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【本章】異端と天災の力比べ

【7】放電

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「お前、なんなんだよ……!」

目の前に立つ吉野の大きく聳え立つ山のような背中越しに、赤毛の男の驚愕に満ちた声が聞こえた。

白い枝みたいな電流がブワッと広がったその時、近くにいた吉野を巻き込む大きさの“消滅分子の壁”を創った。
だから、奴の体は半球体状にごっそり削ぎ取られているか、電撃によってボロボロになっているか、そのどちらも、の筈だった。

しかし、予想を裏切って傷一つない平然とした様子の男。

(なんだこの男!)

ゾクッと、能力が戻ってから初めての悪寒を感じた。



「……あんた、さ。

確かに創始さんも挑発みたいなこと言ったけど、ここまでする必要はねーだろ。

もう、やめろよ」

言い聞かせるように一言一言ゆっくり区切って言った吉野。
怒気は感じられないが、どこか聞く人を圧する強さがあった。

だが、この余裕な対応は赤毛の男の癪に触ったらしい。

「うるせエ!!」

バチン

また、放電。

しかし吉野は貫けない。
私もまた飛び電気を防ぐ為、そして確認の為、奴に少し重なるほどの大きさで壁を創った。
これもまた吉野を壊せない。

(……でも、なんだか違和感がある)
その正体に思いを巡らせている内も、赤毛の男はヒートアップしていく。

「うおおおおお……」

ばちばちばち

吉野に向かって飛んでいた雷が、教室の隅に避難している他の生徒たちにも向かうようになっていた。

「ちょっと!!あちこち飛んでるって!!」

どうやら制御もままならないようだ。

ババババ

吉野の影から覗いたが、赤毛の男は白目を剥きいくつもの筋を浮かび上がらせて沸騰したように顔面を真っ赤にしている。
天災クラスという称号の割には、出力が弱い気がした。

ゴロゴロ……

と、雷が鳴り始めた。
すると窓の外が翳り、一息に薄闇が広がった。

「う、ぉぉおおおおおおおおお!!!」

雄叫びが大きくなるに連れ、電撃の太さが増していく。
側で文句を言いつつ傍観していた生徒たちも事態の悪さに顔を青褪めさせた。

バチッ

「ぎゃんッッ!!」

「美蘭!!」

誰かにも当たったようだ。

「くっ……やめろ!」

最初の一撃ではそれほど疲労していなかった担任だったが、今では自分の身を守るのが精一杯で、言葉すら出せず大量の汗を流している。
そんな風に周囲に気をとられていると、目の前にいる何にも起きていないように何にも関わらず突っ立っていた吉野が飛んだ。

やっと干渉されたか、と思ったが、違う。

自分から、赤毛の男に向かったのだ。
凄まじい身体能力で、飛ぶように速く。

バチーーガツン

放電する、その前に吉野が大きく振りかぶった。
自ら燃えたのではないかと思うような赤い肌になっていた赤毛の男がぶっ飛んだ。


スローモーションで観ているように長い時間があった。

骨がぶつかる音。
肉の音。
人が、叩きつけられる音。


分解しかできない私には知ることのない生々しさだった。


一瞬にして、電流で溢れていた教室は静けさを取り戻した。

残された、若干焦げながらも台風の目のごとく被害が薄かったイス。
そこだけ白く、他はそこから放射線状に真っ黒焦げだった。

放電やら吉野に気を取られて気づかなかったが、壁にも多くの穴が空き、窓ガラスは全て粉々だった。

隅の方で、濁った液体の球の向こうにいた女が、その液体を溶かした。
中には、倒れた少女と四つん這いで寄り添う少女によく似た少年、怒りを湛えたグラマラスな女がいた。


「大丈夫か!?」

赤毛の男を殴り飛ばした吉野は、倒れている少女に急いで駆け寄り、一言二言少年と何かを話すと、少女の膝裏と背中に手を回して抱き上げた。

そして慌ただしく教室を出て行った。

吉野が去った教室は、またも沈黙していた。
今回のは、イヤな沈黙だった。
そのなかで動いたのは液体の女で、赤毛の男に鷹揚に近づいた。

「まったく……。程々にして欲しいものだ」

ポツリと呟くと、振り返って私を見た。

「すまない。この男は少々気が短いんだ。悪く思わないでやってくれ。

わたしの名前は南条 あや。“あおの申し子”で知られている。

この、気絶している放電男は、怒井どい 吾妻あずま。後で、説教しておくよ。

おい、君たちも自己紹介するといい」

にこっときれいに形作られた笑みを浮かべて、残された二人にそう言った。

「こんな大惨事の後じゃあ、そんな呑気なことする気になれないかも知れないが。
……でも、だからこそ、わたしたちが落ち着いて事態を対処せねばならないだろう。

わたしはーーー創始 世界くん、

君を歓迎する」

(何が、「歓迎する」だ……)

私にまで笑顔を向けてきて、一生関わり合いたくない部類の嘘臭さを持った女だと思った。

「ほら、真座沢まざさわ弟」

呆然としたままの少年。
弟ーーらしいからあの少女は姉だろう、の心配で気が気じゃない少年に、よくもまあそんな下らないことを言えるものだ。
いっそ感心しそうなほどの無神経さの女に嗤った。

「いや、しなくていい」

「なに?」

「興味ない。お前にも、その餓鬼にも」

「………」

「それより、先生。どうにか事態を収拾してやれ。相手にするのも面倒だ」

黙った嘘女の横を通り過ぎ、その傍らにあったひとつだけ残った赤毛の男のイスに、片膝を立てて座る。
膝の皿に額をつけると視界が暗くなった。
悪い意味で注目されているだろうが、そんなことどうでもよかった。

(今、考えなきゃいけないのは、あの男のことだ)


息も絶え絶えな担任が、小さく「あぁ……」と答えた。
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