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【序章】破壊者の再来
【1】私を取り巻く世界
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超能力が当たり前になった世界。
それでも三分の一は“無能”だった。
「おい、ぼさっとしてんなよ、ブス!!」
ドッ。
背中を思い切り蹴飛ばされて、顔からタイルに飛び込んだ。
「い゛ッ…」
たらり、と鼻から赤黒い液体が流れてきて、ポタポタ、ブラウスに染みを作る。トイレだということも忘れて座り込んだまま、鼻を摘んで上を向いて、止めようとするも止まらない。
「ちょっと、待って。ほんとに待って」
鼻血が逆流して気持ち悪い。
沈んだ心が焦りで蘇って、恐怖が再来する。
「ごめんなさい……。も、許して……」
「うわ、汚ねェ!近よんじゃねーよ、塵屑が!」
「ほらっ!洗い流してあげる!」
誰かが髪を掴んで、ズルズル引く。頭皮が破れそうに痛くて、女に協力するように足を動かしてしまう。私は個室に入れられた。そしてもうひとつの力が頭に添えられて、ぐっと押し込まれる。私の顔は洋式の便器にぶち込まれた。
ブクブクブク
「ん~!んンンンーー!!」
訳がわからないくらい、もがいてももがいてもビクともしなかった。
ゴボゴボゴボ
口に水が入る。血の味がした。
視界は薄い赤で色づいてぼやけて見えた。
息ができない。
苦しい苦しい苦しい。
ふっと力が緩んで、私は大きく息を吸った。
「すウッ!ぅ…ゲホゲホッッ……!うぇっ、ゲホッ…ゴホ…」
「何、アンタ」
リーダー格の女の硬い声が個室外から聞こえた。
「えっ……えっ……」
虐めっ子の誰でもない声。
頭を押さえていた茶髪の女は、私に見向きもせずリーダー格の女の方に体を乗り出していた。
私からは彼女らは見えないが、状況はなんとなく読めた。
「邪魔しに来たの?」
「……」
「え、嘘ー。真奈美ちゃんだよねー。あたしらの楽しい楽しい遊びを邪魔すんのー?」
近くで声がした。
真奈美ちゃんと呼ばれた女子生徒は私とこの女と同じクラスだ。
「ち、違いますっ!ごめんなさい!」
「そーだよねー。じゃ、今取り込み中なのー。見てわかるでしょ~。他のトイレ使ってくれない?」
「う、うん!ごめんなさい!」
パタパタ。
走り去る音。
「なんなのアイツ。梢、同じクラスなの?」
「うん。クラスでもちょっと浮いてるかな~。コミュ障って感じ?」
「それ思った」
「なんか気ぃ削がれた。つまんねー」
「マジそれ。いいところで邪魔すんなよなー」
「もう行こっ」
チラッと一瞥して梢は茶髪を翻していった。
その時の目は、私を見下した目だった。
五人が去った後、私は鏡の前に立った。
酷い有り様だった。
滲んだ鼻血が垂れて唇を引き結んだ情けない顔。長い髪は顔に張り付いたり、上の方で縺れたり、グチャグチャ。
解くより汚い顔を洗う方が先だ。
シャー。
勢いよく出る水の音が清らかに響く。
ひとりになったトイレは異様に静かで心地いい。
あんな奴ら死ねばいいのに。
そう思う度、思い出すのは両親のことだった。
顔を洗ってうがいして、髪を洗う。
水で洗いながら、指を通す。なんども引っかかって、何本も指に絡みついた。
ブラウスは胸まで水浸しだが、シャツを着ててよかった。下着は透けてない。タオルも何もないから濡れた髪もそのままブラウスを濡らしていく。
改めて顔を上げた。
大きな鏡に映った自分は目を充血させて、顔面蒼白さながら鬼のような表情だ。
そして、鋭く憎しみの籠った目が私を親の仇のように睨んでいる。
それでも三分の一は“無能”だった。
「おい、ぼさっとしてんなよ、ブス!!」
ドッ。
背中を思い切り蹴飛ばされて、顔からタイルに飛び込んだ。
「い゛ッ…」
たらり、と鼻から赤黒い液体が流れてきて、ポタポタ、ブラウスに染みを作る。トイレだということも忘れて座り込んだまま、鼻を摘んで上を向いて、止めようとするも止まらない。
「ちょっと、待って。ほんとに待って」
鼻血が逆流して気持ち悪い。
沈んだ心が焦りで蘇って、恐怖が再来する。
「ごめんなさい……。も、許して……」
「うわ、汚ねェ!近よんじゃねーよ、塵屑が!」
「ほらっ!洗い流してあげる!」
誰かが髪を掴んで、ズルズル引く。頭皮が破れそうに痛くて、女に協力するように足を動かしてしまう。私は個室に入れられた。そしてもうひとつの力が頭に添えられて、ぐっと押し込まれる。私の顔は洋式の便器にぶち込まれた。
ブクブクブク
「ん~!んンンンーー!!」
訳がわからないくらい、もがいてももがいてもビクともしなかった。
ゴボゴボゴボ
口に水が入る。血の味がした。
視界は薄い赤で色づいてぼやけて見えた。
息ができない。
苦しい苦しい苦しい。
ふっと力が緩んで、私は大きく息を吸った。
「すウッ!ぅ…ゲホゲホッッ……!うぇっ、ゲホッ…ゴホ…」
「何、アンタ」
リーダー格の女の硬い声が個室外から聞こえた。
「えっ……えっ……」
虐めっ子の誰でもない声。
頭を押さえていた茶髪の女は、私に見向きもせずリーダー格の女の方に体を乗り出していた。
私からは彼女らは見えないが、状況はなんとなく読めた。
「邪魔しに来たの?」
「……」
「え、嘘ー。真奈美ちゃんだよねー。あたしらの楽しい楽しい遊びを邪魔すんのー?」
近くで声がした。
真奈美ちゃんと呼ばれた女子生徒は私とこの女と同じクラスだ。
「ち、違いますっ!ごめんなさい!」
「そーだよねー。じゃ、今取り込み中なのー。見てわかるでしょ~。他のトイレ使ってくれない?」
「う、うん!ごめんなさい!」
パタパタ。
走り去る音。
「なんなのアイツ。梢、同じクラスなの?」
「うん。クラスでもちょっと浮いてるかな~。コミュ障って感じ?」
「それ思った」
「なんか気ぃ削がれた。つまんねー」
「マジそれ。いいところで邪魔すんなよなー」
「もう行こっ」
チラッと一瞥して梢は茶髪を翻していった。
その時の目は、私を見下した目だった。
五人が去った後、私は鏡の前に立った。
酷い有り様だった。
滲んだ鼻血が垂れて唇を引き結んだ情けない顔。長い髪は顔に張り付いたり、上の方で縺れたり、グチャグチャ。
解くより汚い顔を洗う方が先だ。
シャー。
勢いよく出る水の音が清らかに響く。
ひとりになったトイレは異様に静かで心地いい。
あんな奴ら死ねばいいのに。
そう思う度、思い出すのは両親のことだった。
顔を洗ってうがいして、髪を洗う。
水で洗いながら、指を通す。なんども引っかかって、何本も指に絡みついた。
ブラウスは胸まで水浸しだが、シャツを着ててよかった。下着は透けてない。タオルも何もないから濡れた髪もそのままブラウスを濡らしていく。
改めて顔を上げた。
大きな鏡に映った自分は目を充血させて、顔面蒼白さながら鬼のような表情だ。
そして、鋭く憎しみの籠った目が私を親の仇のように睨んでいる。
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