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プロローグ
第八話 福島まさはる君もいるそうです
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私と話をしたいという連絡だという事を忘れて私の両親は大喜びしていたのだけれど、おばさんにその事を冷静に指摘された両親は気恥ずかしそうな顔で大人しくしていた。
あれから何度かメールのやり取りをして投稿サイトの人と会う事が決まったのだけれど、残念な事に私の両親もおばさんも佳乃さんもどうしても外せない用事があったのだ。両親とおばさんは重要な仕事でどうしても私について行くことが出来ず、佳乃さんも本命企業の役員面接がある日だという事で余計な負担をかけることは出来なかった。
ちょっと不安ではあったけれど、私は一人で指定された場所まで行くことにしたのだ。街中にあるホテルの二階にある中華レストランで待ち合わせをする事になったのだが、私はいったいどんな服で行けばいいのかわからなくて困っていた。
「これとこれとこれの中から好きなの着てっていいよ。昔私が着てたやつなんだけど、愛華ちゃんくらいの身長だったら違和感なく切れると思うし、気に入ったら全部上げるから好きなの着て良いからね」
私はその中から一番大人っぽいと思った服を着てみたのだけれど、おばさんも佳乃さんも似合っていると言ってくれた。大事な仕事や面接を控えて忙しいはずの二人が私のために少しでも時間を使ってくれたことが嬉しくなってちょっとだけ泣きそうになっていた。
二人を見送った後に軽く掃除をして約束の中華レストランに向かおうと思ったのだけれど、コタローはどうすればいいんだろう。ずっと一緒にいてわかったのだけれど、コタローは極度の寂しがり屋で私がちょっとトイレに行っただけでも大騒ぎしてしまうのだ。約束があるからと言ってコタローを残していってしまってもいいのだろうか。私がいなくなったと知ったコタローは部屋の中を荒したりしないだろうか。そんな不安はあったのだけれど、コタローは自分からケージの中へと入って行ってしまった。その姿は私に対して前に進めと言ってくれているようで心強かった。
初めて入ったホテルの二階にある中華レストランは私が想像していたよりもずっと豪華で何もかもが高そうに見えてきた。料理のサンプルはあっても値段が書いていないところに不安を覚えたのだけれど、私は何か食べに来たわけではないので値段は気にしなくてもいいだろう。飲み物くらいだったら出せると思うし、お金が足りなかったらお母さんに助けを求めればいいだろう。
受付の人に待ち合わせをしている事を伝えると、係の人が奥からやってきて私を一番奥の個室へと案内してくれた。そのまま案内してくれた人が個室の扉をノックすると中に入るように促されたので、私はそれしたがって中へ入ることにした。
個室の中央にはテレビで見たことがある回るテーブルがあって、その上にはいったい誰がこんなに食べるんだろうという量の料理が並んでいた。そのどれもが美味しそうではあるのだけれど、私はここに料理を食べに来たわけではない。私の話を聞きたいと言われたからやってきたのだ。それにしても、食欲を刺激する匂いが私の事をずっと襲い続けている。
「どうも、初めまして。鈴木さんでよろしいですよね?」
「あ、あ、あ、はい。す、鈴木です」
料理に気を取られているタイミングでいきなり話しかけられたのでテンパってしまって変な受け答えになってしまった。いきなり話しかけられたことでもテンパっていたのだけれど、それ以上に知らない男性から話しかけられたことでテンパっていたのだ。だが、そんな私を何とも思っていないのか、男性は名刺を差し出してきて私に席に座るように促してきた。私は受け取った名刺を手に持ったままどうしていいのかわからなかったのだけど、促されるまま席に着いたのだが、出来立ての料理との距離が一気に近付いたこともあってお腹が反応してしまった。
「お好きなものがあればいくらでも召し上がっていただいて大丈夫ですよ。この料理は来ていただいたお礼でもありますからね」
「ありがとうございます。えっと、座らないんですか?」
「はい、私はあくまでもお嬢様の付き添いで来ていますのでお気になさらないでください」
お嬢様って言ったけど、私はお嬢様ではないしいったい何の話なんだろう。あらためてもらった名刺を見てみたのだけれど、私の知らない言語で書かれているという事もあって全く理解出来なかった。名前も読めないし、不思議な事に電話番号と思わしき場所に書いていある数字も私の知らないものであった。
「あの、すいません。頂いた名刺なんですけど、ちょっと私では読めないんです」
「申し訳ございません。こちらの世界用のをあらためてお渡しいたします」
そう言って新しく名刺を頂いたのだが、その名刺には中央に『執事』とだけ書かれていた。何かの冗談かと思って裏面も見てみたのだけれど、何か書かれていなかったのだ。
お腹もすいてきたし出来立ての料理を放置するのも申し訳ないと思うので、私は箸と取り皿を手に持って何を食べようか迷っていた。エビチリも美味しそうだけど、春巻きも美味しそうなのよね。唐揚げも魚料理もどれも美味しそうで選べなかったのだが、そんな私を急かすように扉が大きく開くとそこには若い女性が立っていた。年齢的には佳乃さんとあまり変わらない感じだと思うのだけど、どこか気品があるように感じていた。
「あなたが私のサイトにあんなにたくさん小説を送ってくれた人なのね。何作品か送ってくれた人は今までもいたんだけどいきなりあんなにたくさん送ってくる人なんていなかったんで驚いたわ。今日はそのお礼も兼ねてこのレストランを指定したのよ。さあ、迷っている暇なんて無いのよ。熱々を食べないとこの料理を作ってくれた人にも申し訳ないし。イザーもいつまでもそんなところになってないで一緒に食べるわよ。こっちの世界の料理なんて滅多に食べることが出来ないんだし、この味を覚えてもらって作ってもらう必要があるんですからね。私のためにも一番美味しい状態で料理を味わいなさいよ」
とても三人で食べきれるような量ではなかったと思うんだけど、いつの間にかテーブルの上の料理は全て綺麗になっていた。食後のお茶を飲みながら幸せそうな顔で首を横に振っている姿は子供みたいで可愛いなと思ったんだけど、どう見ても私よりは年上なのよね。料理を食べ終わった今、一体何が始まるんだろう。
「さ、お腹もいっぱいになったことだし、あなたには聞きたいことが色々あるんで質問をさせてもらうわね。あなたって、普段は何してるの?」
「普段ですか。おばさんの家に居候をして掃除とか洗濯をして犬の遊び相手になっています」
「よくわからないけど、まあいいわ。あれだけの量の小説を書くのって大変じゃなかった?」
「書き始めるまでは大変だったかもしれないですけど、いったん書き出したら大変ではなかったです。自分が考えてたのと違う感じになってやめたのもあるんですけど、それはそれで勉強になったと思ってます」
「これからもあれくらいの量の小説を書く自信ってあるかな?」
「時間があれば書くと思います。でも、アルバイトが出来る年齢になったらそっちを頑張るかもしれないです」
「ふーん、そうなのね。わかったわ。これからも小説を書く可能性があるって事は素晴らしいわ。今はおばさんの家に居候してるって言ってたけど、私のところに住んで私のために小説を書いてくれないかしら。もちろんタダとは言わないわ」
「嬉しいお話だと思うんですけど、私は未成年なんでそういう事は自分の意思で決めちゃダメだって言われてるんです。保証人だって必要ですよね?」
「意外としっかりしてるのね。そんな風に見えないから意外だわ。でも、あなたの言う通りよね。あなたの前に誘った福島まさはるって男は即決だったのにね」
ん、なんで今福島君の名前が出たんだろう。福島君も小説を書いて投稿してたって事なのかな。そんな話は聞いた事なかったし、それならそれで教えてくれてもいいのになって思うよね。
「あの、福島君も小説を投稿してたんですか?」
「小説ではないわよ。イラストを描いて送ってくれてたわよね?」
「そうですね。福島様は様々なイラストを描いて投稿してくださいましたよ」
福島君がイラストを描けるなんて知らなかったな。今度はエッチな話じゃなくて普通の話を書くんで、福島君にその作品のイラストをお願いしてみようかな。
「よかったら、見学だけでもしに来てみないかな。どんな環境か見ておくのだけでもいい事だと思うんだけど、そこのところを考えてもらえないかな」
「見学ならいきます。ちょっと気になってるんで行きたいです」
「急に食いついてきたんでビックリしたけど、見学をするのは大事だよな。その前に、ケーキを一つ買いに行くことにしよう。君の分も買ってあげるから好きなのを選んでくれていいからね」
思いがけないところで福島君と再会が出来ると考えると、緊張で胸が苦しくなってくる。昨日も今朝もここに来る直前も緊張はしていたけれど、ずっと会っていなかった福島君に会えるかもしれないと思うと、胸の鼓動は少しずつ早くなっていっているのであった。
あれから何度かメールのやり取りをして投稿サイトの人と会う事が決まったのだけれど、残念な事に私の両親もおばさんも佳乃さんもどうしても外せない用事があったのだ。両親とおばさんは重要な仕事でどうしても私について行くことが出来ず、佳乃さんも本命企業の役員面接がある日だという事で余計な負担をかけることは出来なかった。
ちょっと不安ではあったけれど、私は一人で指定された場所まで行くことにしたのだ。街中にあるホテルの二階にある中華レストランで待ち合わせをする事になったのだが、私はいったいどんな服で行けばいいのかわからなくて困っていた。
「これとこれとこれの中から好きなの着てっていいよ。昔私が着てたやつなんだけど、愛華ちゃんくらいの身長だったら違和感なく切れると思うし、気に入ったら全部上げるから好きなの着て良いからね」
私はその中から一番大人っぽいと思った服を着てみたのだけれど、おばさんも佳乃さんも似合っていると言ってくれた。大事な仕事や面接を控えて忙しいはずの二人が私のために少しでも時間を使ってくれたことが嬉しくなってちょっとだけ泣きそうになっていた。
二人を見送った後に軽く掃除をして約束の中華レストランに向かおうと思ったのだけれど、コタローはどうすればいいんだろう。ずっと一緒にいてわかったのだけれど、コタローは極度の寂しがり屋で私がちょっとトイレに行っただけでも大騒ぎしてしまうのだ。約束があるからと言ってコタローを残していってしまってもいいのだろうか。私がいなくなったと知ったコタローは部屋の中を荒したりしないだろうか。そんな不安はあったのだけれど、コタローは自分からケージの中へと入って行ってしまった。その姿は私に対して前に進めと言ってくれているようで心強かった。
初めて入ったホテルの二階にある中華レストランは私が想像していたよりもずっと豪華で何もかもが高そうに見えてきた。料理のサンプルはあっても値段が書いていないところに不安を覚えたのだけれど、私は何か食べに来たわけではないので値段は気にしなくてもいいだろう。飲み物くらいだったら出せると思うし、お金が足りなかったらお母さんに助けを求めればいいだろう。
受付の人に待ち合わせをしている事を伝えると、係の人が奥からやってきて私を一番奥の個室へと案内してくれた。そのまま案内してくれた人が個室の扉をノックすると中に入るように促されたので、私はそれしたがって中へ入ることにした。
個室の中央にはテレビで見たことがある回るテーブルがあって、その上にはいったい誰がこんなに食べるんだろうという量の料理が並んでいた。そのどれもが美味しそうではあるのだけれど、私はここに料理を食べに来たわけではない。私の話を聞きたいと言われたからやってきたのだ。それにしても、食欲を刺激する匂いが私の事をずっと襲い続けている。
「どうも、初めまして。鈴木さんでよろしいですよね?」
「あ、あ、あ、はい。す、鈴木です」
料理に気を取られているタイミングでいきなり話しかけられたのでテンパってしまって変な受け答えになってしまった。いきなり話しかけられたことでもテンパっていたのだけれど、それ以上に知らない男性から話しかけられたことでテンパっていたのだ。だが、そんな私を何とも思っていないのか、男性は名刺を差し出してきて私に席に座るように促してきた。私は受け取った名刺を手に持ったままどうしていいのかわからなかったのだけど、促されるまま席に着いたのだが、出来立ての料理との距離が一気に近付いたこともあってお腹が反応してしまった。
「お好きなものがあればいくらでも召し上がっていただいて大丈夫ですよ。この料理は来ていただいたお礼でもありますからね」
「ありがとうございます。えっと、座らないんですか?」
「はい、私はあくまでもお嬢様の付き添いで来ていますのでお気になさらないでください」
お嬢様って言ったけど、私はお嬢様ではないしいったい何の話なんだろう。あらためてもらった名刺を見てみたのだけれど、私の知らない言語で書かれているという事もあって全く理解出来なかった。名前も読めないし、不思議な事に電話番号と思わしき場所に書いていある数字も私の知らないものであった。
「あの、すいません。頂いた名刺なんですけど、ちょっと私では読めないんです」
「申し訳ございません。こちらの世界用のをあらためてお渡しいたします」
そう言って新しく名刺を頂いたのだが、その名刺には中央に『執事』とだけ書かれていた。何かの冗談かと思って裏面も見てみたのだけれど、何か書かれていなかったのだ。
お腹もすいてきたし出来立ての料理を放置するのも申し訳ないと思うので、私は箸と取り皿を手に持って何を食べようか迷っていた。エビチリも美味しそうだけど、春巻きも美味しそうなのよね。唐揚げも魚料理もどれも美味しそうで選べなかったのだが、そんな私を急かすように扉が大きく開くとそこには若い女性が立っていた。年齢的には佳乃さんとあまり変わらない感じだと思うのだけど、どこか気品があるように感じていた。
「あなたが私のサイトにあんなにたくさん小説を送ってくれた人なのね。何作品か送ってくれた人は今までもいたんだけどいきなりあんなにたくさん送ってくる人なんていなかったんで驚いたわ。今日はそのお礼も兼ねてこのレストランを指定したのよ。さあ、迷っている暇なんて無いのよ。熱々を食べないとこの料理を作ってくれた人にも申し訳ないし。イザーもいつまでもそんなところになってないで一緒に食べるわよ。こっちの世界の料理なんて滅多に食べることが出来ないんだし、この味を覚えてもらって作ってもらう必要があるんですからね。私のためにも一番美味しい状態で料理を味わいなさいよ」
とても三人で食べきれるような量ではなかったと思うんだけど、いつの間にかテーブルの上の料理は全て綺麗になっていた。食後のお茶を飲みながら幸せそうな顔で首を横に振っている姿は子供みたいで可愛いなと思ったんだけど、どう見ても私よりは年上なのよね。料理を食べ終わった今、一体何が始まるんだろう。
「さ、お腹もいっぱいになったことだし、あなたには聞きたいことが色々あるんで質問をさせてもらうわね。あなたって、普段は何してるの?」
「普段ですか。おばさんの家に居候をして掃除とか洗濯をして犬の遊び相手になっています」
「よくわからないけど、まあいいわ。あれだけの量の小説を書くのって大変じゃなかった?」
「書き始めるまでは大変だったかもしれないですけど、いったん書き出したら大変ではなかったです。自分が考えてたのと違う感じになってやめたのもあるんですけど、それはそれで勉強になったと思ってます」
「これからもあれくらいの量の小説を書く自信ってあるかな?」
「時間があれば書くと思います。でも、アルバイトが出来る年齢になったらそっちを頑張るかもしれないです」
「ふーん、そうなのね。わかったわ。これからも小説を書く可能性があるって事は素晴らしいわ。今はおばさんの家に居候してるって言ってたけど、私のところに住んで私のために小説を書いてくれないかしら。もちろんタダとは言わないわ」
「嬉しいお話だと思うんですけど、私は未成年なんでそういう事は自分の意思で決めちゃダメだって言われてるんです。保証人だって必要ですよね?」
「意外としっかりしてるのね。そんな風に見えないから意外だわ。でも、あなたの言う通りよね。あなたの前に誘った福島まさはるって男は即決だったのにね」
ん、なんで今福島君の名前が出たんだろう。福島君も小説を書いて投稿してたって事なのかな。そんな話は聞いた事なかったし、それならそれで教えてくれてもいいのになって思うよね。
「あの、福島君も小説を投稿してたんですか?」
「小説ではないわよ。イラストを描いて送ってくれてたわよね?」
「そうですね。福島様は様々なイラストを描いて投稿してくださいましたよ」
福島君がイラストを描けるなんて知らなかったな。今度はエッチな話じゃなくて普通の話を書くんで、福島君にその作品のイラストをお願いしてみようかな。
「よかったら、見学だけでもしに来てみないかな。どんな環境か見ておくのだけでもいい事だと思うんだけど、そこのところを考えてもらえないかな」
「見学ならいきます。ちょっと気になってるんで行きたいです」
「急に食いついてきたんでビックリしたけど、見学をするのは大事だよな。その前に、ケーキを一つ買いに行くことにしよう。君の分も買ってあげるから好きなのを選んでくれていいからね」
思いがけないところで福島君と再会が出来ると考えると、緊張で胸が苦しくなってくる。昨日も今朝もここに来る直前も緊張はしていたけれど、ずっと会っていなかった福島君に会えるかもしれないと思うと、胸の鼓動は少しずつ早くなっていっているのであった。
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