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第49話 フレデリックの言い分
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マッキントッシュ夫人が大声を聞き付けて客間に入ってきた。
「まあ、何の騒ぎですか?」
「奥様、シャーロット嬢に結婚を申し込んでいたのです。苦難の時も一緒に過ごした私と結婚して欲しいと」
「フレデリック様、苦難の時に一番寄り添ってくれたのは、むしろジャック・パーシヴァル様でした」
シャーロットは、はっきり言った。
「それから、モンゴメリ卿とハミルトン嬢ですわ。あなたではありません」
マッキントッシュ夫人は間に立っておろおろしていた。争いの理由が良く分からない。
「あなたはおうちの都合で、出来るだけ目立ちたくなかったのですよね」
「それはそうだが」
「ロストフ公爵は帝国で王位継承権を持つ方です。そんな方の機嫌を損ねたくないのはわかります。でも、それでも、モンゴメリ卿やジャック・パーシヴァル様、ハミルトン嬢は何とか方法を見つけて私をかばってくれました」
「それは、あのバーバラ嬢と言う男爵令嬢が名乗り出てくれたおかげで、カタが付いたのだ。モンゴメリ卿たちのおかげじゃない」
「あなたは知らないから、そんなことを言うのです。どうしてバーバラ嬢がロストフ公爵の前に現れたのか」
シャーロットの目には涙があふれてきた。
「私を助けてくれたのは、モンゴメリ卿やジャック様、ハミルトン嬢……あなたではない」
「細かい事情を知らなからって、そんな言い方はやめて欲しい。非難される理由はないと思う。あなたのことを待っていたのだ。父の反対を押し切って、私の名前を貸したことを忘れないで欲しい」
マッキントッシュ夫人もようやくフレデリックの立ち位置がわかってきた。
「ヒューズ様、その件に関しては感謝しておりますが、感謝と結婚は別のものです」
「奥様までそんなことをおっしゃるのですか?」
「そうですわ。愛しているかどうかが結婚には一番重要なことですわ」
貴族との良縁第一主義の母からこんな言葉が出るとは!
シャーロットはびっくりした。フレデリックもだが。
「私はシャーロット嬢を愛しています。シャーロット嬢も私を愛してくれるでしょう」
彼は自信たっぷりに言い放った。
「それはなぜですか?」
さすがにマッキントッシュ夫人が問いただした。
「私に恩義があるからですよ。それに一番先に婚約を申し込んだのは私ですから」
なぜ、フレデリックが男前で誠実で正直だとしても、一向にもてない理由がだんだんつまびらかになっていく気がしてきた。
「あのう、フレデリック様」
シャーロット嬢が口をはさんだ。
「まことに言いにくいのですが、結婚を申し込んだことが、何回かおありなのでは?」
フレデリックは目に見えて焦った。
「もちろん、この年ですから、何人かのご令嬢と知り合いになる機会はありました。でも、シャーロット嬢は特別です。なぜなら、親同士が親しい上、私がマッキントッシュ家に入れば家業を継ぐことが出来ます。私は三男ですから心配いりません。その上、とてもお美しい。大変気に入りました」
「それが理由ですか」
マッキントッシュ夫人がいささか冷たい口調で割り込んだ。シャーロットが話を続けた。
「そしてお申込みになった結果、断られた場合もあると思うのですが、その時、お相手様はなんとおっしゃっていましたか?」
フィレデリックは頭を掻いた。
「まあ、正直、大した理由ではないようで、覚えられなかったのですけどね」
「なんとなく、縁談が立ち消えになったことが多かったのでは?」
「そうですね。まあ、大体明確な理由はなかったような。先方に先に縁談が進んでいたケーズが多かったですが」
シャーロットはマッキントッシュ夫人と目と目を見かわした。
フレデリックは鈍い。
「もう、遅くなりましたわ。今日のところはお引き取りくださいませ、今度参加される夜会はいつでしょうか?」
「え? ああ、そうですね、特に考えていなかったのですが。夜会は苦手でね」
「三日後にモンゴメリ卿のパーティがありますわ。よければそちらでお目にかかりましょう」
フレデリックはためらった。
理由を一瞬で見破ったシャーロットは付け加えた。
「モンゴメリ卿に、あなた宛の招待状を送ってくれるよう頼んでおきますから」
フレデリックが帰った後、マッキントッシュ夫人は尋ねた。
「シャーロット、フレデリックはモンゴメリ卿のパーティーに行かない主義なのかしら」
マッキントッシュ夫人が、娘に聞いた。
「呼ばれないのよ」
夫人は考えた。そうか。
「なるほどね……」
と、彼女は言った。
「まあ、何の騒ぎですか?」
「奥様、シャーロット嬢に結婚を申し込んでいたのです。苦難の時も一緒に過ごした私と結婚して欲しいと」
「フレデリック様、苦難の時に一番寄り添ってくれたのは、むしろジャック・パーシヴァル様でした」
シャーロットは、はっきり言った。
「それから、モンゴメリ卿とハミルトン嬢ですわ。あなたではありません」
マッキントッシュ夫人は間に立っておろおろしていた。争いの理由が良く分からない。
「あなたはおうちの都合で、出来るだけ目立ちたくなかったのですよね」
「それはそうだが」
「ロストフ公爵は帝国で王位継承権を持つ方です。そんな方の機嫌を損ねたくないのはわかります。でも、それでも、モンゴメリ卿やジャック・パーシヴァル様、ハミルトン嬢は何とか方法を見つけて私をかばってくれました」
「それは、あのバーバラ嬢と言う男爵令嬢が名乗り出てくれたおかげで、カタが付いたのだ。モンゴメリ卿たちのおかげじゃない」
「あなたは知らないから、そんなことを言うのです。どうしてバーバラ嬢がロストフ公爵の前に現れたのか」
シャーロットの目には涙があふれてきた。
「私を助けてくれたのは、モンゴメリ卿やジャック様、ハミルトン嬢……あなたではない」
「細かい事情を知らなからって、そんな言い方はやめて欲しい。非難される理由はないと思う。あなたのことを待っていたのだ。父の反対を押し切って、私の名前を貸したことを忘れないで欲しい」
マッキントッシュ夫人もようやくフレデリックの立ち位置がわかってきた。
「ヒューズ様、その件に関しては感謝しておりますが、感謝と結婚は別のものです」
「奥様までそんなことをおっしゃるのですか?」
「そうですわ。愛しているかどうかが結婚には一番重要なことですわ」
貴族との良縁第一主義の母からこんな言葉が出るとは!
シャーロットはびっくりした。フレデリックもだが。
「私はシャーロット嬢を愛しています。シャーロット嬢も私を愛してくれるでしょう」
彼は自信たっぷりに言い放った。
「それはなぜですか?」
さすがにマッキントッシュ夫人が問いただした。
「私に恩義があるからですよ。それに一番先に婚約を申し込んだのは私ですから」
なぜ、フレデリックが男前で誠実で正直だとしても、一向にもてない理由がだんだんつまびらかになっていく気がしてきた。
「あのう、フレデリック様」
シャーロット嬢が口をはさんだ。
「まことに言いにくいのですが、結婚を申し込んだことが、何回かおありなのでは?」
フレデリックは目に見えて焦った。
「もちろん、この年ですから、何人かのご令嬢と知り合いになる機会はありました。でも、シャーロット嬢は特別です。なぜなら、親同士が親しい上、私がマッキントッシュ家に入れば家業を継ぐことが出来ます。私は三男ですから心配いりません。その上、とてもお美しい。大変気に入りました」
「それが理由ですか」
マッキントッシュ夫人がいささか冷たい口調で割り込んだ。シャーロットが話を続けた。
「そしてお申込みになった結果、断られた場合もあると思うのですが、その時、お相手様はなんとおっしゃっていましたか?」
フィレデリックは頭を掻いた。
「まあ、正直、大した理由ではないようで、覚えられなかったのですけどね」
「なんとなく、縁談が立ち消えになったことが多かったのでは?」
「そうですね。まあ、大体明確な理由はなかったような。先方に先に縁談が進んでいたケーズが多かったですが」
シャーロットはマッキントッシュ夫人と目と目を見かわした。
フレデリックは鈍い。
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「え? ああ、そうですね、特に考えていなかったのですが。夜会は苦手でね」
「三日後にモンゴメリ卿のパーティがありますわ。よければそちらでお目にかかりましょう」
フレデリックはためらった。
理由を一瞬で見破ったシャーロットは付け加えた。
「モンゴメリ卿に、あなた宛の招待状を送ってくれるよう頼んでおきますから」
フレデリックが帰った後、マッキントッシュ夫人は尋ねた。
「シャーロット、フレデリックはモンゴメリ卿のパーティーに行かない主義なのかしら」
マッキントッシュ夫人が、娘に聞いた。
「呼ばれないのよ」
夫人は考えた。そうか。
「なるほどね……」
と、彼女は言った。
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