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第一話 親友の鬼仏院右近

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 体を動かすことが苦手な俺は勉強も苦手だった。
 得意なことが何も無いかわりに特異な能力を身に着けていた。なんてことは無く、ごく普通にどこにでもいるような冴えない男子である。
 ただ、幸いなことに人間関係には恵まれていたこともあって、いじめとは無縁な学生生活を送ることが出来ていた。それなりに青春を楽しめてきたとは思うし、友達が連れてきてくれた女の子とも普通に会話位はすることも出来ていた。その辺の冴えない男とは違うのだと自分に言い聞かせて生きていた。

 だが、大学三年生になっても俺に彼女が出来ることは無かったのだ。それなりに仲良くなれた女の子も、俺と付き合うことは無く別の男と付き合ってしまっていたのだった。
「なあ、俺ってどうして彼女が出来ないんだと思う?」
「そうだな。性格に問題があるんじゃないか?」
「性格って、そんなことを言うお前の方が性格悪いと思うけど」
「いやいや、政虎は性格さえ治せば彼女くらい出来ると思うぞ。ほら、前に好きだって言ってた唯菜だってお前の皮肉を真に受けて離れていったし、ちょっとは相手の気持ちを考えて発言した方が良いと思うよ」
「俺はそんな変な事言ってるつもりないんだけどな」
「知ってるよ。お前がそうやって何も考えてないってことくらい知ってるからさ。ただ、俺は知ってるからいいけど他の子はみんなお前の事をちゃんと知ってるわけじゃないんだから何か言う前に考えた方が良いと思うぞ。特に、仲良くなりたいって女の子と話す時は気を付けた方が良いと思うよ」
「そう言う事言うお前も性格良くないと思うんだけどな。なんでお前には彼女がいて俺にはいないんだろうな」
「やっぱり、性格に問題あるからだろ」
「しつこいって」
 鬼仏院右近は俺の数少ない友人の一人だ。過去に何度か意見をぶつけ合って喧嘩もしてきたけれど、俺のもとから離れずに今もこうして一緒にいてくれるのだ。
 右近は良いやつなのだけど、俺に対してだけは毒を吐いてくることがある。今みたいに俺の性格が悪いとか言ってくるのも良くない事だと思うんだが、俺はこいつの良いところをたくさん知っているのでそんなに悪い気はしていないのだ。
「そんなに彼女が欲しいって言うんだったらさ、唯ちゃんと付き合えばいいじゃん。唯ちゃんはお前の事を好きだって言ってるくらいだし、簡単に付き合えるんじゃないか」
「鵜崎はダメだろ。お前だって鵜崎の家に行ってドン引きしてたじゃないか。ワンルームの真ん中に魔法陣があってその中心に俺の写真を貼った人形を置いてるような女だぞ。付き合ったら何されるかわかんないよ」
「じゃあ、愛華はどうだ。あいつはお前と性格も近いし気が合うんじゃないか?」
「さすがに俺はあそこまで攻撃的な性格じゃないと思うぞ。あいつは目が合っても合わなくても近くにいるだけで俺に暴言を吐いてくるような女だからな。見た目はそこそこいいからモテてるけどさ、みんな五分も話さないうちにイヤになるくらい性格悪いもんな。今でも普通に話してるのなんてお前くらいだろ」
「そう言うお前だって愛華と普通に話してるとこ見てるけどな。実は、惹かれ合ってるんじゃないか?」
「そんな事言うなよ。俺はあんな女に言い負かされたくないだけだから。それだけだよ」
「でもよ、お前と話してくれる女の子なんてその二人くらいだぞ。愛華ほど攻撃的ではないとはいえ、お前も十分にきつい性格してるからな。唯菜以外で好きになった人っていないのかよ」
「芸能人で見た目が好きになることはあっても、実際に近くにいる人だとどうしても唯菜ちゃんと比べてしまうんだよな。お前は今の彼女のどんなところが好きで付き合ってるんだ?」
「どんなところって言われてもな。別に俺から好きになったわけじゃないんで探してるところかな。ほら、一緒にいたら好きなところの一つでも見つかるかもしれないだろ」
「俺の事さんざん言ってるけどさ、お前も結構性格良くないと思うぞ」
 こいつは背も高くて顔も良くて運動も出来て頭も良くて実家も金持ちときたものだ。俺との共通点なんて性別と年齢くらいしかないんじゃないかと思う程度なのだが、なぜかそんな俺と昔から仲良くしてくれていた。喧嘩をした時も俺から謝ることは無くいつもこいつから謝ってきたのだ。
 一度だけ俺から謝ったことがあったのだが、その時も俺に謝らせてごめんと謝り返してきたほどだ。なぜこいつが俺にだけそんな扱いをしてくれるのかわからないけれど、こいつの性格が良いから今も付き合いが続いているという事は俺もさすがに自覚はしている。ただ、自覚はしていてもついついそれを忘れてしまう事も多くあるのだ。
「政虎はさ、いいやつだとは言いにくい性格してるけどさ、いいところもあると思うよ。それを上手く説明することが出来ない俺って本当に頭が悪いんだろうな」
「いやいや、大学三年生で色々な国家資格を持ってるお前が頭悪いんじゃなくて、人に説明出来るような俺の良いところが無いだけなんだろ。自分で言ってて悲しくなるわ」
「そう言えばさ、昨日の夜に唯菜から告白されたよ。何度断っても俺に告白してくるのってどうしてなんだろうな」
「唯菜ちゃんがお前の事をそれだけ好きだって事だろ。そんな自慢するのって性格悪いと思うぞ」
「俺の性格は悪くないだろ。お前の事を思ってちゃんと断ってるんだからな。俺よりも政虎の方が良い男だって何回も言ってるくらいだぞ」
「いや、それは逆に俺に悪い印象を抱いちゃうんじゃないかな」
 たぶん、本当にこいつは俺の事を思って唯菜ちゃんの告白を断わっているんだろう。ただ、その優しさは正しいものだとは思えないのだ。唯菜ちゃんが他の男と付き合う事なんて考えたくないのだけれど、こいつだったら。鬼仏院右近だったら唯菜ちゃんを幸せにすることが出来るんじゃないかなと思ってはいる。俺なんかよりも、こいつの方が唯菜ちゃんを幸せにすることが出来るんじゃないかって、俺は薄々感じてはいるのだ。
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