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第7話 フィリップ殿下、決戦に挑む
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「これはこれは……」
公爵邸に、この僕が出現すると、執事以下、使用人全員が青くなったらしい。
「王太子殿下、自らが……」
「ロザリンダ嬢に会いにきた」
ああ、なんだかすてきな響き。
ロザリンダ嬢に会いにきた♪
ロザリンダ嬢に会いにきた♪
ついにこの時がきた。再会の時だ。
一年ぶりだ。
詩が書けそうだ。ソネットか。
最初のセリフは、無論、君の名だ。
馥郁と気高く薫る薔薇のようだ、ロザリンダ……
詩作に耽っている最中に無粋なドアの開く音がした。
「何の御用件ですか?」
お前は呼んでねえ。
「ロザリンダ嬢に会いに来た」
「姉は支度中です」
「では、待たせてもらおう」
クリスがイライラした様子で、後ろに控えていた執事に命令した。
「セバス、茶の用意を」
まだ、発注していなかったのかい!
王太子殿下でなくても、客が来た時にはお茶くらい出すものだぞ。
「殿下のお越しが急だったもので」
王太子様の行動にケチつけるな。
悪いのは、お前だ。だから、前触れなしに来たんだ。
「ときに、ロザリンダ嬢は僕からの手紙に返事をくれないのだが」
クリスがピクリと反応した。
「それは、失礼をいたしました」
「どうしてなんだろう」
「さあ……。普通なら相手に興味がないのでしょうが」
うわっ。サラッと爆弾混ぜ込みやがった。
君、立場、弁えてる? 僕、王太子なんだよ?
「姉様のことですから、畏れ多いと恐縮したのかもしれません」
雰囲気が怖すぎる。
茶を供す執事の手先が震えている。
カタカタと細かくカップがソーサーに触れて音を立てる。
姉様ってなんだ。
お前だけの特別な呼び名か。
「僕の姉様は世界で一人だけです。困難な時も二人で立ち向かって行きました」
こいつ……唯一感出しやがって。
なんか腹立つな。
「そりゃ、わかってるがね。僕は支援するとあれほど言ったろう。そんな苦労することはなかったんだ」
クリスは目を逸らした。
「そうでしたか?」
なんだか、後付けで言い訳するなみたいな言い草だな。本当に伝えただろう。手紙はどうした?あれほど、恥ずかしいほど出しまくった手紙は?
「当家は書簡の部類は、契約書等法的拘束力のあるもの以外は、一定期間経過すると処分することになっておりまして」
なんだとう?
「そうだな? セバス」
クリスは後ろを振り返って同意を求めた。
王家に対して不遜すぎて、セバスはプルプル震えていた。
「は」
その時、ようやく、小さなノックの音がして、弟の名を呼ぶ銀の鈴を振るような声がした。
甘やかな恋人の声。僕の名を呼ぶ。
「まあ、フィリップ殿下。お久しぶりでございます」
クリスが急いで立ち上がり、ロザリンダを自分の隣に座らせた。
その上で言い出した。
「厳密にはお久しぶりでないのかもしれませんが。昨晩、拝見しておりました。殿下が、婚約を発表されるのを」
だから、なんで、そんなこと言うのさ。
「ですので、殿下のお気持ちはわかっております」
ロザリンダ嬢が震える声で、僕を見つめて言い出した。
「どうわかっていると?」
それ、絶対間違ってるよね。
「わたくしではない、他の誰かと……」
「姉様……」
抱き合うなー。
「殿下、姉様は加減が悪いようです。御前を失礼させていただいてもよろしいでしょうか。後のお話は、僕が伺います」
会って一分も経ってないよね。
「ひとつだけ聞きたい。ロザリンダ嬢、僕が出した手紙になぜ返事を出さなかった?」
ロザリンダ嬢の大きな目が見開かれていく。
ああ、やっぱり彼女は知らないのだ。読んでいないのだ。
_________________
浮かれると、「変な人」感が半端ないという……
公爵邸に、この僕が出現すると、執事以下、使用人全員が青くなったらしい。
「王太子殿下、自らが……」
「ロザリンダ嬢に会いにきた」
ああ、なんだかすてきな響き。
ロザリンダ嬢に会いにきた♪
ロザリンダ嬢に会いにきた♪
ついにこの時がきた。再会の時だ。
一年ぶりだ。
詩が書けそうだ。ソネットか。
最初のセリフは、無論、君の名だ。
馥郁と気高く薫る薔薇のようだ、ロザリンダ……
詩作に耽っている最中に無粋なドアの開く音がした。
「何の御用件ですか?」
お前は呼んでねえ。
「ロザリンダ嬢に会いに来た」
「姉は支度中です」
「では、待たせてもらおう」
クリスがイライラした様子で、後ろに控えていた執事に命令した。
「セバス、茶の用意を」
まだ、発注していなかったのかい!
王太子殿下でなくても、客が来た時にはお茶くらい出すものだぞ。
「殿下のお越しが急だったもので」
王太子様の行動にケチつけるな。
悪いのは、お前だ。だから、前触れなしに来たんだ。
「ときに、ロザリンダ嬢は僕からの手紙に返事をくれないのだが」
クリスがピクリと反応した。
「それは、失礼をいたしました」
「どうしてなんだろう」
「さあ……。普通なら相手に興味がないのでしょうが」
うわっ。サラッと爆弾混ぜ込みやがった。
君、立場、弁えてる? 僕、王太子なんだよ?
「姉様のことですから、畏れ多いと恐縮したのかもしれません」
雰囲気が怖すぎる。
茶を供す執事の手先が震えている。
カタカタと細かくカップがソーサーに触れて音を立てる。
姉様ってなんだ。
お前だけの特別な呼び名か。
「僕の姉様は世界で一人だけです。困難な時も二人で立ち向かって行きました」
こいつ……唯一感出しやがって。
なんか腹立つな。
「そりゃ、わかってるがね。僕は支援するとあれほど言ったろう。そんな苦労することはなかったんだ」
クリスは目を逸らした。
「そうでしたか?」
なんだか、後付けで言い訳するなみたいな言い草だな。本当に伝えただろう。手紙はどうした?あれほど、恥ずかしいほど出しまくった手紙は?
「当家は書簡の部類は、契約書等法的拘束力のあるもの以外は、一定期間経過すると処分することになっておりまして」
なんだとう?
「そうだな? セバス」
クリスは後ろを振り返って同意を求めた。
王家に対して不遜すぎて、セバスはプルプル震えていた。
「は」
その時、ようやく、小さなノックの音がして、弟の名を呼ぶ銀の鈴を振るような声がした。
甘やかな恋人の声。僕の名を呼ぶ。
「まあ、フィリップ殿下。お久しぶりでございます」
クリスが急いで立ち上がり、ロザリンダを自分の隣に座らせた。
その上で言い出した。
「厳密にはお久しぶりでないのかもしれませんが。昨晩、拝見しておりました。殿下が、婚約を発表されるのを」
だから、なんで、そんなこと言うのさ。
「ですので、殿下のお気持ちはわかっております」
ロザリンダ嬢が震える声で、僕を見つめて言い出した。
「どうわかっていると?」
それ、絶対間違ってるよね。
「わたくしではない、他の誰かと……」
「姉様……」
抱き合うなー。
「殿下、姉様は加減が悪いようです。御前を失礼させていただいてもよろしいでしょうか。後のお話は、僕が伺います」
会って一分も経ってないよね。
「ひとつだけ聞きたい。ロザリンダ嬢、僕が出した手紙になぜ返事を出さなかった?」
ロザリンダ嬢の大きな目が見開かれていく。
ああ、やっぱり彼女は知らないのだ。読んでいないのだ。
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浮かれると、「変な人」感が半端ないという……
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