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第三十五話 柊政虎はスマートに助けたりできない
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柊政虎はすぐ近くのコンビニで買ってきたコーヒーを二つ持っているのだが、一つはアイスコーヒーでもう一つはカフェラテのようだ。なんでこういう時に違うものを買っているんだろうと思うのだけれど、私が無糖のアイスコーヒーを好んでいるという事を覚えているのだろう。コーヒーを買っていて助けにくるのが遅れたとしてもそこだけは褒めてあげようかな。
「ほら、アイスコーヒーにガムシロをたくさん入れてきたよ。無糖が好きだって言ってたけど、今日くらいは糖分たくさんとった方が良いと思うしね」
「私が甘いアイスコーヒーは飲めないのを知ってるだろ。どうせ甘いのを飲むんだったらそっちのカフェラテをよこせ」
「ごめん、カフェラテは無糖なんだ。最近ちょっと糖分を取りすぎてる気がして砂糖を入れなかったよ」
「何なんだお前は。私の好みと真逆のモノばかり用意しやがって」
「まあまあ、落ち着いて落ち着いて。ほら、甘いアイスコーヒーでも飲みなって」
「飲まないって言ってるだろ」
何はともあれこれで一件落着したのか。そう思っていたのもつかの間、私に話しかけてきた男は柊政虎がやってきても気にせずに話しかけてきたのだ。このメンタルは見習うべきなのか、恥知らずだと思って軽蔑するべきなのか私にはわからないが、何がそこまでこの男を必死にさせるのだろう。
「すいません。あなたはこの女性の彼氏さんですか?」
「違うけど、あんたは?」
「僕も彼氏ではないです。今はね。で、お二人はどういう関係ですか?」
「それを答える必要があるの?」
「なかったら聞かないですよね。僕とこの女性の仲を裂こうとしてるんですか?」
「仲を裂くも何も、あなたとこいつの間に友情も愛情も無いでしょ。まあ、それは俺とこいつの間にも同じことを言えるかもしれないけど」
確かに、私と柊政虎の間にあるのは唯ちゃんの存在だけで私は柊政虎に対して何の感情も持ち合わせていない。鬼仏院右近には何か近しいものを感じるので友情があるのだと思うけれど、柊政虎に関しては私との共通点は生きている事と同じ大学に通っているという事くらいだろうなとは思う。あと、唯ちゃんの作る料理が好きだという共通点もあるのか。
「それだったら、僕とこの女性の間に割り込まないで貰っていいですか。これから僕たちは二人で遊びに行くんですから」
「そうなのか?」
柊政虎は驚いた顔で私の事を見てきたのだが、私はそれを冷静に否定した。私が男性と遊ぶことなんて無いし、遊ぶとしても唯ちゃんがいる時に鬼仏院右近か柊政虎くらいしかいないのだ。それはこいつも知っていると思うのだけれど、なぜか私の事よりもこの男性の言っている事を信じているような顔をしているのだ。
「遊ぶって、何して遊ぶの?」
「それはこれから二人で決めるから」
「二人で決めるって、こいつはあんたと遊ぶ気はないみたいだけど。何かしたいことがあるならハッキリ言った方が良いと思うよ。それじゃないとこいつは決めることが出来ないと思うからな」
「じゃ、じゃあ、これからゲームセンターに行って遊ぶ。そうだ、ゲーセンに行って楽しく遊ぶんだ」
「それは無理だろ。こいつは騒音とか眩しい光とか嫌いだからな。この辺で諦めた方が良いと思うよ。たぶん、こいつが顔も良くてスラっとしてて胸も無いから声かけたんだと思うけど、こいつはお前みたいなのと仲良くなるつもりなんて無いと思うよ。まあ、そのお前らって中には俺も含まれてると思うけどな」
こいつはなんだかんだ言って私の事をちゃんと理解しているんだな。ただ、私が興味を持っていないのはこいつらみたいな男だけじゃなく、世の中にいるほとんどの男には興味なんて持っていないのだ。鬼仏院右近は何となく他の男とは違うモノを感じるので興味はあるのだけれど、それ以外の男に関しては本当に興味を持てない。柊政虎に関してはこいつのどこがそんなに唯ちゃんを魅了しているのだろうという思いはあるけど、それ以外には全く興味なんて持っていない。
なぜかその後も柊政虎は自分を落として私を上げるというよくわからないことを言い続けており、それを聞いていた男性が途中で怯えるように逃げていくことになったのだ。
そこまで自分を落として何がしたいのだろうと思ったけれど、結果的には相手が引いてくれたので良かったと思う。たぶん、今後この辺で私を見かけたとしても話しかけてきたりなんてしないんだろうな。そう願いたい。
「助かったよ。あのままだったらどうしていいかわからなかったからな」
「いつもみたいにさ、辛辣な言葉を言えばいいのに。俺に対しては言えても知らない人に対しては言えないってやつなのかな」
「いや、そう言うわけじゃないけど。お前がもう少し遅く声をかけてきたらたぶんお前に向かって言ってるような事をあの人に向けてたと思う」
「そっか、それは申し訳ない事をしたかもしれないな」
「申し訳ない事?」
「ああ、愛みたいな美人に罵られてしまったら新たな性癖に目覚めてたかもしれないからな。それはさすがにやりすぎだと思うからな」
全く、こいつは何を考えているのかさっぱり理解出来ないな。甘いアイスコーヒーを飲みたいとは思わなかったが、せっかく買ってきてくれた物を無駄にするのも申し訳ないと思って意を決して飲むことにした。
「え、甘くない」
「そりゃそうだろ。愛は甘いアイスコーヒー嫌いなんだから甘くしたりなんてしないよ」
「でも、さっきは甘くしてきたって言ってただろ」
「そう言えばさ、お前はきっと俺の事を罵倒してくると思ったんだよな。その姿を見たらあいつも諦めるかなと思ったんだけどさ、そうじゃなかったんだよな」
「あともう一つ、私とお前は友達ではないけど名前で呼ぶことは許可してるはずだが、なんでさっきは名前で呼ばなかったんだ?」
「だってさ、知らないやつに名前を覚えられたくないだろ。俺だったら知らないやつに名前を覚えられるのなんて嫌だと思ったからかな」
こいつは基本的にイイ奴ではないのだけれど、時々こうしてイイ奴ぶっている。私が今まで見た事が無いタイプなのは間違いないのだけれど。
「なあ、お前もこれから買い物に行くところなのか?」
「そうだけど、じゃないとこんなところ歩いてないって」
「そうか、コーヒーだけじゃちょっと寂しいんでドーナツでも買ってフードコートで食べないか?」
「別にいいけど。でも、どっちかって言うと和菓子の方が食べたいかも」
「ほら、アイスコーヒーにガムシロをたくさん入れてきたよ。無糖が好きだって言ってたけど、今日くらいは糖分たくさんとった方が良いと思うしね」
「私が甘いアイスコーヒーは飲めないのを知ってるだろ。どうせ甘いのを飲むんだったらそっちのカフェラテをよこせ」
「ごめん、カフェラテは無糖なんだ。最近ちょっと糖分を取りすぎてる気がして砂糖を入れなかったよ」
「何なんだお前は。私の好みと真逆のモノばかり用意しやがって」
「まあまあ、落ち着いて落ち着いて。ほら、甘いアイスコーヒーでも飲みなって」
「飲まないって言ってるだろ」
何はともあれこれで一件落着したのか。そう思っていたのもつかの間、私に話しかけてきた男は柊政虎がやってきても気にせずに話しかけてきたのだ。このメンタルは見習うべきなのか、恥知らずだと思って軽蔑するべきなのか私にはわからないが、何がそこまでこの男を必死にさせるのだろう。
「すいません。あなたはこの女性の彼氏さんですか?」
「違うけど、あんたは?」
「僕も彼氏ではないです。今はね。で、お二人はどういう関係ですか?」
「それを答える必要があるの?」
「なかったら聞かないですよね。僕とこの女性の仲を裂こうとしてるんですか?」
「仲を裂くも何も、あなたとこいつの間に友情も愛情も無いでしょ。まあ、それは俺とこいつの間にも同じことを言えるかもしれないけど」
確かに、私と柊政虎の間にあるのは唯ちゃんの存在だけで私は柊政虎に対して何の感情も持ち合わせていない。鬼仏院右近には何か近しいものを感じるので友情があるのだと思うけれど、柊政虎に関しては私との共通点は生きている事と同じ大学に通っているという事くらいだろうなとは思う。あと、唯ちゃんの作る料理が好きだという共通点もあるのか。
「それだったら、僕とこの女性の間に割り込まないで貰っていいですか。これから僕たちは二人で遊びに行くんですから」
「そうなのか?」
柊政虎は驚いた顔で私の事を見てきたのだが、私はそれを冷静に否定した。私が男性と遊ぶことなんて無いし、遊ぶとしても唯ちゃんがいる時に鬼仏院右近か柊政虎くらいしかいないのだ。それはこいつも知っていると思うのだけれど、なぜか私の事よりもこの男性の言っている事を信じているような顔をしているのだ。
「遊ぶって、何して遊ぶの?」
「それはこれから二人で決めるから」
「二人で決めるって、こいつはあんたと遊ぶ気はないみたいだけど。何かしたいことがあるならハッキリ言った方が良いと思うよ。それじゃないとこいつは決めることが出来ないと思うからな」
「じゃ、じゃあ、これからゲームセンターに行って遊ぶ。そうだ、ゲーセンに行って楽しく遊ぶんだ」
「それは無理だろ。こいつは騒音とか眩しい光とか嫌いだからな。この辺で諦めた方が良いと思うよ。たぶん、こいつが顔も良くてスラっとしてて胸も無いから声かけたんだと思うけど、こいつはお前みたいなのと仲良くなるつもりなんて無いと思うよ。まあ、そのお前らって中には俺も含まれてると思うけどな」
こいつはなんだかんだ言って私の事をちゃんと理解しているんだな。ただ、私が興味を持っていないのはこいつらみたいな男だけじゃなく、世の中にいるほとんどの男には興味なんて持っていないのだ。鬼仏院右近は何となく他の男とは違うモノを感じるので興味はあるのだけれど、それ以外の男に関しては本当に興味を持てない。柊政虎に関してはこいつのどこがそんなに唯ちゃんを魅了しているのだろうという思いはあるけど、それ以外には全く興味なんて持っていない。
なぜかその後も柊政虎は自分を落として私を上げるというよくわからないことを言い続けており、それを聞いていた男性が途中で怯えるように逃げていくことになったのだ。
そこまで自分を落として何がしたいのだろうと思ったけれど、結果的には相手が引いてくれたので良かったと思う。たぶん、今後この辺で私を見かけたとしても話しかけてきたりなんてしないんだろうな。そう願いたい。
「助かったよ。あのままだったらどうしていいかわからなかったからな」
「いつもみたいにさ、辛辣な言葉を言えばいいのに。俺に対しては言えても知らない人に対しては言えないってやつなのかな」
「いや、そう言うわけじゃないけど。お前がもう少し遅く声をかけてきたらたぶんお前に向かって言ってるような事をあの人に向けてたと思う」
「そっか、それは申し訳ない事をしたかもしれないな」
「申し訳ない事?」
「ああ、愛みたいな美人に罵られてしまったら新たな性癖に目覚めてたかもしれないからな。それはさすがにやりすぎだと思うからな」
全く、こいつは何を考えているのかさっぱり理解出来ないな。甘いアイスコーヒーを飲みたいとは思わなかったが、せっかく買ってきてくれた物を無駄にするのも申し訳ないと思って意を決して飲むことにした。
「え、甘くない」
「そりゃそうだろ。愛は甘いアイスコーヒー嫌いなんだから甘くしたりなんてしないよ」
「でも、さっきは甘くしてきたって言ってただろ」
「そう言えばさ、お前はきっと俺の事を罵倒してくると思ったんだよな。その姿を見たらあいつも諦めるかなと思ったんだけどさ、そうじゃなかったんだよな」
「あともう一つ、私とお前は友達ではないけど名前で呼ぶことは許可してるはずだが、なんでさっきは名前で呼ばなかったんだ?」
「だってさ、知らないやつに名前を覚えられたくないだろ。俺だったら知らないやつに名前を覚えられるのなんて嫌だと思ったからかな」
こいつは基本的にイイ奴ではないのだけれど、時々こうしてイイ奴ぶっている。私が今まで見た事が無いタイプなのは間違いないのだけれど。
「なあ、お前もこれから買い物に行くところなのか?」
「そうだけど、じゃないとこんなところ歩いてないって」
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