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第15話 マデリーン嬢、友人に立候補する
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次の難関はマデリーン・フェアマス嬢の姿を取って現れた。
「お友達になってくださらない?」
甘いしぐさと、しおしおとしたへりくだった態度。
「あまり女性のお友達がいませんの。やはり寂しいものですわ」
いえ。あなたより私の方が女性の友達はいないと思う。
それから、あなたと交友関係を結ぶことにより、これ以上図書館通いの時間を減らされることは、人生の損失だと思っている。
私は対策を考えた。まるで、頭の中をフラッシュが飛び交っているようだ。
私はマデリーン・フェアマス嬢の手をガシッと握りしめた。
「まあ、嬉しいわ。わたくし、図書館にご一緒出来るお友達を探していたのです。農業振興のために地方の年表を読破するのが趣味なんですの」
「え?」
「あと、農害……特に害虫の詳細を勉強中ですの。領地が数年に一度虫の害を受けることがありまして。特に羽虫ですね」
「ハムシ?」
「ええ。周期と前年の気候に類似性がないかを研究しておりますの。なかなか興味を持ってくださる方がいなくて。嬉しいですわ、マデリーン様。古い文献を読み解きますので古語が多いのと数字を突き合わせる作業が膨大なので、計算に手間がかかるのですが……」
マデリーン嬢は現代語文法が苦手だ。古語なんか論外だろう。さらに数学は九々で引っかかっているのを知っている。
「二人で読み解けば、半分の時間で計算結果は出ますわね!」
「ちょっとそれは……図書館ではなく食堂でお話しできれば」
マデリーン嬢の目的はわかり切っている。私と友達と言う態で、殿下が近付いて来たらパクリとやらかす気なのだ。何か近づく口実が欲しいのだろう。
図書館に殿下が出入りしているなんて噂は聞いたこともない。図書館に閉じ込められたら、彼女は活躍できなくなってしまう。ほかの男のことだって狙っているんだろうし。
「マデリーン様、わたくし、食堂ではアンドレア嬢とご一緒する予定ですけれど……」
小首をかしげて聞いてみた。
「アンドレア様にマデリーン様が加わることをお聞きしてみましょうか? 他の皆さまもご一緒ですから、その方たちにも聞いておいた方がいいかと?」
どう考えても、アンドレア嬢一味とマデリーン嬢の仲がいいとは思えない。
「あ、二人きりでお会いしたいのです」
え? なんかの百合? それなら、殿下が万一近付いてきても追っ払うからな。それでもいいの?
……などと言うことは令嬢は考えない。
「アンドレア様とお約束してしまったものですから。それを白紙に戻すなら、理由はお伝えしないと……」
それから私はにっこり笑った。
「いずれにしても、あなたのご要望はアンドレア様にお伝えしておきますね」
お伝えされては困るマデリーン嬢はいろいろ逃げ口上を言っていたが、私は、「なぜ?」とか「どうして?」とかトボケまくって逃げた。
結局、マデリーン嬢は去って行ったが、私はアンドレア・フィッツジェラルド侯爵令嬢と話をする予定はないので、マデリーン嬢のアンドレア嬢への好意は伝わらないだろう。
好きにすればいい。
そもそもこんな面倒ごとに巻き込まれるのは舐められてるからだ。
マデリーン嬢は、アンドレア嬢より私の方が与し易しとみて、寄って来たのだ。
そんなわけあるか。アリスとジュディスが怖いから、こんなドレスを着て普通に振舞っているが、元々私は筋金入りの変人。本に埋没して生きていく気満々だ。エクスター殿下が何を考えているのか知らないが、私に太刀打ち出来るわけがない。私とダンスなんか踊ったら、公爵家の名折れになる。
「お嬢様。また、おかしなこと考えているんでしょう」
寮の部屋に戻ると、なぜかアリスに看破された。
「あさっては、エドワード・ハーヴェスト様とドレスの打ち合わせに行かれるのでしょう」
あ、そうだった。
アリスはため息をついた。
「エドワード・ハーヴェスト様が、ダンスのパートナーを辞退してくださりさえすれば、エクスター殿下からのお申込みを受けられますのにねえ」
「でも、エクスター殿下のダンスパートナーを務めたところで、別にいいことは何もないと思うわ。結婚する訳はないでしょうし、それくらいならエドワード・ハーヴェスト様と結婚する線の方がむしろあり得ると思うわ」
アリスは私の話を無視した。
「まだ、ダンスパーティまで時間がありますわ。ジュディス様が説得に動いてくださっていますわ」
エクスター殿下からのダンスパートナーのお申込みの有効期限はとうに切れていると思うのだが。
「あまり不義理なことはしたくないの。あとの評判が落ちるような真似は避けたいわ」
そう。ご令嬢は評判が命。より条件がいい相手が現れたからって、簡単に鞍替えするようじゃ悪評が立つと思う。筋金入りの変人だって、そこは心得ている。
この理屈にアリスは勝てないので、またため息をつく。
「ところで、エドワード・ハーヴェスト様ってどなたなのでしょうね?」
「え?」
私はマヌケな顔でアリスを見た。
「お友達になってくださらない?」
甘いしぐさと、しおしおとしたへりくだった態度。
「あまり女性のお友達がいませんの。やはり寂しいものですわ」
いえ。あなたより私の方が女性の友達はいないと思う。
それから、あなたと交友関係を結ぶことにより、これ以上図書館通いの時間を減らされることは、人生の損失だと思っている。
私は対策を考えた。まるで、頭の中をフラッシュが飛び交っているようだ。
私はマデリーン・フェアマス嬢の手をガシッと握りしめた。
「まあ、嬉しいわ。わたくし、図書館にご一緒出来るお友達を探していたのです。農業振興のために地方の年表を読破するのが趣味なんですの」
「え?」
「あと、農害……特に害虫の詳細を勉強中ですの。領地が数年に一度虫の害を受けることがありまして。特に羽虫ですね」
「ハムシ?」
「ええ。周期と前年の気候に類似性がないかを研究しておりますの。なかなか興味を持ってくださる方がいなくて。嬉しいですわ、マデリーン様。古い文献を読み解きますので古語が多いのと数字を突き合わせる作業が膨大なので、計算に手間がかかるのですが……」
マデリーン嬢は現代語文法が苦手だ。古語なんか論外だろう。さらに数学は九々で引っかかっているのを知っている。
「二人で読み解けば、半分の時間で計算結果は出ますわね!」
「ちょっとそれは……図書館ではなく食堂でお話しできれば」
マデリーン嬢の目的はわかり切っている。私と友達と言う態で、殿下が近付いて来たらパクリとやらかす気なのだ。何か近づく口実が欲しいのだろう。
図書館に殿下が出入りしているなんて噂は聞いたこともない。図書館に閉じ込められたら、彼女は活躍できなくなってしまう。ほかの男のことだって狙っているんだろうし。
「マデリーン様、わたくし、食堂ではアンドレア嬢とご一緒する予定ですけれど……」
小首をかしげて聞いてみた。
「アンドレア様にマデリーン様が加わることをお聞きしてみましょうか? 他の皆さまもご一緒ですから、その方たちにも聞いておいた方がいいかと?」
どう考えても、アンドレア嬢一味とマデリーン嬢の仲がいいとは思えない。
「あ、二人きりでお会いしたいのです」
え? なんかの百合? それなら、殿下が万一近付いてきても追っ払うからな。それでもいいの?
……などと言うことは令嬢は考えない。
「アンドレア様とお約束してしまったものですから。それを白紙に戻すなら、理由はお伝えしないと……」
それから私はにっこり笑った。
「いずれにしても、あなたのご要望はアンドレア様にお伝えしておきますね」
お伝えされては困るマデリーン嬢はいろいろ逃げ口上を言っていたが、私は、「なぜ?」とか「どうして?」とかトボケまくって逃げた。
結局、マデリーン嬢は去って行ったが、私はアンドレア・フィッツジェラルド侯爵令嬢と話をする予定はないので、マデリーン嬢のアンドレア嬢への好意は伝わらないだろう。
好きにすればいい。
そもそもこんな面倒ごとに巻き込まれるのは舐められてるからだ。
マデリーン嬢は、アンドレア嬢より私の方が与し易しとみて、寄って来たのだ。
そんなわけあるか。アリスとジュディスが怖いから、こんなドレスを着て普通に振舞っているが、元々私は筋金入りの変人。本に埋没して生きていく気満々だ。エクスター殿下が何を考えているのか知らないが、私に太刀打ち出来るわけがない。私とダンスなんか踊ったら、公爵家の名折れになる。
「お嬢様。また、おかしなこと考えているんでしょう」
寮の部屋に戻ると、なぜかアリスに看破された。
「あさっては、エドワード・ハーヴェスト様とドレスの打ち合わせに行かれるのでしょう」
あ、そうだった。
アリスはため息をついた。
「エドワード・ハーヴェスト様が、ダンスのパートナーを辞退してくださりさえすれば、エクスター殿下からのお申込みを受けられますのにねえ」
「でも、エクスター殿下のダンスパートナーを務めたところで、別にいいことは何もないと思うわ。結婚する訳はないでしょうし、それくらいならエドワード・ハーヴェスト様と結婚する線の方がむしろあり得ると思うわ」
アリスは私の話を無視した。
「まだ、ダンスパーティまで時間がありますわ。ジュディス様が説得に動いてくださっていますわ」
エクスター殿下からのダンスパートナーのお申込みの有効期限はとうに切れていると思うのだが。
「あまり不義理なことはしたくないの。あとの評判が落ちるような真似は避けたいわ」
そう。ご令嬢は評判が命。より条件がいい相手が現れたからって、簡単に鞍替えするようじゃ悪評が立つと思う。筋金入りの変人だって、そこは心得ている。
この理屈にアリスは勝てないので、またため息をつく。
「ところで、エドワード・ハーヴェスト様ってどなたなのでしょうね?」
「え?」
私はマヌケな顔でアリスを見た。
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