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第28話 隣国で大ブレイクと完全無欠な結末
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一緒に隣国に行こう……?
「どうしてそうなるの?」
私は焦った。私がやり始めている、大伯母様の事務仕事はどうなるの?
「正直に言おう。社交界は魔窟だ。あなたと結婚できなかった連中が狙っている。隣国なら、最初から俺の妻だと紹介できるから。売約済みだ」
初めてパーティーに出た時も、ドリュー様に手を引かれていた。
婚約者でこそなかったけれど、ドリュー様と結婚する可能性を強烈に印象付けたと思う。
「夫婦は違う。誰も狙わない。婚約申し込みなんかしない」
ドリュー様、何言ってるの。
「結婚していたら、誰も婚約申し込みなんかしないと思うわ。どこへ行っても同じでしょう?」
「いや。シシリーは、この国ではアホのダドリーのせいで有名になってしまったからね。人妻でも、お話ししたいと言う手合いがくるとよろしくない……」
ドリュー様は言葉を濁した。
ドリュー様は知り合いが誰もいない隣国の方が、社交も限られ安全だと勝手なことを考えたのかもしれない。
例の婚約破棄事件と、そのあと、マーガレット大伯母様が私の名誉回復と婚活のために、大パーティーを開いてくれたりしたおかげで、私は今や有名人ですからね……。
予想外の展開だった。
まあ、唯一解せぬのが、ロザリアたちのおかげで、確かにものすごーくマシになったと思うけど、とても美人だと言う評判だ。
そのせいで、あちこちからお声がかかることが増えた。
ドリュー様は静かな生活を望んでらっしゃるのかもしれないわ。
父も兄も商会の面々も別に反対する理由がなかったので、同伴出張は認められた。
むしろ、ちょっとした旅行気分かと思われただけだろう。だって、隣国は治安が良く観光地も多く、華やかで発展している国だったからだ。
「まあ、夫婦同伴で行った方が何かと安心だから、特に止める理由はないが……すごく華やかな国だけど」
父は静かな生活をしたくてと聞かされた時、まあ静かじゃないかもしれないけどねと答えた。
隣国は本当に繫栄した華やかな国だった。
芝居小屋からオペラハウスまで、ありとあらゆる演劇やショービジネスがあったし、ファッションに関しては最先端を行っていた。レストランやホテルも立派で、人々は裕福でしょっちゅうパーティが催されていた。
全然、静かな国じゃなかった。裕福な人が多いので、社交界は厚みがあり、賑やかで、全員新しいものが大好きで、新奇な話題に飢えていた。
私はあっという間に注目の的になってしまった。
「妻のシシリーでございま……」
「おお、本当にお美しい。神秘的な美人ですな!」
実は黒髪は隣国では大人気の髪色だった。全然、知らなかったけどね!
「ぜひ一度当家の
お茶会に……あ、だんなさまもよければご一緒に」
取ってつけたようなこの一言。
自国ではここまでもてはやされなかった黒髪のすらりキリリ系は、異国情緒溢れる美女としてこの国では大人気だった。
しかも、この時ご招待してくださったのが、高名な公爵夫人だったので断るわけには絶対に行かず。
「光栄でございます」
ドリュー様は超オマケ状態だった。
しかも、私は立っているだけで視線を集め、微笑むとどよめきが起きる始末。
次のパーティーやお茶会へのご招待が殺到し、ドリュー様は仕事があるので全部は同伴できなかったので、私は単独で出席しまくり、人脈がどんどん広がった。
「もっとツンとした方かと思ってたのですけど」
「話を聞くのが本当にお上手」
ダドリー様のお相手で鍛えまくったスルー力と、肝心な点のみチェック・記憶能力がここで遺憾無く発揮された。
「お話がはずむ方って、なかなかいないのよ。楽しいわ」
最初に声をかけてくださった公爵夫人とは歳が離れているのにも関わらず、とても親しくなった。
公爵夫人に連れられてあちこちに顔を出しているうちに、王妃様のパーティーにも招待された! 望外の名誉!
もはや珍獣を見る会の勢いである。……と思ったのは内緒だ。
異国情緒溢れる美人と言うか、見たことないタイプの美女とはここまで心惹かれるものなのだろうか。
三ヶ月は瞬く間に過ぎ去り、人気絶頂の時に夫が言った。
「さあ、国に帰ろう」
ドリュー様、痩せたわ。仕事が大変でしたのね。
「違うに決まってるだろ!」
ドリュー様は喚くように答えた。
「君があちこちで大人気って聞くたびにイライラしてやりきれなかったよ!」
「仕方ありませんわ。身分高い方々からのご好意なんですもの。王妃様のお茶会なんか絶対に断れませんわ」
何言ってんだろ。商売的に言っても、すばらしいチャンスじゃありませんか。王妃様と顔見知りになるだなんて!
「わかってる。わかってるから、何も言わずに出来るだけ欠席を貫いた。誰も俺を見たいわけじゃないからね」
まあ、事実。うなずくしかない。イケメンが見る影もないなあ……
だけど、欠席を貫いた訳ではない。むしろ、出席を貫いた方が事実に近いような。
来なくてもいい、女性が過半数を占めるお茶会に参加したことも何回かあるような。
「だが、この狂想曲も今日で終わりだ。国へ戻れる。そしたら平和な生活に戻れる」
最終日にも例の公爵夫人からプレゼントが届いたり、親しくなった王弟殿下からお手紙が届いたり、殿下に庭のバラを一本お返ししようとしたら、毛を逆立てたドリュー様に叩き折られたり、いろいろあったけど、とりあえず自国へ戻った。
「はああー」
自宅へ着くと、ドリュー様は嬉しそうにため息をついた。
「家はいいな。二人きりだし」
隣国で借りたアパルトマンでも、二人きりでしたよ?
そこへマーガレット大伯母様が訪問してきた。自国の方が二人きりになれないじゃないの?
「聞いたわよ、シシリー!」
大伯母はなんだか嬉しそうだ。
「隣国では美人で美人で大人気だったそうね!」
そんなドリュー様が嫌がるような話題を。
「見てちょうだい! 招待状がこんなにどっさり」
「え……?」
「文化的に最先端の大国の隣国で流行ったものは、この国でも流行るのよ。隣国で発見されたあなたの魅力に、遅まきながらこの国の皆さんも気が付いたってわけ。隣国行きは大成功だったわね」
いや、その、その件に関してましては、ウチのアレが相当に病んでましてですね?
「何言っているのですか。ドリュー様。最初からあなた様も、本当のシシリー様を見た途端に目の色が変わっていたではありませんか」
そう言ったのはロザリア。
「仕方がありませんわ。これからシシリー様は真価を発揮するのです!」
世の中って、何が起きるかわからない。
私の真価ってどこにあるのかしら? 確か私は自分探しを始めようと決意したところだった。
それが、ドリュー様の強引な希望で無理やり隣国に同伴赴任を強要されて、なぜか大人気になって……
「シシリーがどんどん成長していく」
ドリュー様がいとおしい金茶色の髪を振り立てて言った。
「手の届かないところにいってしまったらどうしよう。隣国の王弟殿下とか……」
ああ、あのバラのこと?
私はドリュー様に自分の庭で摘んだ花を差し出した。
ありふれた花。私みたいだ。
この世でたった一人だけ、財産なんか関係なく、本当は美人なんかじゃない私だけど、好きだと言ってくれたドリュー様。
そういえば言ったことがなかったかも。
「この花は私みたい。地味で、ありふれていて。でも、私はあなたのことが必死で好き。あなた追いつかないと捨てられるかもって……愛してるわ、ドリュー様」
ドリュー様は花を受け取った。そして食べてしまった。
「えええ?」
「大好きなんだ。食べてしまいたいんだ!」
**********
私たちの最初の女の子の名前は、当然マーガレットだった。
夫は彼の金茶色の髪を受け継いだらしい小さな娘に大喜びだったが、大伯母様もまた小さなマーガレットの誕生に大喜びだった。
「私の孫よ!」
ちょっと違います。強いて言うならひ孫です。
そしてドリュー様の方は、着々と商売を大きくしていった。
伯爵家の御曹司なのに、よほど商才があったらしい。陰では貴族らしくないと言われているとかいないとか。
大伯母様は微笑んだ。
「人にどう言われようと、いいじゃないの。私だって、侯爵家の娘らしくないって言われ続けてきたわ。離婚したし再婚したしね」
私も、あまり人に好かれるような容姿ではないと言われ続けてきた。
「それを言ったのは、思い込みの強かったあなたのお母様だけよ。あとダドリー」
大伯母様はゆったりと肘掛椅子に座って気に入りのバラの庭を眺めていた。
「ドリューには、才能があるのですもの」
そう。彼は新しいものを見つけてきては、大量に生産したり、改良して大ヒットを飛ばしている。主に日用品が多く、取扱品目が庶民的なので、余計に貴族らしくないと言われているのだ。
「この灯り。ドリューが砂漠の国で見つけてきた不思議な水のおかげで長時間保つの」
大伯母様は感心したように最近の大ヒット商品であるランプを指した。陶器の台座の上にはバラ色のシェードがかかっている。
「ドリューのおかげで夜が明るくなったわ」
私もドリュー様のおかげで花開いたような気がする。
最初にかわいいと言ってくれたのはドリュー様。そのたった一言が最初の一歩になった。
「そういえば、シシリー、知ってる? ドリューは表通りのダドリー侯爵家の建物を一棟丸々買ってしまったそうよ」
えええ? 確かダドリー家の最期の財産だったはず。
「借金のカタなんですって」
何でも知っている大伯母は笑った。
「場所がいいので、最高級ホテルになるんですって。だけど、特別室を作ると聞いているわ。あなた専用らしいわよ」
そこへドリュー様が帰ってきた。
「ひどいな。マーガレット大伯母様」
ドリューは仏頂面をして言った。
「俺から話したかったのに」
「そんなに特別なことなの?」
私は聞いた。
「そうでもないけどね。いつかダドリーがあなたを屋根裏部屋に住まわせるんだと言ったことを覚えている?」
「ええ」
愉快な思い出じゃないけど。
「あの時、俺、すごく腹が立ったんだ。だからいつかあの屋敷を手に入れて、あなたをその建物の中で一番いい部屋に住まわせたいと思ったんだよ」
「でも、ドリュー、この館の方が子どもを育てるにはずっといいわ。散歩に連れていける大きな庭も、テラスもありますもの」
ドリュー様は首を振った。
「静かな庭園がある館もいいけど、最高ににぎやかな大通りに面したバルコニーの付いたホテルもすてきだよ? たまには二人で過ごそうよ。オペラハウスや夜遅くまでやっているレストラン、通りはにぎやかでも、窓を閉めてしまえば室内は完全にプライベートだ。そんな贅沢な空間もいいなと思って。シシリーの好きな部屋にしよう。夜会に参加した晩もとても便利だ。ホテルマンは全員俺の家の使用人みたいなものだしね」
その街の灯りは、今は全部ドリューの作ったミッドフォード社製だ。夜は煌々と明るくなり、街はがぜん陽気になった。
「行くわ」
ドリュー様は私に見て欲しいのだわ。贅沢と下にも置かぬもてなしが待っているのだろう。
ドリュー様は深く満足した笑いを浮かべた。
「俺は今、すべてに決着をつけて、完全無欠になった気がするよ」
「どうしてそうなるの?」
私は焦った。私がやり始めている、大伯母様の事務仕事はどうなるの?
「正直に言おう。社交界は魔窟だ。あなたと結婚できなかった連中が狙っている。隣国なら、最初から俺の妻だと紹介できるから。売約済みだ」
初めてパーティーに出た時も、ドリュー様に手を引かれていた。
婚約者でこそなかったけれど、ドリュー様と結婚する可能性を強烈に印象付けたと思う。
「夫婦は違う。誰も狙わない。婚約申し込みなんかしない」
ドリュー様、何言ってるの。
「結婚していたら、誰も婚約申し込みなんかしないと思うわ。どこへ行っても同じでしょう?」
「いや。シシリーは、この国ではアホのダドリーのせいで有名になってしまったからね。人妻でも、お話ししたいと言う手合いがくるとよろしくない……」
ドリュー様は言葉を濁した。
ドリュー様は知り合いが誰もいない隣国の方が、社交も限られ安全だと勝手なことを考えたのかもしれない。
例の婚約破棄事件と、そのあと、マーガレット大伯母様が私の名誉回復と婚活のために、大パーティーを開いてくれたりしたおかげで、私は今や有名人ですからね……。
予想外の展開だった。
まあ、唯一解せぬのが、ロザリアたちのおかげで、確かにものすごーくマシになったと思うけど、とても美人だと言う評判だ。
そのせいで、あちこちからお声がかかることが増えた。
ドリュー様は静かな生活を望んでらっしゃるのかもしれないわ。
父も兄も商会の面々も別に反対する理由がなかったので、同伴出張は認められた。
むしろ、ちょっとした旅行気分かと思われただけだろう。だって、隣国は治安が良く観光地も多く、華やかで発展している国だったからだ。
「まあ、夫婦同伴で行った方が何かと安心だから、特に止める理由はないが……すごく華やかな国だけど」
父は静かな生活をしたくてと聞かされた時、まあ静かじゃないかもしれないけどねと答えた。
隣国は本当に繫栄した華やかな国だった。
芝居小屋からオペラハウスまで、ありとあらゆる演劇やショービジネスがあったし、ファッションに関しては最先端を行っていた。レストランやホテルも立派で、人々は裕福でしょっちゅうパーティが催されていた。
全然、静かな国じゃなかった。裕福な人が多いので、社交界は厚みがあり、賑やかで、全員新しいものが大好きで、新奇な話題に飢えていた。
私はあっという間に注目の的になってしまった。
「妻のシシリーでございま……」
「おお、本当にお美しい。神秘的な美人ですな!」
実は黒髪は隣国では大人気の髪色だった。全然、知らなかったけどね!
「ぜひ一度当家の
お茶会に……あ、だんなさまもよければご一緒に」
取ってつけたようなこの一言。
自国ではここまでもてはやされなかった黒髪のすらりキリリ系は、異国情緒溢れる美女としてこの国では大人気だった。
しかも、この時ご招待してくださったのが、高名な公爵夫人だったので断るわけには絶対に行かず。
「光栄でございます」
ドリュー様は超オマケ状態だった。
しかも、私は立っているだけで視線を集め、微笑むとどよめきが起きる始末。
次のパーティーやお茶会へのご招待が殺到し、ドリュー様は仕事があるので全部は同伴できなかったので、私は単独で出席しまくり、人脈がどんどん広がった。
「もっとツンとした方かと思ってたのですけど」
「話を聞くのが本当にお上手」
ダドリー様のお相手で鍛えまくったスルー力と、肝心な点のみチェック・記憶能力がここで遺憾無く発揮された。
「お話がはずむ方って、なかなかいないのよ。楽しいわ」
最初に声をかけてくださった公爵夫人とは歳が離れているのにも関わらず、とても親しくなった。
公爵夫人に連れられてあちこちに顔を出しているうちに、王妃様のパーティーにも招待された! 望外の名誉!
もはや珍獣を見る会の勢いである。……と思ったのは内緒だ。
異国情緒溢れる美人と言うか、見たことないタイプの美女とはここまで心惹かれるものなのだろうか。
三ヶ月は瞬く間に過ぎ去り、人気絶頂の時に夫が言った。
「さあ、国に帰ろう」
ドリュー様、痩せたわ。仕事が大変でしたのね。
「違うに決まってるだろ!」
ドリュー様は喚くように答えた。
「君があちこちで大人気って聞くたびにイライラしてやりきれなかったよ!」
「仕方ありませんわ。身分高い方々からのご好意なんですもの。王妃様のお茶会なんか絶対に断れませんわ」
何言ってんだろ。商売的に言っても、すばらしいチャンスじゃありませんか。王妃様と顔見知りになるだなんて!
「わかってる。わかってるから、何も言わずに出来るだけ欠席を貫いた。誰も俺を見たいわけじゃないからね」
まあ、事実。うなずくしかない。イケメンが見る影もないなあ……
だけど、欠席を貫いた訳ではない。むしろ、出席を貫いた方が事実に近いような。
来なくてもいい、女性が過半数を占めるお茶会に参加したことも何回かあるような。
「だが、この狂想曲も今日で終わりだ。国へ戻れる。そしたら平和な生活に戻れる」
最終日にも例の公爵夫人からプレゼントが届いたり、親しくなった王弟殿下からお手紙が届いたり、殿下に庭のバラを一本お返ししようとしたら、毛を逆立てたドリュー様に叩き折られたり、いろいろあったけど、とりあえず自国へ戻った。
「はああー」
自宅へ着くと、ドリュー様は嬉しそうにため息をついた。
「家はいいな。二人きりだし」
隣国で借りたアパルトマンでも、二人きりでしたよ?
そこへマーガレット大伯母様が訪問してきた。自国の方が二人きりになれないじゃないの?
「聞いたわよ、シシリー!」
大伯母はなんだか嬉しそうだ。
「隣国では美人で美人で大人気だったそうね!」
そんなドリュー様が嫌がるような話題を。
「見てちょうだい! 招待状がこんなにどっさり」
「え……?」
「文化的に最先端の大国の隣国で流行ったものは、この国でも流行るのよ。隣国で発見されたあなたの魅力に、遅まきながらこの国の皆さんも気が付いたってわけ。隣国行きは大成功だったわね」
いや、その、その件に関してましては、ウチのアレが相当に病んでましてですね?
「何言っているのですか。ドリュー様。最初からあなた様も、本当のシシリー様を見た途端に目の色が変わっていたではありませんか」
そう言ったのはロザリア。
「仕方がありませんわ。これからシシリー様は真価を発揮するのです!」
世の中って、何が起きるかわからない。
私の真価ってどこにあるのかしら? 確か私は自分探しを始めようと決意したところだった。
それが、ドリュー様の強引な希望で無理やり隣国に同伴赴任を強要されて、なぜか大人気になって……
「シシリーがどんどん成長していく」
ドリュー様がいとおしい金茶色の髪を振り立てて言った。
「手の届かないところにいってしまったらどうしよう。隣国の王弟殿下とか……」
ああ、あのバラのこと?
私はドリュー様に自分の庭で摘んだ花を差し出した。
ありふれた花。私みたいだ。
この世でたった一人だけ、財産なんか関係なく、本当は美人なんかじゃない私だけど、好きだと言ってくれたドリュー様。
そういえば言ったことがなかったかも。
「この花は私みたい。地味で、ありふれていて。でも、私はあなたのことが必死で好き。あなた追いつかないと捨てられるかもって……愛してるわ、ドリュー様」
ドリュー様は花を受け取った。そして食べてしまった。
「えええ?」
「大好きなんだ。食べてしまいたいんだ!」
**********
私たちの最初の女の子の名前は、当然マーガレットだった。
夫は彼の金茶色の髪を受け継いだらしい小さな娘に大喜びだったが、大伯母様もまた小さなマーガレットの誕生に大喜びだった。
「私の孫よ!」
ちょっと違います。強いて言うならひ孫です。
そしてドリュー様の方は、着々と商売を大きくしていった。
伯爵家の御曹司なのに、よほど商才があったらしい。陰では貴族らしくないと言われているとかいないとか。
大伯母様は微笑んだ。
「人にどう言われようと、いいじゃないの。私だって、侯爵家の娘らしくないって言われ続けてきたわ。離婚したし再婚したしね」
私も、あまり人に好かれるような容姿ではないと言われ続けてきた。
「それを言ったのは、思い込みの強かったあなたのお母様だけよ。あとダドリー」
大伯母様はゆったりと肘掛椅子に座って気に入りのバラの庭を眺めていた。
「ドリューには、才能があるのですもの」
そう。彼は新しいものを見つけてきては、大量に生産したり、改良して大ヒットを飛ばしている。主に日用品が多く、取扱品目が庶民的なので、余計に貴族らしくないと言われているのだ。
「この灯り。ドリューが砂漠の国で見つけてきた不思議な水のおかげで長時間保つの」
大伯母様は感心したように最近の大ヒット商品であるランプを指した。陶器の台座の上にはバラ色のシェードがかかっている。
「ドリューのおかげで夜が明るくなったわ」
私もドリュー様のおかげで花開いたような気がする。
最初にかわいいと言ってくれたのはドリュー様。そのたった一言が最初の一歩になった。
「そういえば、シシリー、知ってる? ドリューは表通りのダドリー侯爵家の建物を一棟丸々買ってしまったそうよ」
えええ? 確かダドリー家の最期の財産だったはず。
「借金のカタなんですって」
何でも知っている大伯母は笑った。
「場所がいいので、最高級ホテルになるんですって。だけど、特別室を作ると聞いているわ。あなた専用らしいわよ」
そこへドリュー様が帰ってきた。
「ひどいな。マーガレット大伯母様」
ドリューは仏頂面をして言った。
「俺から話したかったのに」
「そんなに特別なことなの?」
私は聞いた。
「そうでもないけどね。いつかダドリーがあなたを屋根裏部屋に住まわせるんだと言ったことを覚えている?」
「ええ」
愉快な思い出じゃないけど。
「あの時、俺、すごく腹が立ったんだ。だからいつかあの屋敷を手に入れて、あなたをその建物の中で一番いい部屋に住まわせたいと思ったんだよ」
「でも、ドリュー、この館の方が子どもを育てるにはずっといいわ。散歩に連れていける大きな庭も、テラスもありますもの」
ドリュー様は首を振った。
「静かな庭園がある館もいいけど、最高ににぎやかな大通りに面したバルコニーの付いたホテルもすてきだよ? たまには二人で過ごそうよ。オペラハウスや夜遅くまでやっているレストラン、通りはにぎやかでも、窓を閉めてしまえば室内は完全にプライベートだ。そんな贅沢な空間もいいなと思って。シシリーの好きな部屋にしよう。夜会に参加した晩もとても便利だ。ホテルマンは全員俺の家の使用人みたいなものだしね」
その街の灯りは、今は全部ドリューの作ったミッドフォード社製だ。夜は煌々と明るくなり、街はがぜん陽気になった。
「行くわ」
ドリュー様は私に見て欲しいのだわ。贅沢と下にも置かぬもてなしが待っているのだろう。
ドリュー様は深く満足した笑いを浮かべた。
「俺は今、すべてに決着をつけて、完全無欠になった気がするよ」
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頭文字はちがっても、 ダ”ドリー” に ”ドリュー” は字面も似ていて…ダドリーがダニエル等であれば見分けやすいと思いました。
正しすぎる感想キタ
感想ありがとうございます😭
おっしゃる通りです。何度も実は変えようかな、でも、ここまで書いちゃったら、全部変更するの大変だしな、の無精との戦いでした……イヤ、ほんと申し訳ない。
読んでくださってありがとうございます😭
第11話のダドリー様はお優しい。
という文章ですが、前後の話の流れからみると
ダドリーではなく
ドリュー様なのでは?
あわわわー
ありがとうございますありがとうございますありがとうございます
直しましたぁー