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第二部 二人だけの世界編
綺麗なお姉さんは好きですか?
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旅館に戻った僕たちは何か飲み物でも買ってから部屋に戻ることにした。小さな旅館なので売店などは無いし、田舎という事で商店なんかももちろん営業は終わっていた。僕たちはロビーの奥にある自動販売機コーナーに向かうと、そこにはよく見かける自動販売機が各種揃っていたのだが、その中に一つだけ見たことのない不思議な自動販売機が設置されてあった。
「ねえ、この自販機って見た事ないんだけど、まー君は見たことある?」
「いや、僕も見た事ないな。それにしても、これだけ異常に高いね。一本で千円とか高級品なのかな」
「ねえ、待って。よく見てみたら、これって全部お酒なのかもしれないよ。未成年は買えないって書いてあるからさ。それに、パッケージもよく見たらアルコールとかお酒って書いてあるもんね」
「本当だ。値段しか見てなかったから気が付かなかったけど、意外と大きくお酒って書いてあったね」
そんな感じで僕たちは楽しくジュースを選ぶことが出来た。一人三本ずつ買ったのは買いすぎかもしれないと思ったけど、夜中とか朝に喉が渇くこともあるだろうし、開けなければ持ち歩くことも出来るから買い過ぎたとしても問題ないだろう。
僕たちと入れ違う形で三人の女性が自動販売機コーナーへやってきたのだが、みさきとは違う化粧の匂いが少しだけ鼻についた。ただ、それほど不快な臭いではなかったので気にはならなかった。
「ちょっと、さっき飲んだのと同じの売ってないじゃない。あのワイン美味しかったのに別のしかないんだけど」
「あるので我慢しなさいよ。どうせ味なんてわからないんだから何飲んでも一緒よ」
「何よ。私が酔ってるからお酒の味がわからないって言うわけ」
「そうよ。良美は最終的にはアルコールが入ってなくても気にしないで飲んでるじゃない」
「それはそうだけどさ、確かにそうだよ。じゃあ、ここにあるやつでいいか」
「そうそう、それにしなさい。あんたは弱いくせにたくさん飲もうとするんだから、このぶどうジュースも買っておくからね」
「ジュースなんて嫌。こっちのワインが良いの」
「ワインがいいって、あんたはどうせ一本飲みきれないで残しちゃうんだから、安いジュースの方にしときなさい」
「飲み切れないって、実際そうだから愛ちゃんの言う通りにしとく。残したら一緒に飲んでね」
「私はワイン飲めないからジュースならいいわよ」
「ありがとう。あれ、あそこでこっちを見てるカップルって、食堂にいた若い子たちじゃない?」
「そうね。あの二人は初々しい感じがして見てて幸せな気持ちになれたわね」
「そうだ、あの二人も誘って一緒に飲もうよ。せっかくこんな田舎まで来たんだから仲良くなるしかないでしょ」
「誘ってみるか。じゃあ、久子が声かけてきなさいよ」
「なんで私なのよ。良美も愛も自分たちがしたいことを私に押し付けるのやめてよね。あんた達って人見知りのくせに他の人と話したがるのって迷惑だよ。たぶん、あの二人だって迷惑だと思うだろうし、あんたたちの思い付きでいっつも私が迷惑してるってのも自覚してよね。とりあえず、断られると思うけど聞いてくるからね」
僕とみさきはあの高い自動販売機から何が出てくるのか気になって見ていたのだけれど、そうせずにまっすぐ帰らなかったことでこの人たちに話しかけられることになるとは思っても見なかった。
お酒が入っていると人は声が大きくなるのだと以前から知ってはいたのだけれど、あの三人は僕が普通に思っていたよりも大きい声で会話していたのでこちらまで丸わかりだったのだ。なので、その中で久子と呼ばれていた人が僕たちに話しかけに来ることはわかっていた。僕は部屋に戻ってゆっくりしたかったので断ろうと思っている。お姉さんたちも断られることを前提にしていたようなので、断ったとしても角は立たないだろう。何より、お互いに住んでいる場所も知らないような間柄なので断ったとしても気にする必要はないのだ。
「いきなり話しかけてごめんね。私の友人がさ、あなた達みたいに若くてかわいいカップルとお話ししたいって言ってるんだけど少しだけ付き合ってもらってもいいかな。もちろん、お酒はこっちで買うしおつまみとかもかってあるからさ。少しだけでも付き合ってもらえないかな?」
「あ、それは」
「いいですよ。でも、部屋に男の人がいるとかってないですよね?」
「うん、私達は女三人旅なんだよね。あっちでお酒を買ってる二人が同じような時期に失恋しちゃってさ、その傷心旅行に付き合わされちゃってるってわけ。私は失恋なんてしないから純粋に温泉と料理を楽しみたかっただけなんだけどね。それなのに、あの二人がお酒飲んじゃったからまだ温泉に一回しか入ってないんだよね」
僕はお姉さんたちの話を断ろうと思っていたのだけれど、僕が断る前にみさきがその話に乗ってしまったのだ。どうして断らないんだろうと思っていると、みさきは僕の耳元で優しく囁いた。
「大人の女性の話を聞ける体験ってあんまりないからちょっとだけ話を聞いてもいいかな?」
僕にはわからないみさきの考えがあるのだろう。もしかしたら、このお姉さんたちと話すことでみさきの恐怖心を取り除くヒントがあるのかもしれないと思ったのだが、向こうでお酒を買い込んでいるお姉さんたちを見るとそんな事はないだろうと思えて仕方なかった。
「じゃあ、私達の部屋に招待するけど、何か飲みたいものあったら買うよ」
「あ、僕たちは自分の分を買ってあるんで大丈夫です」
「大丈夫って、それお酒じゃないけど?」
「僕たちは未成年なんでお酒飲めないんですよ」
「え、そうなの?」
「はい、未成年です」
「そうだったんだ。それは若く見えるはずだわ」
酔っている二人はみさきがお気に入りのようで、二人に囲まれたみさきは僕たちの前を歩いていた。みさきのお姉ちゃんとは違う積極さで絡んでいるのだけれど、みさきはそれをあまり嫌がっている様子でもなかったので少しだけ安心した。
それにしても、三人ともみさきに比べると胸が大きいように見えた。もしかしたら、みさきはこの三人のお姉さんから胸を大きくする秘訣を聞こうとしているのではないだろうか。そんな事を考えていたのだけれど、それはきっと僕の思い過ごしなんだろうな。
案内されてお姉さんたちの部屋に入ったのだが、僕の想像に反してお酒の空き缶や空き瓶は散乱していなかった。むしろ、飲み終わったお酒は部屋の隅に綺麗にまとめられていたのが印象的だった。もちろん、着替えなんかも綺麗にしまってあるようだし、一見するとチェックインしたばかりのようにも見えたのだった。
「あなた達の部屋にお邪魔するわけにもいかないから私達の部屋って事でごめんね。じゃあ、自己紹介をしないというのも何なので先に私達から自己紹介をします。私は山下愛です。苫小牧で事務員をしてます。最近婚約者に浮気をされて婚約破棄されました。今は彼氏募集してないけど、この傷が癒えたら紹介お願いします」
「じゃあ、次は私ね。私は川辺良美。苫小牧でアパレル関係の仕事をしています。私も彼氏に浮気されて振られました。しばらく恋愛はいいかなって思ってるんだけど、出来ることなら三十路になる前に結婚したいとは思ってます」
「二人とも重いって。初対面の相手にそんな重いこと言わないでよね。じゃあ、私は佐藤久子です。住んでるのは苫小牧なんだけど職場は千歳空港だね。あんまり表に出る仕事じゃないんで出会いとかは無いんだけど、この二人と違って結婚してます」
「ちょっと久子、結婚マウントやめてよね」
「そうよ。あんたは家事も出来て気配りも凄いし素敵な旦那さんがいるのも当然だと思うけど、今だけはそれを忘れなさいよ。私達は久子がいい子だって事は忘れないけどね」
「はいはい、酔っ払いの戯言はききたくないんで、二人も軽く自己紹介してもらっていいかな?」
「はい、私は佐藤みさきです。こっちは彼氏の前田正樹君です。高校生です」
「高校生なんだ。大学生かと思ってたわ。いや、大学生にしては若すぎるなと思ってたんだけど、高校生だったなんて気が付かなかったわ。それじゃあ、お酒は飲めないね」
「はい、飲めないです。飲んだことないんでわからないけど、私はきっと飲まない方がいいと思ってます」
「え、なんで?」
「お酒って、飲むと抑えてる自分の本性が出てくるって言うじゃないですか。そうなっちゃうと、私は自分の気持ちが抑えられなくなっちゃうと思うんですよね」
「へえ、抑えてる本性って何?」
「えっとですね。私がまー君を大好きだっていう気持ちですね。今よりももっと積極的になっちゃうんじゃないかなって思うと、恐くて飲めないです」
「そっか、ラブラブな二人なんだね。でもさ、ここの旅館って結構高いじゃない。そんな高い旅館に二人で泊まれるなんて、もしかして、二人の家ってお金持ちだったりするの?」
「全然そんな事ないですよ。たぶん普通だと思います。みさきがとある事件に巻き込まれてしまいまして、それで負った心の傷を癒すことが出来るんじゃないかって病院の先生が勧めてくれたのがここだったんですよ」
「勧めてくれたにしてもさ、そんなに気軽に来られるような場所じゃないと思うんだけどな」
「確かに、バスを降りてからあんなに歩くとは思ってなかったですよ。歩いても五分くらいかなって思ってましたもん」
「いや、そういう意味じゃなくてね。金銭的な面でさ」
「あ、それなら大丈夫なんですよ。僕もみさきも巻き込まれた事件でもらった慰謝料がありまして、それを使ってみさきの心のケアをしてますので」
「もしかして、事件って比喩表現ではなくてガチのやつなの?」
「割と重い感じですね。みさきが男に襲われそうになったんですけど、それを僕が阻止したって話なんですけどね」
「そうなんです。私はあの時に恐くて何も出来なかったんですけど、まー君が私を守ってくれて助かりました。でも、その時の恐怖が頭から離れなくて、知らない男性を見るとちょっと怖くなっちゃうんですよね」
「そうだったんだ。怖い事思い出させてごめんね。それにしてもさ、体を張って守ってくれるなんていい彼氏だよね。私の旦那も守ってはくれると思うけど、どっちかって言うと一緒に逃げ出しちゃう感じかもな」
「私も逃げられるなら逃げた方がまー君に危害が及ばなかったと思うんですけど、相手の人が持ってた包丁が怖くて動けなかったんですよ」
「え、包丁を持ってたやつと戦ったってこと?」
「それってガチでヤバいやつじゃん」
「君って凄いね。私の旦那だったら包丁を持ってる相手に立ち向かったりしないわ。絶対に逃げてるね」
「僕も最初は何が起こったのかわからなかったんですけど、みさきが動けないみたいだったんでやるしかないなって思ったんだと思います。正直に言っちゃうと、その時の記憶ってあんまりないですよね。たぶん、みさきを守ろうって気持ちだけで一杯だったんだと思います」
「いや、それにしても凄いわ。お姉さんは感心しちゃったよ。よし、お姉さんのおっぱいを揉んでもいいよ」
「そうね。愛ちゃんのだけじゃなくて私のも揉んでいいわよ」
「ちょっと、愛も良美もやめなさいって。二人とも困ってるじゃない」
「いえ、そう言うのは大丈夫ですから。僕にはみさきがいるんで、申し訳ないですけど二人の胸を揉むことは出来ないです」
「ねえ、この自販機って見た事ないんだけど、まー君は見たことある?」
「いや、僕も見た事ないな。それにしても、これだけ異常に高いね。一本で千円とか高級品なのかな」
「ねえ、待って。よく見てみたら、これって全部お酒なのかもしれないよ。未成年は買えないって書いてあるからさ。それに、パッケージもよく見たらアルコールとかお酒って書いてあるもんね」
「本当だ。値段しか見てなかったから気が付かなかったけど、意外と大きくお酒って書いてあったね」
そんな感じで僕たちは楽しくジュースを選ぶことが出来た。一人三本ずつ買ったのは買いすぎかもしれないと思ったけど、夜中とか朝に喉が渇くこともあるだろうし、開けなければ持ち歩くことも出来るから買い過ぎたとしても問題ないだろう。
僕たちと入れ違う形で三人の女性が自動販売機コーナーへやってきたのだが、みさきとは違う化粧の匂いが少しだけ鼻についた。ただ、それほど不快な臭いではなかったので気にはならなかった。
「ちょっと、さっき飲んだのと同じの売ってないじゃない。あのワイン美味しかったのに別のしかないんだけど」
「あるので我慢しなさいよ。どうせ味なんてわからないんだから何飲んでも一緒よ」
「何よ。私が酔ってるからお酒の味がわからないって言うわけ」
「そうよ。良美は最終的にはアルコールが入ってなくても気にしないで飲んでるじゃない」
「それはそうだけどさ、確かにそうだよ。じゃあ、ここにあるやつでいいか」
「そうそう、それにしなさい。あんたは弱いくせにたくさん飲もうとするんだから、このぶどうジュースも買っておくからね」
「ジュースなんて嫌。こっちのワインが良いの」
「ワインがいいって、あんたはどうせ一本飲みきれないで残しちゃうんだから、安いジュースの方にしときなさい」
「飲み切れないって、実際そうだから愛ちゃんの言う通りにしとく。残したら一緒に飲んでね」
「私はワイン飲めないからジュースならいいわよ」
「ありがとう。あれ、あそこでこっちを見てるカップルって、食堂にいた若い子たちじゃない?」
「そうね。あの二人は初々しい感じがして見てて幸せな気持ちになれたわね」
「そうだ、あの二人も誘って一緒に飲もうよ。せっかくこんな田舎まで来たんだから仲良くなるしかないでしょ」
「誘ってみるか。じゃあ、久子が声かけてきなさいよ」
「なんで私なのよ。良美も愛も自分たちがしたいことを私に押し付けるのやめてよね。あんた達って人見知りのくせに他の人と話したがるのって迷惑だよ。たぶん、あの二人だって迷惑だと思うだろうし、あんたたちの思い付きでいっつも私が迷惑してるってのも自覚してよね。とりあえず、断られると思うけど聞いてくるからね」
僕とみさきはあの高い自動販売機から何が出てくるのか気になって見ていたのだけれど、そうせずにまっすぐ帰らなかったことでこの人たちに話しかけられることになるとは思っても見なかった。
お酒が入っていると人は声が大きくなるのだと以前から知ってはいたのだけれど、あの三人は僕が普通に思っていたよりも大きい声で会話していたのでこちらまで丸わかりだったのだ。なので、その中で久子と呼ばれていた人が僕たちに話しかけに来ることはわかっていた。僕は部屋に戻ってゆっくりしたかったので断ろうと思っている。お姉さんたちも断られることを前提にしていたようなので、断ったとしても角は立たないだろう。何より、お互いに住んでいる場所も知らないような間柄なので断ったとしても気にする必要はないのだ。
「いきなり話しかけてごめんね。私の友人がさ、あなた達みたいに若くてかわいいカップルとお話ししたいって言ってるんだけど少しだけ付き合ってもらってもいいかな。もちろん、お酒はこっちで買うしおつまみとかもかってあるからさ。少しだけでも付き合ってもらえないかな?」
「あ、それは」
「いいですよ。でも、部屋に男の人がいるとかってないですよね?」
「うん、私達は女三人旅なんだよね。あっちでお酒を買ってる二人が同じような時期に失恋しちゃってさ、その傷心旅行に付き合わされちゃってるってわけ。私は失恋なんてしないから純粋に温泉と料理を楽しみたかっただけなんだけどね。それなのに、あの二人がお酒飲んじゃったからまだ温泉に一回しか入ってないんだよね」
僕はお姉さんたちの話を断ろうと思っていたのだけれど、僕が断る前にみさきがその話に乗ってしまったのだ。どうして断らないんだろうと思っていると、みさきは僕の耳元で優しく囁いた。
「大人の女性の話を聞ける体験ってあんまりないからちょっとだけ話を聞いてもいいかな?」
僕にはわからないみさきの考えがあるのだろう。もしかしたら、このお姉さんたちと話すことでみさきの恐怖心を取り除くヒントがあるのかもしれないと思ったのだが、向こうでお酒を買い込んでいるお姉さんたちを見るとそんな事はないだろうと思えて仕方なかった。
「じゃあ、私達の部屋に招待するけど、何か飲みたいものあったら買うよ」
「あ、僕たちは自分の分を買ってあるんで大丈夫です」
「大丈夫って、それお酒じゃないけど?」
「僕たちは未成年なんでお酒飲めないんですよ」
「え、そうなの?」
「はい、未成年です」
「そうだったんだ。それは若く見えるはずだわ」
酔っている二人はみさきがお気に入りのようで、二人に囲まれたみさきは僕たちの前を歩いていた。みさきのお姉ちゃんとは違う積極さで絡んでいるのだけれど、みさきはそれをあまり嫌がっている様子でもなかったので少しだけ安心した。
それにしても、三人ともみさきに比べると胸が大きいように見えた。もしかしたら、みさきはこの三人のお姉さんから胸を大きくする秘訣を聞こうとしているのではないだろうか。そんな事を考えていたのだけれど、それはきっと僕の思い過ごしなんだろうな。
案内されてお姉さんたちの部屋に入ったのだが、僕の想像に反してお酒の空き缶や空き瓶は散乱していなかった。むしろ、飲み終わったお酒は部屋の隅に綺麗にまとめられていたのが印象的だった。もちろん、着替えなんかも綺麗にしまってあるようだし、一見するとチェックインしたばかりのようにも見えたのだった。
「あなた達の部屋にお邪魔するわけにもいかないから私達の部屋って事でごめんね。じゃあ、自己紹介をしないというのも何なので先に私達から自己紹介をします。私は山下愛です。苫小牧で事務員をしてます。最近婚約者に浮気をされて婚約破棄されました。今は彼氏募集してないけど、この傷が癒えたら紹介お願いします」
「じゃあ、次は私ね。私は川辺良美。苫小牧でアパレル関係の仕事をしています。私も彼氏に浮気されて振られました。しばらく恋愛はいいかなって思ってるんだけど、出来ることなら三十路になる前に結婚したいとは思ってます」
「二人とも重いって。初対面の相手にそんな重いこと言わないでよね。じゃあ、私は佐藤久子です。住んでるのは苫小牧なんだけど職場は千歳空港だね。あんまり表に出る仕事じゃないんで出会いとかは無いんだけど、この二人と違って結婚してます」
「ちょっと久子、結婚マウントやめてよね」
「そうよ。あんたは家事も出来て気配りも凄いし素敵な旦那さんがいるのも当然だと思うけど、今だけはそれを忘れなさいよ。私達は久子がいい子だって事は忘れないけどね」
「はいはい、酔っ払いの戯言はききたくないんで、二人も軽く自己紹介してもらっていいかな?」
「はい、私は佐藤みさきです。こっちは彼氏の前田正樹君です。高校生です」
「高校生なんだ。大学生かと思ってたわ。いや、大学生にしては若すぎるなと思ってたんだけど、高校生だったなんて気が付かなかったわ。それじゃあ、お酒は飲めないね」
「はい、飲めないです。飲んだことないんでわからないけど、私はきっと飲まない方がいいと思ってます」
「え、なんで?」
「お酒って、飲むと抑えてる自分の本性が出てくるって言うじゃないですか。そうなっちゃうと、私は自分の気持ちが抑えられなくなっちゃうと思うんですよね」
「へえ、抑えてる本性って何?」
「えっとですね。私がまー君を大好きだっていう気持ちですね。今よりももっと積極的になっちゃうんじゃないかなって思うと、恐くて飲めないです」
「そっか、ラブラブな二人なんだね。でもさ、ここの旅館って結構高いじゃない。そんな高い旅館に二人で泊まれるなんて、もしかして、二人の家ってお金持ちだったりするの?」
「全然そんな事ないですよ。たぶん普通だと思います。みさきがとある事件に巻き込まれてしまいまして、それで負った心の傷を癒すことが出来るんじゃないかって病院の先生が勧めてくれたのがここだったんですよ」
「勧めてくれたにしてもさ、そんなに気軽に来られるような場所じゃないと思うんだけどな」
「確かに、バスを降りてからあんなに歩くとは思ってなかったですよ。歩いても五分くらいかなって思ってましたもん」
「いや、そういう意味じゃなくてね。金銭的な面でさ」
「あ、それなら大丈夫なんですよ。僕もみさきも巻き込まれた事件でもらった慰謝料がありまして、それを使ってみさきの心のケアをしてますので」
「もしかして、事件って比喩表現ではなくてガチのやつなの?」
「割と重い感じですね。みさきが男に襲われそうになったんですけど、それを僕が阻止したって話なんですけどね」
「そうなんです。私はあの時に恐くて何も出来なかったんですけど、まー君が私を守ってくれて助かりました。でも、その時の恐怖が頭から離れなくて、知らない男性を見るとちょっと怖くなっちゃうんですよね」
「そうだったんだ。怖い事思い出させてごめんね。それにしてもさ、体を張って守ってくれるなんていい彼氏だよね。私の旦那も守ってはくれると思うけど、どっちかって言うと一緒に逃げ出しちゃう感じかもな」
「私も逃げられるなら逃げた方がまー君に危害が及ばなかったと思うんですけど、相手の人が持ってた包丁が怖くて動けなかったんですよ」
「え、包丁を持ってたやつと戦ったってこと?」
「それってガチでヤバいやつじゃん」
「君って凄いね。私の旦那だったら包丁を持ってる相手に立ち向かったりしないわ。絶対に逃げてるね」
「僕も最初は何が起こったのかわからなかったんですけど、みさきが動けないみたいだったんでやるしかないなって思ったんだと思います。正直に言っちゃうと、その時の記憶ってあんまりないですよね。たぶん、みさきを守ろうって気持ちだけで一杯だったんだと思います」
「いや、それにしても凄いわ。お姉さんは感心しちゃったよ。よし、お姉さんのおっぱいを揉んでもいいよ」
「そうね。愛ちゃんのだけじゃなくて私のも揉んでいいわよ」
「ちょっと、愛も良美もやめなさいって。二人とも困ってるじゃない」
「いえ、そう言うのは大丈夫ですから。僕にはみさきがいるんで、申し訳ないですけど二人の胸を揉むことは出来ないです」
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