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第15話 デートの計画
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「いや、本当にウザいのよ」
ダドリー様はカフェに入ってくるなり私を呼び、どっかりといつもの席に座り込むといら立ったように言い出した。
他のカフェ女子はみんな避難済みなので、今日も私が相手である。チップを渋るような男に用はないのだそうだ。
「俺の婚約者だけど、デート申し込んできやがったのよ」
「婚約者様とデート……素敵ではありませんか」
私もドリュー様のような方が婚約者でデートができたら。思わず夢を見た。
ああ、だけど、ドリュー様には婚約したい女性がいる。それに私には婚約者として現在こいつがいるので、全方向でシャッターが下りている感がある。
「俺は嫌なんだ。行先が宝石店って言うのが不安だ」
「何を買って差し上げるご予定ですか?」
「なんで俺が買うんだ。買ってほしいよ。あっちの方が金持ちなんだから」
「そうなんですか」
お金のあるなしで言われればそうかもしれないけど、婚約者なのに買いたくないってどうなのか。
「デートは明日だ。なんか面白い話でもないかね? 宝石店より面白い話。宝石店は嫌だ」
「そうですねえ……ああ、そうそう、そう言えばマーガレット様という社交界で有名なご婦人をご存じですか? 国でも指折りの大金持ちの」
「知ってるよ。美人でも婆さんだろ。散々結婚離婚して、その都度慰謝料だのなんだの巻き上げて大金持ちになったって言う。男の敵だな」
どうもこの人と話していると調子が狂う。マーガレット大伯母様は素敵な方なのに。どうして人の悪口しか言わないのかしら。
「なんでも遺産相続人を探してらっしゃるのだそうですよ? ご自分の身内ではなく、今までの旦那様に敬意を表して、旦那様方の親戚の誰かにお金を残す内容の遺言を書いてらっしゃるそうですよ」
「へえ。返すのかい。奇特な女だな。バカだな。まあ、地獄にカネは持ってけないか」
私、ダドリー様嫌いだわ。悪口しか言わないんだもの。
「ダドリー様もご親戚ではないのですか?」
ダドリー様はこの言葉を聞いてハッとしたようだった。
「あれ? そうか。俺の母親はマーガレット夫人の二番目の夫の妹だ。じゃあ、俺かもしれないってことだよな」
ダドリー様はソファーから立ち上がった。
「なんにしろすごい額だ。大抵そう言う場合って、若い者に残すからな。年寄りに残したって、また遺産相続騒動が起きるだけだものな。義理の甥や姪のうち、一番若いのは俺だ! 俺のとこへくるって訳か!」
ちょっと! 都合良すぎる解釈にも程がありませんか?
「ほんとかどうかわかりませんよ? 侍女が話していたのをドレスメーカーの女が聞いていたって噂ですからね」
「そりゃあ、信ぴょう性が高いじゃないか! いいか、使用人なんて噂ばっかりだ。主人の噂をするのが仕事だと思っているんだ」
そりゃあまあ否定しませんが……どうも、このダドリーは性格が悪いな。
「少し早いが俺はもう帰る。ちょっとその噂、探ってみよう。一緒にいてやれないから、この手紙、読んでみろよ。絶対、デート行きたくない。こんな婚約者嫌になるぜ。こいつ、異常者じゃないか? すごい筆跡だ。初めて見たわ。怖いよ」
ポンッと放り投げられたのは、この間苦労して書いた私の手紙だった。
『婚約者のダドリー様
結婚の時期も近づいてまいりました。ダドリー侯爵家は貧乏で、私の持参金を当てにしているそうですが、ダドリー様の生活に無駄遣いがないか、チェックしたいと思います。改善の必要があれば直すように。結婚後、金銭は私がすべて管理します。
まずは、三日後のお昼に噴水前広場でお会いしましょう。
昼食後、近くの王室御用達のマルダントン宝石店でお買物に行きます。
どんな宝石を買ってくださるか、楽しみにしています。愛をこめて。シシリー』
悪意には悪意を。ロザリアと相談して、誰も言わないことを堂々と書いてみた。
遠慮なんかしてる場合じゃない。
問題は筆跡。
実は筆跡がばれてはいけないので左手で書いた。利き手でない方で書くのって、ものすごく書きにくい。意図せず、手紙から異常そうな雰囲気が漂ってきてしまった。この手紙をみた父がビクついて、代筆した侍女はどんな女かとわざわざ聞きに来たくらいだもの。
ありがとう、ダドリー様。異常さみなぎるこの手紙、婚約者は異常ですと言う証拠にされたらどうしようかと思っていたのよ。回収できてラッキーだったわ。
そして当日、婚約者は現れない。使者は態度悪く謝りながら、体調不良のお知らせを伝えに来るだけだ。
ドリュー様は、デートの日が決まれば絶対に教えて欲しいと言っていた。
「ねえ、その日にマリリンになってデートしようよ。愛人競争だ。どこであいつは食事をするつもりかな。噴水前広場を通って行こう」
「手紙に待ち合わせは噴水前広場って書きましたのよ。その手紙をマリリンに渡したのに、どうしてわざわざ……」
ドリュー様は大まじめで言った。
「俺が、ダドリーの婚約者が見たいので、わざわざ遠回りしてきたんだって言ってやる。そしてシシリーを見せびらかす。デートの相手は俺なんだって」
兄もドリューもロザリアもウチの父まで、なぜかダドリー相手には冷たい。
人間が悪くなっているわ!
当日私は大ニコニコのロザリアに念入りに服を着せられた。
もちろんロザリアが見立ててお化粧もバッチリしてくれて、完全に他人に化けた。
「ダドリー様とデートはしないでしょう。今日はマリリンに化けてドリュー様とのデートでしょ?」
私は真っ赤になった。
「デートなんかじゃないわ」
だって、ドリュー様には好きな方がおられるのですもの。
なぜかロザリアは、ドリュー様にものすごく好意的なので、ドリュー様がらみのイベントになると張り切る。
「違いますよ、お嬢様。私はドリュー様のファンなんかじゃありません。ただの恋愛推進派なんです」
「縁結びが好きって意味なの?」
「はい。今回のようなケースは特にです。もう、ワクワクが止まりません」
「どこがおもしろいのかわからないわ……」
ドリュー様はデートに向けて張り切っていらしたけど、それは元々嫌いだったダドリーを打ちのめすため。
伯爵家の令息で遊び人のドリュー様なら、きっとモテるのでしょう。私なんかと歩いているところを見られて、その本命の方に誤解されたら申し訳ないわ。
「ロザリア、あまり目立たない方がいいわ……」
「どうしてですの?」
「だって……ドリュー様には婚約したい方がいらっしゃるそうなの」
言いたくなかったけど、私は打ち明けた。ロザリアには協力してもらわないといけないから。
「まあ! そうなんですか!」
なぜかロザリアは満面の笑顔になった。
「もっとも、まだお申し込みにはなっていらっしゃらないそうだけど。なにか事情があって、まだ、相手の方に言えないのですって」
「まあ! 私もそうではないかと思っていました! ドリュー様からそんな感じを受けましたわ!」
ああ。ロザリアみたいな機転の利く人間にはわかるのか。私は何も感じ取れなかった。それどころか、もともと優しかったドリュー様が、最近はますます優しくなった気がする。婚約者にしたい方がいると言うのに。私が自分の気持ちに引きずられているのだと思う。私はバカだ。
「私、ドリュー様の邪魔にはなりたくないの。カフェの店員をやっているような平民の娘と歩いているところを見られたら、ドリュー様の婚約がうまくいかなくなるかもしれない。だから目立ちたくないのよ」
「そんな心配全然必要ないですよ!」
ロザリアは笑い飛ばした。
「それに、お嬢様はカフェの店員が仮の姿で、本当はお金持ちの貴族の令嬢ですよね?」
「でも、貴族の令嬢姿で一緒にいたら、それもマズいわ」
「ですけど、デートはもう決まってますし。そうですわ。ダドリー様にいちゃついているところを見せつけるのが済んだら、もうカツラを取ったらいいと思います」
「ええ? なぜなの?」
「そうすれば、お嬢様がどこの誰だか誰にもわからないと思います。社交界で見たこともなければ、カフェの店員でもない謎の女性です。もっと、いちゃつき放題です」
ええと。何のためにいちゃつくのか。
そんなことをしたら、道を誤りそう。帰ってこれなくなる。
「それはご迷惑じゃないかしら。女性を連れているだけでもよくないと思うの。私、ダドリー様に見せつけたら、急いで帰ってくればいいと思うのよ」
そんなに長いこと、理性がもたない。本当のデートだと勘違いしてしまいそうだ。
「お嬢様」
なんだか我慢も限界といったような声をロザリアが出した。
「帰ってしまったら、ドリュー様が泣きますよ! お嬢様がいちゃつけばドリュー様が崩壊してしまうかもしれませんが、とにかく、このロザリアにお任せください。大丈夫です。絶対にうまいこと行きますから!」
ダドリー様はカフェに入ってくるなり私を呼び、どっかりといつもの席に座り込むといら立ったように言い出した。
他のカフェ女子はみんな避難済みなので、今日も私が相手である。チップを渋るような男に用はないのだそうだ。
「俺の婚約者だけど、デート申し込んできやがったのよ」
「婚約者様とデート……素敵ではありませんか」
私もドリュー様のような方が婚約者でデートができたら。思わず夢を見た。
ああ、だけど、ドリュー様には婚約したい女性がいる。それに私には婚約者として現在こいつがいるので、全方向でシャッターが下りている感がある。
「俺は嫌なんだ。行先が宝石店って言うのが不安だ」
「何を買って差し上げるご予定ですか?」
「なんで俺が買うんだ。買ってほしいよ。あっちの方が金持ちなんだから」
「そうなんですか」
お金のあるなしで言われればそうかもしれないけど、婚約者なのに買いたくないってどうなのか。
「デートは明日だ。なんか面白い話でもないかね? 宝石店より面白い話。宝石店は嫌だ」
「そうですねえ……ああ、そうそう、そう言えばマーガレット様という社交界で有名なご婦人をご存じですか? 国でも指折りの大金持ちの」
「知ってるよ。美人でも婆さんだろ。散々結婚離婚して、その都度慰謝料だのなんだの巻き上げて大金持ちになったって言う。男の敵だな」
どうもこの人と話していると調子が狂う。マーガレット大伯母様は素敵な方なのに。どうして人の悪口しか言わないのかしら。
「なんでも遺産相続人を探してらっしゃるのだそうですよ? ご自分の身内ではなく、今までの旦那様に敬意を表して、旦那様方の親戚の誰かにお金を残す内容の遺言を書いてらっしゃるそうですよ」
「へえ。返すのかい。奇特な女だな。バカだな。まあ、地獄にカネは持ってけないか」
私、ダドリー様嫌いだわ。悪口しか言わないんだもの。
「ダドリー様もご親戚ではないのですか?」
ダドリー様はこの言葉を聞いてハッとしたようだった。
「あれ? そうか。俺の母親はマーガレット夫人の二番目の夫の妹だ。じゃあ、俺かもしれないってことだよな」
ダドリー様はソファーから立ち上がった。
「なんにしろすごい額だ。大抵そう言う場合って、若い者に残すからな。年寄りに残したって、また遺産相続騒動が起きるだけだものな。義理の甥や姪のうち、一番若いのは俺だ! 俺のとこへくるって訳か!」
ちょっと! 都合良すぎる解釈にも程がありませんか?
「ほんとかどうかわかりませんよ? 侍女が話していたのをドレスメーカーの女が聞いていたって噂ですからね」
「そりゃあ、信ぴょう性が高いじゃないか! いいか、使用人なんて噂ばっかりだ。主人の噂をするのが仕事だと思っているんだ」
そりゃあまあ否定しませんが……どうも、このダドリーは性格が悪いな。
「少し早いが俺はもう帰る。ちょっとその噂、探ってみよう。一緒にいてやれないから、この手紙、読んでみろよ。絶対、デート行きたくない。こんな婚約者嫌になるぜ。こいつ、異常者じゃないか? すごい筆跡だ。初めて見たわ。怖いよ」
ポンッと放り投げられたのは、この間苦労して書いた私の手紙だった。
『婚約者のダドリー様
結婚の時期も近づいてまいりました。ダドリー侯爵家は貧乏で、私の持参金を当てにしているそうですが、ダドリー様の生活に無駄遣いがないか、チェックしたいと思います。改善の必要があれば直すように。結婚後、金銭は私がすべて管理します。
まずは、三日後のお昼に噴水前広場でお会いしましょう。
昼食後、近くの王室御用達のマルダントン宝石店でお買物に行きます。
どんな宝石を買ってくださるか、楽しみにしています。愛をこめて。シシリー』
悪意には悪意を。ロザリアと相談して、誰も言わないことを堂々と書いてみた。
遠慮なんかしてる場合じゃない。
問題は筆跡。
実は筆跡がばれてはいけないので左手で書いた。利き手でない方で書くのって、ものすごく書きにくい。意図せず、手紙から異常そうな雰囲気が漂ってきてしまった。この手紙をみた父がビクついて、代筆した侍女はどんな女かとわざわざ聞きに来たくらいだもの。
ありがとう、ダドリー様。異常さみなぎるこの手紙、婚約者は異常ですと言う証拠にされたらどうしようかと思っていたのよ。回収できてラッキーだったわ。
そして当日、婚約者は現れない。使者は態度悪く謝りながら、体調不良のお知らせを伝えに来るだけだ。
ドリュー様は、デートの日が決まれば絶対に教えて欲しいと言っていた。
「ねえ、その日にマリリンになってデートしようよ。愛人競争だ。どこであいつは食事をするつもりかな。噴水前広場を通って行こう」
「手紙に待ち合わせは噴水前広場って書きましたのよ。その手紙をマリリンに渡したのに、どうしてわざわざ……」
ドリュー様は大まじめで言った。
「俺が、ダドリーの婚約者が見たいので、わざわざ遠回りしてきたんだって言ってやる。そしてシシリーを見せびらかす。デートの相手は俺なんだって」
兄もドリューもロザリアもウチの父まで、なぜかダドリー相手には冷たい。
人間が悪くなっているわ!
当日私は大ニコニコのロザリアに念入りに服を着せられた。
もちろんロザリアが見立ててお化粧もバッチリしてくれて、完全に他人に化けた。
「ダドリー様とデートはしないでしょう。今日はマリリンに化けてドリュー様とのデートでしょ?」
私は真っ赤になった。
「デートなんかじゃないわ」
だって、ドリュー様には好きな方がおられるのですもの。
なぜかロザリアは、ドリュー様にものすごく好意的なので、ドリュー様がらみのイベントになると張り切る。
「違いますよ、お嬢様。私はドリュー様のファンなんかじゃありません。ただの恋愛推進派なんです」
「縁結びが好きって意味なの?」
「はい。今回のようなケースは特にです。もう、ワクワクが止まりません」
「どこがおもしろいのかわからないわ……」
ドリュー様はデートに向けて張り切っていらしたけど、それは元々嫌いだったダドリーを打ちのめすため。
伯爵家の令息で遊び人のドリュー様なら、きっとモテるのでしょう。私なんかと歩いているところを見られて、その本命の方に誤解されたら申し訳ないわ。
「ロザリア、あまり目立たない方がいいわ……」
「どうしてですの?」
「だって……ドリュー様には婚約したい方がいらっしゃるそうなの」
言いたくなかったけど、私は打ち明けた。ロザリアには協力してもらわないといけないから。
「まあ! そうなんですか!」
なぜかロザリアは満面の笑顔になった。
「もっとも、まだお申し込みにはなっていらっしゃらないそうだけど。なにか事情があって、まだ、相手の方に言えないのですって」
「まあ! 私もそうではないかと思っていました! ドリュー様からそんな感じを受けましたわ!」
ああ。ロザリアみたいな機転の利く人間にはわかるのか。私は何も感じ取れなかった。それどころか、もともと優しかったドリュー様が、最近はますます優しくなった気がする。婚約者にしたい方がいると言うのに。私が自分の気持ちに引きずられているのだと思う。私はバカだ。
「私、ドリュー様の邪魔にはなりたくないの。カフェの店員をやっているような平民の娘と歩いているところを見られたら、ドリュー様の婚約がうまくいかなくなるかもしれない。だから目立ちたくないのよ」
「そんな心配全然必要ないですよ!」
ロザリアは笑い飛ばした。
「それに、お嬢様はカフェの店員が仮の姿で、本当はお金持ちの貴族の令嬢ですよね?」
「でも、貴族の令嬢姿で一緒にいたら、それもマズいわ」
「ですけど、デートはもう決まってますし。そうですわ。ダドリー様にいちゃついているところを見せつけるのが済んだら、もうカツラを取ったらいいと思います」
「ええ? なぜなの?」
「そうすれば、お嬢様がどこの誰だか誰にもわからないと思います。社交界で見たこともなければ、カフェの店員でもない謎の女性です。もっと、いちゃつき放題です」
ええと。何のためにいちゃつくのか。
そんなことをしたら、道を誤りそう。帰ってこれなくなる。
「それはご迷惑じゃないかしら。女性を連れているだけでもよくないと思うの。私、ダドリー様に見せつけたら、急いで帰ってくればいいと思うのよ」
そんなに長いこと、理性がもたない。本当のデートだと勘違いしてしまいそうだ。
「お嬢様」
なんだか我慢も限界といったような声をロザリアが出した。
「帰ってしまったら、ドリュー様が泣きますよ! お嬢様がいちゃつけばドリュー様が崩壊してしまうかもしれませんが、とにかく、このロザリアにお任せください。大丈夫です。絶対にうまいこと行きますから!」
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