上 下
3 / 10

村のアイドル対経験豊富なユイさん

しおりを挟む
「お姫様ってもっと素敵な女性かと思ってたんですけど、意外とちんちくりんな方だったんですね」
 綺麗に着飾った少女が私に向かって砂をかけながら失礼な事を言ってきていたのだが、その様子を見てユイさんは何故か両肩を震わせながら笑いをこらえていた。
「この村に何の目的でやってきたのかはわからないけど、私達の村をどうにかしようなんて思わない事ね。この村はあなた達や色欲大魔王の思い通りになんてならないんだからね。それもわかってないからここに来たんでしょうけど、今更気付いたって遅いんだからね」
 何をこんなに怒っているのかわからないのだが、私はずっとこの少女に追いかけられながら砂をかけられていた。砂をかけることに何の意味があるのかさっぱりわからないのだけれど、私は無防備に砂を浴びるのも嫌なのでひたたすら逃げ続けているのだ。それにしても、ユイさんはずっと笑いをこらえようとしてうつむいたままで私を助けるつもりなんてさらさらないようだ。こんなんじゃ何のために連れてきたのかわからないではないか。
「ちょっとちょっと、追っかけられるのも言いがかりをつけられるのも意味が分からないんだけど、なんで私に砂をかけようとしてるのよ」
「追いかけてるのはあなたが逃げているからでしょ。それと、砂をかける事に意味なんて無いわ。強いて言えば、あなたを砂まみれにして不快な思いをさせようってだけよ」
「追いかけられるだけでも不快な思いをしているから砂はかけないでよ。別にこのドレスが汚れてもなんとも思わないけど何となく砂をかけられるのって嫌なのよ。意味も分からないし、いい加減にしてよ」
「いい加減にするのはそっちの方よ。私達の村に手を出そうとしないでさっさと帰りなさいよ。このちんちくりん女」
 ちんちくりん女と言われるのは心外なのだが、こうも走り回っていると反論するのも疲れてしまって出来そうにない。普通に話すことも辛くなってきたので今すぐ横になりたい気分なのだが、そうしてしまうと顔に思いっきり砂をかけられそうなので止まる事すら出来ないのだ。
「いい加減諦めて帰りなさいよ。私もこれから忙しくなるんだから、早く諦めなさいって」
「そっちこそ私を追いかけるのをやめなさいよ。追いかけるのをやめないって言うんだったら砂をかけるのだけでもやめてちょうだい」
「やめて欲しいって言ってもやめはしないわ。あなたが帰るって言うまでやめないんだから。いい加減諦めて帰りなさいよ」
「諦めるも何もこの村に何かしようなんて思ってないわよ。もう、疲れた。限界。無理。ユイさん、いい加減助けてよ」
 私は村の中を縦横無尽に走りながらもユイさんに近付いたタイミングで顔を真っすぐに見つめてお願いしたのだが、ユイさんは相変わらず私達を見て笑っていて助ける気なんてさらさらないように見えた。私のメイドになって誠心誠意仕えるって言ったのは何だったんだろうって思うのだが、それは今ここで言っても意味がない事なんだろうな。私と目が合ったユイさんが思いっ切り笑っていたのを見て確信したのだ。この女は私が困っている姿を見て楽しんでいると。
「もう、追いかけっこはやめよ。さあ、ユイさんやっちゃってよ」
 私は笑っているユイさんを盾にして隠れたのだが、少女はやや困惑したような顔で私の方を見てきていた。
「ちょっと卑怯よ。こんな綺麗な人を盾にするなんて人として恥ずかしいと思わないの。自分がちんちくりんだからってこんなにスタイルも良くて綺麗な人を身代わりにしようだなんて人間の屑ね」
「ユイさんは確かに美人でスタイルも良いけど、私はそこまでちんちくりんじゃないと思うんだけど。そこは訂正しなさいよ」
「いや、カトリーナはちんちくりんなところも含めて可愛いよ。カトリーナがスタイルも良かったら私が守る必要も無いんじゃないかな」
「ユイさんも真剣な顔で私を貶すのをやめてよ。私は全然ちんちくりんなんかじゃないわよ」
「いや、カトリーナはちんちくりんだと思うよ」
「そうよ。あなたはどう見てもちんちくりんだわ」
「二人で仲良く私を貶さないでよ。見てる人もそうなんじゃないかって思っちゃうじゃない。私は特別スタイルがいい方ではないけど、悪い方でもないと思うわよ」
「大丈夫。カトリーナの可愛らしさは見た目だけじゃないからね。ちんちくりんでも愛くるしい素敵なお姫様だよ」
 ユイさんはやっと私を守ることにしたらしく、両手を大きく広げて少女を威嚇していた。手も若干長めのユイさんが両手を広げるとかなりの大きさになるのだが、それを見た少女は若干たじろいだようで後退りしているのだった。
「あら、あなたも結構可愛らしいわね。もしかして、この村のアイドルってあなたの事なのかな?」
「アイドルって言うのは何か知らないけど」
「そう言えば、この世界にはそういう言葉ってないのよね。これからいちいちこの世界の人に説明するのも面倒だから全員の脳に直接説明してやるわ」
 ユイさんが言っていたこの世界の人達に説明するってのは私も含まれていたようで、ユイさんがアイドルとはどういうモノなのか説明している言葉が直接脳内に語り掛けてきていた。
 私はユイさんのこの行動になれているので何とも思わなかったのだが、この村の人達は脳内に直接語り掛けられたのは初めてだったらしく、みんな天を見上げながら声の主が誰なのか悩んでいるようだった。ただ、ユイさんと話をしているこの少女は脳に直接語り掛けてきたのがユイさんだと理解している。
「ちょっと、私の頭に直接語り掛けてこないでよ。頭がおかしくなっちゃうじゃない」
 少女は握っている砂をユイさんに向かって思いっきり投げつけていったのだが、少女の手を離れた砂は若干左にそれながらも半分以上はユイさんに向かって飛んできていた。
 詠唱も無しで魔法を使ったのかユイさんは飛んできた砂を空中に固定してその砂の中から探し物をするかのようにじっくりと観察をしていたのだが、目的のモノが見つからなかったかのように砂を払いのけると宙に浮いていた砂は重力があった事を思い出したかのように真下へと落下していった。
「この村の中では魔法は使えないのに、どうしてそんなことが出来るのよ」
「どうしてって、私は普通に魔法を使って止めましたけど。それに、村の中で魔法が使えないってのは私には関係ない話ね。あと、あなたのお名前を伺ってもいいかしら。あなたみたいに可愛らしい女の子の名前って気になるのよね」
「何で名前を教えないといけないんだよ。教えたら何かいい事でもあるっていうの?」
「どうでしょうね。良いことがあるかもしれないけど、無いかもしれないわね。ただ、私があなたに良い事をしてあげる時に、名前を呼んであげることが出来ると思うわよ」
 名前を聞くのは当たり前の事なんだろうが、教えることの特典が良い事をしている時に名前を呼んでもらえるってのはどうなんだろう。そもそも、その説明をする時に手のひらを上に向けた状態で中指と薬指だけ動かしているのは何の意味があるというのだろうか。
「わかったわ。そこまで言うなら私の名前を教えましょう。私の名前はコトハです。お姉さまのお名前も教えていただいてよろしいですか?」
「私の名前はユイよ。こっちのちんちくりんなお姫様はカトリーナなのでよろしくね」
「あ、ちんちくりんの方は興味なんで大丈夫です」
 なんでだろう。興味を持たれてないのは分かっていたのだけれど、こうも反応が違うとわかっていてもショックって受けるもんなんだな。
 ユイさんとコトハはなんだか距離が近いような気もするのだけど、あと一歩の距離を詰めることが出来ないカップルのように見えてきた。
「それよりも、コトハがカトリーナに向かって砂をかけている時に思ったのですが、その姿はまるで『砂をかける少女』ですね」
 私はユイさんが言っていることの意味を理解出来なかったのだが、それはコトハも一緒だったようだ。私とコトハの頭の上に大きな?が浮かんでいるのを察したユイさんは再び頭の中に直接語り掛けてきたのであった。
 どうやら、ユイさんがいた世界では『時をかける少女』という作品があったそうなのだが、『砂をかける少女』というののどこがおもしろいのだろうと疑問だけが残る結果になってしまった。
「ちょっと待ってください。そのダジャレめっちゃ面白いんですけど。その当事者である私が言うのもなんですが、ユイお姉さまって物凄く面白い人なんですね」
 私だけが笑いのわかっていない感じになってしまっているのだが、それって私がおかしいって事なのだろうか。この事はコトハに追いかけられていた時よりも砂をかけられていた時よりも悲しい気持ちになってしまっていたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

けだものだもの~虎になった男の異世界酔夢譚~

ちょろぎ
ファンタジー
神の悪戯か悪魔の慈悲か―― アラフォー×1社畜のサラリーマン、何故か虎男として異世界に転移?する。 何の説明も助けもないまま、手探りで人里へ向かえば、言葉は通じず石を投げられ騎兵にまで追われる有様。 試行錯誤と幾ばくかの幸運の末になんとか人里に迎えられた虎男が、無駄に高い身体能力と、現代日本の無駄知識で、他人を巻き込んだり巻き込まれたりしながら、地盤を作って異世界で生きていく、日常描写多めのそんな物語。 第13章が終了しました。 申し訳ありませんが、第14話を区切りに長期(予定数か月)の休載に入ります。 再開の暁にはまたよろしくお願いいたします。 この作品は小説家になろうさんでも掲載しています。 同名のコミック、HP、曲がありますが、それらとは一切関係はありません。

底辺を生きた者、不老不死になり異世界で過ごす(旧 落ちこぼれニート)

ファンタジー
 罪を犯し、空腹で死亡したユウト・サトウは、転生して不老不死になった。  浮遊城の管理者の傍ら、冒険者としても生活をしていくユウト。  突如として空に浮かぶ巨大な島が現れた異世界の人々は混乱し、各国は様々な方法で接触を試みる。  これは、ユウトが人生をやり直し、スローライフを楽しむ物語である。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。

町島航太
ファンタジー
 かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。  しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。  失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。  だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

シン雪女伝説

 (笑)
ファンタジー
十年前の真冬の山で、雪女こと美雪は、無謀にも軽装で山に登り遭難しかけた若者、シンジを助けた。美雪はシンジの無謀な行動に怒りつつも、彼を麓の宿屋前のバス停まで届ける。意識を取り戻したシンジは、目の前に立つ美しい美雪に一目惚れし、彼女に結婚を申し込む。美雪は自分が人間ではない雪女であることを告げ、彼の申し出を断るが、シンジは諦めずに美雪への想いを訴え続ける。最後に、美雪は「10年後も気持ちが変わらなければ考えてやろう」と言い残し、再び山へと帰って行った。シンジは美雪との約束を守り、彼女との再会を心に誓うのであった。 「お姫様抱っこされた冒険者(完結済み)」のアナザーストーリーです。よろしかったら、そちらも読んでください、

処理中です...