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第一部 日常生活編

花咲撫子 その三

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 私は目の前にいるこの女が動揺するところを見てみたかった。それだけの理由で実際には無かったことを言ってやろうと思ったのだけれど、この女は私が想定していたよりも勘が鋭いみたいだった。私が言っている事を信じていないように感じていた。

「前田先輩がお姉ちゃんと何を話しているか気になったりしないんですか?」
「気にならないと言えば嘘になるけど、今はそれよりもあなたの事が気になるのよね。何となくだけど、あなたって私に似ている気がするのよ」
「それって見た目ですか?」
「それはどうだろうね。私はあなたみたいな外見は好きだけど、その年でそこまでばっちりメイクしなくてもいいんじゃないかなって思うけどね。今はわからないかもしれないけど、そのうちそう思うようになるんじゃないかな。それに、顔が可愛いわりには貧相な体つきよね」
「顔の事を褒めてくれるのはありがたいとは思うけど、体が貧相ってどういう意味ですか?」
「見たまんまの事じゃない。どう見てもこの辺りにボリューム感が無いのよね。顔が可愛い子ってそういう運命なのかな?」
「もしかして、私の事をバカにしてますか?」
「そんなことは無いけどさ、ちょっとかわいそうになるくらい小さいなって思っちゃっただけだよ。そう言うところも可愛らしいって思うけど、もしかして、気にしてたのかな?」
「はああ、あんただって人に言えるくらい立派なものもってないじゃん。比べてみてもそんなに変わらないだろ。そんなんでマウントとってんじゃねえよ」
「まあまあ、そんなにムキにならなくてもいいんだよ。あなたがどう思おうが事実は変わらないんだし、あなたよりも私の方が良いモノを持っているってことだからね」
「何くだらない事を言っているんだよ。私とあんたがそんなに変わるとは思えないけど、何言ってんのかな。それに、私より年上ってだけでそんな事言ってるのってむなしくならないですか?」
「むなしくなるってどういうことなのかな?」
「あんたみたいな貧相なものを見た時に前田先輩はどう思うのかなって事よ」
「え、まー君がどう思うかって?」
「そうよ、前田先輩は小さいより大きい方がいいんじゃないかって思うんじゃないかって事よ」
「私の友達に馬鹿みたいに大きい胸の子がいるんだけど、それを見ても興味は無かったみたいだし、むしろ邪魔者を見るような目で見ていたと思うよ」
「あ、それはわかるかも。うちの学校にも胸が大きいだけでトロイやつがいるんだけど、胸が大きいってだけで男子に人気があったりするんだよね。胸が大きいだけで他にとりえなんてないくせに、胸が大きいだけで男子に優しくしてもらえるってどうなんだろうね。胸が大きいだけのごみくずのくせにさ」
「そういう子って自分の胸が大きいのをわかっててアピールするんだよね。本人は無自覚ですよって装ってさ」
「そうそう、それでいて、何かあった時はその無駄に大きい胸を揺らしながら駆け寄ってくるんだから頭がおかしいんじゃ無いかって思うんだよね。胸が大きいだけの無能なくせにさ」
「でもさ、悪気は無いにしても、胸を押し付けてくるのはやめて欲しいよね。その度に劣等感を感じなきゃいけないし」
「いや、そんな場面は無いでしょ。胸を押し付けてくるなんて頭がおかしいだけでしょ」
「そうなんだけどさ、私の知っている子は何故か私にベタベタしてくるんだよね。それでいて、まー君の事を敵視してたみたいなんだよ」
「それって、その人があんたの事を好きなんじゃないの?」
「ええ、女の子同士で好きとかないでしょ。そんなのって普通じゃないよ」
「何言ってんのよ。今時そんなのって普通よ普通。好きになる相手に性別とか関係ないし、あんたの人間性が好きだってことでしょ。それって、相手の体を求めているよりも素敵な事だと思うけどな。でも、私は普通に男の子の方が好きだと思うよ。好きになった相手ってまだいないけどさ。私に釣り合う男子ってなかなか見つからないだろうしね」
「そうなのかな。私の事は好きだと思うけど、そう言う恋愛的な意味ではないと思うんだよね。それならそれでいいんだけど、私はずっと変わらずにまー君の事を愛しているし」
「付き合いたてのカップル特有の一生愛しています宣言ですか?」
「そんなんじゃないよ。例え、死んで生まれ変わったとしてもその気持ちは変わらないよ。違う世界に飛ばされたとしたって、絶対にまー君の事を探し出すって決めてるからね」
「そこまでは気持ち悪いですよ。なんだか、少しだけあんたと仲良くなれそうな感じがしたけど、やっぱり気のせいだわ。前田先輩もあんたみたいな貧相な体つきの女子と付き合っているのに私に好意を向けてくれないのって何なんだろう?」
「単純に性格とかじゃない?」
「初対面のあんたが私の性格が悪いとかって言うわけ?」
「いや、見ていたら性格は良くないってわかるじゃない。私にわかるくらいなんだからまー君はとっくの昔に見抜いているでしょ。あなたのお姉ちゃんも迷惑そうにしていたしね」
「お姉ちゃんが私の事を迷惑に思うわけないじゃない。今までだってこれからだってずっとお姉ちゃんは私のためにだけ動いてくれるのよ。それはずっと変わらないのよ。私が死ぬまでお姉ちゃんは私のために何でもしてくれるんだからね」
「そんなわけないでしょ。それよりも、あなたが言ってたまー君の話をそろそろ聞かせてもらってもいいかな?」
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