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第三話

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 僕と宮崎泉の関係は何とも言えぬ特殊なものだった。僕は奥谷信寛に成りすましているとはいえ、僕自身が宮崎泉とやり取りをしているのだが、宮崎泉は返信をくれる相手が奥谷信寛ではない全く赤の他人だという事に気が付いてはいない。そんな関係ではあったが、僕は今まで生きてきた中で一番充実した時間を送れているように思えた。
 今までも彼女がいた子とは何度かあったりはしたけれど、今のように僕に対して全面的に愛の感情を向けてくれる人はいなかったのだ。もっとも、その愛情は僕にではなく奥谷信寛に向けられているものではあるのだけれど、それはこの際どうでもいい些細な事でしかないのだ。

 いつものように僕は宮崎泉とのやり取りを楽しんでいたのだが、ここ数日は姉さんの様子がおかしかった。何か学校であったのだろうとは思っていたのだけれど、僕が話しかける前に自室に籠ってしまっているので何も聞くことは出来なかった。母さんに尋ねても理由はわからないらしいのだが、もしかしたらここ数日の間に学校で何か問題でもあったのではないかという結論にたどり着いた。それが当たっているかはわからないが、宮崎泉はいつも通りに僕とやり取りを続けてくれているのでそれほど深刻な問題ではないのかもしれない。いつものように他愛のないやり取りを続けていたのだけれど、その時は突然やってきたのだった。

「奥谷君はどうして私に返事を返してくれるの?」
「理由なんて必要かな?」
「必要ではないんだけど、どうしてなのかなって思っただけなんだよね」
「なんでだろうな。直接会って話すのは恥ずかしいけど、こうしてメッセージを送ることなら恥ずかしくないんだよね。宮崎は何か問題でもあるのかな?」
「私は特に何も無いんだけど、奥谷君は大丈夫なの?」
「俺は普通だけど。特に変わったことなんて無いよ」
「それならいいんだけどさ。奥谷君って本当に普段とこのメッセージだと印象が違うよね」
「宮崎だって多少は違うんじゃないかな。俺もこんなに話せるとは思ってなかったくらいだし」
「でもさ、私が前に奥谷君の事を好きだって言った時は全然リアクション取ってくれなかったよね。好きでも嫌いでもないんだなってその時は諦めたんだけど、今もそれは変わらないのかな?」
「どうだろうね。今はわからないかもしれなけれど、時間が経てば好きになるかもしれないとは思うよ」
「奥谷君ってさ、本当に優しいよね。でも、その優しさって本当に私に向けられたものって理解してもいいのかな?」
「どういう事?」
「だってさ、私は奥谷君の顔が全然見えないんだよ。今もこうしてやり取りは出来ているんだけどさ、奥谷君の顔が全然想像できないんだよね」
「そんな事もあるんだね。毎日学校で会ってるのに、そんな不思議な感覚になるってのは変な話だよな。俺は宮崎がどんな表情をしているのかわかる気がするよ」
「へえ、そうなんだね。でもさ、奥谷君って本当に学校にいる時と外では全然違うよね」
「そんなことあるのかな。どんなことがあっても俺は俺だし、それは変わらないと思うけどね」
「どうだろうな。奥谷君って意外な面をたくさん持っていると思うよ。高校に入ってからいきなり演劇を始めたり、甘いものが苦手だって言ってたのにケーキは食べてたし、他の男子と違って私の事はあまり見てくれなかったりするし、暴走族と喧嘩をしたりしてたし」
「ちょっと待ってくれよ。俺は房総族と喧嘩なんてしてないよ。一方的にやられただけだし」
「そうかもしれないけどさ、相手に復讐しようとしてたんでしょ?」
「そんな事はしないよ。そんな事をしてもいい事なんて何もないしね」
「それならいいんだけどさ。そうだ、私も奥谷君と同じ進路にしようかと思ってるんだけど、私の頭に合わせてくれるつもりはあるかな?」
「それは難しいかも。大学に進むつもりなら、自分のやりたいことをちゃんと見つけた方がいいよ。あれもこれもやってみたいって思っても、その環境が整っていないって事もあるからね」
「それってさ、遠回しに違う学校を受けろって言っているわけじゃないよね?」
「違うよ。そうじゃないって。ちゃんと自分が納得する形で決めた方がいいよってだけの話だよ」
「そうだよね。でも、私って何がやりたいのか全然思いつかないんだよね。これって、未来はないって事の暗示だったりして」
「そんなことは無いと思うよ。宮崎にはきっと明るい未来が待っていると思うよ」
「私に明るい未来なんてあるのかな?」
「きっとそうだと思うよ」
「なんでそう思ってくれるの?」
「だってさ、宮崎って可愛いからそう思うじゃないか」
「へえ、奥谷君が私の事を可愛いって思っててくれるんだ。意外だな」
「そうかな。みんな宮崎の事は可愛いって思ってると思うよ。そうじゃない方がおかしいんじゃないかなって思うだよね」
「うーん、そう言ってくれるのは嬉しいんだけどさ。もう一つ聞いてもいいかな?」
「なにかな?」
「あなたってさ、奥谷君じゃないよね?」
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