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第11話 良縁を逃す激ニブ女
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「なに? 断っただ?」
寮の私の部屋では、ジュディスの怒号とアリスの悲鳴が飛び交った。
怖い。
「だって、仕方ないじゃないの。ハーヴェスト様と約束した後だったんですもの」
「くー……何やってくれてるんだか、このとんま令嬢!」
……とんま令嬢。何か、新鮮な響きがある。
「そんなチャンス、二度とないわよ!」
ジュディスはテーブルをドン!と叩いた。おかげで茶器がハネ上がった。幸い飲み干した後だったが。
「あ、あら、二度目だから、三度とないわよ、の間違いよ、ジュディス」
あまりにジュディスが悲嘆にくれるものだから、少しでも明るい雰囲気を出そうと思って私は軽口のつもりで訂正してみた。
「もし、お嬢様。殿下をお断りしたのは二度目なのでございますか?」
しまった。余計な情報をアリスに与えてしまった。アリスが、地獄の底に突き落とされたかのような暗くて陰気な声で確認してきた。
ジュディスは説明するのが嫌になったらしく、アリスと目と目を見かわして、それから私に説明しろと言わんばかりに顎をあげて見せた。
「ええと、あの、入学当初に一度話をしたことがあって……」
「どこでですか?」
「殿下とは学年が違うから、食堂よ」
「まあ! どうしてその時、次に会う約束をされなかったのですか」
「え……」
どうして、次に会う約束なんかしなきゃいけなかったんですか?
……などと聞こうものなら、命がないような気がした。
「お姉様のファンらしかったのよ、殿下。姉のことを言ってましたわ。お姉様に負けず劣らずお美しいって」
その時、ジュディスとアリスの表情が豹変したのを見て、私はギクリとした。なんかいやな予感がする。
「フロレンス「お嬢様」!」
二人はかぶって言って、何かに激昂してカンカンになっているらしかった。
「いいですか? それはお姉様のことを言ってるんじゃありません」
「言いたいことはですね、後半の文だけですから!」
「マイラ様が殿下のお話をされたことなんか一度もありませんでしたよ!」
「お姉様のことですもの。殿下がお姉様のファンだったら、年の差なんて関係なく、今頃、婚約してらっしゃいます。さもなきゃ結婚してます」
そのあと、ジュディスはハーヴェスト様をどうにか断らないといけないとブツブツ言いながら、婚約者のリチャードとの交渉のためのデートに出かけていった。
ジュディスがデートにいそしんでいる頃、私は図書館に行きたいと言って、アリスにのされていた。
「ダメです。お肌の手入れをしないと! お家を離れてから、何もなさらなかったでしょう!」
ジルが待っているだろうに。どうして令嬢はお肌をきれいにしたり、ドレスを選んだり、化粧に時間をかけたりしなくちゃいけないんだ。いつも決まった時間に図書館に行っているのに。日課なのに!
「図書館に行かなくても本は読めますよ」
違う。そう言うんじゃない。
「それとも何ですか? 図書館で出会いがあるとでも?」
私はコクコクとうなずいた。ジルは男だ。私のことを男だと思っているらしいから、厳密には男女の出会いじゃないんだろうけど。男と男(仮)の出会いかな。
アリスは疑わし気に私の顔を見た。
「その出会い、男女の出会いではないんでしょう?」
うっ。痛いところを突かれた。
アリスはふふんと鼻を鳴らした。
「お嬢様の考えていることなんか、お見通しですよ。どうせ図書館で気の合う本狂いのお友達でも見つけたんでしょ? 似たような令嬢もいるもんですねえ。まあ、明日なら出かけてもいいですよ。でも、お肌の手入れと、ちゃんとした格好をすること、お化粧をなおざりにしたりは絶対ダメですからね。やる事やった上で、図書館に行ってくださいまし」
まさか、女と女の出会いではなく、男と男の出会いだと訂正するわけにもいかず、そもそもその訂正に果たして意味はあるのか……
寮の私の部屋では、ジュディスの怒号とアリスの悲鳴が飛び交った。
怖い。
「だって、仕方ないじゃないの。ハーヴェスト様と約束した後だったんですもの」
「くー……何やってくれてるんだか、このとんま令嬢!」
……とんま令嬢。何か、新鮮な響きがある。
「そんなチャンス、二度とないわよ!」
ジュディスはテーブルをドン!と叩いた。おかげで茶器がハネ上がった。幸い飲み干した後だったが。
「あ、あら、二度目だから、三度とないわよ、の間違いよ、ジュディス」
あまりにジュディスが悲嘆にくれるものだから、少しでも明るい雰囲気を出そうと思って私は軽口のつもりで訂正してみた。
「もし、お嬢様。殿下をお断りしたのは二度目なのでございますか?」
しまった。余計な情報をアリスに与えてしまった。アリスが、地獄の底に突き落とされたかのような暗くて陰気な声で確認してきた。
ジュディスは説明するのが嫌になったらしく、アリスと目と目を見かわして、それから私に説明しろと言わんばかりに顎をあげて見せた。
「ええと、あの、入学当初に一度話をしたことがあって……」
「どこでですか?」
「殿下とは学年が違うから、食堂よ」
「まあ! どうしてその時、次に会う約束をされなかったのですか」
「え……」
どうして、次に会う約束なんかしなきゃいけなかったんですか?
……などと聞こうものなら、命がないような気がした。
「お姉様のファンらしかったのよ、殿下。姉のことを言ってましたわ。お姉様に負けず劣らずお美しいって」
その時、ジュディスとアリスの表情が豹変したのを見て、私はギクリとした。なんかいやな予感がする。
「フロレンス「お嬢様」!」
二人はかぶって言って、何かに激昂してカンカンになっているらしかった。
「いいですか? それはお姉様のことを言ってるんじゃありません」
「言いたいことはですね、後半の文だけですから!」
「マイラ様が殿下のお話をされたことなんか一度もありませんでしたよ!」
「お姉様のことですもの。殿下がお姉様のファンだったら、年の差なんて関係なく、今頃、婚約してらっしゃいます。さもなきゃ結婚してます」
そのあと、ジュディスはハーヴェスト様をどうにか断らないといけないとブツブツ言いながら、婚約者のリチャードとの交渉のためのデートに出かけていった。
ジュディスがデートにいそしんでいる頃、私は図書館に行きたいと言って、アリスにのされていた。
「ダメです。お肌の手入れをしないと! お家を離れてから、何もなさらなかったでしょう!」
ジルが待っているだろうに。どうして令嬢はお肌をきれいにしたり、ドレスを選んだり、化粧に時間をかけたりしなくちゃいけないんだ。いつも決まった時間に図書館に行っているのに。日課なのに!
「図書館に行かなくても本は読めますよ」
違う。そう言うんじゃない。
「それとも何ですか? 図書館で出会いがあるとでも?」
私はコクコクとうなずいた。ジルは男だ。私のことを男だと思っているらしいから、厳密には男女の出会いじゃないんだろうけど。男と男(仮)の出会いかな。
アリスは疑わし気に私の顔を見た。
「その出会い、男女の出会いではないんでしょう?」
うっ。痛いところを突かれた。
アリスはふふんと鼻を鳴らした。
「お嬢様の考えていることなんか、お見通しですよ。どうせ図書館で気の合う本狂いのお友達でも見つけたんでしょ? 似たような令嬢もいるもんですねえ。まあ、明日なら出かけてもいいですよ。でも、お肌の手入れと、ちゃんとした格好をすること、お化粧をなおざりにしたりは絶対ダメですからね。やる事やった上で、図書館に行ってくださいまし」
まさか、女と女の出会いではなく、男と男の出会いだと訂正するわけにもいかず、そもそもその訂正に果たして意味はあるのか……
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