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第一部 日常生活編
初めての夜 佐藤みさきの場合
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まー君に送ってもらったけれど、もう夜だったので家の中には招待できなかった。次はもっと早い時間に来てもらって私の部屋でも遊んでみたいな。
家に帰るとお姉ちゃんが玄関まで走ってきていて、私の肩を掴んで揺らし始めた。
「ちょっと、彼氏がいるなら言ってよ。知らなかったから友達にみさきを紹介しちゃったじゃない。ホントごめんね」
「それはいいよ。彼氏になって貰ったのはあの後だったし、あの時は彼氏じゃなかったからね」
「あの後ってことは、だから“今はいない”って言ったんだね。自信あったのかな?」
「もう、そんなこと言ったってお姉ちゃんには教えないよ」
「ごめんって。どんな人なの?」
「優しくて良い人だよ」
「そうなんだ。みさきはどこに惚れたの?」
「もう、私は着替えたいんだけど」
「ねえねえ、どこに惚れたのかだけ教えてよ。お願い」
「最初は顔よ。一目惚れってやつ」
「え? 一目惚れ?」
お姉ちゃんは普段は良い人なんだけど、恋愛話になると面倒なんだよね。その割には自分の恋愛話はしてくれたこと無いし、自分勝手なとこはちょっと嫌いかも。本当は嫌いじゃないけどそんなお姉ちゃんが面倒なだけかな?
それにしても、今日は彼氏も出来たし唯ちゃんって可愛い後輩とも仲良くなれたし、まー君のお母さんも悪い印象を持たなかったみたいだし、良い1日になったと思うな。明日からもっと良い1日が続いて行くといいな。
部屋着に着替えてリビングに行くと、お姉ちゃんが私の周りを子犬のように動き回っててちょっと鬱陶しい。学校ではクールな感じで格好良いのに、家だとこの甘え用はギャップって言うよりも残念な子って感じに思っちゃうかも。お姉ちゃんの親友の愛ちゃん先輩もこんな姿を見たら幻滅しちゃいそうだよね。
「ねえ、お母さんたちには教えないから彼氏の写真とか見せてよ」
「やだよ。お姉ちゃんから先に見せてくれるならいいけど」
「ちょっと、私に彼氏いないの知ってて言ってるでしょ?」
「いないっぽいとは思っていたけど、本当にいないの?」
「いないわよ。友達は多いと思うけど、深い関係にはならないのよ」
「意外だな。お姉ちゃんの事は遊び人だと思ってたけど、大人な意味の遊び人じゃなくて子供な意味の遊び人なんだね」
「ちょっと、そんな憐れむような目で見るのはやめて。何だか心が痛くなってくるわ。もう、みさきの彼氏の写真を見なきゃ死んじゃうかも。うう」
こんな感じのお姉ちゃんでも私より勉強は出来るし家事は一通り出来るし英会話も得意だなんて信じられないよね。そうだ、お姉ちゃんに唯ちゃんが言ってた事件の話を聞いてみようかな。私は事件の事自体知らなかったと思うけど、お姉ちゃんなら同じ学年の人みたいだし、何かは知っているよね。
「お姉ちゃんに聞きたいことあるんだけど良いかな?」
「彼氏と長続きする秘訣とかなら知らないよ」
「お姉ちゃんにそういう事は聞いても無駄だって気付いたから聞かないよ」
「ちょっと、無駄ってどういう事よ。私だって恋愛映画とか漫画とか小説とかたくさん見てるんだからね」
「お姉ちゃん。百の知識よりも一の経験だよ」
「お母さん、みさきが私をいじめてくるよ」
お姉ちゃんは私よりも見た目も頭脳も交友関係も胸の大きさも足の長さも私より勝っているのに、家にいる時は私が姉になっている気分になるのはなんでだろう?
三年生の教室に行った時も、お姉ちゃんは明らかにボスポジションだったのに、家だと妹みたいなキャラになっちゃうのが不思議だった。
こんなお姉ちゃんは我が家では完全に日常の風景の一部なので、お母さんもお父さんも時々遊びに来るおばあちゃんでさえお姉ちゃんの味方にはならないのだ。家の中だけでは私の方がしっかりしているからかな。
「で、聞きたいことって何?」
「彼氏の妹ちゃんから聞いたんだけど、二年前の事件って知ってる?」
「知ってるよ。新聞にも出てたし、少しだけワイドショーでも取り上げられてたよね」
「そうだっけ?」
「あんたも中学生だったからテレビとかで見てたと思うけど、身近で起こった嫌な事件だから無意識のうちに忘れてたのかもね」
「そんな大きな話題になってたのに私は忘れてたの?」
私はスマホで二年前の夏にこの街で起きた事件があるかどうか調べてみた。年度と町の名前を入れただけで検索候補に事件が出てきたのだけれど、それくらい有名な出来事が私の頭の中から抜け落ちていることが、少しだけ怖かった。
「どう? 納得したかな?」
「納得はしてないけど、この街で事件があった事は理解出来た。でも、全然覚えてないよ」
「ま、みさきも受験を控えてて塾とか行ってたもんね。就職試験じゃないから時事問題に時間を割いている暇もなかったのよ」
「そっか。でも、お姉ちゃんの友達とかで巻き込まれたりしている人いなかったの?」
「人が亡くなっている話だし、この話はここまでにしようね」
いつになく真剣な表情になったお姉ちゃんだったけれど、私の顔を見つめると表情を緩ませて、甘えたい小動物みたいになっていた。
「ねえ、彼氏の写真見せてよ。私もみさきの彼氏が見たいよ」
「写真くらいならいいけど、見せても会わせろとか言わないって約束できる?」
「うん、みさきが自分から紹介してくれるのを待てる」
「じゃあ、どれがいいか厳選するから二時間くらい待ってもらっていいかな?」
「え? え? 厳選に二時間?」
「どうせ見てもらうなら最高の写真がいいでしょ」
「ねえ、付き合ったのって今日だよね?」
「うん、放課後に告白して付き合ってもらう事になったよ」
「今日付き合ったのに写真はたくさんあるの?」
「もちろん。私が撮ったのもあるけど彼氏のクラスの友達に頼んで撮って貰ったのもあるよ」
「いつから?」
「入学式のちょっと後からかな?」
「どれくらい撮ってあるの?」
「えっと、2800枚くらいかな」
「そんなにあるなんて、好きすぎだろ」
お姉ちゃんは私が厳選している途中なのに私からスマホを奪い取ると、そのまままー君の写真を見だした。一枚一枚じっくりと見ているような感じはなく、とりあえずよさそうな写真を適当に探している感じが嫌だった。どうせ見せるなら最高の一枚が良いと思ってたのにな。
しばらく写真を見ていたお姉ちゃんが指を止めた先には、制服姿で窓から外を見ているまー君の写真があった。
「ねえ、この写真って教室の外から撮ってるみたいだけど、どうやったらスマホでこんなにハッキリ綺麗に映せるの?」
「ああ、これは写真部の先輩に頼んで正面の空き教室から望遠レンズ付きのカメラで撮ってもらったやつだよ」
「もしかして、写真部の人と知り合いだったりするの?」
「知り合いってわけでもないけど、何回かモデルになったくらいだよ。その報酬で撮ってもらった感じかな?」
「みさき、悪いことは言わないからもう写真部と関わるのはやめた方がいいよ。あの人達はやたらとローアングルから撮ろうとするから気を付けてね」
「お姉ちゃんは心配性だね。私も写真部の人と会うときはちゃんと考えた服装で行ってたから大丈夫だよ」
その後もお姉ちゃんはまー君の写真を何枚も何枚も見ていたのだけれど、その中で気に入った何枚かをお姉ちゃんのスマホに送る事になった。お姉ちゃんがまー君を好きになったら困るけれど、お姉ちゃんがライバルになったとしても絶対に負けない秘密を握っているから、他の人よりはある意味で安心かも。
ご飯を食べる前にお風呂に入りたかったんだけど、お姉ちゃんがまー君の写真を見るのに時間がかかりすぎて、ご飯の準備が整ってしまいました。食べてからお風呂に入ってもいいんだけど、そうなるとゆっくり入りすぎてしまうからその後が面倒なのよね。
「ねえ、みさきの彼氏ってなかなか格好良いね」
「そうでしょ。お姉ちゃんは好きになったりしないでね」
「そんな事したらみさきが悲しむでしょ。私はみさきが幸せになってくれる方が嬉しいからそれは無いよ」
「ありがとう。お姉ちゃん大好きだよ」
これくらい言っておけばお姉ちゃんはまー君に手を出さないと思うんだけど、写真を何枚か持っていったのが気になる。先輩をまー君に近付けたりしないで欲しいなとは思うけれど、お姉ちゃんなら面白がってやりそうだなって思うよ。
「みさきの彼氏って巨乳好きかな?」
「それってどういう意味?」
「いや、特に意味はないんだけど、みさきはそっちじゃないから大丈夫なのかなって思ってね」
「はあ、お姉ちゃん嫌い」
お姉ちゃんは悪意はないんだけど、時々痛いところを抉ってくるんだよね。お姉ちゃんもお姉ちゃんの友達もほとんど胸が大きいし、私とアリス先輩くらいしかフラットな感じで佇んでる人はいない。まー君が巨乳好きだったら困るけれど、巨乳好きだったら何か深刻なトラウマでも与えて貧乳好きにしてみせよう。自分でもわかっているけど、貧乳だって認めるのはなかなかのダメージが来るんだよね。
晩御飯も食べ終わって部屋に戻って明日の準備をしているんだけど、お気に入りのポーチがどこにも見当たらないよ。最後に取り出したのはまー君の家でリップを塗りなおした時だと思うんだけど、もしかしたらそのまま置いてきちゃったかもしれない。とりあえず、ポーチの写真をネットから探してみて、その後はまー君にメッセージと一緒に送って探してみてもらおう。
『こんばんは、今日はありがとうね。ところで、猫の絵が描いてあるポーチをなくしたみたいなんだけど、まー君の家に有ったりしないかな?』
とりあえず、私が持っているポーチと同じものの写真を送ったんで、あったとしたらすぐにわかるよね。多分、唯ちゃんはそんなに化粧をするタイプだとは思わないんだけど、まー君のお母さんは見た目も年齢も若そうだし、もしかしたら同じのを使っているかもしれないな。
『みさきが座っていたところの近くに落ちているよ。写真と同じやつだから間違いないと思う』
メッセージを送って数分くらいで返事がきたんだけど、やっぱりまー君の家に忘れてしまっていたんだね。でも、見つかって良かったよ。
『それだよ。悪いんだけど、明日学校に持ってきてもらってもいいかな?』
まー君にお願いするのだし、何かお礼は必要よね。そう思ってメッセージと一緒に私の今の写真を送る事にしたの。あんまり凝った写真は撮れなかったけれど、それなりの奇跡は起こったので送ってみることにした。
まー君から来た返事はそっけないもので、素朴な感じがまた良いところだ。
お風呂に入った後も自力で事件の事を調べようと思っていたんだけど、新聞の見出しでわかる事以上の事は全く予想外だったけれど、いつかは爆発する日が来ることを期待して待ってみることにした。
お姉ちゃんは私が今調べたこと以上の事は教えてくれなさそうだし、お姉ちゃんの友達の愛ちゃん先輩とかアリス先輩に何か聞いてみたらわかるかな?
アリス先輩は美形でお人形さんみたいだし、愛ちゃん先輩はお胸が大きいんでまー君と一緒に遭うのはちょっと心が穏やかじゃなくなるかもしれないな。まー君の事だから私だけを見てくれるとは思うんだけどね。
お風呂も空いたみたいだし、そろそろ準備してお風呂に入ってこようかな。今からだとお風呂から上がった時にはまー君が寝ているかもしれないのでメッセージを送っておこうかな。
『今日は二人が付き合って最初の夜だね。』
お風呂から出た時にはまー君から返事が来ているといいな。
家に帰るとお姉ちゃんが玄関まで走ってきていて、私の肩を掴んで揺らし始めた。
「ちょっと、彼氏がいるなら言ってよ。知らなかったから友達にみさきを紹介しちゃったじゃない。ホントごめんね」
「それはいいよ。彼氏になって貰ったのはあの後だったし、あの時は彼氏じゃなかったからね」
「あの後ってことは、だから“今はいない”って言ったんだね。自信あったのかな?」
「もう、そんなこと言ったってお姉ちゃんには教えないよ」
「ごめんって。どんな人なの?」
「優しくて良い人だよ」
「そうなんだ。みさきはどこに惚れたの?」
「もう、私は着替えたいんだけど」
「ねえねえ、どこに惚れたのかだけ教えてよ。お願い」
「最初は顔よ。一目惚れってやつ」
「え? 一目惚れ?」
お姉ちゃんは普段は良い人なんだけど、恋愛話になると面倒なんだよね。その割には自分の恋愛話はしてくれたこと無いし、自分勝手なとこはちょっと嫌いかも。本当は嫌いじゃないけどそんなお姉ちゃんが面倒なだけかな?
それにしても、今日は彼氏も出来たし唯ちゃんって可愛い後輩とも仲良くなれたし、まー君のお母さんも悪い印象を持たなかったみたいだし、良い1日になったと思うな。明日からもっと良い1日が続いて行くといいな。
部屋着に着替えてリビングに行くと、お姉ちゃんが私の周りを子犬のように動き回っててちょっと鬱陶しい。学校ではクールな感じで格好良いのに、家だとこの甘え用はギャップって言うよりも残念な子って感じに思っちゃうかも。お姉ちゃんの親友の愛ちゃん先輩もこんな姿を見たら幻滅しちゃいそうだよね。
「ねえ、お母さんたちには教えないから彼氏の写真とか見せてよ」
「やだよ。お姉ちゃんから先に見せてくれるならいいけど」
「ちょっと、私に彼氏いないの知ってて言ってるでしょ?」
「いないっぽいとは思っていたけど、本当にいないの?」
「いないわよ。友達は多いと思うけど、深い関係にはならないのよ」
「意外だな。お姉ちゃんの事は遊び人だと思ってたけど、大人な意味の遊び人じゃなくて子供な意味の遊び人なんだね」
「ちょっと、そんな憐れむような目で見るのはやめて。何だか心が痛くなってくるわ。もう、みさきの彼氏の写真を見なきゃ死んじゃうかも。うう」
こんな感じのお姉ちゃんでも私より勉強は出来るし家事は一通り出来るし英会話も得意だなんて信じられないよね。そうだ、お姉ちゃんに唯ちゃんが言ってた事件の話を聞いてみようかな。私は事件の事自体知らなかったと思うけど、お姉ちゃんなら同じ学年の人みたいだし、何かは知っているよね。
「お姉ちゃんに聞きたいことあるんだけど良いかな?」
「彼氏と長続きする秘訣とかなら知らないよ」
「お姉ちゃんにそういう事は聞いても無駄だって気付いたから聞かないよ」
「ちょっと、無駄ってどういう事よ。私だって恋愛映画とか漫画とか小説とかたくさん見てるんだからね」
「お姉ちゃん。百の知識よりも一の経験だよ」
「お母さん、みさきが私をいじめてくるよ」
お姉ちゃんは私よりも見た目も頭脳も交友関係も胸の大きさも足の長さも私より勝っているのに、家にいる時は私が姉になっている気分になるのはなんでだろう?
三年生の教室に行った時も、お姉ちゃんは明らかにボスポジションだったのに、家だと妹みたいなキャラになっちゃうのが不思議だった。
こんなお姉ちゃんは我が家では完全に日常の風景の一部なので、お母さんもお父さんも時々遊びに来るおばあちゃんでさえお姉ちゃんの味方にはならないのだ。家の中だけでは私の方がしっかりしているからかな。
「で、聞きたいことって何?」
「彼氏の妹ちゃんから聞いたんだけど、二年前の事件って知ってる?」
「知ってるよ。新聞にも出てたし、少しだけワイドショーでも取り上げられてたよね」
「そうだっけ?」
「あんたも中学生だったからテレビとかで見てたと思うけど、身近で起こった嫌な事件だから無意識のうちに忘れてたのかもね」
「そんな大きな話題になってたのに私は忘れてたの?」
私はスマホで二年前の夏にこの街で起きた事件があるかどうか調べてみた。年度と町の名前を入れただけで検索候補に事件が出てきたのだけれど、それくらい有名な出来事が私の頭の中から抜け落ちていることが、少しだけ怖かった。
「どう? 納得したかな?」
「納得はしてないけど、この街で事件があった事は理解出来た。でも、全然覚えてないよ」
「ま、みさきも受験を控えてて塾とか行ってたもんね。就職試験じゃないから時事問題に時間を割いている暇もなかったのよ」
「そっか。でも、お姉ちゃんの友達とかで巻き込まれたりしている人いなかったの?」
「人が亡くなっている話だし、この話はここまでにしようね」
いつになく真剣な表情になったお姉ちゃんだったけれど、私の顔を見つめると表情を緩ませて、甘えたい小動物みたいになっていた。
「ねえ、彼氏の写真見せてよ。私もみさきの彼氏が見たいよ」
「写真くらいならいいけど、見せても会わせろとか言わないって約束できる?」
「うん、みさきが自分から紹介してくれるのを待てる」
「じゃあ、どれがいいか厳選するから二時間くらい待ってもらっていいかな?」
「え? え? 厳選に二時間?」
「どうせ見てもらうなら最高の写真がいいでしょ」
「ねえ、付き合ったのって今日だよね?」
「うん、放課後に告白して付き合ってもらう事になったよ」
「今日付き合ったのに写真はたくさんあるの?」
「もちろん。私が撮ったのもあるけど彼氏のクラスの友達に頼んで撮って貰ったのもあるよ」
「いつから?」
「入学式のちょっと後からかな?」
「どれくらい撮ってあるの?」
「えっと、2800枚くらいかな」
「そんなにあるなんて、好きすぎだろ」
お姉ちゃんは私が厳選している途中なのに私からスマホを奪い取ると、そのまままー君の写真を見だした。一枚一枚じっくりと見ているような感じはなく、とりあえずよさそうな写真を適当に探している感じが嫌だった。どうせ見せるなら最高の一枚が良いと思ってたのにな。
しばらく写真を見ていたお姉ちゃんが指を止めた先には、制服姿で窓から外を見ているまー君の写真があった。
「ねえ、この写真って教室の外から撮ってるみたいだけど、どうやったらスマホでこんなにハッキリ綺麗に映せるの?」
「ああ、これは写真部の先輩に頼んで正面の空き教室から望遠レンズ付きのカメラで撮ってもらったやつだよ」
「もしかして、写真部の人と知り合いだったりするの?」
「知り合いってわけでもないけど、何回かモデルになったくらいだよ。その報酬で撮ってもらった感じかな?」
「みさき、悪いことは言わないからもう写真部と関わるのはやめた方がいいよ。あの人達はやたらとローアングルから撮ろうとするから気を付けてね」
「お姉ちゃんは心配性だね。私も写真部の人と会うときはちゃんと考えた服装で行ってたから大丈夫だよ」
その後もお姉ちゃんはまー君の写真を何枚も何枚も見ていたのだけれど、その中で気に入った何枚かをお姉ちゃんのスマホに送る事になった。お姉ちゃんがまー君を好きになったら困るけれど、お姉ちゃんがライバルになったとしても絶対に負けない秘密を握っているから、他の人よりはある意味で安心かも。
ご飯を食べる前にお風呂に入りたかったんだけど、お姉ちゃんがまー君の写真を見るのに時間がかかりすぎて、ご飯の準備が整ってしまいました。食べてからお風呂に入ってもいいんだけど、そうなるとゆっくり入りすぎてしまうからその後が面倒なのよね。
「ねえ、みさきの彼氏ってなかなか格好良いね」
「そうでしょ。お姉ちゃんは好きになったりしないでね」
「そんな事したらみさきが悲しむでしょ。私はみさきが幸せになってくれる方が嬉しいからそれは無いよ」
「ありがとう。お姉ちゃん大好きだよ」
これくらい言っておけばお姉ちゃんはまー君に手を出さないと思うんだけど、写真を何枚か持っていったのが気になる。先輩をまー君に近付けたりしないで欲しいなとは思うけれど、お姉ちゃんなら面白がってやりそうだなって思うよ。
「みさきの彼氏って巨乳好きかな?」
「それってどういう意味?」
「いや、特に意味はないんだけど、みさきはそっちじゃないから大丈夫なのかなって思ってね」
「はあ、お姉ちゃん嫌い」
お姉ちゃんは悪意はないんだけど、時々痛いところを抉ってくるんだよね。お姉ちゃんもお姉ちゃんの友達もほとんど胸が大きいし、私とアリス先輩くらいしかフラットな感じで佇んでる人はいない。まー君が巨乳好きだったら困るけれど、巨乳好きだったら何か深刻なトラウマでも与えて貧乳好きにしてみせよう。自分でもわかっているけど、貧乳だって認めるのはなかなかのダメージが来るんだよね。
晩御飯も食べ終わって部屋に戻って明日の準備をしているんだけど、お気に入りのポーチがどこにも見当たらないよ。最後に取り出したのはまー君の家でリップを塗りなおした時だと思うんだけど、もしかしたらそのまま置いてきちゃったかもしれない。とりあえず、ポーチの写真をネットから探してみて、その後はまー君にメッセージと一緒に送って探してみてもらおう。
『こんばんは、今日はありがとうね。ところで、猫の絵が描いてあるポーチをなくしたみたいなんだけど、まー君の家に有ったりしないかな?』
とりあえず、私が持っているポーチと同じものの写真を送ったんで、あったとしたらすぐにわかるよね。多分、唯ちゃんはそんなに化粧をするタイプだとは思わないんだけど、まー君のお母さんは見た目も年齢も若そうだし、もしかしたら同じのを使っているかもしれないな。
『みさきが座っていたところの近くに落ちているよ。写真と同じやつだから間違いないと思う』
メッセージを送って数分くらいで返事がきたんだけど、やっぱりまー君の家に忘れてしまっていたんだね。でも、見つかって良かったよ。
『それだよ。悪いんだけど、明日学校に持ってきてもらってもいいかな?』
まー君にお願いするのだし、何かお礼は必要よね。そう思ってメッセージと一緒に私の今の写真を送る事にしたの。あんまり凝った写真は撮れなかったけれど、それなりの奇跡は起こったので送ってみることにした。
まー君から来た返事はそっけないもので、素朴な感じがまた良いところだ。
お風呂に入った後も自力で事件の事を調べようと思っていたんだけど、新聞の見出しでわかる事以上の事は全く予想外だったけれど、いつかは爆発する日が来ることを期待して待ってみることにした。
お姉ちゃんは私が今調べたこと以上の事は教えてくれなさそうだし、お姉ちゃんの友達の愛ちゃん先輩とかアリス先輩に何か聞いてみたらわかるかな?
アリス先輩は美形でお人形さんみたいだし、愛ちゃん先輩はお胸が大きいんでまー君と一緒に遭うのはちょっと心が穏やかじゃなくなるかもしれないな。まー君の事だから私だけを見てくれるとは思うんだけどね。
お風呂も空いたみたいだし、そろそろ準備してお風呂に入ってこようかな。今からだとお風呂から上がった時にはまー君が寝ているかもしれないのでメッセージを送っておこうかな。
『今日は二人が付き合って最初の夜だね。』
お風呂から出た時にはまー君から返事が来ているといいな。
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