上 下
70 / 108
第一部 日常生活編

花咲撫子と佐藤みさき

しおりを挟む
 先輩の事を話してと言われても、私が知っているのは先輩が家に遊びに来ていた時の事だけかもしれない。
 それをそのまま伝えてもいいんだけど、そのまま伝えるよりも少し誇張して伝えた方がこの人は喜んでくれるんじゃないかな。それに、その方が面白いことになりそうだしね。私を怒らせると自分が酷い目に合うって教えてあげないとね。少し落ち着いてちゃんと教えてあげることにしないとな。

「そうですね。私が知っていてあなたが知らないことと言えば、先輩が家に遊びに来ていたってことくらいですかね。私はあんまりゲームが得意じゃないので見ていることが多かったですけど、先輩とお姉ちゃんは楽しそうに遊んでましたよ」
「それってさ、まー君がこの家に遊びに来てたってことで良いんだよね?」
「そうですよ。先輩が月に何度か遊びに来てましたね。お姉ちゃんと一緒にゲームやったりしてましたよ」
「ゲームって戦うやつ?」
「そう言うのもやっていたと思いますけど、どっちかっていうと謎を解くみたいなやつでしたね。二人で話し合いながらやってましたよ。横で見てても仲がよさそうで羨ましいなって思ったくらいですもん」
「そっか、でもまー君ならそういうとこあるかもしれないね。あなたはそれをずっと横で見ていたのかな?」
「そうですけど、それがどうかしたんですか?」
「いや、ずっと見てるのってストーカーっぽいなって思っただけだよ」
「はああ? 撫子がストーカーなわけないでしょ。どっちかって言えば物陰から監視しているあんたの方がストーカーだし、変なこと言わないでくれる。撫子がストーキングされることがあったとしても、撫子がストーキングするわけないじゃない。大体、撫子みたいにかわいい子が言い寄ってきたらどんな男だって断るわけないでしょ。変な事を言わないでよね」
「ごめんごめん、まー君の誰も知らない秘密を教えてくれるのかと思ってたからさ。教えてくれたのが全然普通の事だったからびっくりしただけだよ。一緒にゲームするのなんて普通の事だし、ずっと見てたってことは二人っきりになったことが無いって事だもんね。それに、あの二人を見た感じだと久しぶりにあった元恋人って感じでもなかったからさ。不安な事は少しでもなくしたかったんだけど、私が思っているようなことが無かったみたいで安心したよ。過去の事はどうでもいいっちゃどうでもいいんだけど、子供のあなたはそれがわからないのかもしれないね」

 なんだか私が思っていたのと反応が違うんですけど。
 このストーカー女は私の事を何だと思っているんだろう。

「それにさ。まー君の反応を見てて思ったんだけど、あなたってまー君に相手してもらってなかったでしょ?」

 私はこの女の言葉で完全に思考が止まってしまった。
 私が先輩を始めてみたのは小学生の時で、学校帰りにお姉ちゃんを見かけて近寄った時に先輩が近くにいたのだった。
 私は当時から男が自分のために行動してくれるというのを知っていたので、知らない人だったけどお姉ちゃんの知り合いだったみたいなんで挨拶をすることにしたのだ。
 先輩は私と目が合っていたのだけれど、他の男子みたいな反応をしてくれることは無く、すぐにお姉ちゃんとの会話に戻ってしまった。
 私はその時に生まれて初めて男に無視されたんだと思う。それが深く心に突き刺さってしまっていた。

 それからも、私は先輩を見かけるたびに何度も何度も挨拶をしたり会話をしようとしていたのだ。他の男子にはそんな事はしたりしない。向こうから勝手にやってくるからだ。たまにいる引っ込み思案な男にはこちらから挨拶をしたりして見るけど、その時はみんな嬉しそうな顔でちゃんと反応してくれている。
 でも、先輩は私の事が目に入っていないのか、他の女子に対する態度と何も違いが無いのだ。それが私には納得できなかった。
 何より、私よりもお姉ちゃんと仲良くしていることが私の気持ちを掻き乱した。

「あなたってさ。まー君の事が好きなんじゃないの?」
「そんなわけないでしょ。私を好きになる人がいたとしても私が好きになることなんてないと思うんだけど」
「そんな強がり言わなくていいんだよ。でもね、昔はどうだったか知らないけれど、今は私がまー君の彼女だからね」
「だから、そんなんじゃないって。私が先輩を好きだって決めつけるのやめてもらってもいいかな」
「いやいや。そんなに強がらなくてもいいんだって。今は私の彼氏であって、あなたのお姉ちゃんの彼氏じゃないんだよ」
「はあ? 先輩があなたの彼氏だってのは良いとして、お姉ちゃんと先輩が付き合ってたことなんてないと思うんですけど。何も知らないのに変なこと言わないでもらえますか?」
「ごめんね。あなたがまー君の事を凄く凄く気にしているみたいだからからかっちゃった。子供って単純で良いわよね」

 お姉ちゃんが先輩と付き合っていた事実なんてないと思うし、付き合っていたとしてもキスだってしていないと思う。
 ドラマや漫画みたいなときめくようなことは何も無かったと思うんだけど、そう言うのだけじゃない関係だったって言われたら、ずっと一緒にいてなんでも私のためにしてくれていたお姉ちゃんが私を裏切ったってことになるんじゃないかな?

 撫子は、そんな事って良くないと思うな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

見知らぬ男に監禁されています

月鳴
恋愛
悪夢はある日突然訪れた。どこにでもいるような普通の女子大生だった私は、見知らぬ男に攫われ、その日から人生が一転する。 ――どうしてこんなことになったのだろう。その問いに答えるものは誰もいない。 メリバ風味のバッドエンドです。 2023.3.31 ifストーリー追加

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!

高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

ヤンデレ幼馴染が帰ってきたので大人しく溺愛されます

下菊みこと
恋愛
私はブーゼ・ターフェルルンデ。侯爵令嬢。公爵令息で幼馴染、婚約者のベゼッセンハイト・ザンクトゥアーリウムにうっとおしいほど溺愛されています。ここ数年はハイトが留学に行ってくれていたのでやっと離れられて落ち着いていたのですが、とうとうハイトが帰ってきてしまいました。まあ、仕方がないので大人しく溺愛されておきます。

処理中です...