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第六話 鵜崎唯

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 私が政虎の事を好きだという事はみんなに知られている。最初は他の人に政虎を取られるのが嫌だったからそんなアピールをしていたのだけど、周りの反応を見ているとそんなアピールをしなくても政虎の事を誰も好きにならないんだという事に気付いた。みんなは政虎の良さに気付いていないのは私にとっていい事だと思うけど、他の人にも政虎の良さを知ってもらいたいという気持ちもあったのだ。私だけが政虎の良さを知っていたいという独占欲とみんなにも政虎の良さを知ってもらいたいという共有欲が私の中でせめぎ合っているのだ。ただ、残念なことに政虎の良さをわかってくれるのは私の他には右近君しかいないのだった。
 愛華ちゃんに何度政虎の良さを説明しようとしても政虎の名前を出すだけで私から離れようとしてしまうのだ。それでも、私と一緒に政虎と遊んでくれたりもするのだ。いやだと言ったり拒否反応を見せてくる愛華ちゃんも完全に政虎の事を嫌いなのではないという証拠なのかもしれない。このまま上手くいけば愛華ちゃんも政虎の良さを理解してくれるようになるのかもしれない。でも、そうなってしまうと美人でスタイルも性格もいい愛華ちゃんに政虎を取られてしまうかもしれないよね。そうなったらそうなったで仕方ないと思うけど、最終的には私のところに帰ってきてくれたら嬉しいな。
「今日も唯ちゃんは柊のところに行くの?」
「うん、今日はこの前みたいにゲームできたらいいなって思ってるんだよね。私も少しずつゲームに慣れてきたからさ、今回は前よりもいい感じに出来ると思うんだ。右近君はバイトがあるって言ってたけど、その時間までは一緒に遊んでくれると思うし愛華ちゃんも一緒に政虎の家に遊びに行く?」
「あんまり気は進まないけど、唯ちゃんが行くんだったら私も行くよ。鬼仏院がバイトでいなくなったら唯ちゃんと柊が二人っきりになっちゃうし」
「別に私は政虎と二人っきりでゲームしててもいいんだけどね。でも、右近君がバイトに行ったら私も帰らないといけない感じになっちゃうんだよね。そうなるとせっかく遊べる機会なのにもったいないって思うんだ。そんな時に愛華ちゃんが一緒にいてくれたら政虎も私を帰そうとはしないんじゃないかな。愛華ちゃんの分もご飯作ってあげるからさ、一緒に政虎の家に遊びに行こうよ」
「柊の家に行くことにあんまり気は進まないけどさ、唯ちゃんがそこまで言うんだったら行くことにするよ。ちなみになんだけど、ご飯は何を作るつもりなの?」
「今日はね、煮魚にしようかと思うんだ。最近はお肉ばっかり食べてるみたいだからたまにはお魚がいいかなって思うんだよね。でも、お刺身とか焼き魚だと私が作らなくてもいいんじゃないかなって思ってさ、私がちゃんと作ってるところをアピールするためにも煮魚がいいんじゃないかなって思うんだ」
「そうなんだ。でもさ、昨日の晩に唯ちゃんはサバの味噌煮を作って食べてたよね?」
「うん、昨日はサバの味噌煮を作って食べたよ。ちょっと失敗してしょっぱくなっちゃったけど、それなりに美味しかったかな。政虎に食べてもらうにはちょっと味が濃すぎるなって思ったよ。私の両親だったらあれくらいがちょうどいいって言うと思うんだけど、政虎はもう少し薄味の方が好みみたいなんだよね」
「サバの味噌煮の前ってアジフライとかも作ってたよね?」
「そうだったと思うよ」
「その前の日もその前の日も唯ちゃんは魚料理を食べてたと思うんだけど、唯ちゃんってそもそもお肉あんまり好きじゃないよね?」
「私はあんまりお肉は好きじゃないかも。でも、普通に食べたりもするよ。ほら、先月だって四人で焼き肉を食べに行ったし、その前にはハンバーグだって一緒に食べに行ったじゃない。私だってお肉を食べたくなる日だってあるんだからね」
「でも、さっきお肉ばっかり食べてるって言わなかったっけ?」
「それは私の事じゃないよ。私じゃなくて政虎の事だよ。政虎はあんまり野菜もお魚も食べないでお肉ばっかり食べてるんじゃないかなって思ってね。たぶん、政虎くらいの年頃の男の子はちゃんと料理を作ってあげないとお肉ばっかり食べてると思うんだよ。スーパーでお惣菜を買う時も唐揚げとかフライドチキンとかそんなのばっかり買ってるんじゃないかなって思うんだ。買い物に行った時に他の男の子の様子を見ているとさ、みんな唐揚げとかお肉系のお惣菜ばっかり買ってるのを見るからね。政虎もそうなんじゃないかなって」
「確かにね。前に所属してたサークルの食事会も焼肉屋とかお肉系のところばっかりだったわ。私は特にこだわりはなかったんだけど、あの時の食事会って全然楽しくなかったんだよね。その後は参加してないからわからないけど」
「それって、政虎が先輩と揉めたってやつだよね?」
「そうそう、私も何が原因で揉めることになったのかまではわからないんだけど、サークルの代表の人が柊の襟を掴んで怒ってたやつだよ。あれ、唯ちゃんってその時いなかったよね?」
「うん、私は参加してないんで直接は見てないけど、愛華ちゃんがその後教えてくれたじゃない。政虎がその先輩の彼女の事を悪く言ったとかそんな事が原因だったって言ってたと思うけどな」
「そうだったっけ。あんまり覚えてないけどそうだったかも。ところで、煮魚ってそんなに簡単に出来るの?」
「煮魚用のお魚が売ってると思うからそんなに手間はかからないと思うよ。下処理が済んでない魚だったとしても私の家でちゃんと頭とか内臓を取ってから持っていくつもりだしね」
「何か難しそうなのに唯ちゃんってそう言うのも簡単にやっちゃうよね。私は普通の料理しか出来ないから尊敬しちゃうな。それに唯ちゃんはお魚を食べるのも綺麗で上手だもんね。私はお魚を食べるのも遅いし綺麗に出来ないから尊敬しちゃうよ」
「そんな事ないよ。愛華ちゃんだって何回も食べてたらすぐに綺麗に食べられるようになるよ。左利きの人の方が器用だって言うし、私よりもすぐになんでも上手になるって」
「そんなに簡単にはいかないと思うけどね。でも、色々と頑張ってみるよ。私はこれから午後の授業なんで寝ないように気を付けてくるね」
「うん、頑張ってね。あ、政虎に他の女が近寄らないように見守っててくれたら嬉しいな」
「大丈夫だよ。そんな心配しなくても平気だと思うって。でも、唯ちゃんが心配しないように近くで見守ることにするよ。じゃあね」
「お願いね。その分美味しいご飯作るからね」
 愛華ちゃんに見守って貰ったら政虎に変な女が近付いてこないよね。それに、サークルの代表の彼女だって全然可愛くなかったもんね。政虎がなんで怒られたのかわからないけど、ブスにブスって言うのは良くない事なのかもしれないね。愛華ちゃんも結構酷いことを言っているような気もするんだけど、政虎は何を言われても気にしてないんだし、言われる側の問題なような気もするんだけどな。
 やっぱり政虎って他の人とは違うんだね。
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