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後日談 黄色いシャツの男5 キモい男
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マックスは自分に魅力がないことを呪った。
せめて顔面偏差値がもうチョイ高ければ……!
「いや。あの。そういう問題ではないのでは……」
商店主は言ったけれど、マックスとしては天を呪いたいくらいの気分だった。
悲劇は簡単に発生してしまった。
マックスの話を聞いた途端に、天使は店じまいをしてしまったのである。
「俺が……俺がキモイから……」
「そんなことはないから……」
人のいい商店主は一生懸命慰めた。
「せめて、天使を守れるほどの魔力があれば……魅了の魔法を使って…この世を震撼させて……」
やっぱ、キモイかも。商店主は考え直した。
そこへ、ワトソン商会の副会長の義兄がやってきた。いつもきれいになでつけた髪が少々乱れている。
「こんなところにいたのか、マックス。探したぞ」
義兄はマックスを見るや否やしゃべりだした。
「パーカー博士がG退治の薬を発明したそうだな」
たちまちマックスは普通の顔に戻った。
「ワトソン商会で取り扱いたい。パーカー博士のところに直談判に行ったのだが、ウンと言わないんだ。お前が行って、交渉してこい」
マックスは、義兄の顔を見た。
マックスはワトソン商会で働いているわけではない。自分の商会を立ち上げたのだ。
義兄の部下ではない。
「義兄上、契約上、それは無理です。マックス商会と契約していますのでね」
「なに? なんだと? パーカー博士は変人だからな。変な冗談を言っているのかと思ったけど、本当にお前と契約したのか」
「そうですね」
義兄は腕を組んだ。
「パーカーもバカだな。マックス商会だなんて。そんな吹けば飛ぶような商会と契約したって、儲けにはならないだろうに」
義兄は少し考えこんだが、こう言った。
「よし。わかった。マックス商会をワトソン商会が吸収合併してやろう」
「できませんよ」
「なぜ?」
「マックス商会に合併される気がないからですよ」
「あのなあ、マックス」
義兄は言った。
「お前は商売のことが何もわかっていないから、子供のおもちゃみたいに思っているんだろうが、世の中そんなに甘くないぞ。さっさとパーカー博士のところに行って、俺の言うとおりにするんだ。商会の掃除くらいになら使ってやるから。あとのことは、ワトソン商会に任せるんだ」
それでも、マックスが動こうとしないのを見ると、イライラしたらしく、会長を差し向けるぞと大声で怒鳴って帰っていった。
マックスは急いで、パーカー博士の家に戻った。
義兄より先にパーカー博士の家に着かなくてはならない。
やがてカンカンに起こった父親の会長と、義兄の副会長が、パーカー博士の狭い家に乗り込んできたが、マックスは水のように冷静だった。
元はと言えば、パーカー博士が出した、変人中の変人みたいな依頼に、なぜかギルドきっての大魔法使いマラテスタ侯爵夫人が応じてくれて、その薬を作ってくれたのが、ご縁である。
そんな依頼、誰も見向きもしなかったのに。どうして作ってくれたのか、依頼主のパーカー博士にもサッパリわからなかった。
契約書にはマラテスタ侯爵夫人と魔術ギルドの承諾のサインがある。
変わった点としては、地方にもこの薬を売ってほしいという要望がついていた。
マックスとパーカー博士は快く承諾した。
地方でも、Gに悩む人は多いだろう。地方販売は利幅は減るけど、いいことだと思う。
どうしてマラテスタ侯爵夫人がG退治に関心を持ったのか、よくわからないが、パーカー博士は大いに感謝した。
よくできた効果抜群の薬だったからだ。
販売は、信用のおけるマックスに依頼したし、売れても売れなくても、パーカー博士としては気にならなかった。自宅で使いたかったからだ。だから、販売能力がああ!とか、値段がああと叫ぶ商売人二人には、恐怖を覚えて、委託販売先がマックスで本当に良かったと胸をなでおろした。
「じゃあ、わしは、研究室に戻るから。あとはよろしくな、マックス」
「承知しました」
マックスは涼しい顔で答えると、真っ赤になっている父親と義兄にさらりと答えた。
「魔力ギルドを敵に回すつもりですか?」
二人とも、目をむいた。
「契約はもう済んでいます。この内容以外で履行すると多額の違約金を取られる可能性があります」
魔力ギルドには力がある。
一方で、マックス商会はきちんと役所に届け出をしていて、商会主のマックスが同意しない限り、合併なんかできない。
ワトソン商会が、口をさしはさむ権利はどこにもない。
そして、天使がいなくなってしまったと言うのに、マックスの商会は回り始め、特に魔力ギルドからの珍品商品の受け入れ先として、名をはせ始めた。
例えば、水虫に効くハンドクリームとか、壁紙防腐剤入りコーンポタージュとか、馬糞型除草剤とか。
「あの大バカ野郎」
義兄は憤懣やるかたなく、肩を振るわせた。
「せっかくのビジネスチャンスをダメにしやがって。今に吠え面かくがいいわ」
せめて顔面偏差値がもうチョイ高ければ……!
「いや。あの。そういう問題ではないのでは……」
商店主は言ったけれど、マックスとしては天を呪いたいくらいの気分だった。
悲劇は簡単に発生してしまった。
マックスの話を聞いた途端に、天使は店じまいをしてしまったのである。
「俺が……俺がキモイから……」
「そんなことはないから……」
人のいい商店主は一生懸命慰めた。
「せめて、天使を守れるほどの魔力があれば……魅了の魔法を使って…この世を震撼させて……」
やっぱ、キモイかも。商店主は考え直した。
そこへ、ワトソン商会の副会長の義兄がやってきた。いつもきれいになでつけた髪が少々乱れている。
「こんなところにいたのか、マックス。探したぞ」
義兄はマックスを見るや否やしゃべりだした。
「パーカー博士がG退治の薬を発明したそうだな」
たちまちマックスは普通の顔に戻った。
「ワトソン商会で取り扱いたい。パーカー博士のところに直談判に行ったのだが、ウンと言わないんだ。お前が行って、交渉してこい」
マックスは、義兄の顔を見た。
マックスはワトソン商会で働いているわけではない。自分の商会を立ち上げたのだ。
義兄の部下ではない。
「義兄上、契約上、それは無理です。マックス商会と契約していますのでね」
「なに? なんだと? パーカー博士は変人だからな。変な冗談を言っているのかと思ったけど、本当にお前と契約したのか」
「そうですね」
義兄は腕を組んだ。
「パーカーもバカだな。マックス商会だなんて。そんな吹けば飛ぶような商会と契約したって、儲けにはならないだろうに」
義兄は少し考えこんだが、こう言った。
「よし。わかった。マックス商会をワトソン商会が吸収合併してやろう」
「できませんよ」
「なぜ?」
「マックス商会に合併される気がないからですよ」
「あのなあ、マックス」
義兄は言った。
「お前は商売のことが何もわかっていないから、子供のおもちゃみたいに思っているんだろうが、世の中そんなに甘くないぞ。さっさとパーカー博士のところに行って、俺の言うとおりにするんだ。商会の掃除くらいになら使ってやるから。あとのことは、ワトソン商会に任せるんだ」
それでも、マックスが動こうとしないのを見ると、イライラしたらしく、会長を差し向けるぞと大声で怒鳴って帰っていった。
マックスは急いで、パーカー博士の家に戻った。
義兄より先にパーカー博士の家に着かなくてはならない。
やがてカンカンに起こった父親の会長と、義兄の副会長が、パーカー博士の狭い家に乗り込んできたが、マックスは水のように冷静だった。
元はと言えば、パーカー博士が出した、変人中の変人みたいな依頼に、なぜかギルドきっての大魔法使いマラテスタ侯爵夫人が応じてくれて、その薬を作ってくれたのが、ご縁である。
そんな依頼、誰も見向きもしなかったのに。どうして作ってくれたのか、依頼主のパーカー博士にもサッパリわからなかった。
契約書にはマラテスタ侯爵夫人と魔術ギルドの承諾のサインがある。
変わった点としては、地方にもこの薬を売ってほしいという要望がついていた。
マックスとパーカー博士は快く承諾した。
地方でも、Gに悩む人は多いだろう。地方販売は利幅は減るけど、いいことだと思う。
どうしてマラテスタ侯爵夫人がG退治に関心を持ったのか、よくわからないが、パーカー博士は大いに感謝した。
よくできた効果抜群の薬だったからだ。
販売は、信用のおけるマックスに依頼したし、売れても売れなくても、パーカー博士としては気にならなかった。自宅で使いたかったからだ。だから、販売能力がああ!とか、値段がああと叫ぶ商売人二人には、恐怖を覚えて、委託販売先がマックスで本当に良かったと胸をなでおろした。
「じゃあ、わしは、研究室に戻るから。あとはよろしくな、マックス」
「承知しました」
マックスは涼しい顔で答えると、真っ赤になっている父親と義兄にさらりと答えた。
「魔力ギルドを敵に回すつもりですか?」
二人とも、目をむいた。
「契約はもう済んでいます。この内容以外で履行すると多額の違約金を取られる可能性があります」
魔力ギルドには力がある。
一方で、マックス商会はきちんと役所に届け出をしていて、商会主のマックスが同意しない限り、合併なんかできない。
ワトソン商会が、口をさしはさむ権利はどこにもない。
そして、天使がいなくなってしまったと言うのに、マックスの商会は回り始め、特に魔力ギルドからの珍品商品の受け入れ先として、名をはせ始めた。
例えば、水虫に効くハンドクリームとか、壁紙防腐剤入りコーンポタージュとか、馬糞型除草剤とか。
「あの大バカ野郎」
義兄は憤懣やるかたなく、肩を振るわせた。
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