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第十四話 美味しい料理と二人の呼び名
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鵜崎唯と髑髏沼愛華の作ってくれたご飯はいつものように美味しく、二人が見ていなければ皿についたソースまで舐めてしまうんじゃないかと思っていた。さすがに行儀が悪いのでそんな事はしたりしないけれど。
「唯ちゃん良かったね、こいつは煮魚もハンバーグもお気に入りの味付けだったみたいだよ」
「うん、政虎が美味しそうに食べてくれて良かったよ。こういう味付けが好きなんじゃないかなって思って試してみてよかったな」
「でもさ、黙って黙々と食ってるだけじゃなくて感想くらい言ったって罰は当たらないと思うぞ」
髑髏沼愛華のその言葉で気付いていなかったのだが、俺は今回も黙々とひたすらご飯を食べていたようだ。前回もその前も今回と同じように食べることに集中してしまって感想を伝えることが出来なかったのだ。その時も髑髏沼愛華に何か感想が無いのかと言われてたし、次はちゃんと感想を伝えようと思っていたのだけれど、あまりにも美味しくて無言で一気に食べ進めてしまったのだった。
「いや、美味しくてさ、ついつい夢中になっちゃったよ」
「それはわかるけどさ、唯ちゃんはお前のために作ってるんだから一言くらい感想を言ったっていいと思うんだよな。これは前も言ったと思うけどよ、唯ちゃんにもっと感謝の気持ちを持ってもいいんじゃないかな」
「感謝の気持ちはあるよ。どこの店で食べてもこんなに美味しいものって出てきた事ないし。一口食べた時点で美味しいって思ってそれを言葉に出そうと思うんだけどさ、不思議と言葉を出す前に二口目三口目って食べ進めちゃってるんだよね。食べ始める時とかは前も髑髏沼に注意されたのを思い出してはいるんだけどさ、一口食べたら美味しくて忘れちゃうんだよ」
「良いの、大丈夫だよ。愛華ちゃんがそう言ってくれるのは嬉しいけどね、政虎が私の作った料理に夢中になってくれてるのを見れば感想なんて言ってくれなくても私は嬉しいよ。こんなに夢中になってくれることってなかなかないと思うし、もう少したくさん作っていっぱい食べてもらえばよかったなって思っちゃったもん」
「もう、唯ちゃんは甘いよ。こいつにはもっとガツンと言ってやってもいいと思うけどね。でも、確かにこいつの食いっぷりを見ていたら唯ちゃんの気持ちも少しはわかるかも。何でかわからないけど、こいつって唯ちゃんの料理だけは本当に美味しそうに食べてるんだよね」
髑髏沼愛華に言われなくても自覚しているのだけれど、俺はなぜか鵜崎唯の料理を食べる時だけは何もかも忘れて料理に夢中になってしまうのだ。他の人が作った料理ではそんな事になることも無かったし、みんなで食べに行ったお店でも美味しいと思うことはあっても鵜崎唯が作った料理を食べている時のように夢中になってしまう事なんて一度も無かったのだ。
「自分でも気になってるんだけどさ、なんで鵜崎の料理ってこんなに美味しいんだろ。自分で作る時だってうまいって思うことはもちろんあるし、みんなで食べに行った中華とかも美味しかったって思うんだけどさ、鵜崎が作った料理みたいに夢中になることってないんだよな。こんな事言うのは失礼かもしれないけどさ、変な薬とか入ってないよな?」
「あんた何言ってんのよ。頭おかしいんじゃない。唯ちゃんがそんなの入れるわけないでしょ。もしもよ、そんなモノを入れていたら同じものを食べてる私も唯ちゃんもあんたみたいに夢中になって食べてるんじゃないの。鬼仏院右近だって同じものを食べてるのにあんたみたいに夢中になって食べることだってないんだよ。唯ちゃんの料理の感想を言えないからってその言い方はさすがに失礼だと思うわ」
まあ、今のは完全に俺が悪いと思う。美味しい料理を作ってもらって変なものとか入れてないよなというのは失礼だよな。でも、そんな風に思ってしまうくらい俺が本当に食べたい味付けなんだよな。この料理が毎日食べられるんだったら幸せだろうなとは思うけど、鵜崎唯の部屋を見てしまった後だと何か入っててもおかしくないんじゃないかなって思ってしまうのかもな。
でも、よくよく考えてみると髑髏沼愛華が言っているように同じものを食べているみんなも夢中になってないのは何も入れていないという証拠でもあるんだよな。料理の仕上げも盛り付けをするのもいつも髑髏沼愛華だし、俺の料理にだけ何かを入れるとかしたらわかっちゃいそうだもんな。見た目似も匂いにも違いなんて何も無いと思うしな。
「ごめん。変な事言ってごめんな。鵜崎の気分を害するような事言っちゃったよな」
「ううん、気にしなくていいよ。そんな風に思うくらい夢中になってくれてるって事だし。でも、悪いって思うんだったらさ、私の事は鵜崎じゃなくてちゃんと名前で呼んで欲しいな。愛華ちゃんがいる時も右近君がいる時も私の事は名前で呼んでくれたら許してあげるよ」
「え、ああ、わかった。なるべく名前で呼ぶようにするよ」
さすがに他の人がいる時では名前で呼びにくいと思うけど、鬼仏院右近と髑髏沼愛華だけだったらそんなに抵抗はないかもしれないな。二人とも俺と違って鵜崎の事を名前で呼んでいるし、それに紛れる感じだったら少し呼びやすいかもしれない。
「ついでじゃないんだけどさ、私の事も髑髏沼って呼ぶのやめてよね。髑髏沼って可愛くないから呼ばれたくないんだわ」
「でも、さすがに髑髏沼は呼び捨てで呼ぶのがちょっと怖いかも。ほら、お前って見た目がいいから熱狂的なファンが多くて呼び捨てで呼ぶの怖いんだよ。でも、愛ちゃんって呼ぶのもなんか違うと思うし」
「なんでいつも一人でいることを望んでいるあんたが周りの目を気にしてるのよ。それに、熱狂的なファンって知らないんだけど」
「あのね、愛華ちゃんは知らないかもしれないけど、愛華ちゃんってとっても美人だから熱狂的なファンの人ってたくさんいるんだよ。私も一年生の時はそう言う人に絡まれたりもしてたからね」
「え、嘘。そんなの気付かなかったよ。ごめんね唯ちゃん」
「大丈夫だよ。その人達には私と愛華ちゃんの事をちゃんと伝えてわかってもらったからね。でも、政虎が愛華ちゃんの事をどう呼んだらいいかって問題だよね。髑髏沼って呼ばれるの好きじゃないだろうし、呼び捨てはお互いに無理なんだろうしな。じゃあさ、愛華ちゃんじゃなくて愛って呼んだらいいんじゃないかな。それがいいと思うけど、どうかな?」
「まあ、私は髑髏沼じゃないならそれでいいけど。あんたはどうなのよ?」
愛と呼ぶことに抵抗が無いわけではない。一文字減っただけで呼び捨てと何が違うのかわからないけれど、一文字違うだけでも呼び捨てで呼ぶよりはだいぶ呼びやすいようにも感じていた。
「そうだな。呼び捨てで呼ぶのはさすがに抵抗があるし、その呼び方だったら抵抗はそんなにないかも」
「よかった。これで決まりだね。じゃあ、今日から政虎は愛華ちゃんの事を愛って呼ぶんだよ。守らないとダメだからね。唯と愛って似てるから嬉しいな」
こうして俺は二人の呼び名が変ったのだが、直接呼ぶ時以外はフルネームでも問題ないよな。さすがに頭の中で思っている時も唯と愛と呼ぶのは抵抗があるのだ。
「唯ちゃん良かったね、こいつは煮魚もハンバーグもお気に入りの味付けだったみたいだよ」
「うん、政虎が美味しそうに食べてくれて良かったよ。こういう味付けが好きなんじゃないかなって思って試してみてよかったな」
「でもさ、黙って黙々と食ってるだけじゃなくて感想くらい言ったって罰は当たらないと思うぞ」
髑髏沼愛華のその言葉で気付いていなかったのだが、俺は今回も黙々とひたすらご飯を食べていたようだ。前回もその前も今回と同じように食べることに集中してしまって感想を伝えることが出来なかったのだ。その時も髑髏沼愛華に何か感想が無いのかと言われてたし、次はちゃんと感想を伝えようと思っていたのだけれど、あまりにも美味しくて無言で一気に食べ進めてしまったのだった。
「いや、美味しくてさ、ついつい夢中になっちゃったよ」
「それはわかるけどさ、唯ちゃんはお前のために作ってるんだから一言くらい感想を言ったっていいと思うんだよな。これは前も言ったと思うけどよ、唯ちゃんにもっと感謝の気持ちを持ってもいいんじゃないかな」
「感謝の気持ちはあるよ。どこの店で食べてもこんなに美味しいものって出てきた事ないし。一口食べた時点で美味しいって思ってそれを言葉に出そうと思うんだけどさ、不思議と言葉を出す前に二口目三口目って食べ進めちゃってるんだよね。食べ始める時とかは前も髑髏沼に注意されたのを思い出してはいるんだけどさ、一口食べたら美味しくて忘れちゃうんだよ」
「良いの、大丈夫だよ。愛華ちゃんがそう言ってくれるのは嬉しいけどね、政虎が私の作った料理に夢中になってくれてるのを見れば感想なんて言ってくれなくても私は嬉しいよ。こんなに夢中になってくれることってなかなかないと思うし、もう少したくさん作っていっぱい食べてもらえばよかったなって思っちゃったもん」
「もう、唯ちゃんは甘いよ。こいつにはもっとガツンと言ってやってもいいと思うけどね。でも、確かにこいつの食いっぷりを見ていたら唯ちゃんの気持ちも少しはわかるかも。何でかわからないけど、こいつって唯ちゃんの料理だけは本当に美味しそうに食べてるんだよね」
髑髏沼愛華に言われなくても自覚しているのだけれど、俺はなぜか鵜崎唯の料理を食べる時だけは何もかも忘れて料理に夢中になってしまうのだ。他の人が作った料理ではそんな事になることも無かったし、みんなで食べに行ったお店でも美味しいと思うことはあっても鵜崎唯が作った料理を食べている時のように夢中になってしまう事なんて一度も無かったのだ。
「自分でも気になってるんだけどさ、なんで鵜崎の料理ってこんなに美味しいんだろ。自分で作る時だってうまいって思うことはもちろんあるし、みんなで食べに行った中華とかも美味しかったって思うんだけどさ、鵜崎が作った料理みたいに夢中になることってないんだよな。こんな事言うのは失礼かもしれないけどさ、変な薬とか入ってないよな?」
「あんた何言ってんのよ。頭おかしいんじゃない。唯ちゃんがそんなの入れるわけないでしょ。もしもよ、そんなモノを入れていたら同じものを食べてる私も唯ちゃんもあんたみたいに夢中になって食べてるんじゃないの。鬼仏院右近だって同じものを食べてるのにあんたみたいに夢中になって食べることだってないんだよ。唯ちゃんの料理の感想を言えないからってその言い方はさすがに失礼だと思うわ」
まあ、今のは完全に俺が悪いと思う。美味しい料理を作ってもらって変なものとか入れてないよなというのは失礼だよな。でも、そんな風に思ってしまうくらい俺が本当に食べたい味付けなんだよな。この料理が毎日食べられるんだったら幸せだろうなとは思うけど、鵜崎唯の部屋を見てしまった後だと何か入っててもおかしくないんじゃないかなって思ってしまうのかもな。
でも、よくよく考えてみると髑髏沼愛華が言っているように同じものを食べているみんなも夢中になってないのは何も入れていないという証拠でもあるんだよな。料理の仕上げも盛り付けをするのもいつも髑髏沼愛華だし、俺の料理にだけ何かを入れるとかしたらわかっちゃいそうだもんな。見た目似も匂いにも違いなんて何も無いと思うしな。
「ごめん。変な事言ってごめんな。鵜崎の気分を害するような事言っちゃったよな」
「ううん、気にしなくていいよ。そんな風に思うくらい夢中になってくれてるって事だし。でも、悪いって思うんだったらさ、私の事は鵜崎じゃなくてちゃんと名前で呼んで欲しいな。愛華ちゃんがいる時も右近君がいる時も私の事は名前で呼んでくれたら許してあげるよ」
「え、ああ、わかった。なるべく名前で呼ぶようにするよ」
さすがに他の人がいる時では名前で呼びにくいと思うけど、鬼仏院右近と髑髏沼愛華だけだったらそんなに抵抗はないかもしれないな。二人とも俺と違って鵜崎の事を名前で呼んでいるし、それに紛れる感じだったら少し呼びやすいかもしれない。
「ついでじゃないんだけどさ、私の事も髑髏沼って呼ぶのやめてよね。髑髏沼って可愛くないから呼ばれたくないんだわ」
「でも、さすがに髑髏沼は呼び捨てで呼ぶのがちょっと怖いかも。ほら、お前って見た目がいいから熱狂的なファンが多くて呼び捨てで呼ぶの怖いんだよ。でも、愛ちゃんって呼ぶのもなんか違うと思うし」
「なんでいつも一人でいることを望んでいるあんたが周りの目を気にしてるのよ。それに、熱狂的なファンって知らないんだけど」
「あのね、愛華ちゃんは知らないかもしれないけど、愛華ちゃんってとっても美人だから熱狂的なファンの人ってたくさんいるんだよ。私も一年生の時はそう言う人に絡まれたりもしてたからね」
「え、嘘。そんなの気付かなかったよ。ごめんね唯ちゃん」
「大丈夫だよ。その人達には私と愛華ちゃんの事をちゃんと伝えてわかってもらったからね。でも、政虎が愛華ちゃんの事をどう呼んだらいいかって問題だよね。髑髏沼って呼ばれるの好きじゃないだろうし、呼び捨てはお互いに無理なんだろうしな。じゃあさ、愛華ちゃんじゃなくて愛って呼んだらいいんじゃないかな。それがいいと思うけど、どうかな?」
「まあ、私は髑髏沼じゃないならそれでいいけど。あんたはどうなのよ?」
愛と呼ぶことに抵抗が無いわけではない。一文字減っただけで呼び捨てと何が違うのかわからないけれど、一文字違うだけでも呼び捨てで呼ぶよりはだいぶ呼びやすいようにも感じていた。
「そうだな。呼び捨てで呼ぶのはさすがに抵抗があるし、その呼び方だったら抵抗はそんなにないかも」
「よかった。これで決まりだね。じゃあ、今日から政虎は愛華ちゃんの事を愛って呼ぶんだよ。守らないとダメだからね。唯と愛って似てるから嬉しいな」
こうして俺は二人の呼び名が変ったのだが、直接呼ぶ時以外はフルネームでも問題ないよな。さすがに頭の中で思っている時も唯と愛と呼ぶのは抵抗があるのだ。
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