13 / 15
13.王弟
しおりを挟む「え? お、おい、リリアナか!?」
「アーロンさん……ですよね」
急すぎる再会に、ふたりは言葉を失う。
それを見ていたセオドラは、驚いた顔で言った。
「叔父上、リリアナとお知り合いなのですか」
「お知り合いもなにも、俺の仲間だ。新米だったリリアナが心配でついて行った先で、俺がこいつに助けけられたんだよ。おいおい、まさかこんなところで会うなんてなあ」
「アローンさんって、もしかしてこの国の――」
リリアナが口に出す前に、アーロンはニカッと笑って彼女の頭を撫でた。
「そうだ、王弟だ。王弟ってのは国にとって邪魔だろうし、いっちょ冒険者としてやってやろうってね」
「全然気づきませんでした」
「あたりめぇよ、マデリンにもまだ話せてねえ」
セオドラはとても仲良さげなふたりを見て、心が陰ってゆくのを感じる。
「叔父上といえども、この国の恩人の頭を撫でつけるなど――」
「おっ、嫉妬か?」
余裕がありそうなアーロンの姿に、セオドラは焦りを強める。
リリアナが、叔父上の大人の魅力に惹かれていたらどうしよう、と。
もちろん当のリリアナは、アーロンが”居酒屋麦のジュース”のマデリンとイイ感じなのを知っていたから、そんなつもりは一切なかった。
「ちょっと、リリアナをふたり占めしないでください」
「そうですわ! いくらお兄様と叔父様だからって、わたくしたち怒るわよ!」
ずっと無視されてライムをぷにぷに触っていた兄弟まで、この”リリアナ争奪戦”に参戦しだした。
セオドラは溜息をつく。
「あら? リリアナ!」
ふと、皆が集まる中庭にホーリーが迷い込んできた。
「今日はいい天気だから、お茶でもいかが……はっ!?」
のんきにもお茶に誘いに来たらしいホーリーは、現状を把握して冷や汗を流す。
なにより、あの悪魔兄弟がいる! 逃げなくては! と、ホーリーはいつかのように逃げ出そうとしている。
「ねえ、リリアナ、話の続きは?」
しかし、兄弟はリリアナにべったりなついている。
ホーリーは少し落ち着き、手持ちのハンカチで汗をふき取って、リリアナの方を見た。
「これは、どういう状況なんですの――?」
「ま、リリアナじゃない。こんなところでどうしたのかしら」
すると今度は、王妃まで現れた。
「久しいな、リリアナ。ローレルが君のおかげで元気になって、感謝しているよ」
国王もセットで。
「こ、これは……!」
セオドラは、なんとも奇妙な光景を目にし、驚きを越えてあっけにとられた。
リリアナはこの国を救ってくれた恩人だ。
しかしそのうえ、この短期間で、気難しいはずの王妃に気に入られ、高飛車少女のホーリーを手なずけ、扱いが面倒な王女と第二王子にまでなつかれている。
極めつけは、アーロンだ。
セオドラのことを自分の息子のように想う彼は、過保護にもセオドラに近づく女に吠えかかっていた。それなのに、実ににこやかに会話しているではないか。
「まずい……」
この国でリリアナと一番近しいのは自分だと思って、完全に油断していた。
「リリアナ、わたくしのお抱え侍女にならないかしら?」
「え! お母さま、それはずるいわ! わたくしの教育係にして!」
「おいおい、リリアナは俺とドーバン王国に戻って冒険者になるんだぞ」
みな、リリアナを自分の近くに置こうとしている。
これはよろしくない。
「――――ん?」
セオドラは思った。これはむしろ、好機ではないか? と。
*
「叔父上、あなたはリリアナのことをどう思っているのですか」
その日の夜、皆が寝静まったころに、王子はアーロンの部屋にいた。
リリアナについてどう思っているのかを聞き、答えによっては”計画”に協力してもらおう、という魂胆だった。
「はは、気になって寝られなかったか。おまえもまだ若いな」
茶化すアーロンに、セオドラは質問の答えを催促する。
「当たり前だが、恋愛感情なんてもってねえぞ。俺が若く見られるっても、さすがに三十も年下をそんな目で見れねえだろ」
その答えにセオドラは安堵する。
一番脅威になりえたのは、この叔父だったからだ。
「分かりやすいなあ、セオドラ。いいか。俺には心に決めた女がいるんだ。今回帰ってきたのも、アイツとの距離を進めるために王国と縁を切ろうと思ったからだ。それから、戦後の呪いを確認するためだな」
「そうだったのですね。ついてっきり」
セオドラは続けて、リリアナがこの国に来た経緯を詳しく説明した。
「おまえがさらっていったのか!」
「そんな人聞きの悪い……」
しかしアーロンの言い分ももっともではある。
なにも残さずに消えてしまったリリアナを、アーロンやマデリン、それからその他の冒険者たちもみんな心配していたからだ。
「それにしても、リリアナがあの国の聖女か。確かに納得だ」
リリアナの出自を聞いたアーロンは頷く。
「しかも、国の呪いを救ってくれた? とんでもねえ。頭が上がらんな」
「そこで叔父上に相談があるのですが――――――」
アーロンは王子の”計画”を聞き、大きな声で笑い転げた。
「……ったく、仕方ねえなあ。可愛い甥っ子のために、一肌脱ぐか」
「本当ですか!」
セオドラは喜びの声をあげた。
その”計画”は、王妃の耳にも入り、ホーリーにも共有され、さらには第二王子と王女の協力も仰ぐことになった。
国王は着々と進められるその計画を見て、知らないうちにこんなにも囲い込まれているリリアナを少し不憫に思った。
もちろんリリアナは、自分の人生にかかわる”計画”が、じわじわと着実に進んでいることを知る由もない。
0
お気に入りに追加
322
あなたにおすすめの小説
義妹が本物、私は偽物? 追放されたら幸せが待っていました。
みこと。
恋愛
その国には、古くからの取り決めがあった。
"海の神女(みこ)は、最も高貴な者の妃とされるべし"
そして、数十年ぶりの"海神の大祭"前夜、王子の声が響き渡る。
「偽神女スザナを追放しろ! 本当の神女は、ここにいる彼女の妹レンゲだ」
神女として努めて来たスザナは、義妹にその地位を取って変わられ、罪人として国を追われる。彼女に従うのは、たった一人の従者。
過酷な夜の海に、スザナたちは放り出されるが、それは彼女にとって待ち望んだ展開だった──。
果たしてスザナの目的は。さらにスザナを不当に虐げた、王子と義妹に待ち受ける未来とは。
ドアマットからの"ざまぁ"を、うつ展開なしで書きたくて綴った短編。海洋ロマンス・ファンタジーをお楽しみください!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
不憫なままではいられない、聖女候補になったのでとりあえずがんばります!
吉野屋
恋愛
母が亡くなり、伯父に厄介者扱いされた挙句、従兄弟のせいで池に落ちて死にかけたが、
潜在していた加護の力が目覚め、神殿の池に引き寄せられた。
美貌の大神官に池から救われ、聖女候補として生活する事になる。
母の天然加減を引き継いだ主人公の新しい人生の物語。
(完結済み。皆様、いつも読んでいただいてありがとうございます。とても励みになります)
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話
みっしー
恋愛
病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。
*番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
四度目の正直 ~ 一度目は追放され凍死、二度目は王太子のDVで撲殺、三度目は自害、今世は?
青の雀
恋愛
一度目の人生は、婚約破棄され断罪、国外追放になり野盗に輪姦され凍死。
二度目の人生は、15歳にループしていて、魅了魔法を解除する魔道具を発明し、王太子と結婚するもDVで撲殺。
三度目の人生は、卒業式の前日に前世の記憶を思い出し、手遅れで婚約破棄断罪で自害。
四度目の人生は、3歳で前世の記憶を思い出し、隣国へ留学して聖女覚醒…、というお話。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
婚約破棄された真の聖女は隠しキャラのオッドアイ竜大王の運命の番でした!~ヒロイン様、あなたは王子様とお幸せに!~
白樫アオニ(卯月ミント)
恋愛
「私、竜の運命の番だったみたいなのでこのまま去ります! あなたは私に構わず聖女の物語を始めてください!」
……聖女候補として長年修行してきたティターニアは王子に婚約破棄された。
しかしティターニアにとっては願ったり叶ったり。
何故なら王子が新しく婚約したのは、『乙女ゲームの世界に異世界転移したヒロインの私』を自称する異世界から来た少女ユリカだったから……。
少女ユリカが語るキラキラした物語――異世界から来た少女が聖女に選ばれてイケメン貴公子たちと絆を育みつつ魔王を倒す――(乙女ゲーム)そんな物語のファンになっていたティターニア。
つまりは異世界から来たユリカが聖女になることこそ至高! そのためには喜んで婚約破棄されるし追放もされます! わーい!!
しかし選定の儀式で選ばれたのはユリカではなくティターニアだった。
これじゃあ素敵な物語が始まらない! 焦る彼女の前に、青赤瞳のオッドアイ白竜が現れる。
運命の番としてティターニアを迎えに来たという竜。
これは……使える!
だが実はこの竜、ユリカが真に狙っていた隠しキャラの竜大王で……
・完結しました。これから先は、エピソードを足したり、続きのエピソードをいくつか更新していこうと思っています。
・お気に入り登録、ありがとうございます!
・もし面白いと思っていただけましたら、やる気が超絶跳ね上がりますので、是非お気に入り登録お願いします!
・hotランキング10位!!!本当にありがとうございます!!!
・hotランキング、2位!?!?!?これは…とんでもないことです、ありがとうございます!!!
・お気に入り数が1700超え!物凄いことが起こってます。読者様のおかげです。ありがとうございます!
・お気に入り数が3000超えました!凄いとしかいえない。ほんとに、読者様のおかげです。ありがとうございます!!!
・感想も何かございましたらお気軽にどうぞ。感想いただけますと、やる気が宇宙クラスになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる