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第18話 正体
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図書館の中なら、私は何がどこにあるか知っている。
「待って。フロレンス。息が切れるわ」
私たちは図書館になだれ込み、私は書庫の中の在学生名簿の書架にたどり着いた。
「あの人、絶対年上だと思う」
「そうね。5年くらい先輩じゃないかしら?」
しばらく時間がかかったが、必死になって名前を探していくうちに、私たちはようやくハーヴェスト姓にたどり着いた。
それくらいの年頃に、ハーヴェストはひとりしかいなかった。
「ハーヴェスト。エドワード・マーク」
私たちは顔を見合わせた。
「確証はないわね」
「でも、可能性は高いわ」
エドワード・ハーヴェストは4年前の卒業だった。つまり今22歳くらい。
「年齢的にはそれくらいかしら?」
「最優等をもらっているわ」
「すごいわね。その人かもね。頭は切れそうだったわ」
彼が、今、何をしている人なのかまでは、わからない。学校を卒業した時までで、記録は終わっている。
ただ、彼が地方の貴族の出身で、優秀な成績で卒業したことだけはわかった。今、王都にいると言うことは、おそらく文官として働いている可能性が高い。財務卿繋がりで紹介されたのだ。ほぼ間違いないだろう。
ジュディスと別れた後で、悩みを抱えながら、私は図書館内のいつもの席に行った。これは相談できることだろう。ジルにも聞いてみよう。
ピンクの紙はいつものサイズに戻っていた。
『生誕祭が終われば、選択科目が始まるけど、フロウは何を取る? 俺は財務を取ろうか戦略一般を取るかで迷ってる。つまり、内政に入るか、軍務に行くかと言うことなんだ。時間があれば両方取ればいいが、成績のことを考えると時間的に難しいかもしれない』
そうか。将来のことを考えているんだ。
男性は必ず何か仕事をしなくてはいけないから大変なんだ。
『だって、俺は秘密の薬の開発にも時間を取られてるんだ。媚薬の開発って難しいね! でも、夢がある仕事だと思うんだ』
通常営業に戻ったらしい。
この前、媚薬について、私は、「農薬の開発をやりたいな。虫、殺すやつ。これだって、夢があると思う。凶作を減らせる」と書いたのだったが、ジルは感想を付けてきた。
『何かを殺す仕事って、ワクワクするよね!』
なんか微妙な気分になった。
『先のことも考えないといけなくなって。君は何が好き?』
私は……本が好き。
でも、それだけじゃいけないのかもしれない。ジルは続けて書いていた。
『本だったら、戦記物とか結構好き。特に、少人数で大勢をやっつけるやつとか。英雄譚も好き。あと、新しいものを作る話好き。そのほか、恋愛モノを読んでいる。必要に迫られて。結構、面白いね!』
ジルは楽しい。
ただの生徒で、エドワード・ハーヴェスト様みたいな得体の知れないところはない。
そのジルは恋をして、将来のことを考え始めている。
私も出来ることをやらなければならない。
翌朝、緊張した私とアリスは、校門の前で伯爵家差し回しの馬車を待っていた。
ドレスメーカーへダンスパーティ用の衣装を仕立てに行くのだ。
手には外出許可証を握りしめていた。
そして、なんでそんなに緊張しているのかと言うと、エドワード・ハーヴェスト様が一緒について行くと連絡をしてきたからだ。
この前会った時、一度くらいお茶をご一緒しましょうと言っていたが、その約束を果たしたいそうだ。
彼は在校生でなかったから、学園内で探しても見つかるわけがなかった。連絡も取れないし、話も出来なかった。したがって、私はまだダンスパーティーのパートナーを断れないままでいた。
昨日、ジュディスに重々念押しされた。在校生でないなら、ハーヴェスト様がダンスパーティに出る必要はないはずだ。
だから、ダンスのパートナーを辞退してもらえと。
多分、私とジュディスの調査は合っていると思う。見た目からしても、ハーヴェスト様は年長だった。それに学生にはない、みなぎる自信が感じられた。最優等で卒業後、おそらく文官としても優秀なのだろう。
「でも、それならいっそ、婚約しても構わないんじゃない?」
優秀な文官なら、良い縁談ではないか? 私はジュディスに言ってみたが、彼女は激しく首を振った。
「まず、何者なのかよ? そして、どうして財務卿から推されてあなたにダンスを申し込んだのかわからない。今のままでは、全然、判断できないわ!」
それはそうだ。
「ダメよ。とにかく、在校生でないならダンスパートナーは良くないわ」
ジュディスは決めつけた。
愛想はいいが、エドワード・ハーヴェスト様は、私たちよりずっと大人なのだ。
アリスと私は、この交渉に向けてとても緊張していた。
「待って。フロレンス。息が切れるわ」
私たちは図書館になだれ込み、私は書庫の中の在学生名簿の書架にたどり着いた。
「あの人、絶対年上だと思う」
「そうね。5年くらい先輩じゃないかしら?」
しばらく時間がかかったが、必死になって名前を探していくうちに、私たちはようやくハーヴェスト姓にたどり着いた。
それくらいの年頃に、ハーヴェストはひとりしかいなかった。
「ハーヴェスト。エドワード・マーク」
私たちは顔を見合わせた。
「確証はないわね」
「でも、可能性は高いわ」
エドワード・ハーヴェストは4年前の卒業だった。つまり今22歳くらい。
「年齢的にはそれくらいかしら?」
「最優等をもらっているわ」
「すごいわね。その人かもね。頭は切れそうだったわ」
彼が、今、何をしている人なのかまでは、わからない。学校を卒業した時までで、記録は終わっている。
ただ、彼が地方の貴族の出身で、優秀な成績で卒業したことだけはわかった。今、王都にいると言うことは、おそらく文官として働いている可能性が高い。財務卿繋がりで紹介されたのだ。ほぼ間違いないだろう。
ジュディスと別れた後で、悩みを抱えながら、私は図書館内のいつもの席に行った。これは相談できることだろう。ジルにも聞いてみよう。
ピンクの紙はいつものサイズに戻っていた。
『生誕祭が終われば、選択科目が始まるけど、フロウは何を取る? 俺は財務を取ろうか戦略一般を取るかで迷ってる。つまり、内政に入るか、軍務に行くかと言うことなんだ。時間があれば両方取ればいいが、成績のことを考えると時間的に難しいかもしれない』
そうか。将来のことを考えているんだ。
男性は必ず何か仕事をしなくてはいけないから大変なんだ。
『だって、俺は秘密の薬の開発にも時間を取られてるんだ。媚薬の開発って難しいね! でも、夢がある仕事だと思うんだ』
通常営業に戻ったらしい。
この前、媚薬について、私は、「農薬の開発をやりたいな。虫、殺すやつ。これだって、夢があると思う。凶作を減らせる」と書いたのだったが、ジルは感想を付けてきた。
『何かを殺す仕事って、ワクワクするよね!』
なんか微妙な気分になった。
『先のことも考えないといけなくなって。君は何が好き?』
私は……本が好き。
でも、それだけじゃいけないのかもしれない。ジルは続けて書いていた。
『本だったら、戦記物とか結構好き。特に、少人数で大勢をやっつけるやつとか。英雄譚も好き。あと、新しいものを作る話好き。そのほか、恋愛モノを読んでいる。必要に迫られて。結構、面白いね!』
ジルは楽しい。
ただの生徒で、エドワード・ハーヴェスト様みたいな得体の知れないところはない。
そのジルは恋をして、将来のことを考え始めている。
私も出来ることをやらなければならない。
翌朝、緊張した私とアリスは、校門の前で伯爵家差し回しの馬車を待っていた。
ドレスメーカーへダンスパーティ用の衣装を仕立てに行くのだ。
手には外出許可証を握りしめていた。
そして、なんでそんなに緊張しているのかと言うと、エドワード・ハーヴェスト様が一緒について行くと連絡をしてきたからだ。
この前会った時、一度くらいお茶をご一緒しましょうと言っていたが、その約束を果たしたいそうだ。
彼は在校生でなかったから、学園内で探しても見つかるわけがなかった。連絡も取れないし、話も出来なかった。したがって、私はまだダンスパーティーのパートナーを断れないままでいた。
昨日、ジュディスに重々念押しされた。在校生でないなら、ハーヴェスト様がダンスパーティに出る必要はないはずだ。
だから、ダンスのパートナーを辞退してもらえと。
多分、私とジュディスの調査は合っていると思う。見た目からしても、ハーヴェスト様は年長だった。それに学生にはない、みなぎる自信が感じられた。最優等で卒業後、おそらく文官としても優秀なのだろう。
「でも、それならいっそ、婚約しても構わないんじゃない?」
優秀な文官なら、良い縁談ではないか? 私はジュディスに言ってみたが、彼女は激しく首を振った。
「まず、何者なのかよ? そして、どうして財務卿から推されてあなたにダンスを申し込んだのかわからない。今のままでは、全然、判断できないわ!」
それはそうだ。
「ダメよ。とにかく、在校生でないならダンスパートナーは良くないわ」
ジュディスは決めつけた。
愛想はいいが、エドワード・ハーヴェスト様は、私たちよりずっと大人なのだ。
アリスと私は、この交渉に向けてとても緊張していた。
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