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第一部 日常生活編
帰宅 佐藤みさきの場合
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「そんな話よりもゲームをしようよ」
まー君は他の人の事に興味があまりないのかもしれない。まー君のお母さんもそんなことを言っていたような気がするけど、こうして見てみるとそんな感じがしていた。私の事にも興味が無かったらいやだなと思ったけれど、私には優しくしてくれているし、色々と気を使ってくれているみたいなので違うのかもしれない。
もしかしたら、私以外の人にも興味を持つようになるかもしれないけれど、それはそれでちょっと寂しいと言うか、複雑な気持ちになってしまいそうだった。
「どのゲームしたいかな?」
「お兄ちゃんってこの話にあんまり興味ないのかな?」
「興味はあるけど、今ここで話したってなにもわからないじゃない」
「そりゃそうだけど、何かわかるかもしれないじゃん」
「まー君は心当たりがあったりするのかな?」
「その人達が知っているとしても教えてくれたりしないと思うけど、詳しく知ってる人ならみさきにも心当たりあるでしょ」
そうは言われても、私の知り合いはお姉ちゃんを除くとクラスメイトか同じ中学から来た人に限られてしまうし、心当たりなんて全然ないのだよ。気付いてないだけなのかもしれないけれど、気付けないのが私だったりするのです。
「思い浮かぶのは去年もいた私のお姉ちゃんかな?」
「みさきのお姉さんも去年はいたと思うけど、それよりも確実に詳しく知っていそうな人たちがいるでしょ」
「誰だろ?」
ちゃんと考えてるって思われてるといいんだけど、私は考えてみても思い浮かばないのでここは私でも勝てそうなゲームを探してみようかな。さっきは一方的にやられっぱなしだったけど、今回はそうならないように気を付けて選んでみようかな。
「去年もいたって言ったら、先生達が思い浮かばないかな?」
「ああ、それは確かにそうかも。お姉ちゃんたちが知らない事でも先生達は確実に知っていると思うしね」
「じゃあ、それは明日聞くことにして、これからやるゲームを決めないとね」
「お兄ちゃんって誰かとゲームやるの好きだよね。友達じゃなくてネットの人達ともゲームやってるし、そんなに対戦って面白いの?」
「そうだな、本当は誰かと近くで対戦した方が面白いんだけど、近くにそんな友達いないし誰でもいいから戦うのは飽きないよね」
「みさき先輩、お兄ちゃんってゲーム強いから二対一で出来るやつがいいよね」
唯ちゃんが普段見ているまー君ってどんな人なのかな?
学校ではいつも一緒にいる男子ともあんまり一緒にいないみたいだし、ライバルが少ないのはいい事だけど、私がまー君と一緒にいることで他の女子がまー君の魅力に気付かない事を祈ろう。
それと、さっきのお返しじゃないけど勝てそうなゲームを探してみよう。まー君の持っているゲームの写真をさっき撮っておいてよかったなって思うよ。どのゲームが簡単だけど満足感が得られるか見てみないと、って、クイズゲームとかいいかも。何とか唯ちゃんと組んでまー君を一方的に打ちのめしてやらなくちゃね。
「まー君、わかっちゃった」
「よくネットに出てたね」
「まとめサイトとか見て調べてみたの」
「で、どんな話なのかな?」
「話ってより、勝負するなら勝てる可能性が高いやつにしないとね」
とりあえず、まー君が気付く前に私と唯ちゃんで勝つための準備をしておかなくちゃね。それに、まー君が油断している間に差をつけるようにしちゃおうっと。
「まー君が持っているゲームの中で、私達でも勝てそうなのはコレかな」
ゲームを選んでまー君の反応を見ていたんだけど、全然リアクションが無かったな。何か考えているようだったけど、もしかしたらクイズの正解を全部暗記してたりはしないよね?
「私とみさき先輩のチームとお兄ちゃん一人のチームで対戦だね」
「それでもいいんだけど、俺が二人分操作しないといけないのかな?」
「そんなことをしたらお兄ちゃんのチームの点数上がっちゃうからダメだよ」
チーム戦でまー君が二人分回答するなら点数が二倍になりそうなので、もちろんまー君の提案は却下したけど、まー君が負けて悔しがる姿が見れるといいな。たぶん、学校の人達も悔しがるまー君を見たことないだろうし、私だけのまー君が見られそうだな。
「じゃあ、私とみさき先輩のチームとお兄ちゃんのチームで登録するね」
「余った一人はCPUになるので、三チームでの戦いになるのか」
「お兄ちゃんは余裕みたいだけれど、こっちにはみさき先輩もいるんで負けないからね」
「まー君には悪いけれど、私も手加減とか出来ないから正々堂々と真剣に戦おうね」
正々堂々となんて恥ずかしげもなく言ってみたものの、私は二対一で戦っている時点で卑怯者だなって思ってました。勝つためなら何でもするけど、たまには負けてまー君を立ててやるのもいいかも。
最初のうちは答えがわからなくて差を付けられてしまったけど、私はまー君にばれないようにスマホで答えを探してみた。制限時間に間に合わないことが多かったけれど、意外と接戦になっていて、三十分くらいまではほぼ互角の試合だった。
ところが、勝負も終盤に入ってきたところで、私と唯ちゃんの得意ジャンルの問題が選ばれだしたので、終盤だけなら圧倒的な正解率出会った。
途中までは接戦だったのに、後半の加速でまー君はついてこられなくなったみたいだ。私と唯ちゃんは手を抜くという事が出来ないらしく、瀕死のまー君をひたすら鈍器で殴り続けるみたいな感じで答えを選んでいっていた。
「お兄ちゃんも知識だけの闘いだと二人には勝てないわね」
「そうだね、まー君も頑張ったと思うけれど、私達二人は意外といいコンビになるのかもね」
「いやいや、クイズなのに二人で話しながら答えを探すのは反則でしょ」
「そんなルールは無いと思うけれど、私とみさき先輩の知識を足すとちょうどよかったみたい」
「唯ちゃんと二人でまー君を圧倒してしまってごめんなさい」
ちょっと嫌な女になってしまいそうだったけれど、まー君は私達の行動と発言に一貫性が無い事を見透かされていて、次にやるゲームではまた何も出来ずに終わってしまうのだろうか?
「あら、三人で仲良く遊んでいたのね」
「お母さんはどこに行っていたの?」
「晩御飯の食材が少なそうだったから買い足しに言っていたのよ」
「今日は何を作るの?」
まー君のお母さんが帰って来たみたいだし、これから晩御飯の支度を始めるのかな?
邪魔にならないように端の方に移動してみたんだけれど、まー君のお母さんが私の側まで来てくれていた。
手に持っていた荷物は唯ちゃんが受け取ってキッチンに向かっているようだった。まー君もそうだけど、唯ちゃんも荷物を持ってあげるなんて偉いな
「正樹だけじゃなく唯とも仲良くしてくれているみたいでありがとうね」
「いえいえ、私も二人と遊んでいるのは楽しいですから」
「そのお礼じゃないんだけど、良かったら一緒に晩御飯食べていかないかしら?」
誘ってもらえたのは嬉しいし、一緒に食べていきたいんだけど、今日は家族みんなでご飯を食べに行く約束をしちゃっていたよ。
家族の用事をキャンセルなんて出来ないし、機会があったらまた誘ってもらえたら嬉しいな。
「お誘いは嬉しいのですが、今日は家族でご飯を食べに行く事になっているので気持ちだけ頂きます」
「あら、それは残念だわ。よかったら今度一緒に食べましょうね」
「はい、ぜひお願いします」
まー君は心なしか寂しそうな表情をしているように見えるけれど、実際はどうなんだろう?
今度唯ちゃんも含めてみんなでお料理をしたら楽しそうだな。そんなことを考えていたのも、唯ちゃんが私の手をがっちり掴んで離さないからだ。
「みさき先輩が良かったらいつでも遊びに来てくださいね。お兄ちゃんがいない時でも私は大丈夫ですから」
「ありがとうね、まー君がいない事は無いと思うけど遊ぼうね」
外はまだ明るいけれど、時計を見たら結構いい時間になっていた。約束の時間まではまだあるけれど、今日は徒歩なので少し早めに出ないと約束の時間に遅れてしまうかもしれない。
「今日はそろそろ帰ろうかな」
「もう帰っちゃうんですか?」
「うん、あんまり遅くなると約束の時間が過ぎちゃうしね」
「そっか、残念だけど仕方ないですよね」
「ごめんね。今度はゆっくり遊ぼうね」
私は自分で使ったものを片付けていると、まー君が私の荷物を持ってくれていた。他人には興味なさそうなのに、私には興味を持ってくれているかのような行動だよね。これが好き同士の人の特権なのかな。
「今日はお邪魔しました。また明日学校で会おうね」
「いや、家まで送っていくよ」
「え? 結構遠いから往復したら遅くなるし大丈夫だよ」
「家に誘ったのは俺だし、うちはこれから晩御飯作るみたいだから大丈夫だよ」
「うーん、そう言ってもらえると嬉しいし、お願いしようかな」
うちの近くは開けた通りにあるし、人通りもそれなりにあるはずなので、人に襲われたりといった事は無いようだ。でも、暗くなるかもしれないのに送ってくれるなんて良い人過ぎるよね。
家に着いた時にお礼のキスとかした方がいいのかな?
でも、そんなのはまだ早いよね。
「うちまでは少し遠いからまー君が帰るの遅くなると思うけど大丈夫?」
「自転車使うから大丈夫だよ。二人乗りは出来ないけれど、帰りは自転車使うからそんなに遅くならないと思うかな」
「そうなんだ。今度私も自転車で来たら少しだけ長く遊べるかもね」
「じゃあ、今度自転車でどこかに遊びに行こうか。行きたい場所とかあったら教えてね」
自転車で行きたい場所と言っても、私はそんなにアクティブな方ではないので思い浮かぶのもありきたりなモノばかりだった。
動物園とかは行ってみたいけれど、子供っぽいと思われて気持ちが離れても嫌だしな。
「自転車でどこかに行くのも楽しそうだと思うけれど、二人でゆっくり歩くのもいいかもね」
「そうだね、みさきはどこか行きたい場所見つかったかな?」
「行きたい場所はすぐには思い浮かばないけれど、したいことは思い浮かんだよ」
「どんな事?」
「あのね、まー君と手を繋いで歩きたいなって思ったの」
まー君は私のトートバッグをかごに入れた自転車を両手でしっかり押さえているので、手を繋ぐことなんて出来ないのは知っているけれど、それでも手を繋ぎたいなって思っているよ。
「今日は色々とありがとうね。高校生になって一番嬉しい日になったよ」
「どういたしまして。明日から一番嬉しい日を更新していかないとね」
「そうだね。じゃあ、手を繋ぐ代わりにちょっとだけ繋がっていたいな」
ちょっと恥ずかしい事を言ったような気がしているけれど、この際だからなんでも言ってしまおうかな。
そんな中でもまー君の上着の裾がひらひらと揺れているのが気になってしまった。一時になるとそればっかり目で追ってしまうようになっていて、今ではまー君の顔より長く見ているような気さえしていた。
「さすがに人がいるとくっついて歩くのは恥ずかしいね」
まー君も恥ずかしがることがあるのかと思ったけれど、私も今は手を繋ぐのも恥ずかしく感じてしまっていて、体ではないけれど上着の裾を握っていたし、このままでもいいのではないだろうかと少し考えてみた。
「これくらいなら恥ずかしくないよね」
夕日も水平線の彼方に沈もうとしている時に、私もまー君と一緒に空を見ていた。もう少ししらた空に星が現れると思うけれど、その頃にはまー君も家に着いているんだろうな。いつか一緒に星空を眺めながら幸せな時間を過ごしていけるといいな。
まー君は他の人の事に興味があまりないのかもしれない。まー君のお母さんもそんなことを言っていたような気がするけど、こうして見てみるとそんな感じがしていた。私の事にも興味が無かったらいやだなと思ったけれど、私には優しくしてくれているし、色々と気を使ってくれているみたいなので違うのかもしれない。
もしかしたら、私以外の人にも興味を持つようになるかもしれないけれど、それはそれでちょっと寂しいと言うか、複雑な気持ちになってしまいそうだった。
「どのゲームしたいかな?」
「お兄ちゃんってこの話にあんまり興味ないのかな?」
「興味はあるけど、今ここで話したってなにもわからないじゃない」
「そりゃそうだけど、何かわかるかもしれないじゃん」
「まー君は心当たりがあったりするのかな?」
「その人達が知っているとしても教えてくれたりしないと思うけど、詳しく知ってる人ならみさきにも心当たりあるでしょ」
そうは言われても、私の知り合いはお姉ちゃんを除くとクラスメイトか同じ中学から来た人に限られてしまうし、心当たりなんて全然ないのだよ。気付いてないだけなのかもしれないけれど、気付けないのが私だったりするのです。
「思い浮かぶのは去年もいた私のお姉ちゃんかな?」
「みさきのお姉さんも去年はいたと思うけど、それよりも確実に詳しく知っていそうな人たちがいるでしょ」
「誰だろ?」
ちゃんと考えてるって思われてるといいんだけど、私は考えてみても思い浮かばないのでここは私でも勝てそうなゲームを探してみようかな。さっきは一方的にやられっぱなしだったけど、今回はそうならないように気を付けて選んでみようかな。
「去年もいたって言ったら、先生達が思い浮かばないかな?」
「ああ、それは確かにそうかも。お姉ちゃんたちが知らない事でも先生達は確実に知っていると思うしね」
「じゃあ、それは明日聞くことにして、これからやるゲームを決めないとね」
「お兄ちゃんって誰かとゲームやるの好きだよね。友達じゃなくてネットの人達ともゲームやってるし、そんなに対戦って面白いの?」
「そうだな、本当は誰かと近くで対戦した方が面白いんだけど、近くにそんな友達いないし誰でもいいから戦うのは飽きないよね」
「みさき先輩、お兄ちゃんってゲーム強いから二対一で出来るやつがいいよね」
唯ちゃんが普段見ているまー君ってどんな人なのかな?
学校ではいつも一緒にいる男子ともあんまり一緒にいないみたいだし、ライバルが少ないのはいい事だけど、私がまー君と一緒にいることで他の女子がまー君の魅力に気付かない事を祈ろう。
それと、さっきのお返しじゃないけど勝てそうなゲームを探してみよう。まー君の持っているゲームの写真をさっき撮っておいてよかったなって思うよ。どのゲームが簡単だけど満足感が得られるか見てみないと、って、クイズゲームとかいいかも。何とか唯ちゃんと組んでまー君を一方的に打ちのめしてやらなくちゃね。
「まー君、わかっちゃった」
「よくネットに出てたね」
「まとめサイトとか見て調べてみたの」
「で、どんな話なのかな?」
「話ってより、勝負するなら勝てる可能性が高いやつにしないとね」
とりあえず、まー君が気付く前に私と唯ちゃんで勝つための準備をしておかなくちゃね。それに、まー君が油断している間に差をつけるようにしちゃおうっと。
「まー君が持っているゲームの中で、私達でも勝てそうなのはコレかな」
ゲームを選んでまー君の反応を見ていたんだけど、全然リアクションが無かったな。何か考えているようだったけど、もしかしたらクイズの正解を全部暗記してたりはしないよね?
「私とみさき先輩のチームとお兄ちゃん一人のチームで対戦だね」
「それでもいいんだけど、俺が二人分操作しないといけないのかな?」
「そんなことをしたらお兄ちゃんのチームの点数上がっちゃうからダメだよ」
チーム戦でまー君が二人分回答するなら点数が二倍になりそうなので、もちろんまー君の提案は却下したけど、まー君が負けて悔しがる姿が見れるといいな。たぶん、学校の人達も悔しがるまー君を見たことないだろうし、私だけのまー君が見られそうだな。
「じゃあ、私とみさき先輩のチームとお兄ちゃんのチームで登録するね」
「余った一人はCPUになるので、三チームでの戦いになるのか」
「お兄ちゃんは余裕みたいだけれど、こっちにはみさき先輩もいるんで負けないからね」
「まー君には悪いけれど、私も手加減とか出来ないから正々堂々と真剣に戦おうね」
正々堂々となんて恥ずかしげもなく言ってみたものの、私は二対一で戦っている時点で卑怯者だなって思ってました。勝つためなら何でもするけど、たまには負けてまー君を立ててやるのもいいかも。
最初のうちは答えがわからなくて差を付けられてしまったけど、私はまー君にばれないようにスマホで答えを探してみた。制限時間に間に合わないことが多かったけれど、意外と接戦になっていて、三十分くらいまではほぼ互角の試合だった。
ところが、勝負も終盤に入ってきたところで、私と唯ちゃんの得意ジャンルの問題が選ばれだしたので、終盤だけなら圧倒的な正解率出会った。
途中までは接戦だったのに、後半の加速でまー君はついてこられなくなったみたいだ。私と唯ちゃんは手を抜くという事が出来ないらしく、瀕死のまー君をひたすら鈍器で殴り続けるみたいな感じで答えを選んでいっていた。
「お兄ちゃんも知識だけの闘いだと二人には勝てないわね」
「そうだね、まー君も頑張ったと思うけれど、私達二人は意外といいコンビになるのかもね」
「いやいや、クイズなのに二人で話しながら答えを探すのは反則でしょ」
「そんなルールは無いと思うけれど、私とみさき先輩の知識を足すとちょうどよかったみたい」
「唯ちゃんと二人でまー君を圧倒してしまってごめんなさい」
ちょっと嫌な女になってしまいそうだったけれど、まー君は私達の行動と発言に一貫性が無い事を見透かされていて、次にやるゲームではまた何も出来ずに終わってしまうのだろうか?
「あら、三人で仲良く遊んでいたのね」
「お母さんはどこに行っていたの?」
「晩御飯の食材が少なそうだったから買い足しに言っていたのよ」
「今日は何を作るの?」
まー君のお母さんが帰って来たみたいだし、これから晩御飯の支度を始めるのかな?
邪魔にならないように端の方に移動してみたんだけれど、まー君のお母さんが私の側まで来てくれていた。
手に持っていた荷物は唯ちゃんが受け取ってキッチンに向かっているようだった。まー君もそうだけど、唯ちゃんも荷物を持ってあげるなんて偉いな
「正樹だけじゃなく唯とも仲良くしてくれているみたいでありがとうね」
「いえいえ、私も二人と遊んでいるのは楽しいですから」
「そのお礼じゃないんだけど、良かったら一緒に晩御飯食べていかないかしら?」
誘ってもらえたのは嬉しいし、一緒に食べていきたいんだけど、今日は家族みんなでご飯を食べに行く約束をしちゃっていたよ。
家族の用事をキャンセルなんて出来ないし、機会があったらまた誘ってもらえたら嬉しいな。
「お誘いは嬉しいのですが、今日は家族でご飯を食べに行く事になっているので気持ちだけ頂きます」
「あら、それは残念だわ。よかったら今度一緒に食べましょうね」
「はい、ぜひお願いします」
まー君は心なしか寂しそうな表情をしているように見えるけれど、実際はどうなんだろう?
今度唯ちゃんも含めてみんなでお料理をしたら楽しそうだな。そんなことを考えていたのも、唯ちゃんが私の手をがっちり掴んで離さないからだ。
「みさき先輩が良かったらいつでも遊びに来てくださいね。お兄ちゃんがいない時でも私は大丈夫ですから」
「ありがとうね、まー君がいない事は無いと思うけど遊ぼうね」
外はまだ明るいけれど、時計を見たら結構いい時間になっていた。約束の時間まではまだあるけれど、今日は徒歩なので少し早めに出ないと約束の時間に遅れてしまうかもしれない。
「今日はそろそろ帰ろうかな」
「もう帰っちゃうんですか?」
「うん、あんまり遅くなると約束の時間が過ぎちゃうしね」
「そっか、残念だけど仕方ないですよね」
「ごめんね。今度はゆっくり遊ぼうね」
私は自分で使ったものを片付けていると、まー君が私の荷物を持ってくれていた。他人には興味なさそうなのに、私には興味を持ってくれているかのような行動だよね。これが好き同士の人の特権なのかな。
「今日はお邪魔しました。また明日学校で会おうね」
「いや、家まで送っていくよ」
「え? 結構遠いから往復したら遅くなるし大丈夫だよ」
「家に誘ったのは俺だし、うちはこれから晩御飯作るみたいだから大丈夫だよ」
「うーん、そう言ってもらえると嬉しいし、お願いしようかな」
うちの近くは開けた通りにあるし、人通りもそれなりにあるはずなので、人に襲われたりといった事は無いようだ。でも、暗くなるかもしれないのに送ってくれるなんて良い人過ぎるよね。
家に着いた時にお礼のキスとかした方がいいのかな?
でも、そんなのはまだ早いよね。
「うちまでは少し遠いからまー君が帰るの遅くなると思うけど大丈夫?」
「自転車使うから大丈夫だよ。二人乗りは出来ないけれど、帰りは自転車使うからそんなに遅くならないと思うかな」
「そうなんだ。今度私も自転車で来たら少しだけ長く遊べるかもね」
「じゃあ、今度自転車でどこかに遊びに行こうか。行きたい場所とかあったら教えてね」
自転車で行きたい場所と言っても、私はそんなにアクティブな方ではないので思い浮かぶのもありきたりなモノばかりだった。
動物園とかは行ってみたいけれど、子供っぽいと思われて気持ちが離れても嫌だしな。
「自転車でどこかに行くのも楽しそうだと思うけれど、二人でゆっくり歩くのもいいかもね」
「そうだね、みさきはどこか行きたい場所見つかったかな?」
「行きたい場所はすぐには思い浮かばないけれど、したいことは思い浮かんだよ」
「どんな事?」
「あのね、まー君と手を繋いで歩きたいなって思ったの」
まー君は私のトートバッグをかごに入れた自転車を両手でしっかり押さえているので、手を繋ぐことなんて出来ないのは知っているけれど、それでも手を繋ぎたいなって思っているよ。
「今日は色々とありがとうね。高校生になって一番嬉しい日になったよ」
「どういたしまして。明日から一番嬉しい日を更新していかないとね」
「そうだね。じゃあ、手を繋ぐ代わりにちょっとだけ繋がっていたいな」
ちょっと恥ずかしい事を言ったような気がしているけれど、この際だからなんでも言ってしまおうかな。
そんな中でもまー君の上着の裾がひらひらと揺れているのが気になってしまった。一時になるとそればっかり目で追ってしまうようになっていて、今ではまー君の顔より長く見ているような気さえしていた。
「さすがに人がいるとくっついて歩くのは恥ずかしいね」
まー君も恥ずかしがることがあるのかと思ったけれど、私も今は手を繋ぐのも恥ずかしく感じてしまっていて、体ではないけれど上着の裾を握っていたし、このままでもいいのではないだろうかと少し考えてみた。
「これくらいなら恥ずかしくないよね」
夕日も水平線の彼方に沈もうとしている時に、私もまー君と一緒に空を見ていた。もう少ししらた空に星が現れると思うけれど、その頃にはまー君も家に着いているんだろうな。いつか一緒に星空を眺めながら幸せな時間を過ごしていけるといいな。
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