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恋愛コンクルージョン
第五話
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早坂先生たちとの待ち合わせまでは少しだけ時間に余裕があるのだけれど、ウチはその時間を使って愛莉と一緒に勉強をしていた。いつもの喫茶店のいつもの席に座って勉強をしているのだけれど、いつもと違うところは、二人が隣同士に座っているという事だ。
「なんか、隣に座って勉強するのって不思議な感じがするね」
「そうだね。なんだかいつも以上に梓が隣にいるっていうのを意識してしまうかも。隣にいることは結構あるのに、いつもの場所が少しずれちゃうだけでこんな風に思っちゃうんだね」
「不思議だね。でも、早坂先生の弟さんの隣に座るのって少し気まずいかも。何も無いんだけど、愛莉の目の前で男性の隣に座るのって抵抗あるかもだわ」
「私も同じことを考えていたかも」
ウチは運ばれてきてからほとんど口を付けていないストローを軽く吸うと、甘くて芳醇中ココアの香りが口の中に広がり、そのまま爽やかな甘さを称えたまま鼻を抜けていった。甘いのにしつこくないこのココアがウチは大好きなのだ。
愛莉は少し苦めのアイスカフェラテを飲んでいるのだけれど、ウチから見るとアイスカフェラテを飲んでいる愛莉が大人に見えて仕方なかった。前に一口飲ませてもらったことがあったんだけど、ウチが飲むにはまだまだ早いなと十分に実感することが出来た思い出がある。
「早坂先生の弟さんなんだけどさ、恐い人とかガチのオタクだったらどうしようね」
「うーん、恐い人って可能性は早坂先生を見ている限り低そうだけど、あんなアプリを作れるって事はパソコンオタクかもしれないよね。ウチはあんまり知識無いからわからないけど、結構専門的な事を知ってないと出来なそうだよね。それにさ、いまだにどうしてポイントがもらえてるのかもわからないな」
「本当に大丈夫なのかって思ってたけどさ、結構いろんなところでポイントを使ってお買い物できるからいいよね。そのおかげで梓といろんなところに行けてるもんね」
「だよね。ウチもうざいくらいにメッセージ送ってると思ってたけど、こうして二人で出かけられるのって幸せかもね」
勉強をしながらそんな話をしていると、いつも見かける早坂先生と始めてみる男性が喫茶店の中へと入ってきた。休日の早坂先生は落ち着いた大人な服装をしているのだけれど、落ち着いているだけではなくさり気なく小物を使ってアクセントを入れていた。何となく見聞きしたファッション知識で早坂先生を解剖しようと思ったのだけれど、ウチにはそれ以上に何が良いのかハッキリとわからず、ただぼんやりと大人っぽくて素敵だなと思うだけだった。
おそらく早坂先生の弟さんで間違いないと思うのだが、早坂先生のファッションとは違って何となく全体的に重いイメージの服装であった。もう少しだけでも明るい色を取り入れた方が全体的に良くなる気もするのだけれど、それ以上にこの男性はファッションを楽しもうという気持ちが無いようだ。奥谷ほどではないにしろ、この男性も歩い程度は顔が整っているんだし、ファッションセンスを磨けばもっといい感じになるんだろうなと漠然と感じていた。
「ごめんなさい、二人とも結構待ったかな?」
「いえ、勉強しながら待ってたんでそれほどでもないと思います」
「あら、勉強して待ってたのね。待っている時間も勉強しているのは偉いと思うわ。先生が受験生の時はほとんど遊んでしまったのだけれど、それでもちゃんと勉強をする時と遊ぶ時はきっちり分けていたわね。今考えてみると、遊べる時にちゃんと遊んでおいた方がいいかもなって思えたりもするのよね」
「あのさ、僕の事をちゃんと紹介してもらってもいいかな?」
「そうだった、ごめんね。こちらは私の弟の早坂天です。そして、正面に座ってる女子二人のこちらから見て右が山口愛莉さん。左側に座っているのが河野梓さん」
「初めまして、早坂天です。今日は色々とお願いします」
「あ、はい。山口愛莉です。こちらこそよろしくお願いします」
「ウチは河野梓です」
早坂先生の弟さんは想像していたよりもずっと普通の人だった。パソコンに詳しくてずっと家にいるという事を聞いていたのでもう少し変な人を想像してしまっていたのだけれど、見た目も爽やかな好青年といった感じで見方によっては学生に見えるかもしれない。
「これから僕がする質問は管理運営者としてではなく、一個人として好奇心で尋ねるのであんまり警戒しなくてもいいからね。それと、僕の隣にいる姉さんも今日は教師としてではなく僕の姉としてただ同席してもらっただけなんで気にしないでね。僕みたいなおじさんが君達みたいな若い女の子と会っているっていうのはお互いの印象も良くないだろうしね。ま、そんな事を考えているなら家の近くで会うなよって思うかもしれないけど、家から離れた誰も知らない場所で会っている方が何か人に言えない理由があるんじゃないかなって勘繰られるかもしれないからね。さて、単刀直入に聞くけど、君達って二人とも宮崎泉さんの事が嫌いだったのかな?」
泉の事を聞かれるとは思っていたけれど、世間話も何もなくストレートに聞かれるとは思っていなかったので驚いてしまった。あまりにも驚いたので何も言えずに愛莉の方を見てしまったのだけれど、愛莉は口を半開きにして瞬きを繰り返していた。
早坂先生はこのタイミングで運ばれてきたケーキを受け取ると、それぞれの前に並べてくれていた。ウチはそれにお礼を言ったのだけれど、なんとなく真っすぐ見つめてくる弟さんの視線が怖くて視線を逸らすことが出来なかった。もしも、視線を逸らしてしまったら何か悪い意味でとられてしまうような気がしていたからだ。
「ごめんごめん。いきなり変な事を言っちゃったね。僕は君達や姉さんと違って宮崎泉って人物がどんな人なのかわかってないんだよね。奥谷君って子に成りすまして何度がやり取りはしてたんで人間性は何となくわかっているんだけど、男に対する態度と女に対する態度が違う子って結構いるみたいだしね。宮崎さんがそうとは限らないけれど、君達が何か思うようなところはあったんじゃないかなって思って、ちょっと聞いてみたくなっただけなんだよね。別に僕は君たちの事を責めているわけでもないし、宮崎さんがなぜあんなことをしてしまったのか追求したいってわけでもないんだよ。何か人に言えないような事をされていたためそんな感情が芽生えてしまった、なんて事があるかもしれないなって思っただけだしね。でもさ、君達二人ってそんなに仲が良さそうなのに今まで誰にも気付かれなかったってのは凄いよね」
「本当にそうよね。私も弟から聞くまでは河野さんと山口さんが仲良しだなんて知らなかったからね。学校ではあえて接触を避けていたように見えるけど、それって宮崎さんに関係あったりするのかな?」
「えっと、ウチラが学校であんまり一緒にいなかったってのには泉は関係ないです。単純に秘密の関係ってのが良かったのと、女の子同士ってあんまりいないからどうしていいのかわからないっていうか、キモがられるんじゃないかなって思って黙ってました」
「今は多様性の時代だからそこまで気にすることも無いと思うんだけど、多感な思春期真っ只中のあなた達にしたら大きな問題かもしれないわね。中には変な風に思う人がいるかもしれないけど、私は自分の気持ちには素直になった方がいいと思うな」
「僕も姉さんと同じ意見だし、意外と女子同士で両想いになっている人はいるんだよ。もしかしたら、その好きって気持ちは友達の延長線上かもしれないし、片方が性別を偽って登録しているだけかもしれない。でも、みんながみんなそうとは限らないし、君達みたいに本当に思い合っている人たちもいると思うよ」
「私は別に他人にどう思われても気にしないんですけど、梓はやっぱりそうじゃなくて友達も大事にしたいって考えなんです。正直に言うと私は友達が大事って気持ちがわからないんですけど、その大事にしたいって梓の気持ちは分かるんです。比べることなのかわからないですけど、梓が私の事を思ってくれているように友達の事も思っているんだとしたら、どっちも大事にしてもらいたいなって思ってて、それで私も学校とかでは梓にあまり接触しないようにしているんです。それに、私しか知らない梓を知っているって優越感があるので他の人が梓と仲良くしてても大丈夫だと思うんです。でも、私は友達と呼べる人がいないし、話す相手も奥谷くらいしかいなかったから学校で梓と話せなくても今までと変わらなかったってのもあるんですよね」
「ごめんね。でも、ウチはもっと愛莉と話したい。学校でも気にせずに仲良く話したいって思ってるんだよ。だいぶ前に愛莉と亜紀が揉めた時も愛莉と話すチャンスかなって思ったんだけどさ、なかなか話しかけられなくて奥谷に話しかけちゃったもんね。あの時は周りが暴走しちゃって愛莉と亜紀が険悪な感じに思われてたけどさ、実際は愛莉と亜紀の誤解も解けてすぐに仲直りしてたもんね。それにしてもさ、亜紀の件であんなに亜梨沙が暴走するとは思わなかったよね」
「そうだよね。私も叩かれたのはびっくりしたけどそんなに痛くなかったから気にしてなかったし、あの後の話し合いですぐに解決できたもんね。西森も若林たちの暴走には困ってたみたいだし、今になって思うと一番の被害者は西森だったのかもしれないね」
「だよね。あの件で亜紀は親からもきつく言われたみたいだし、いまだに大人しくしてるもんね。前みたいに元気な亜紀に戻ってほしいんだけど、泉の件で地味にショックを受けちゃってるから立ち直るのも時間がかかりそうだよね」
「話をしてもらっているところ悪いんだけどさ、僕の姉さんも有紀なんだよね。あんまり“あき”“あき”って言われると僕の頭が混乱しちゃうんだよね」
「え、早坂先生ってアキって名前だったんですか?」
「そうだよ。ちゃんと一年生の時に自己紹介したと思うんだけど、河野さんはちゃんと先生の話を聞いていなかったのかな?」
「ごめんなさい。あの時は久しぶりに愛莉と一緒に過ごせると思って舞い上がってたんです」
そう、私はずっと離れていた愛莉と同じ学校で過ごせるという事を心から喜んでいたのだ。そして、同じクラスになったという奇跡に感謝していて、当時の私は誰の話もちゃんと聞いていなかったのだと思う。
愛莉は覚えていなかったかもしれないけれど、私はずっと愛莉の事を思って過ごしていたんだよ。
「なんか、隣に座って勉強するのって不思議な感じがするね」
「そうだね。なんだかいつも以上に梓が隣にいるっていうのを意識してしまうかも。隣にいることは結構あるのに、いつもの場所が少しずれちゃうだけでこんな風に思っちゃうんだね」
「不思議だね。でも、早坂先生の弟さんの隣に座るのって少し気まずいかも。何も無いんだけど、愛莉の目の前で男性の隣に座るのって抵抗あるかもだわ」
「私も同じことを考えていたかも」
ウチは運ばれてきてからほとんど口を付けていないストローを軽く吸うと、甘くて芳醇中ココアの香りが口の中に広がり、そのまま爽やかな甘さを称えたまま鼻を抜けていった。甘いのにしつこくないこのココアがウチは大好きなのだ。
愛莉は少し苦めのアイスカフェラテを飲んでいるのだけれど、ウチから見るとアイスカフェラテを飲んでいる愛莉が大人に見えて仕方なかった。前に一口飲ませてもらったことがあったんだけど、ウチが飲むにはまだまだ早いなと十分に実感することが出来た思い出がある。
「早坂先生の弟さんなんだけどさ、恐い人とかガチのオタクだったらどうしようね」
「うーん、恐い人って可能性は早坂先生を見ている限り低そうだけど、あんなアプリを作れるって事はパソコンオタクかもしれないよね。ウチはあんまり知識無いからわからないけど、結構専門的な事を知ってないと出来なそうだよね。それにさ、いまだにどうしてポイントがもらえてるのかもわからないな」
「本当に大丈夫なのかって思ってたけどさ、結構いろんなところでポイントを使ってお買い物できるからいいよね。そのおかげで梓といろんなところに行けてるもんね」
「だよね。ウチもうざいくらいにメッセージ送ってると思ってたけど、こうして二人で出かけられるのって幸せかもね」
勉強をしながらそんな話をしていると、いつも見かける早坂先生と始めてみる男性が喫茶店の中へと入ってきた。休日の早坂先生は落ち着いた大人な服装をしているのだけれど、落ち着いているだけではなくさり気なく小物を使ってアクセントを入れていた。何となく見聞きしたファッション知識で早坂先生を解剖しようと思ったのだけれど、ウチにはそれ以上に何が良いのかハッキリとわからず、ただぼんやりと大人っぽくて素敵だなと思うだけだった。
おそらく早坂先生の弟さんで間違いないと思うのだが、早坂先生のファッションとは違って何となく全体的に重いイメージの服装であった。もう少しだけでも明るい色を取り入れた方が全体的に良くなる気もするのだけれど、それ以上にこの男性はファッションを楽しもうという気持ちが無いようだ。奥谷ほどではないにしろ、この男性も歩い程度は顔が整っているんだし、ファッションセンスを磨けばもっといい感じになるんだろうなと漠然と感じていた。
「ごめんなさい、二人とも結構待ったかな?」
「いえ、勉強しながら待ってたんでそれほどでもないと思います」
「あら、勉強して待ってたのね。待っている時間も勉強しているのは偉いと思うわ。先生が受験生の時はほとんど遊んでしまったのだけれど、それでもちゃんと勉強をする時と遊ぶ時はきっちり分けていたわね。今考えてみると、遊べる時にちゃんと遊んでおいた方がいいかもなって思えたりもするのよね」
「あのさ、僕の事をちゃんと紹介してもらってもいいかな?」
「そうだった、ごめんね。こちらは私の弟の早坂天です。そして、正面に座ってる女子二人のこちらから見て右が山口愛莉さん。左側に座っているのが河野梓さん」
「初めまして、早坂天です。今日は色々とお願いします」
「あ、はい。山口愛莉です。こちらこそよろしくお願いします」
「ウチは河野梓です」
早坂先生の弟さんは想像していたよりもずっと普通の人だった。パソコンに詳しくてずっと家にいるという事を聞いていたのでもう少し変な人を想像してしまっていたのだけれど、見た目も爽やかな好青年といった感じで見方によっては学生に見えるかもしれない。
「これから僕がする質問は管理運営者としてではなく、一個人として好奇心で尋ねるのであんまり警戒しなくてもいいからね。それと、僕の隣にいる姉さんも今日は教師としてではなく僕の姉としてただ同席してもらっただけなんで気にしないでね。僕みたいなおじさんが君達みたいな若い女の子と会っているっていうのはお互いの印象も良くないだろうしね。ま、そんな事を考えているなら家の近くで会うなよって思うかもしれないけど、家から離れた誰も知らない場所で会っている方が何か人に言えない理由があるんじゃないかなって勘繰られるかもしれないからね。さて、単刀直入に聞くけど、君達って二人とも宮崎泉さんの事が嫌いだったのかな?」
泉の事を聞かれるとは思っていたけれど、世間話も何もなくストレートに聞かれるとは思っていなかったので驚いてしまった。あまりにも驚いたので何も言えずに愛莉の方を見てしまったのだけれど、愛莉は口を半開きにして瞬きを繰り返していた。
早坂先生はこのタイミングで運ばれてきたケーキを受け取ると、それぞれの前に並べてくれていた。ウチはそれにお礼を言ったのだけれど、なんとなく真っすぐ見つめてくる弟さんの視線が怖くて視線を逸らすことが出来なかった。もしも、視線を逸らしてしまったら何か悪い意味でとられてしまうような気がしていたからだ。
「ごめんごめん。いきなり変な事を言っちゃったね。僕は君達や姉さんと違って宮崎泉って人物がどんな人なのかわかってないんだよね。奥谷君って子に成りすまして何度がやり取りはしてたんで人間性は何となくわかっているんだけど、男に対する態度と女に対する態度が違う子って結構いるみたいだしね。宮崎さんがそうとは限らないけれど、君達が何か思うようなところはあったんじゃないかなって思って、ちょっと聞いてみたくなっただけなんだよね。別に僕は君たちの事を責めているわけでもないし、宮崎さんがなぜあんなことをしてしまったのか追求したいってわけでもないんだよ。何か人に言えないような事をされていたためそんな感情が芽生えてしまった、なんて事があるかもしれないなって思っただけだしね。でもさ、君達二人ってそんなに仲が良さそうなのに今まで誰にも気付かれなかったってのは凄いよね」
「本当にそうよね。私も弟から聞くまでは河野さんと山口さんが仲良しだなんて知らなかったからね。学校ではあえて接触を避けていたように見えるけど、それって宮崎さんに関係あったりするのかな?」
「えっと、ウチラが学校であんまり一緒にいなかったってのには泉は関係ないです。単純に秘密の関係ってのが良かったのと、女の子同士ってあんまりいないからどうしていいのかわからないっていうか、キモがられるんじゃないかなって思って黙ってました」
「今は多様性の時代だからそこまで気にすることも無いと思うんだけど、多感な思春期真っ只中のあなた達にしたら大きな問題かもしれないわね。中には変な風に思う人がいるかもしれないけど、私は自分の気持ちには素直になった方がいいと思うな」
「僕も姉さんと同じ意見だし、意外と女子同士で両想いになっている人はいるんだよ。もしかしたら、その好きって気持ちは友達の延長線上かもしれないし、片方が性別を偽って登録しているだけかもしれない。でも、みんながみんなそうとは限らないし、君達みたいに本当に思い合っている人たちもいると思うよ」
「私は別に他人にどう思われても気にしないんですけど、梓はやっぱりそうじゃなくて友達も大事にしたいって考えなんです。正直に言うと私は友達が大事って気持ちがわからないんですけど、その大事にしたいって梓の気持ちは分かるんです。比べることなのかわからないですけど、梓が私の事を思ってくれているように友達の事も思っているんだとしたら、どっちも大事にしてもらいたいなって思ってて、それで私も学校とかでは梓にあまり接触しないようにしているんです。それに、私しか知らない梓を知っているって優越感があるので他の人が梓と仲良くしてても大丈夫だと思うんです。でも、私は友達と呼べる人がいないし、話す相手も奥谷くらいしかいなかったから学校で梓と話せなくても今までと変わらなかったってのもあるんですよね」
「ごめんね。でも、ウチはもっと愛莉と話したい。学校でも気にせずに仲良く話したいって思ってるんだよ。だいぶ前に愛莉と亜紀が揉めた時も愛莉と話すチャンスかなって思ったんだけどさ、なかなか話しかけられなくて奥谷に話しかけちゃったもんね。あの時は周りが暴走しちゃって愛莉と亜紀が険悪な感じに思われてたけどさ、実際は愛莉と亜紀の誤解も解けてすぐに仲直りしてたもんね。それにしてもさ、亜紀の件であんなに亜梨沙が暴走するとは思わなかったよね」
「そうだよね。私も叩かれたのはびっくりしたけどそんなに痛くなかったから気にしてなかったし、あの後の話し合いですぐに解決できたもんね。西森も若林たちの暴走には困ってたみたいだし、今になって思うと一番の被害者は西森だったのかもしれないね」
「だよね。あの件で亜紀は親からもきつく言われたみたいだし、いまだに大人しくしてるもんね。前みたいに元気な亜紀に戻ってほしいんだけど、泉の件で地味にショックを受けちゃってるから立ち直るのも時間がかかりそうだよね」
「話をしてもらっているところ悪いんだけどさ、僕の姉さんも有紀なんだよね。あんまり“あき”“あき”って言われると僕の頭が混乱しちゃうんだよね」
「え、早坂先生ってアキって名前だったんですか?」
「そうだよ。ちゃんと一年生の時に自己紹介したと思うんだけど、河野さんはちゃんと先生の話を聞いていなかったのかな?」
「ごめんなさい。あの時は久しぶりに愛莉と一緒に過ごせると思って舞い上がってたんです」
そう、私はずっと離れていた愛莉と同じ学校で過ごせるという事を心から喜んでいたのだ。そして、同じクラスになったという奇跡に感謝していて、当時の私は誰の話もちゃんと聞いていなかったのだと思う。
愛莉は覚えていなかったかもしれないけれど、私はずっと愛莉の事を思って過ごしていたんだよ。
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