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うまなちゃんのチョコレート工場

うまなちゃんのチョコレート工場 第六話

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 私がいつ元の世界に戻っても平気なように私そっくりな人が私の代わりに生活をしているとのことだ。前みたいにおばさん達の家にお世話になっているわけではなく、実家で暮らしているとのことなのだけど、私と違って周りにちゃんと馴染むことが出来て誰とでもそれなりに関わり合いを持つことが出来るそうなので何の問題も無く過ごしているそうだ。私の性格や今までの行動などから自己学習をしていたという話なのだが、私が今まで行っていた行動の全てが否定されているのかと思うくらい別人な私になっている。
 うまなちゃんに連れられて管理人室に入って行くと、そこには数台のモニターが並んでいるのだがその中の一台だけが工場とは別の場所を映し出していた。どこか見覚えのあるようなその場所はどこだったか思い出すのに少し時間がかかったのだけど、映し出された人物を見てどこだったか思い出してしまった。
 モニターに映し出された私は両親と一緒に食卓を囲んで何やら楽しそうに話をしているようだ。音声は聞こえないので何を言っているのかはわからないけど、あんなに楽しそうな顔をしている両輪の姿を見るのは小学校低学年まで遡るような気もしていた。普段見ることのない両親の笑顔を見て私は嫌な予感がしてきたのだ。楽しそうにしているのに嫌な予感がするというのも変な話ではあるが、モニターに映し出されている私の目の前にあるノートパソコンには毎日のように見ていた小説投稿サイトがハッキリと確認できたのだ。
 それを見た瞬間、私はこの映像が何を意味しているのか考えることを放棄してしまった。
「あっちの世界に私がいなくても大丈夫って言ってたじゃないですか。それに、あんな社交的な感じで過ごされてたら私が戻りづらいだけだと思うんですけど。何より、私が今までずっと親にも言っていなかった趣味で書いてる小説もみんなに宣言して堂々と宣伝してますよね。そういうの本当に困るんですけど」
 うまなちゃんもイザーさんも私がいつでも向こうに戻れるように居場所を作ってくれているのだと思う。それは完全に善意であってこれっぽっちも悪意が無いというのはわかるのだけど、あんな風に楽しそうに過ごすことなんて出来るはずが無い。そもそも、私は自分の書いている小説を身近な人に読んでほしくないのだ。
「こっちの世界に来て愛華ちゃんはみんなと楽しそうに話をしたりしてたじゃないか。向こうの世界にいる愛華ちゃんはその影響も受けて社交的になってるだけだと思うよ。自己学習で成長すると言っても元になっている愛華ちゃんが一番影響を与えてるんだからね。そんな風に思っていても意外とあんな感じになれるとは思うけどね。それに、向こうの世界にいる愛華ちゃんも大人になっている割には今の愛華ちゃんと胸の大きさが変わらないように見えるんだけど」
「胸の話は今は関係ないですよ。別に私もそこまで気にしているわけじゃないですし。そんな事よりも、向こうにいる私の事をおばさんや松本さんはどう思ってるんですか?」
「どうって言われてもね。普通に親戚の子とかクラスメートだった女の子って感じなんじゃないかな。一緒に過ごしていた時みたいに深い関係ではないと思うけど、会えば挨拶する程度の関係にはなれてると思うよ」
「それって、もともとそんな感じに思ってたって事ですか?」
「そうではないよ。向こうにいる愛華ちゃんはあくまでも私が作り出した愛華ちゃんの影武者だからね。人との関りだって必要最低限以上の事はしないようにさせてるんだよ。なぜって、影武者が愛華ちゃんの知らない誰かと深い関係になってしまったら向こうに戻った時に困ってしまうだろ。そうならないように人間として生きる上で最低限に必要な関係性を築くだけにとどめているんだよ」
「ちょっと考えさせてもらっても良いですか。なんだかわからないですけど、うまなちゃんのその言葉で私は何か深く考えないといけないような気がしてきたんですよ。ちょっとだけ待っててくださいね」
 うまなちゃんの話をまとめると、私がいつ向こうの世界に戻っても大丈夫なように影武者を用意してくれている。その影武者は私が戻った時に人間関係で困らないように必要最低限のコミュニケーションをとることにしているそうだ。必要最低限のコミュニケーションをとって過ごしていた結果、私の両親は私に見せた事のないような笑顔を見せてモニターの中の私と楽しそうに過ごしている。学校にいる時の映像も見せてもらったのだけれど、そこでもモニターの中の私は男女分け隔てなく楽しそうに過ごしてしまっている。
 つまり、向こうの世界に元々いた私は必要最低限のコミュニケーションすらとることが出来ていなかったという事になるのだろう。認めたくはないが、それは間違っていないと思う。
「はい、うまなちゃんが私のために色々とやってくれてたって事がわかってよかったよかった。さあ、このままこっちはこっちで楽しくやっていきましょう。チョコレート工場の事も気になるし、さっそく中に入ってチョコレートを作っているところを見せてくださいよ」
「なんか、ごめんね。私もさ、悪気はなかったんだ。良かれと思ってやったことだからね」
 確信は無いのだけれど、うまなちゃんは私の心を読むことが出来るっぽいんだった。それを思い出した瞬間に私は全身の毛穴が一気に開いてしまったような錯覚に陥ってしまった。悪いのは社交性のかけらも無かった私なのだから謝ってもらいたくないのだけれど、うまなちゃんだけではなくイザーさんも四天王の三人も私の事を申し訳なさそうな顔で見てくるのだ。
「だ、大丈夫だって。私は何も気にしてないから。ね、工場見学しましょ。久しぶりの工場見学楽しみだな。チョコレート工場なんて小さい時に行った白い恋人の工場以来かも。ワクワクしちゃうね」
「う、うん。そうだね」
 イザーさんは何とも言えない複雑な表情を浮かべていた。私は思わず視線をそらしてしまったのだけど、もう一度表情を確かめる勇気は持ち合わせていなかったのだった。
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