くりきゅういんうまなとイザーと釧路太郎

釧路太郎

文字の大きさ
上 下
35 / 42
影武者ちゃんの日常

影武者ちゃんの日常 第三話

しおりを挟む
 金髪男の拳を悠々とかわしたことに驚いているようなのだが、こんなに遅い攻撃を食らうはずがない。まあ、食らったところで大した威力はなさそうだと思うのだけど、この男たちに触れられるというのはあまり心地の良いモノではなさそうなのだから避けておいた方が良いだろう。
 その後も金髪の男は私の事を殴ろうと何度も何度も拳を突き出してくるのだけど、あまりにも直線的過ぎる攻撃なので少しずつ紙一重で避けるようになってしまった。あまり大きく動くとさすがに疲れてしまうのでそうしたのだけど、金髪の男の子は私の避け方が気に入らないのか顔がみるみる紅潮して鼻息もどんどんと荒くなっていっていた。その姿を見てどこかで見たことがあるような気もしていたのだが、きっと気のせいだろう。
「なんで、避けるんだよ。ふざけんな。当たれって。テメエ、避けんなよ」
「いや、そんなわかりやすい攻撃避けるに決まってるでしょ。あんたみたいな人に触れられたくないし」
「ふざけんな。さっさと死ね」
 この金髪はきっと自分の思い通りにならないと気が済まないんだろうな。私がいつまでも攻撃を避け続けるからイライラしてるんだろう。いつまでもこの不毛なやり取りを続けるのも飽きてきちゃうし、いい加減諦めてくれないかな。
「ほら、死ね。死ね。さっさと死ね。死んで俺のオモチャになれ」
「いや、死んだらオモチャになれないだろ」
 私は思わず矛盾した言葉に反応してしまったのだが、それと同時に体が勝手に反応してお腹に一発入れてしまった。生身の拳で人を殴るのは初めてだったので微妙な感触が手に残ってしまったのだが、武器を使わない戦いというのも案外好きかもしれないという事に気付いてしまった。
 たった一発お腹に入っただけなのに金髪の男の子はその場にうずくまって吐しゃ物を吐き出してしまった。それにも触れたくないと思った私は思わず壁際に飛びのいてしまったのだけど、それを好機と見た他の男たちが私に向かって一斉に飛び掛かってきた。
 金髪の男の子の事を少しは心配してあげたらいいのになと思いながらも、私は順番に攻撃をかわして一人ずつお腹に一発ずつ拳を入れてあげる事にした。あんまり深く入れると金髪の男の子みたいになってしまいそうなので浅めに入れたはずなんだけど、結果的には何も変わらなかった。
 不快な臭いが立ち込めてきたので私はこの場を立ち去ることにしたのだけど、金髪の男の子が両手を広げて私の事を通さないように立ち塞がっていた。今にも涙をこぼしそうな顔で見つめてきてはいるんだけど、一体この行動に何の意味があるんだろう。
「ごめん、邪魔なんでどいてもらえるかな」
 なるべく刺激しないように優しく諭すように言ったのだけれど、金髪の男の子はこらえきれなくなった涙を流しながらも私の事を足止めしようとしていた。後ろでうずくまっている男の達は完全に戦意を失っているので時間稼ぎではないと思うのだけど、ここまで私を足止めしたいと思う気持ちが理解出来ない。男のプライドってやつだったとしたら、普通の人間であるという事が既にハンデとなっている事に気付いてくれたらいいのにな。あれだけ攻撃しても当たらないという事を理解しているとは思うんだけど、そもそもの基礎能力が違い過ぎるという事にまで理解が及んでいないのだろうか。
「ごめんなさい。ここに居ると気持ち悪くなりそうなんで通してもらっても良いかな」
「イヤだ。絶対にお前を通さない」
「ワガママ言わないでね。本当に気分が悪くなりそうだから戻りたいんだけど。ね、君程度じゃ私にそんな事をしても無駄だってわかってるよね。次はもう少し強く攻撃しちゃうけど、君は我慢出来るかな?」
 普通に無理矢理通ることも出来るんだけど、この金髪の男の子がいったいどういう事をしてくるのかという事に興味はあった。
「やだ。絶対にやだ。痛いのも、怖いのも、絶対に嫌だ」
 後半は言葉になっていなかったのだけど、とにかくこの金髪の男の子は私の言う事を聞く気はないという事がわかった。涙と吐しゃ物でボロボロになった顔は見るも無残な姿になっているのだけれど、その佇まいはどこか男らしさを感じさせているのである。だが、そんなものを見せられたところで私が納得する話ではない。
 このまま黙って見つめ合っていても良いことは無いと思うし、この金髪の男の子みたいに他の男の子たちも意識を取り戻して襲ってこないとも限らないのだ。そうなるとまた面倒な事になってしまうのではないかと思っていたのだけど、金髪の男の子は私が少し動いただけでその場に座り込んでしまった。まるで糸が切れた操り人形かと思ってしまう姿に驚いてしまったのだが、いつまでもここに留まり続けても良いことは無いと思って私は足早にこの場所を去ることにしたのだった。

 教室に戻った私にクラス中の視線が集まっていたのだけど、そんな事は気にせずに自分の席に戻ろうとしたところ、さっきまで座っていた椅子と違ってみんなと同じ椅子が置いてあった。
 私はその事を不思議に思っていたのだけど、背もたれがついている椅子の方が座りやすいんじゃないかなと思って気にしないことにした。
 机に書かれていた落書きも消えてみんなと同じ机になっていたのだ。机の横にかけていた鞄もそのままだったし机の中に入れていたノートや教科書もそのままだったので、こちらも気にしないことにした。
 相変わらずクラス中の視線が私に集まってはいるのだけど、誰も近寄ってくる気配はなかった。
 隣の人との距離がさっきより広がっているのもわかっていたんだけど、それも私は気にしたりなんてしない。
 日常生活を無難に送るためにはそうした方が良いという事を、私はちゃんと理解しているのだから。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...