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第一部 日常生活編
近所の喫茶店 前田正樹の場合
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みさきのお弁当を食べて教室に戻る時に誘われた喫茶店にきているのだけど、田中と守屋さんも一緒にいるのはどうしてなのだろう。みさきが誘ってくれたのは俺だけだと思っていたんだけど、どういうわけか田中が付いてくることになっていて、守屋さんも流れで一緒に来ることになっていたような気がする。
みさきが小さい時から通っているらしいのだけれど、この雰囲気はどこか落ち着くしコーヒーの良い匂いもリラックス効果がありそうだ。こんな感じの店に通っているとしたら、みさきのように落ち着いた淑女になるのも納得出来るような気がした。
俺の横に座っている田中は雰囲気に圧倒されているのか落ち着かない様子で、周りをキョロキョロと見ているようだった。
「なあ、この店って凄いな」
「ああ、こんな落ち着ける場所がこの街にもあったんだな」
「バカ、そうじゃないって。見てみろよ、ここの店員は二人とも美人で胸が大きいぞ」
以前から思っていたのだけれど、田中は女性の胸の大きさで価値を図るタイプの人間らしい。目の前にいる守屋さんも大きい方だと思うけれど、田中は相手にされていないのがわかっているようで、守屋さんの事について言及することは無くなっていた。みさきは、控えめな性格と胸なので田中の目には止まらないようで、その点は俺も安心しているのだ。
田中の頭の中身は小学生で止まっているようなんだけど、普通の男子高校生だとこんな反応をするのかと思ってみたりもした。ただ、俺は女性の胸に特別な感情を持っていないので、それが普通なのかは判断できないでいる。判断したところでみさきの胸が大きくなるわけでもないし、俺にとって意味のある事ではないのだけれど。
頭の悪い田中の言動を無視してみさきを見ていると、守屋さんと楽しそうに話しているので俺も嬉しくなってしまった。俺と話すときと守屋さんと話すときは若干ではあるけれど、眉の角度が違うような気がしていた。今は正面から見ているわけではないので気のせいかもしれないけれど、今まで観察してきた中では俺と守屋さん以外でみさきの眉の角度が変わったのは、みさきのお姉さんと話している時だけだと思う。愛華先輩と話すときでもみさきの眉の角度は変化していなかった。
「なあ、ここのお姉さん達ってすっごい美人で胸大きいのな。俺もここに通おうかな」
「そんな金があるんなら自由にしていいんじゃないか」
「おいおい、あんまり冷たい事言うなよ。お前だって少しは興味あるんだろ?」
「あのな、俺はみさきにしか興味ないって言ってるだろ。お前は俺達の仲を引き裂きたいのか?」
「そういうんじゃなくて、男として純粋に聞いてみただけだって」
「はあ、ホント田中君ってデリカシーの無い最低男だよね」
俺も守屋さんの意見に同意しているんだけど、ここで口に出したら田中が面倒くさい事を言いそうなので、守屋さんに全てお任せしようと思う。でも、田中が俺とみさきの仲を裂くための質問だとしたら、俺は田中の嫌がる事をいくつか実行してしまうかもしれないな。
「あらあら、みさきちゃんがお友達と来てると思ったら恋人がいるのね。小さい時から知ってるからお姉さんも嬉しいな」
「はい、今度来るときはまー君と二人で来ます」
「あら、まー君って言うのね。えっと、私の胸を見ていないこっちの子かな?」
「そうです。そっちの人はまー君の友達だと思います」
接客をしてくれているお姉さんを見ているのは俺も同じだと思うんだけど、横を見た時の田中の視線は顔よりも低い位置だった。これは女子じゃなくても胸ばかり見ているのがわかる例だと思う。大きい胸ってそんなにいいものなのだろうか?
「田中君って私の事も顔より先に胸を見るよね?」
「そんなこと無いだろ、って言いたいけど、お前のその胸は大きすぎるんだよ」
「何言ってんのよ。愛華先輩の方が大きいって」
「そんなの知らねえよ。大体、愛華先輩を紹介してもらおうと思っても前田は嫌がるし、どうしたら俺にも彼女が出来るんだよ」
「その性格を直した方がいいんじゃないか?」
正直田中に彼女が出来ようが彼氏が出来ようが興味は無いのだけれど、流れで思っていた事を言ってしまった事は反省する。俺が反省したところで田中が変わらなければ意味がないとも思うけれど、そんな簡単に変わる事は出来ないだろうし、気付いた時には手遅れなパターンになる事は予想が出来た。
「なあ、前田はどうして胸に興味を持たないんだよ」
「どうしてって言われてもな。小さい時から胸に執着なかったみたいだし、気にした事も無かったな」
「そうだよな。胸に興味が無いって聞いた時はホモなんじゃないかって思ってたけど、佐藤さんみたいな可愛らしい彼女がいるんじゃそれも違うんだよな。なあ、前田って女子のどこのパーツが好きなわけ?」
田中に言われて初めて意識したのだけれど、俺は女子のどこが好きなんだろう?
他の人になくてみさきにしかないものと言われても、すぐに思いつくものは無いのだ。強いて言うならば、日の光に当たった時に一瞬だけ瞳が赤っぽくなる瞬間は特別な何かだと思う。今思い返すと、告白された時に返事を返すまでの間に何度か瞳が赤くなっていたような気がしていた。光の反射でそうなったのかわからないけれど、みさきの瞳に見つめられると、俺は全て従ってしまうような気分になっていた。あとは、ちゃんと見たことは無いけれど、足首から腰にかけてのラインを見るのは好きだったりする。これは少しマイルドに表現した方がよさそうだ。
「そう言われてもな。特に気にしてみた事も無かったけど、普段よく見てるのは目とか脚かな」
「脚って何だよ。ずいぶんと大人なやつだな」
「自分とは違う形してたりするし、見てるだけでも飽きないだろ」
「それを言うなら、胸の方が自分と全然違うだろ」
「そんなこと無いだろ、守屋さんは俺たちと違うかもしれないけどみさきはそんなに違わないだろ」
うん、田中の誘導に引っかかってしまったようだ。みさきをチラリと見たのだけれど、俺の言葉を気にしているような感じはなかった。俺を見る時と違って心の底から軽蔑しているような険しい表情だった。みさきの眉間に皺が寄っているのは初めて見たような気がする。今日は初めてな事が意外と多いな。
「ねえ、田中君ってちょっとデリカシーなさすぎるよね」
「私もそれは前から思ってたけど、なんでまー君と仲いいんだろう?」
「私もよく知らなけど、お互いの距離感がちょうどいいって言ってたような気がするわ」
そう言えば、どうして俺は田中と仲が良くなったんだろう。俺に友達と呼べるような人はそんなに多くないんだけど、その中でも田中は俺が疲れないで話せる唯一の友達だと思う。みさきと居る時も疲れはしないし、より元気を貰えると思うのだけれど、田中と話していると元気は貰えないが、疲れることはなかった。そんな空気感も嫌いではないからなのだろう。
注文していた物が配膳されたのだけれど、俺は甘いものに詳しくないので田中と同じものを頼んだことを後悔していた。お店の人に同じものを頼むカップルだと思われてはいないか心配になっていたが、それを感じさせない自然な行動が思い出せた。
家族で何かを食べに行った時にだが、唯が俺の食べ物を一口ねだる事があるのだけれど、それをみさきにやってみるのはどうだろう。みさきが潔癖症だったら断られると思うけれど、俺の家に遊びに来た時の感じだとそんな様子は見受けられなかったので、このチャンスにかけることにした。
俺が一口サイズに分けたケーキをみさきの口元に持っていくと、全く自然な流れで口を開けて食べてくれた。この自然な感じだといつもやっているように思えるだろう。一度もやった事はなかったのだけれど。
そのお礼なのかはわからないけれど、みさきも自分のパフェを一口俺にくれたのだ。キャラメルソースの物を食べたのは初めてだと思うけれど、思っていたよりもしつこい感じではなくクリームも甘さ控えめなのが良いのか、コップの水一杯だけで最後まで完食できそうな爽やかさもあった。
食べ比べるわけではないけれど、自分のケーキを食べてみると、濃厚な甘さとスポンジのしっとり感が絶妙で、これは紅茶やコーヒーに合うと思えた。実際に、ケーキを食べた後のコーヒーは甘さをすっきり流してくれていて、飲み終わった後に口の中に残る香りがケーキを再び食べるのにちょうどよい感じでいた。甘いケーキと若干苦みと酸味のあるコーヒーの組み合わせは最良のパートナーと言っても過言ではないだろう。
次に来た時は他の組み合わせも試してみたいと思ったのだけれど、守屋さんの食べているパフェも美味しそうだと思った。意外と和風な甘味も好きだったりするので、和風パフェは次の機会に撮っておくことにしよう。さすがに、守屋さんのを貰うのは違うと思うからだ。
「ちょっと待って、目の前でそんなラブラブな事されてもどう反応していいかわかんないって。守屋さんだって反応に困っちゃうんじゃないか。って、女子同士でも一口交換してるじゃん。俺だけ他の味がわからないって悲しすぎるだろ。よし、前田。男同士でちょっと嫌だけど一口ずつ交換しようぜ」
「同じものを交換してどうするんだよ」
俺はこいつとカップルではない証明も出来ると思ってみさきに一口あげたのに、田中ともやってしまったら意味が無くなってしまう。それに、男同士で食べさせ合うのが好きだとしたら、それは立派にカップル成立となりえるのではないだろうか。もちろん、例外はあるのだけど、田中はその例外には入らない。
喫茶店のお姉さんが食べ終わったころを見計らって席まで来てくれたのだけれど、相変わらず田中の視線は首よりも下に向かっていた。ここまで自分の欲望に素直になれるとしたら、それは尊敬してもいいのだろうか。いや、ダメだろう。
「今日のパフェは少しサービスしといたんだけどわかったかな?」
「はい、いつもよりブラウニー多いですよね」
「見た目はちょっとゴテゴテになっちゃったけど、みさきちゃんはブラウニー好きだもんね。そっちの子には白玉とサクランボ増やしといたんだけど、初めてだから普通の方が良かったかな?」
「いえ、とっても美味しかったし、サービスまでしてもらえるなんて絶対通います」
「そう言ってもらえると嬉しいけど、高校生なんだから他にお金使っていいんだからね」
「じゃあ、働くようになったら通います。お姉さんとも仲良くなりたいし」
「それはいいね。今度みさきちゃんと三人で遊びに行っちゃおうか。みさきちゃんはそれでもいいかな?」
「私もいいんですか?」
「もちろん、三人で女子会やろう」
どうやらみさきと守屋さんのパフェは何かサービスがあったらしい。俺たちのケーキはその場で作っているわけではないだろうし、盛り付けの時に少しクリームが多かったりと言った感じなのかもしれない。メニューにも写真は載っていないし、ケーキも本日のケーキとなっているので次回以降は違うケーキの可能性もある。そんなわけで、特別に何かプラスされたのかはわからないけれど、みさきが嬉しそうにしている姿を見れたことが俺にとって特別なサービスを提供されているのと同じことだろう。
三人の女子会に対抗して田中が男子会などと言い出さないようにこっそりと釘を刺しておいた。田中は素直ないいやつなので、俺のお願いは聞いてくれたようだった。
みさきが小さい時から通っているらしいのだけれど、この雰囲気はどこか落ち着くしコーヒーの良い匂いもリラックス効果がありそうだ。こんな感じの店に通っているとしたら、みさきのように落ち着いた淑女になるのも納得出来るような気がした。
俺の横に座っている田中は雰囲気に圧倒されているのか落ち着かない様子で、周りをキョロキョロと見ているようだった。
「なあ、この店って凄いな」
「ああ、こんな落ち着ける場所がこの街にもあったんだな」
「バカ、そうじゃないって。見てみろよ、ここの店員は二人とも美人で胸が大きいぞ」
以前から思っていたのだけれど、田中は女性の胸の大きさで価値を図るタイプの人間らしい。目の前にいる守屋さんも大きい方だと思うけれど、田中は相手にされていないのがわかっているようで、守屋さんの事について言及することは無くなっていた。みさきは、控えめな性格と胸なので田中の目には止まらないようで、その点は俺も安心しているのだ。
田中の頭の中身は小学生で止まっているようなんだけど、普通の男子高校生だとこんな反応をするのかと思ってみたりもした。ただ、俺は女性の胸に特別な感情を持っていないので、それが普通なのかは判断できないでいる。判断したところでみさきの胸が大きくなるわけでもないし、俺にとって意味のある事ではないのだけれど。
頭の悪い田中の言動を無視してみさきを見ていると、守屋さんと楽しそうに話しているので俺も嬉しくなってしまった。俺と話すときと守屋さんと話すときは若干ではあるけれど、眉の角度が違うような気がしていた。今は正面から見ているわけではないので気のせいかもしれないけれど、今まで観察してきた中では俺と守屋さん以外でみさきの眉の角度が変わったのは、みさきのお姉さんと話している時だけだと思う。愛華先輩と話すときでもみさきの眉の角度は変化していなかった。
「なあ、ここのお姉さん達ってすっごい美人で胸大きいのな。俺もここに通おうかな」
「そんな金があるんなら自由にしていいんじゃないか」
「おいおい、あんまり冷たい事言うなよ。お前だって少しは興味あるんだろ?」
「あのな、俺はみさきにしか興味ないって言ってるだろ。お前は俺達の仲を引き裂きたいのか?」
「そういうんじゃなくて、男として純粋に聞いてみただけだって」
「はあ、ホント田中君ってデリカシーの無い最低男だよね」
俺も守屋さんの意見に同意しているんだけど、ここで口に出したら田中が面倒くさい事を言いそうなので、守屋さんに全てお任せしようと思う。でも、田中が俺とみさきの仲を裂くための質問だとしたら、俺は田中の嫌がる事をいくつか実行してしまうかもしれないな。
「あらあら、みさきちゃんがお友達と来てると思ったら恋人がいるのね。小さい時から知ってるからお姉さんも嬉しいな」
「はい、今度来るときはまー君と二人で来ます」
「あら、まー君って言うのね。えっと、私の胸を見ていないこっちの子かな?」
「そうです。そっちの人はまー君の友達だと思います」
接客をしてくれているお姉さんを見ているのは俺も同じだと思うんだけど、横を見た時の田中の視線は顔よりも低い位置だった。これは女子じゃなくても胸ばかり見ているのがわかる例だと思う。大きい胸ってそんなにいいものなのだろうか?
「田中君って私の事も顔より先に胸を見るよね?」
「そんなこと無いだろ、って言いたいけど、お前のその胸は大きすぎるんだよ」
「何言ってんのよ。愛華先輩の方が大きいって」
「そんなの知らねえよ。大体、愛華先輩を紹介してもらおうと思っても前田は嫌がるし、どうしたら俺にも彼女が出来るんだよ」
「その性格を直した方がいいんじゃないか?」
正直田中に彼女が出来ようが彼氏が出来ようが興味は無いのだけれど、流れで思っていた事を言ってしまった事は反省する。俺が反省したところで田中が変わらなければ意味がないとも思うけれど、そんな簡単に変わる事は出来ないだろうし、気付いた時には手遅れなパターンになる事は予想が出来た。
「なあ、前田はどうして胸に興味を持たないんだよ」
「どうしてって言われてもな。小さい時から胸に執着なかったみたいだし、気にした事も無かったな」
「そうだよな。胸に興味が無いって聞いた時はホモなんじゃないかって思ってたけど、佐藤さんみたいな可愛らしい彼女がいるんじゃそれも違うんだよな。なあ、前田って女子のどこのパーツが好きなわけ?」
田中に言われて初めて意識したのだけれど、俺は女子のどこが好きなんだろう?
他の人になくてみさきにしかないものと言われても、すぐに思いつくものは無いのだ。強いて言うならば、日の光に当たった時に一瞬だけ瞳が赤っぽくなる瞬間は特別な何かだと思う。今思い返すと、告白された時に返事を返すまでの間に何度か瞳が赤くなっていたような気がしていた。光の反射でそうなったのかわからないけれど、みさきの瞳に見つめられると、俺は全て従ってしまうような気分になっていた。あとは、ちゃんと見たことは無いけれど、足首から腰にかけてのラインを見るのは好きだったりする。これは少しマイルドに表現した方がよさそうだ。
「そう言われてもな。特に気にしてみた事も無かったけど、普段よく見てるのは目とか脚かな」
「脚って何だよ。ずいぶんと大人なやつだな」
「自分とは違う形してたりするし、見てるだけでも飽きないだろ」
「それを言うなら、胸の方が自分と全然違うだろ」
「そんなこと無いだろ、守屋さんは俺たちと違うかもしれないけどみさきはそんなに違わないだろ」
うん、田中の誘導に引っかかってしまったようだ。みさきをチラリと見たのだけれど、俺の言葉を気にしているような感じはなかった。俺を見る時と違って心の底から軽蔑しているような険しい表情だった。みさきの眉間に皺が寄っているのは初めて見たような気がする。今日は初めてな事が意外と多いな。
「ねえ、田中君ってちょっとデリカシーなさすぎるよね」
「私もそれは前から思ってたけど、なんでまー君と仲いいんだろう?」
「私もよく知らなけど、お互いの距離感がちょうどいいって言ってたような気がするわ」
そう言えば、どうして俺は田中と仲が良くなったんだろう。俺に友達と呼べるような人はそんなに多くないんだけど、その中でも田中は俺が疲れないで話せる唯一の友達だと思う。みさきと居る時も疲れはしないし、より元気を貰えると思うのだけれど、田中と話していると元気は貰えないが、疲れることはなかった。そんな空気感も嫌いではないからなのだろう。
注文していた物が配膳されたのだけれど、俺は甘いものに詳しくないので田中と同じものを頼んだことを後悔していた。お店の人に同じものを頼むカップルだと思われてはいないか心配になっていたが、それを感じさせない自然な行動が思い出せた。
家族で何かを食べに行った時にだが、唯が俺の食べ物を一口ねだる事があるのだけれど、それをみさきにやってみるのはどうだろう。みさきが潔癖症だったら断られると思うけれど、俺の家に遊びに来た時の感じだとそんな様子は見受けられなかったので、このチャンスにかけることにした。
俺が一口サイズに分けたケーキをみさきの口元に持っていくと、全く自然な流れで口を開けて食べてくれた。この自然な感じだといつもやっているように思えるだろう。一度もやった事はなかったのだけれど。
そのお礼なのかはわからないけれど、みさきも自分のパフェを一口俺にくれたのだ。キャラメルソースの物を食べたのは初めてだと思うけれど、思っていたよりもしつこい感じではなくクリームも甘さ控えめなのが良いのか、コップの水一杯だけで最後まで完食できそうな爽やかさもあった。
食べ比べるわけではないけれど、自分のケーキを食べてみると、濃厚な甘さとスポンジのしっとり感が絶妙で、これは紅茶やコーヒーに合うと思えた。実際に、ケーキを食べた後のコーヒーは甘さをすっきり流してくれていて、飲み終わった後に口の中に残る香りがケーキを再び食べるのにちょうどよい感じでいた。甘いケーキと若干苦みと酸味のあるコーヒーの組み合わせは最良のパートナーと言っても過言ではないだろう。
次に来た時は他の組み合わせも試してみたいと思ったのだけれど、守屋さんの食べているパフェも美味しそうだと思った。意外と和風な甘味も好きだったりするので、和風パフェは次の機会に撮っておくことにしよう。さすがに、守屋さんのを貰うのは違うと思うからだ。
「ちょっと待って、目の前でそんなラブラブな事されてもどう反応していいかわかんないって。守屋さんだって反応に困っちゃうんじゃないか。って、女子同士でも一口交換してるじゃん。俺だけ他の味がわからないって悲しすぎるだろ。よし、前田。男同士でちょっと嫌だけど一口ずつ交換しようぜ」
「同じものを交換してどうするんだよ」
俺はこいつとカップルではない証明も出来ると思ってみさきに一口あげたのに、田中ともやってしまったら意味が無くなってしまう。それに、男同士で食べさせ合うのが好きだとしたら、それは立派にカップル成立となりえるのではないだろうか。もちろん、例外はあるのだけど、田中はその例外には入らない。
喫茶店のお姉さんが食べ終わったころを見計らって席まで来てくれたのだけれど、相変わらず田中の視線は首よりも下に向かっていた。ここまで自分の欲望に素直になれるとしたら、それは尊敬してもいいのだろうか。いや、ダメだろう。
「今日のパフェは少しサービスしといたんだけどわかったかな?」
「はい、いつもよりブラウニー多いですよね」
「見た目はちょっとゴテゴテになっちゃったけど、みさきちゃんはブラウニー好きだもんね。そっちの子には白玉とサクランボ増やしといたんだけど、初めてだから普通の方が良かったかな?」
「いえ、とっても美味しかったし、サービスまでしてもらえるなんて絶対通います」
「そう言ってもらえると嬉しいけど、高校生なんだから他にお金使っていいんだからね」
「じゃあ、働くようになったら通います。お姉さんとも仲良くなりたいし」
「それはいいね。今度みさきちゃんと三人で遊びに行っちゃおうか。みさきちゃんはそれでもいいかな?」
「私もいいんですか?」
「もちろん、三人で女子会やろう」
どうやらみさきと守屋さんのパフェは何かサービスがあったらしい。俺たちのケーキはその場で作っているわけではないだろうし、盛り付けの時に少しクリームが多かったりと言った感じなのかもしれない。メニューにも写真は載っていないし、ケーキも本日のケーキとなっているので次回以降は違うケーキの可能性もある。そんなわけで、特別に何かプラスされたのかはわからないけれど、みさきが嬉しそうにしている姿を見れたことが俺にとって特別なサービスを提供されているのと同じことだろう。
三人の女子会に対抗して田中が男子会などと言い出さないようにこっそりと釘を刺しておいた。田中は素直ないいやつなので、俺のお願いは聞いてくれたようだった。
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