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第八話 鵜崎唯について髑髏沼愛華と少しだけ話してみる

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 結果的に俺は髑髏沼愛華に貸しを作ったと思うのだが、髑髏沼愛華の考えている事を完璧に代弁する事は出来なかったという事でその貸しは無いそうだ。というよりも、他人の考えている事なんて完全に理解する事なんて無理だろう。俺は人の心が読めるわけでもないし、何を考えているかわかることも無い。ただ、俺が今まで髑髏沼愛華に言われてきた事をマイルドに言っただけに過ぎないのだ。さすがに俺が言われている事をそのままナンパ男向けにアレンジしてしまうとあのナンパ男はこれから先の授業に出ることが出来なくなってしまうと思ったのだ。俺も少しは優しさというものを持ち合わせているという証明になったのではないだろうか。
「助けてくれたのはありがたいのだけれど、さすがに私もあそこまで言うつもりはなかったぞ」
「でも、そんな風には思ってって事だろ?」
「まあ、おおむねお前の言った通りだとは思うよ。でも、さすがに見た目を揶揄するのは良くないとは思うんだ。褒める時は見た目を褒めてもいいとは思うけど、見た目を悪く言うのは感心しないな。他に何か言いようがあったとは思うんだけど」
「そうは言うけどさ、俺はわりと近いこと言われてきてると思うんだよな。ほら、この前だって俺にちょっと寝癖があっただけで人格を否定するような事を言ってきてたと思うんだよな。アレって他の人だったら自殺してたかもしれないレベルに言われてたと思うよ。俺はそこまで気にしないタイプだったから大丈夫だけどさ、普通だったら学校に行って髑髏沼の姿を見たら逃げちゃうレベルなのは間違いないな」
「そ、そうだったかな。あんまり覚えてないが、そうだったんだとしたら忘れないようにしておくよ。でも、その時の様子を見ていた唯ちゃんは楽しそうに笑っていたような気がするんだけどな。それと、何度も言ってるが私の事を髑髏沼と呼ぶのはやめろ」
 俺がこいつに言われたことは心が弱い人だったら確実にひきこもるとは思うのだけれど、こいつは俺に対して言っている事に悪意などは無くただ俺の事を無意識のうちに罵倒する癖がついているのだと思う。俺の予想では、鵜崎唯が俺の事を気に入っているからという事がこいつは気に入らなくて無意識のうちに俺に対して罵倒するようになっているのだと思う。俺の不幸は鵜崎唯に気に入られてしまったという事だけでも恐ろしいことではあるのだが、それに加えて髑髏沼愛華にもナチュラルに罵倒されて人格を否定されてしまっていることも重なっているのだ。
「ま、私はお前の事は別に好きでもないしどちらかと言えば嫌いではあるけれど、お前が悲しそうにしていると唯ちゃんが落ち込んでしまうからそうならないように努力はするよ。でも、どうしてお前みたいにいいところが何もないような性格も悪い男を気に入ってしまうんだろうな。唯ちゃんだけじゃなく鬼仏院もなんでお前と仲良くしてるのか私にはさっぱりわからない」
「それは正直に言って、自分でもわからないわ。俺があの二人の立場だったら俺みたいなやつと仲良くしようなんて思わないしな。髑髏沼だって鵜崎が俺に興味を持ってなかったらこうして話したりもしてないだろ?」
「それは当然だろ。なんで私がお前みたいなやつと話をしなくちゃいけないんだよ。お前と話すくらいだったら全く日本語が通じない国のスラムに行って命の危険にさらされる方がマシだとさえ思っているぞ。私にとってお前と話すことはスラムに行くよりもつらいという事でもあるんだ」
 こいつは本当に俺の事を嫌いなんだろうなという事はいくら人の気持ちを読むことに鈍い俺でもわかる。ただ、そんな髑髏沼と一つだけ気が合うところがあるのだが、それはお互いに鵜崎が俺の事を好きだという事を認めないことだ。俺も髑髏沼も鵜崎唯が俺の事を好きなことなんてとっくの昔に気付いてはいる。気付いてはいるのだが、お互いにそれを自分から認めることなんて絶対にしたくないのだ。髑髏沼は親友である鵜崎唯が惚れている相手が世界で一番嫌いな男だと認めたくないだけだと思うし、俺は俺であんなに怖い部屋に俺を招待して平気だと思っているようなヤバい女に好かれているなんて認めたくはないのだ。ただ、そんなヤバい女だとしても友達として接する分には害も無くお互いにメリットもあると思っているのだ。
「お前は唯ちゃんの家に招待されたことがあるって言ってたけどさ、それって去年の夏以前の話か?」
「たぶんそうだったと思う。ちょっと衝撃的なことがあってそっちは鮮明に覚えているのだけど、いつくらいだったかまでは覚えてないな。でも、右近が長袖を着てたような気がするから夏ではなかったと思うよ」
「それだったら今度唯ちゃんの家に行ってみた方が良いかもな。唯ちゃんはお前たちが部屋の中央にある魔法陣とぬいぐるみを見て驚いていたことに対してショックを受けてたからな。私も初めて唯ちゃんの家に遊びに行った時は少し驚いたけど、お前たちは私よりもわかりやすくドン引いてたらしいな。さすがにもう少し気を使った方が良いと思うぞ」
「そうは言うけどさ、初めて行った女の子の部屋の中央に魔法陣が描いてあってその中央によくわからないぬいぐるみがあったら引くのも仕方ないと思うんだよな。それで平気な人って同じことをしている人だけなんじゃないかって思うけど」
「でも、アレだって唯ちゃんは頑張って作ったって言ってたからな。完成するまで一年近くかかったって言ってたし」
「あの魔法陣って作るの大変そうだもんな。俺も右近も見ながら描いても間違える自信があるよ」
「あ、そっちじゃなくてさ、ぬいぐるみの方。ぬいぐるみを完成させるのに時間がかかったって言ってたからな。結構大変だったみたいだよ」
「へえ、鵜崎ってぬいぐるみとかも作るんだ。料理だけじゃなく裁縫とかも得意だなんて凄いな」
「まあ、唯ちゃんは器用だからな。でも、中身を集めるのが大変だったって言ってたよ。お前はその中身が何なのか知らないだろ。知ってたらそんな反応なわけないもんな」
「え、どういうこと?」
「どういう事だろうね。あとで唯ちゃんに直接聞いてみたらいいんじゃないか。お前が聞いたら唯ちゃんも嬉しいだろうし、なんでも答えてくれると思うからな」
 俺は髑髏沼の言った言葉も気になったが、明らかに俺を驚かせようと考えているその表情の方が気になってしまった。おそらく、何かとんでもないものが中に詰められているのだと思う。こいつの思惑通りに驚いたりなんてしないと俺はここに固く誓うのであった。
 それにしても、こいつの厳つい苗字と俺に対する口の悪さを除けば美人で非の打ち所がないと思うのだけれど、今の関係もそこまで悪いものではないような気もしていたのだ。もしかしたら、俺はこんな風に罵られたり虐げられてしまうのが案外好きなのかもしれないと思ってしまったのだった。
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