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第20話 もう、結婚するしか?
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ボードヒル子爵の情報によれば、公爵は毎日どこかの貴族の家か富豪の家を訪問していた。
「なんとしても、この国の良家の子女を愛人として連れ帰りたいらしくて」
ボードヒル子爵がモンゴメリ卿に言った。
「正妃選びに来たんじゃなかったのか?」
「公爵家の結婚は帝国の許可がいる。ましてや彼は王室の一員だ。王位継承権もある。勝手に正妃を選ぶことは許されない。だから彼はそれに準じるものを探している。かの国では、それは当然なんだ」
「それならそれで、そう言う風習のある自国内か、せめて理解のある隣国あたりで探せばいいじゃないか!」
「出来るだけ、自慢できる愛人を探してるんだ。出身が先進国のこの国の、美しい良家の子女なら結構なステイタスになるらしくて、今、必死なんだ」
「もの凄く迷惑だ。どうして、陛下は訪問をOKしたんだろう」
「断れるわけがないじゃないか。まさか、訪問の目的は愛人探しだなんて申告するはずもないし。表向きはただの表敬訪問なんだから」
ううむとモンゴメリ卿はうめいた。
「ただ、実際に令嬢たちに話を持ちかけると、どの家も慌てふためいて、公爵との付き合いを断る。一番多いのが、もう婚約していると言う言い訳だな。娘を遠い辺境の国に愛人として連れて行きたいと言われたら、たいていの親は真っ青になる」
「当たり前だ」
「で、一番危ないのがシャーロット嬢なんだ」
「なぜなんだ!」
何も知らずにパーティなどで出会ってしまって愛人の話を持ち掛けられた娘はシャーロットを筆頭に十人くらいいたが、あっという間に評判が広がってしまって、ロストフ公爵が出席するパーティには若い娘は誰も出なくなってしまっていた。
「愛人狩り公爵と言う二つ名がついてしまった」
「ろくでもないな」
しかしピッタリである。
「現在はそのわずかに知り合った令嬢たちの中で選定作業を行っている。そして、多分、最も美人だったのがシャーロット嬢だったんだろう」
「辞退する権利はないのか! 私の家のパーティが危険地帯認定されちゃうじゃないか! マッキントッシュ家になんて言ったらいいかわからないよ! どうしたらいいんだ!」
「実は昨日も公爵に相談を持ち掛けられて……」
子爵が言いにくそうに言い始めた。本日の本題はこの話らしい。
「なんの相談?」
「シャーロット嬢は本当に婚約してるのかって」
モンゴメリ卿は動揺して、真剣に従兄弟の顔を見た。
確かに婚約していない。あれは嘘だ。
「していないなら、あるいはしていても、解消すれば済む話だろうと言って、婚約解消に必要な金額はどれくらいか聞いてきた。相手の家に五十万ルイくらい渡せば済むんじゃないかと言っていた」
まるで人身売買である。モンゴメリ卿は汗が止まらなくなった。
「どうしても手に入れたいそうだ。大切にするとも言っていた。昨日もサファイヤとダイヤの首飾りに目を付けて贈りたいと言いだした。店員が乗り気でね。困ったよ。マッキントッシュ家にもあいさつに行って、金を出したいらしい。金だけならいくらでもあるからね」
考え方が違うとモンゴメリ卿は叫びたかった。農奴制が残る国だけある。
「始末が悪いことに、伝手のある貴族の家や相当な資産家で令嬢がいる家庭を訪問しては、令嬢を物色するんだが」
「たまには貧乏で、娘なんか売り飛ばしたいくらいの家を案内したらどうなんだ」
本当にそんな家があるのかどうか知らないが、モンゴメリ卿は意見を言ってみた。
ボードヒル子爵は首を振った。
「帝国の大公爵様だ。それなりの家しか行かないよ。だが訪問先で公爵がシャーロット嬢は本当に婚約しているのか尋ねたことがあって、嘘がばれた」
モンゴメリ卿はうめいた。まず過ぎる。
それを言いに、子爵は今日ここへ来たのか。
「娘のいる家は戦々恐々だ。シャーロット嬢には気の毒だが、仕方ない。本当のことを伝える家もあるだろう。それに他人の婚約事情なんか知らない方が多い。知らないと答えるよね。公爵的にはそれが全部、婚約していない方にカウントされるんだ」
「どうしたらいい?」
「もう、結婚しちゃったらどうだ?」
「え? 誰と?」
「フレデリック・ヒューズと」
モンゴメリ卿は目をあげた。子爵は知らないのだ。あの時、困り果てたシャーロットを見かねて、婚約者を名乗ったのはジャックだった。
「ダメなんだよ。あの時、婚約者があの場にいないのはおかしいと公爵が言い張ったんだ。シャーロット嬢は、婚約者は遅れてやって来ると言ってごまかそうとしたが、全く信用しない。ちょうどやって来たジャックが代わりにフレデリックは自分ですと言ってくれて……」
「ジャック……? どのジャック?」
子爵は、公爵に付き添ってモンゴメリ卿の邸宅からすぐ出て行ってしまったので、細かい経緯を聞いていなかった。
「ジャック・パーシヴァルだ。遅れてやってきたもんだから、ちょうど所用で遅くなった婚約者にぴったりだったんだ」
「あのきれいな青年か」
ボードヒル子爵はゲイだった。視線はいつも美しい青年を追っている。
「そう言う感想はやめてもらおうか」
ジャックの身の危険を察知したモンゴメリ卿は予防線を張った。これ以上話がややこしくなるのは避けたい。
「とにかく、公爵はフレデリックと言うのは、そのきれいな若い男、つまりジャックだと思いこんでいる。だから、結婚はナシだ。無関係の人物との結婚になる。めちゃくちゃだ。ほかにシャーロット嬢を救う手立てはないのか」
「……思いつかない」
子爵は苦渋の表情を浮かべた。
「なんとしても、この国の良家の子女を愛人として連れ帰りたいらしくて」
ボードヒル子爵がモンゴメリ卿に言った。
「正妃選びに来たんじゃなかったのか?」
「公爵家の結婚は帝国の許可がいる。ましてや彼は王室の一員だ。王位継承権もある。勝手に正妃を選ぶことは許されない。だから彼はそれに準じるものを探している。かの国では、それは当然なんだ」
「それならそれで、そう言う風習のある自国内か、せめて理解のある隣国あたりで探せばいいじゃないか!」
「出来るだけ、自慢できる愛人を探してるんだ。出身が先進国のこの国の、美しい良家の子女なら結構なステイタスになるらしくて、今、必死なんだ」
「もの凄く迷惑だ。どうして、陛下は訪問をOKしたんだろう」
「断れるわけがないじゃないか。まさか、訪問の目的は愛人探しだなんて申告するはずもないし。表向きはただの表敬訪問なんだから」
ううむとモンゴメリ卿はうめいた。
「ただ、実際に令嬢たちに話を持ちかけると、どの家も慌てふためいて、公爵との付き合いを断る。一番多いのが、もう婚約していると言う言い訳だな。娘を遠い辺境の国に愛人として連れて行きたいと言われたら、たいていの親は真っ青になる」
「当たり前だ」
「で、一番危ないのがシャーロット嬢なんだ」
「なぜなんだ!」
何も知らずにパーティなどで出会ってしまって愛人の話を持ち掛けられた娘はシャーロットを筆頭に十人くらいいたが、あっという間に評判が広がってしまって、ロストフ公爵が出席するパーティには若い娘は誰も出なくなってしまっていた。
「愛人狩り公爵と言う二つ名がついてしまった」
「ろくでもないな」
しかしピッタリである。
「現在はそのわずかに知り合った令嬢たちの中で選定作業を行っている。そして、多分、最も美人だったのがシャーロット嬢だったんだろう」
「辞退する権利はないのか! 私の家のパーティが危険地帯認定されちゃうじゃないか! マッキントッシュ家になんて言ったらいいかわからないよ! どうしたらいいんだ!」
「実は昨日も公爵に相談を持ち掛けられて……」
子爵が言いにくそうに言い始めた。本日の本題はこの話らしい。
「なんの相談?」
「シャーロット嬢は本当に婚約してるのかって」
モンゴメリ卿は動揺して、真剣に従兄弟の顔を見た。
確かに婚約していない。あれは嘘だ。
「していないなら、あるいはしていても、解消すれば済む話だろうと言って、婚約解消に必要な金額はどれくらいか聞いてきた。相手の家に五十万ルイくらい渡せば済むんじゃないかと言っていた」
まるで人身売買である。モンゴメリ卿は汗が止まらなくなった。
「どうしても手に入れたいそうだ。大切にするとも言っていた。昨日もサファイヤとダイヤの首飾りに目を付けて贈りたいと言いだした。店員が乗り気でね。困ったよ。マッキントッシュ家にもあいさつに行って、金を出したいらしい。金だけならいくらでもあるからね」
考え方が違うとモンゴメリ卿は叫びたかった。農奴制が残る国だけある。
「始末が悪いことに、伝手のある貴族の家や相当な資産家で令嬢がいる家庭を訪問しては、令嬢を物色するんだが」
「たまには貧乏で、娘なんか売り飛ばしたいくらいの家を案内したらどうなんだ」
本当にそんな家があるのかどうか知らないが、モンゴメリ卿は意見を言ってみた。
ボードヒル子爵は首を振った。
「帝国の大公爵様だ。それなりの家しか行かないよ。だが訪問先で公爵がシャーロット嬢は本当に婚約しているのか尋ねたことがあって、嘘がばれた」
モンゴメリ卿はうめいた。まず過ぎる。
それを言いに、子爵は今日ここへ来たのか。
「娘のいる家は戦々恐々だ。シャーロット嬢には気の毒だが、仕方ない。本当のことを伝える家もあるだろう。それに他人の婚約事情なんか知らない方が多い。知らないと答えるよね。公爵的にはそれが全部、婚約していない方にカウントされるんだ」
「どうしたらいい?」
「もう、結婚しちゃったらどうだ?」
「え? 誰と?」
「フレデリック・ヒューズと」
モンゴメリ卿は目をあげた。子爵は知らないのだ。あの時、困り果てたシャーロットを見かねて、婚約者を名乗ったのはジャックだった。
「ダメなんだよ。あの時、婚約者があの場にいないのはおかしいと公爵が言い張ったんだ。シャーロット嬢は、婚約者は遅れてやって来ると言ってごまかそうとしたが、全く信用しない。ちょうどやって来たジャックが代わりにフレデリックは自分ですと言ってくれて……」
「ジャック……? どのジャック?」
子爵は、公爵に付き添ってモンゴメリ卿の邸宅からすぐ出て行ってしまったので、細かい経緯を聞いていなかった。
「ジャック・パーシヴァルだ。遅れてやってきたもんだから、ちょうど所用で遅くなった婚約者にぴったりだったんだ」
「あのきれいな青年か」
ボードヒル子爵はゲイだった。視線はいつも美しい青年を追っている。
「そう言う感想はやめてもらおうか」
ジャックの身の危険を察知したモンゴメリ卿は予防線を張った。これ以上話がややこしくなるのは避けたい。
「とにかく、公爵はフレデリックと言うのは、そのきれいな若い男、つまりジャックだと思いこんでいる。だから、結婚はナシだ。無関係の人物との結婚になる。めちゃくちゃだ。ほかにシャーロット嬢を救う手立てはないのか」
「……思いつかない」
子爵は苦渋の表情を浮かべた。
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