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第一章
15.兄妹の会話 その2
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「ちょっと、お兄様! 開けてください、開けてったら!」
観楓夜会も終わり、もう夜中と言っても差し支えない時分。
クリステルは怒りに身を任せ、ノルベルトの部屋の扉を叩いていた。
「もう、なに」
ノルベルトは嫌々扉を開け、嫌々顔を出した。
クリステルはそんなことお構いなしに兄の部屋へと突入する。
「僕も忙しいんだよ」
「忙しい? 忙しいひとが妹とお友達のお出かけやお茶会についてきませんわよ、普通!」
クリステルは腰に手を当て、兄を叱り飛ばしている。
ノルベルトはやれやれと呆れたようにクリステルを見るが、話は聞いてくれるらしい。身体をクリステルのほうに向けた。
「もしやと思ってはいたけれど、まさか本当にエルフリーデを狙っていたなんて!」
「なにか不都合でもあるのかい」
「エルフリーデは、わたくしが先に見つけたんですの! 後から現れたお兄様には渡しませんわ」
ノルベルトはそれを聞くと眉を寄せた。
不服そうな声で、妹に言う。
「見つけたのは僕が先だ」
「寝言は寝てから言ってちょうだい! わたくしだったでしょ!」
「いや、僕だ。確かに知り合いになったのはクリステルが先だよ、認める。でも僕はそのもっともっと前からエルフリーデのことを――」
いつになく真剣なノルベルトを見て、クリステルはハッとした。
「もしかして、心に決めた方というのは……」
おそるおそるといった様子で尋ねてくるクリステルに、ノルベルトは大きく頷いてみせた。
「エルフリーデのことだよ」
「そんな、そんなこと認めませんわよ! エルフリーデはわたくしのお友達。お兄様のお嫁さんにはさせませんわ!」
ノルベルトは大きくため息をつく。
どうすればこの妹を出し抜くことができるか。
どうすれば、自分がエルフリーデと結ばれるのに協力させることができるか。
ノルベルトはぐるぐると頭を回す。
「お兄様! 今後、わたくしとエルフリーデとのお出かけについてくることを禁止しますわ」
「クリステル」
ノルベルトは思いついた。
クリステルを言いくるめる方法を。
「僕とじゃなくても、いつかエルフリーデは結婚するんだよ。まったくの他人と結婚してしまったら、クリステルと会ってくれる時間は減ってしまうんじゃないかな?」
「……」
クリステルは突然大人しくなり、黙ってノルベルトの話を聞く。
若干下を向いて、唇をとがらせている。
「そうだろう? 子供ができればそっちにかかりっきりになって、クリステルと遊んでる時間は無くなる」
「……」
「そこで、クリステルの兄である僕が、エルフリーデと結婚するんだよ」
クリステルは顔を上げた。
期待に満ち溢れた顔をしている。
「するとどうなると思う?」
「義理の妹として……、もっと一緒にいられる時間が増えますわ!」
ノルベルトはしめしめ、と思う。
顔は爽やかな兄を装って。
「そうだろう。子供ができても、クリステルが一緒にお世話してくれれば、エルフリーデだって喜ぶんじゃないかな」
「……!」
クリステルはいよいよ喜びを抑えきれないようで、にぱぁっと笑った。
「もし、どこぞの知らない男とエルフリーデが結婚したら……大変だろ?」
「そうですわね。それなら、お兄様と結婚するのが一番だわ!」
「うんうん。僕のこと、応援してくれるね?」
クリステルは迷わず言った。
「もちろんよ!」
ノルベルトは、そんな妹を生ぬるい目で見つめる。
こんなに簡単に騙されて、言いくるめられて、我が妹は大丈夫なのだろうかと。
しかしそれは、エルフリーデを手に入れるために妹すら言いくるめるノルベルトが言えた口ではなかった。
観楓夜会も終わり、もう夜中と言っても差し支えない時分。
クリステルは怒りに身を任せ、ノルベルトの部屋の扉を叩いていた。
「もう、なに」
ノルベルトは嫌々扉を開け、嫌々顔を出した。
クリステルはそんなことお構いなしに兄の部屋へと突入する。
「僕も忙しいんだよ」
「忙しい? 忙しいひとが妹とお友達のお出かけやお茶会についてきませんわよ、普通!」
クリステルは腰に手を当て、兄を叱り飛ばしている。
ノルベルトはやれやれと呆れたようにクリステルを見るが、話は聞いてくれるらしい。身体をクリステルのほうに向けた。
「もしやと思ってはいたけれど、まさか本当にエルフリーデを狙っていたなんて!」
「なにか不都合でもあるのかい」
「エルフリーデは、わたくしが先に見つけたんですの! 後から現れたお兄様には渡しませんわ」
ノルベルトはそれを聞くと眉を寄せた。
不服そうな声で、妹に言う。
「見つけたのは僕が先だ」
「寝言は寝てから言ってちょうだい! わたくしだったでしょ!」
「いや、僕だ。確かに知り合いになったのはクリステルが先だよ、認める。でも僕はそのもっともっと前からエルフリーデのことを――」
いつになく真剣なノルベルトを見て、クリステルはハッとした。
「もしかして、心に決めた方というのは……」
おそるおそるといった様子で尋ねてくるクリステルに、ノルベルトは大きく頷いてみせた。
「エルフリーデのことだよ」
「そんな、そんなこと認めませんわよ! エルフリーデはわたくしのお友達。お兄様のお嫁さんにはさせませんわ!」
ノルベルトは大きくため息をつく。
どうすればこの妹を出し抜くことができるか。
どうすれば、自分がエルフリーデと結ばれるのに協力させることができるか。
ノルベルトはぐるぐると頭を回す。
「お兄様! 今後、わたくしとエルフリーデとのお出かけについてくることを禁止しますわ」
「クリステル」
ノルベルトは思いついた。
クリステルを言いくるめる方法を。
「僕とじゃなくても、いつかエルフリーデは結婚するんだよ。まったくの他人と結婚してしまったら、クリステルと会ってくれる時間は減ってしまうんじゃないかな?」
「……」
クリステルは突然大人しくなり、黙ってノルベルトの話を聞く。
若干下を向いて、唇をとがらせている。
「そうだろう? 子供ができればそっちにかかりっきりになって、クリステルと遊んでる時間は無くなる」
「……」
「そこで、クリステルの兄である僕が、エルフリーデと結婚するんだよ」
クリステルは顔を上げた。
期待に満ち溢れた顔をしている。
「するとどうなると思う?」
「義理の妹として……、もっと一緒にいられる時間が増えますわ!」
ノルベルトはしめしめ、と思う。
顔は爽やかな兄を装って。
「そうだろう。子供ができても、クリステルが一緒にお世話してくれれば、エルフリーデだって喜ぶんじゃないかな」
「……!」
クリステルはいよいよ喜びを抑えきれないようで、にぱぁっと笑った。
「もし、どこぞの知らない男とエルフリーデが結婚したら……大変だろ?」
「そうですわね。それなら、お兄様と結婚するのが一番だわ!」
「うんうん。僕のこと、応援してくれるね?」
クリステルは迷わず言った。
「もちろんよ!」
ノルベルトは、そんな妹を生ぬるい目で見つめる。
こんなに簡単に騙されて、言いくるめられて、我が妹は大丈夫なのだろうかと。
しかしそれは、エルフリーデを手に入れるために妹すら言いくるめるノルベルトが言えた口ではなかった。
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