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うまなちゃんのチョコレート工場

うまなちゃんのチョコレート工場 第三話

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 イザーさんと一緒にチョコレート工場行きのバスに乗り込んだのだ。すでに乗客は何人か乗っているのだけれど、大人二人組というのは私とイザーさんだけのようだ。私もまだ高校生くらいの年齢なので大人かと言われたらそうですとは言えないけれど、このバスに乗っている子供たちに比べたら大人ではあると思う。
「大人同士の組み合わせって私達だけみたいですけど、ちょっと恥ずかしいですよね」
「そんな事ないと思いますよ。このバスに乗っているのは皆さん愛華ちゃんよりも年上の人達ばかりですから。見た目は福島君のお陰で若いというよりも幼くなっていますが、中身は皆おじさんやおばさんたちばかりですからね。たぶん、皆さん役になりきって子供っぽいところを見せてくると思いますけど、変に引いたり距離を取ろうとしたりしないでくださいね。そんな事をしてしまったら四天王さん達も現実に引き戻されて演じることが出来なくなってしまうかもしれないですからね」
 イザーさんと話しながらチラッとだけ後ろを見てみたのだけれど、どの人達もみんな子供っぽい感じでこれから向かうチョコレート工場に期待を膨らませているようだ。中にはテンションが上がってるのか私の知らない歌を歌っている子供もいるようだ。
「演じてくれるのはありがたいと思うんですけど、あんな風に歌まで歌われるとちょっと引きますよね。さすがにあそこまで子供っぽくするのは頭が本当に子どもになってるんじゃないかなって思っちゃいますよ」
 さっき私に注意したのは何だったんだろうという事が頭の中を駆け巡っていたのだけれど、それをあえて言わない方が今は良いのかと悩んでいた。イザーさんはそんな私の事なんて気にしないのかその後もしばらく四天王さん達の行っている子供であるというロールプレイについて否定的な意見を私に向かって投げかけてきたのだ。私は聞こえないふりをして外の景色を眺めていたのだけれど、どことなく外の景色が日本の山道のように思えて懐かしさを感じていた。
「外の景色は福島君が今まで描きためてきたのをうまなちゃんが適当に組み合わせてるんですよ。もしかしたら、愛華ちゃんの見慣れた場所とか出てくるかもしれないですね」
「そうだったんですか。何となく見たことがあるような景色だなって思って見てましたよ。お家もそうだったけど、やっぱり偽福島君も日本に思い入れがあるって事ですよね」
「福島君は日本の色々な場所を見てきてますからね。愛華ちゃんよりも日本に対する思い入れとかあるかもしれないですよ」
「そうかもしれないですね。私は実際に自分の目で見てきた景色より画面越しに見た景色の方が多いかもしれないですから」
「じゃあ、この景色が本当の日本かどうかもわからないってころですかね」
「でも、今見てる景色は日本っぽいなって思いますよ。ほら、道路に出てる看板とかお地蔵さんとかお城とか高床式倉庫とか。え、高床式倉庫にお城っていつの時代?」
 私は今まで通ってきた道を順番に思い出そうとしていた。当たり前のようにバスに乗って移動しているので気付かなかったのだけれど、外に見える景色は日本の原風景のように見えるのにどれもどこか時代を感じさせるような建物ばかりなのだ。あまり詳しくはないけど歴史の教科書で見かけたような建物やおじいちゃんが見ていた時代劇に出てくるような建物ばかりなような気がしている。さっき見えたお城も今見えているお茶屋さんも観光地になら有りそうな建物ばかりが並んでいるのだ。
「前に福島君から聞いていたんですけど、日本の人って歩いて旅をする事もあったんですってね。その時にふと立ち寄っただんご屋で休憩するのがたまらなく幸せだって聞いてるんですよ。愛華ちゃんはそういう経験ってあるんですか?」
「いや、そういう経験はないですね。そもそも、私が住んでる日本では歩いて旅をするとか一般的じゃないと思いますよ。今みたいにバスに乗ったり電車を使ったり飛行機を使ったりして移動すると思います」
「やっぱりそうなんですね。福島君もそれは知ってると思うんですけど、やっぱり一番長くいた時代の事が印象に残っちゃうんでしょうね」
 偽福島君は色々な絵を描くことが出来るから凄いなとは思っていたんだけど、今のイザーさんの言い方だと偽福島君は色々な時代を見てきたと言ってるように感じてしまう。たぶん、イザーさんもうまなちゃんも私に対して嘘なんてつかないと思うんだけど、偽福島君が色々な時代を渡り歩いているという事を信じるだけの理由が無いのだ。あの時間と空間を超えることが出来る車を使えばそれも可能なのかもしれないけど、そんな頻繁に使うことが出来るのだろうか。そもそも、そんなに時間を移動していたとしても、偽福島君の見た目が若すぎると思うのだ。何十年も旅をしているような人の見た目ではない。
「もう少しでチョコレート工場に着くみたいだけど、愛華ちゃんは確認しておきたいことってあるかな?」
「特にこれと言って思い浮かぶことは無いですね。気になることは色々ありますけど、あとでじっくり聞いてみたいと思います」
「その言い方はちょっと怖いけど、私に答えられることだったら何でも答えるよ」
 バスの正面にうまなちゃんのチョコレート工場が見えてきた。私が想像していたよりも大きな工場は派手な金色の看板がいくつも設置されていて物凄い自己顕示欲にまみれている建物であった。
 ここまで派手な建物なのに近くに誰もすんでいないような山を越えた場所にあるのは何故なのだろうかという疑問もあったのだが、そんな事は気にする必要も無いと思えるくらいにバスの中を満たす甘い匂いに期待は膨らむばかりであった。この世界に来て初めて嗅いだのではないかと思えるくらい甘い匂いに包まれて幸せな気持ちになっていたのであった。
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