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第一部 日常生活編
短い休憩時間 前田正樹の場合
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今日は田中が元気に登校していた。いないと寂しいという事でもないのだけれど、近くに騒がしいやつがいないというのは、何となく落ち着かないものがあった。田中は深刻な病気でも怪我でもなく、ちょっと体調が悪かっただけみたいなので、俺としても余計な心配はしなくて済んだ。
今日もみさきと登校していたのだけれど、愛華先輩は一緒じゃなかったので平和な登校時間を過ごすことが出来ていた。みさきも他に対抗する人がいないとベタベタしてこないので、人目を気にする事も無く普通のカップルっぽく歩くことが出来た。俺は人目を気にしていないのだけれど、みさきは本当なら人前で何かをするのが苦手っぽい気がする。
「まー君って愛ちゃん先輩みたいにスキンシップ多めの方が好きなの?」
「そんなことは無いけど、ほどほどが一番いいかな。少なすぎても寂しい気がするしね」
「そっか、じゃあ、私も頑張るね」
我が家では唯も母さんもスキンシップが強めなのでそれが普通なのかと思っていたけれど、高校生になって改めて周りを見てみると、手を繋いでいるようなカップルも多くなく、我が家のスキンシップは割と過剰な部類に入るように思えた。それが恥ずかしいとか気持ち悪いという思いは無いのだけれど、人にも好きに対する表現の違いが大きいのだと感じることになった。
二日ほど休んでいた田中ではあったけれど、二日分を取り戻すかのように俺に話しかけてくるのだが、俺はほどほどに関わる程度で全部に返事を返しているわけでない。それでも気にせずに田中が話しかけてくるのは、彼が寂しがり屋なのか俺と話すことが目的ではなく俺に話しかけることが目的なのかわからないけれど、とにかく田中の口と手が動きを止めることは無かった。
みさきは教室まで遊びに来ているのだけれど、田中が俺に話しかけ続けているのを優しい笑みで見てると、そのまま守屋さん達と楽し気に話をしているようだった。守屋さんと俺が話していた時の様子と違うのは、田中が男子だからなのだろうけれど、田中も守屋さんも俺に対する気持ちはそんなに変わらないように思えるのだ。男女の友情は無いのかもしれないけれど、友情が無かったとしても、俺はみさき以外の女に興味は無いと思う。
「俺が休んでいる間にハーレムを築くなんてお前は凄いやつだよな」
「ハーレムなんて築いてないけど」
「部活の先輩から聞いたけど、昼休みに全校生徒の目の前で美女に囲まれて手作り弁当食べてたそうじゃないか」
「ああ、それは三年生の先輩に命令されたからだよ」
「先輩の命令って面倒だよな。そんな事より、お前の彼女はハーレムの事認めてるのか?」
「ハーレムじゃないし、俺が好きなのはみさきだけだから問題ないと思うよ」
「バカ、お前が好きじゃないとしても相手から好意を寄せられたらどうするんだよ。男ならちょっと考えるだろ?」
「何言ってんだよ。好きな相手がいるのに他の人の事を気にすること無いだろ」
「お前って凄いな。俺なら一緒にいてくれるなら誰でも嬉しいんだけどな」
俺と田中のやり取りを聞いていた何人かの女子が田中の悪口を言っているのが俺には聞こえていたけれど、言われている本人の田中には聞こえていないようだった。その証拠に、独自の恋愛観を語る田中を見る女子の目が冷たくなっているように感じたからだ。
「そんなわけで、俺もお前のハーレムに入れてくれよ」
「ハーレムじゃないし、俺の独断で同行できるものでもないだろ」
「でもよ、三年生の先輩と普通に話せるお前って普通じゃないと思うぞ」
「先輩って言っても二歳しか違わないだろ。それに、俺は部活とかやったこと無いから付き合い方の正解がわからないんだよ」
「確かにな、二歳しか違わないんだけど、俺らの年の二歳って結構大きいと思うぞ。知識だって全然違うだろうし、経験だって色々してるだろうしな」
「その辺はわかる気がするけど、同じ町で暮らしてるんだしそんなに変わらないだろ」
「でもな、あの先輩って特別な感じするだろ。一人は美人で巨乳だし、もう一人はイギリス人で可愛いもんな。俺も名前で呼んでもらいたいよ」
「俺は名前で呼ばれてないし、お前の事を名前で呼んだ事も無いけどな」
「男に呼ばれるのと美人に呼ばれるのでは全然違うんだよ。この学年だと、お前の彼女と守屋さんがちょうど先輩二人みたいな感じだよな。巨乳と可愛い女子だし、本当お前って罪な男だわ」
「確かに、みさきは可愛いいと思うけど、守屋さんって美人の部類に入るのか?」
「お前って本当に彼女の事しか興味無いのな。他にも可愛い子とか美人な子はいるけど、二人は群を抜いているよ。三年生の先輩が卒業したら間違いなく頂点に君臨するくらいのルックスだと思うぞ。俺がお前の立場だったら精神が持たなそうだし、遠くから見守る事にするよ」
田中は一人で盛り上がって、一人で勝手に落ち込んでしまった。感情の起伏が激しすぎるんじゃないかと思っていると、いつの間にか守屋さんが田中の机に手を置いていつものポーズをとっていた。俺の方を見て微笑んでいた守屋さんではあったけれど、田中の方を見ている時の表情は険しいものだった。
「私の事は褒めてくれてるみたいだけど、ハーレムてどういう意味なのかな?」
「え、いや、俺も先輩から聞いただけなんで」
田中は先ほどの勢いを完全に失ってしまっていた。それは田中の目の前に美人の守屋さんがいるから精神が持たなくなってしまったからなのだろうか?
「私も先輩方も前田君の事が好きで集まってたわけじゃないのよ。みさきの彼氏が変な人じゃないか心配で集まってたの。それをハーレムとか言われても心外だわ」
「え? みさきと守屋さんって前から知り合いだったの?」
「前田君は黙ってて。今は田中君とお話してるんだよ」
「え、あ、すいません」
俺の記憶違いでなければ、みさきと守屋さんはこの前知り合ったばかりだと思ったのだけれど、俺の知らないところで以前から知り合いだったのだろうか?
そうだとしても、あの時に初対面を装うのは不自然だけど、あの短時間で打ち解け合ったのは納得出来る事だった。それにしても、女子の感情は理解できない部分が多い。
「とにかく、私も先輩たちも前田君に恋愛感情なんて持ってないのよ。前田君が好きなのはみさきで、前田君の事を好きなのもみさきだけなのよ」
「でも、前田に告白して振られて泣いたって聞いたけど」
「そんな記憶は無いわ」
「「え!?」」
田中も驚いたと思うけれど、目の前で見ていた俺も驚いていたし、周りにいた多くの生徒も驚いていた。あの時の守屋さんは確かに泣いていたと思うのだけれど、アレは見間違いだったのだろうか。
「それに、田中君が私達とご飯を食べたいなら先輩たちに聞いてみるといいんじゃないかしら。接点のない田中君にはちょっとハードル高かったかしらね」
田中は今まで見てきた中で一番頼りない感じになっていたけれど、そんな田中は俺を懇願するように見つめてきた。田中の言いたいことは多分わかるので先に答えておくことにしよう。
「すまん、俺は先輩方に聞くことは出来ないぞ」
「どうしてだよ」
「俺はご飯を食べるなら、みさきと二人がいいと思ってるんだ」
守屋さんの陰に隠れていたみさきが嬉しそうにしている姿を見ることが出来た。この短い休み時間は田中に邪魔されてみさきと話が出来なかったので、ささやかではあるが田中に仕返しが出来たんじゃないかと思った。
「あのね、今日もお弁当作ってみたんだけど、お昼一緒にどうかな?」
登校中に約束はしていたのだけれど、昼休みにも田中が二人の邪魔をしないようにみさきが牽制したのだろう。
「田中君って同性の友達は出来ても、異性の友達って出来ないタイプみたいね。前田君って彼女に一途だからその点が大きく違うのかもね。ホント、みさきって人を見る目が素晴らしいわ。私もみさきに良い人探してもらおうかしら」
「さやかごめん。私はまー君以外の男の人は同じに見えてるから、力になれないと思う」
「冗談よ、冗談。休み時間も終わっちゃうし、また後でお話ししましょうね」
今日もみさきと登校していたのだけれど、愛華先輩は一緒じゃなかったので平和な登校時間を過ごすことが出来ていた。みさきも他に対抗する人がいないとベタベタしてこないので、人目を気にする事も無く普通のカップルっぽく歩くことが出来た。俺は人目を気にしていないのだけれど、みさきは本当なら人前で何かをするのが苦手っぽい気がする。
「まー君って愛ちゃん先輩みたいにスキンシップ多めの方が好きなの?」
「そんなことは無いけど、ほどほどが一番いいかな。少なすぎても寂しい気がするしね」
「そっか、じゃあ、私も頑張るね」
我が家では唯も母さんもスキンシップが強めなのでそれが普通なのかと思っていたけれど、高校生になって改めて周りを見てみると、手を繋いでいるようなカップルも多くなく、我が家のスキンシップは割と過剰な部類に入るように思えた。それが恥ずかしいとか気持ち悪いという思いは無いのだけれど、人にも好きに対する表現の違いが大きいのだと感じることになった。
二日ほど休んでいた田中ではあったけれど、二日分を取り戻すかのように俺に話しかけてくるのだが、俺はほどほどに関わる程度で全部に返事を返しているわけでない。それでも気にせずに田中が話しかけてくるのは、彼が寂しがり屋なのか俺と話すことが目的ではなく俺に話しかけることが目的なのかわからないけれど、とにかく田中の口と手が動きを止めることは無かった。
みさきは教室まで遊びに来ているのだけれど、田中が俺に話しかけ続けているのを優しい笑みで見てると、そのまま守屋さん達と楽し気に話をしているようだった。守屋さんと俺が話していた時の様子と違うのは、田中が男子だからなのだろうけれど、田中も守屋さんも俺に対する気持ちはそんなに変わらないように思えるのだ。男女の友情は無いのかもしれないけれど、友情が無かったとしても、俺はみさき以外の女に興味は無いと思う。
「俺が休んでいる間にハーレムを築くなんてお前は凄いやつだよな」
「ハーレムなんて築いてないけど」
「部活の先輩から聞いたけど、昼休みに全校生徒の目の前で美女に囲まれて手作り弁当食べてたそうじゃないか」
「ああ、それは三年生の先輩に命令されたからだよ」
「先輩の命令って面倒だよな。そんな事より、お前の彼女はハーレムの事認めてるのか?」
「ハーレムじゃないし、俺が好きなのはみさきだけだから問題ないと思うよ」
「バカ、お前が好きじゃないとしても相手から好意を寄せられたらどうするんだよ。男ならちょっと考えるだろ?」
「何言ってんだよ。好きな相手がいるのに他の人の事を気にすること無いだろ」
「お前って凄いな。俺なら一緒にいてくれるなら誰でも嬉しいんだけどな」
俺と田中のやり取りを聞いていた何人かの女子が田中の悪口を言っているのが俺には聞こえていたけれど、言われている本人の田中には聞こえていないようだった。その証拠に、独自の恋愛観を語る田中を見る女子の目が冷たくなっているように感じたからだ。
「そんなわけで、俺もお前のハーレムに入れてくれよ」
「ハーレムじゃないし、俺の独断で同行できるものでもないだろ」
「でもよ、三年生の先輩と普通に話せるお前って普通じゃないと思うぞ」
「先輩って言っても二歳しか違わないだろ。それに、俺は部活とかやったこと無いから付き合い方の正解がわからないんだよ」
「確かにな、二歳しか違わないんだけど、俺らの年の二歳って結構大きいと思うぞ。知識だって全然違うだろうし、経験だって色々してるだろうしな」
「その辺はわかる気がするけど、同じ町で暮らしてるんだしそんなに変わらないだろ」
「でもな、あの先輩って特別な感じするだろ。一人は美人で巨乳だし、もう一人はイギリス人で可愛いもんな。俺も名前で呼んでもらいたいよ」
「俺は名前で呼ばれてないし、お前の事を名前で呼んだ事も無いけどな」
「男に呼ばれるのと美人に呼ばれるのでは全然違うんだよ。この学年だと、お前の彼女と守屋さんがちょうど先輩二人みたいな感じだよな。巨乳と可愛い女子だし、本当お前って罪な男だわ」
「確かに、みさきは可愛いいと思うけど、守屋さんって美人の部類に入るのか?」
「お前って本当に彼女の事しか興味無いのな。他にも可愛い子とか美人な子はいるけど、二人は群を抜いているよ。三年生の先輩が卒業したら間違いなく頂点に君臨するくらいのルックスだと思うぞ。俺がお前の立場だったら精神が持たなそうだし、遠くから見守る事にするよ」
田中は一人で盛り上がって、一人で勝手に落ち込んでしまった。感情の起伏が激しすぎるんじゃないかと思っていると、いつの間にか守屋さんが田中の机に手を置いていつものポーズをとっていた。俺の方を見て微笑んでいた守屋さんではあったけれど、田中の方を見ている時の表情は険しいものだった。
「私の事は褒めてくれてるみたいだけど、ハーレムてどういう意味なのかな?」
「え、いや、俺も先輩から聞いただけなんで」
田中は先ほどの勢いを完全に失ってしまっていた。それは田中の目の前に美人の守屋さんがいるから精神が持たなくなってしまったからなのだろうか?
「私も先輩方も前田君の事が好きで集まってたわけじゃないのよ。みさきの彼氏が変な人じゃないか心配で集まってたの。それをハーレムとか言われても心外だわ」
「え? みさきと守屋さんって前から知り合いだったの?」
「前田君は黙ってて。今は田中君とお話してるんだよ」
「え、あ、すいません」
俺の記憶違いでなければ、みさきと守屋さんはこの前知り合ったばかりだと思ったのだけれど、俺の知らないところで以前から知り合いだったのだろうか?
そうだとしても、あの時に初対面を装うのは不自然だけど、あの短時間で打ち解け合ったのは納得出来る事だった。それにしても、女子の感情は理解できない部分が多い。
「とにかく、私も先輩たちも前田君に恋愛感情なんて持ってないのよ。前田君が好きなのはみさきで、前田君の事を好きなのもみさきだけなのよ」
「でも、前田に告白して振られて泣いたって聞いたけど」
「そんな記憶は無いわ」
「「え!?」」
田中も驚いたと思うけれど、目の前で見ていた俺も驚いていたし、周りにいた多くの生徒も驚いていた。あの時の守屋さんは確かに泣いていたと思うのだけれど、アレは見間違いだったのだろうか。
「それに、田中君が私達とご飯を食べたいなら先輩たちに聞いてみるといいんじゃないかしら。接点のない田中君にはちょっとハードル高かったかしらね」
田中は今まで見てきた中で一番頼りない感じになっていたけれど、そんな田中は俺を懇願するように見つめてきた。田中の言いたいことは多分わかるので先に答えておくことにしよう。
「すまん、俺は先輩方に聞くことは出来ないぞ」
「どうしてだよ」
「俺はご飯を食べるなら、みさきと二人がいいと思ってるんだ」
守屋さんの陰に隠れていたみさきが嬉しそうにしている姿を見ることが出来た。この短い休み時間は田中に邪魔されてみさきと話が出来なかったので、ささやかではあるが田中に仕返しが出来たんじゃないかと思った。
「あのね、今日もお弁当作ってみたんだけど、お昼一緒にどうかな?」
登校中に約束はしていたのだけれど、昼休みにも田中が二人の邪魔をしないようにみさきが牽制したのだろう。
「田中君って同性の友達は出来ても、異性の友達って出来ないタイプみたいね。前田君って彼女に一途だからその点が大きく違うのかもね。ホント、みさきって人を見る目が素晴らしいわ。私もみさきに良い人探してもらおうかしら」
「さやかごめん。私はまー君以外の男の人は同じに見えてるから、力になれないと思う」
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