進め!羽柴村プロレス団!

宮代芥

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エピローグ 羽柴村プロレス

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かくして。全部で五試合にも及ぶ子ども対大人のプロレスは幕を閉じた。動画サイトへと投稿するための編集をしながら、羽柴村の村長である哲司は考える。
子どもが大人に勝てるわけはない。だからこれは実力勝負ではなく、ショーとしての勝負なのだ、と。
だが、それでも。子どもたちが全力で大人に挑んだからこそ、凄い試合が生まれたのだと思い知った。特に最年少の正晴の試合は凄かった。大哲は正晴を壊さないように力の下限をしてはいたが、その一撃一撃には魂がこもっていた。そもそも壊れなければいいというのであれば、ボクシングやプロレスに決着がつく、なんていうことはないのだ。相手の攻撃を受けても倒れない根性。最後まで自分の全てを出し切る根性。それが彼らにあるからこそ、スポーツは面白い。そう考えた。
「黒木正晴、か。彼は将来わが村を背負って立つ立派なレスラーに成長するだろうね。夫、これは彼の写真か」
プロレスの試合を終えた正晴が、まるで親子のように仲よさそうに大哲に抱き上げられている姿。担任の教師であり、仲間でもある正弘が正晴と肩を組む姿。そしてあの気難しい重蔵に頭をなでられている姿。
まだ彼がこの村に来て一か月しかたっていなというのに、もう彼らは家族のようにふるまっている。
「うんうん。これこそが羽柴村のあるべき姿だよ」
人口が少ない村という社会体型だからこそ、彼らの絆は強くなるのだ。そして、その絆を生み出す羽柴村プロレス。
「ふふ、良い興行だ」
プロレスによって村を盛り上げようとする羽柴村というあり方は、間違ってはいないのかもしれない。いや、むしろそれがまっとうなのだろう。
先祖代々続く羽柴村プロレス。それがこれからも続いていくことを、哲司は確かに感じていた。
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