いことを言ってくるのではないかと思うようになってしまった。
 たぶん、俺が思っていたよりも世間では髑髏沼愛華が美人だと認識されている事は間違いない。髑髏沼愛華がナンパされている場面に何度も遭遇しているという事もあるし、俺がそんなに頻繁に目撃しているという事はそれ以上にナンパされているという事なのだろう。俺の知らないところで鬼仏院右近も新しい彼女を作っているし、美男美女というカテゴリーの人達には俺にはわからない苦労もあるんだろうな。たぶん、鵜崎唯も普通にしていればモテているとは思うのだけれど、いつでもどこでも誰にでも俺に対する気持ちをアピールしているので誰かからハッキリとした好意を向けられることなんてないんだろうな。
 それにしても、なんで鵜崎唯は俺の事なんか好きになったんだろう。誰がどう考えても俺みたいな男よりも鬼仏院右近を好きになった方が良いと思うのだけれど、なんでなんだろうな。その辺を鵜崎千雪に聞いてみたら意外とすんなり理由が判明するのかもしれないな。
「なあ、鵜崎唯ってなんで俺の事なんか好きになったのか理由ってきてたりする?」
「さあ、理由なんて教えてもらったことは無いですね。お姉ちゃんからお兄さんの話はよく聞かされてますけど、好きになったきっかけとかは聞いた事ないです。お兄さんって好きな人がいるからお姉ちゃんと付き合えないって言ってるみたいですけど、自分が好きになった人よりも自分の事を好きになってくれた人と付き合う方が千雪は良いと思うんですけどね。お兄さんみたいな人を好きになる人なんてきっとお姉ちゃんくらいしかいないと思いますよ。お兄さんが好きな人って右近君の事が好きだって聞いてますし、諦めちゃった方が良いんじゃないかなって思うんですけど」
「それは俺もわかってるけどさ、千雪は自分が好きな人が近くにいるのに諦めることが出来たりするのかな?」
「どうなんですかね。千雪はまだ誰かを好きになったことってないのでわからないです。あと、やっぱりお兄さんから呼び捨てにされるのはなんか嫌なんで呼び捨てじゃなくてちゃんを付けてもらっていいですか。その方が適度に距離を保てるような気もするんで」
「あ、はい。わかりました」
 中学生が特別機が変わりやすいのか、それとも鵜崎千雪自身がそうなのかわからないが、俺は呼び捨てで呼んではいけないという事になってしまったようだ。ちゃん付けと言うのは呼び捨てよりも何となく抵抗があるのだけれど、そう呼べと言われてしまったら呼ぶしかないのだろう。あまり乗り気ではないけれど、そういう風に言われたんだったら素直に従う方が良いんだろうな。
「やっぱりシャワーだけでも借りたらダメですかね。お姉ちゃんはもう少し時間かかるって言ってますし、家に帰ってからシャワー浴びると寝る時間少なくなっちゃうんで」
 俺は何と言われようとシャワーを貸すことだけは断るのだ。別にシャワーを使われたところで何も思ったりなんてしないのだけれど、何となく鵜崎唯に悪いような気がしているのだ。
 鵜崎唯に依然聞かれた、誰かにお風呂を貸したりするのかという言葉がどうも脳にこびりついて離れないのだ。
 その理由はわからないのだけれど、なぜか俺は他人にお風呂を貸してはいけないという思いになっていたのだ。
「千雪の睡眠時間は少なくなってしまうんですけど、今日は我慢しますよ。あと、今度桜さんと遊ぶ時にお兄さんの事を少しだけ良く伝えときますね。千雪的にはお姉ちゃんに悪いって思う事もありますけど、やっぱりお姉ちゃんにはお兄さんよりもいい人が見つかると思いますからね。お兄さんは悪い人ではないと思いますけど、お姉ちゃんにはもっと別の人がお似合いなんじゃないかなって思ったりもしますからね。あ、今千雪が言ったことはお姉ちゃんには言わないでくださいね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

漫才部っ!!

育九
青春
漫才部、それは私立木芽高校に存在しない部活である。 正しく言えば、存在はしているけど学校側から認められていない部活だ。 部員数は二名。 部長 超絶美少女系ぼっち、南郷楓 副部長 超絶美少年系ぼっち、北城多々良 これは、ちょっと元ヤンの入っている漫才部メンバーとその回りが織り成す日常を描いただけの物語。

善意一〇〇%の金髪ギャル~彼女を交通事故から救ったら感謝とか同情とか罪悪感を抱えられ俺にかまってくるようになりました~

みずがめ
青春
高校入学前、俺は車に撥ねられそうになっている女性を助けた。そこまではよかったけど、代わりに俺が交通事故に遭ってしまい入院するはめになった。 入学式当日。未だに入院中の俺は高校生活のスタートダッシュに失敗したと落ち込む。 そこへ現れたのは縁もゆかりもないと思っていた金髪ギャルであった。しかし彼女こそ俺が事故から助けた少女だったのだ。 「助けてくれた、お礼……したいし」 苦手な金髪ギャルだろうが、恥じらう乙女の前に健全な男子が逆らえるわけがなかった。 こうして始まった俺と金髪ギャルの関係は、なんやかんやあって(本編にて)ハッピーエンドへと向かっていくのであった。 表紙絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストです。

全体的にどうしようもない高校生日記

天平 楓
青春
ある年の春、高校生になった僕、金沢籘華(かなざわとうか)は念願の玉津高校に入学することができた。そこで出会ったのは中学時代からの友人北見奏輝と喜多方楓の二人。喜多方のどうしようもない性格に奔放されつつも、北見の秘められた性格、そして自身では気づくことのなかった能力に気づいていき…。  ブラックジョーク要素が含まれていますが、決して特定の民族並びに集団を侮蔑、攻撃、または礼賛する意図はありません。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...