35 / 47
第35話 積み荷より人命
しおりを挟む
家に帰る途中の馬車の中で、キティに説教された。
「いいですか? ロアン様は求婚されたんですよね? ローズお嬢様に」
「そうなのかな」
ちょっと弱々しく私は答えた。
ロアン様が私みたいな人間に求婚するかしら? 状況的に結婚する予定みたいな話だったけど、結婚して欲しいとは言われていないのよ。しかも、話はいつもフライング気味で、要領を得ないと言うか。
「そうに決まっています! ロアン様は、しょっちゅうバリー家に来てらしたでしょ?」
私はうなずいた。あんまりしょっちゅう来るんで、ずっと下っ端だと信じていた。まさか、伯爵家のご子息とは思っていなかった。
「ローズ様が好きだったんですよ。だから、自分の手の届くところに置きたがったんですね」
だって、下女として家に置いておくとか、危険だからロアン様の家にいろとか。
その都度、よくわからない理由をつけてロアン様のお屋敷に連れていかれたのよ。
キティはこれまでのいきさつを聞くと、ため息をついた。
「ああ、ロアン様、ヘタレ」
「ヘタレ?」
あんなに偉そうなのに?
「これまでずっと、女性から付きまとわれてばかりだったので、自分から伝えたことがなかったんでしょうね。どうやって女性を惹きつけたらいいのかわからないのね。ヘンリー君の方がよっぽど度胸あるわあ」
引きこもりって、そういうタイプの人の意味だったの?
なんか今までの認識が覆されるのですが。
「でも、これからは本当にどうなるでしょうね? これまでならモレル伯爵家の力が圧倒的でしたから、伯爵様さえ説得できれば、お嬢様はロアン様とご結婚なさることになったんでしょうけど」
「どういうこと?」
「お嬢様には詳細が伝わっていないかもしれませんが、お父様が隣国より伯爵位を授けられました」
「聞いたわ。でも、信じられない。爵位って、そんなに簡単にもらえるものなの?」
「私もそう思ってましたけど、国によって違うようですね。ご両親は難破の時、積み荷より人命を優先した功績を認められての叙爵です」
「普通、人命優先じゃない?」
「そうとも限りません。そして助けた人たちの中に、ローズ様と同い年の隣国の王子様が含まれていたんですわ」
人を助けるためになんでもしろ、積み荷より人命だと父は叫んだそうだ。
それは船長に伝わった。乗っている人たちにも伝わった。
なぜ船賃を払わないで乗ろうとしたのかとか、どうして積み荷を捨てたら助かるのかとか、色々疑問が出てきたが、細かいことは聞かないことにした。多分、キティも知らないだろうし、彼女はなんだか感動してハンカチで涙を拭いているところだったからだ。
「それで、明日戻ってくるとき、隣国の王子様もご一緒されるそうです」
「えええ?」
先にそれを言って欲しい。
隣国と言えば、大国。経済的にも文化的にも発展している。その王子様と言えば賓客中の賓客だろう。
「お忍びだそうですので、表立っては国王陛下も手を出せません。隣国の国王陛下からは好きにさせてやってくれと言われておりますので、ローズ様におかれましては、ぜひお話し相手なりとなられて、おもてなしくださいませ」
王子様の接待役。重責。
明日売る分の薬はどうしたらいいの? 私は途方に暮れた。
「いいですか? ロアン様は求婚されたんですよね? ローズお嬢様に」
「そうなのかな」
ちょっと弱々しく私は答えた。
ロアン様が私みたいな人間に求婚するかしら? 状況的に結婚する予定みたいな話だったけど、結婚して欲しいとは言われていないのよ。しかも、話はいつもフライング気味で、要領を得ないと言うか。
「そうに決まっています! ロアン様は、しょっちゅうバリー家に来てらしたでしょ?」
私はうなずいた。あんまりしょっちゅう来るんで、ずっと下っ端だと信じていた。まさか、伯爵家のご子息とは思っていなかった。
「ローズ様が好きだったんですよ。だから、自分の手の届くところに置きたがったんですね」
だって、下女として家に置いておくとか、危険だからロアン様の家にいろとか。
その都度、よくわからない理由をつけてロアン様のお屋敷に連れていかれたのよ。
キティはこれまでのいきさつを聞くと、ため息をついた。
「ああ、ロアン様、ヘタレ」
「ヘタレ?」
あんなに偉そうなのに?
「これまでずっと、女性から付きまとわれてばかりだったので、自分から伝えたことがなかったんでしょうね。どうやって女性を惹きつけたらいいのかわからないのね。ヘンリー君の方がよっぽど度胸あるわあ」
引きこもりって、そういうタイプの人の意味だったの?
なんか今までの認識が覆されるのですが。
「でも、これからは本当にどうなるでしょうね? これまでならモレル伯爵家の力が圧倒的でしたから、伯爵様さえ説得できれば、お嬢様はロアン様とご結婚なさることになったんでしょうけど」
「どういうこと?」
「お嬢様には詳細が伝わっていないかもしれませんが、お父様が隣国より伯爵位を授けられました」
「聞いたわ。でも、信じられない。爵位って、そんなに簡単にもらえるものなの?」
「私もそう思ってましたけど、国によって違うようですね。ご両親は難破の時、積み荷より人命を優先した功績を認められての叙爵です」
「普通、人命優先じゃない?」
「そうとも限りません。そして助けた人たちの中に、ローズ様と同い年の隣国の王子様が含まれていたんですわ」
人を助けるためになんでもしろ、積み荷より人命だと父は叫んだそうだ。
それは船長に伝わった。乗っている人たちにも伝わった。
なぜ船賃を払わないで乗ろうとしたのかとか、どうして積み荷を捨てたら助かるのかとか、色々疑問が出てきたが、細かいことは聞かないことにした。多分、キティも知らないだろうし、彼女はなんだか感動してハンカチで涙を拭いているところだったからだ。
「それで、明日戻ってくるとき、隣国の王子様もご一緒されるそうです」
「えええ?」
先にそれを言って欲しい。
隣国と言えば、大国。経済的にも文化的にも発展している。その王子様と言えば賓客中の賓客だろう。
「お忍びだそうですので、表立っては国王陛下も手を出せません。隣国の国王陛下からは好きにさせてやってくれと言われておりますので、ローズ様におかれましては、ぜひお話し相手なりとなられて、おもてなしくださいませ」
王子様の接待役。重責。
明日売る分の薬はどうしたらいいの? 私は途方に暮れた。
138
お気に入りに追加
570
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
虐げられた公爵令嬢は、隣国の白蛇王に溺愛される
束原ミヤコ
恋愛
フェリシアは、公爵家の令嬢である。
だが、母が死に、戦地の父が愛人と子供を連れて戻ってきてからは、屋根裏部屋に閉じ込められて、家の中での居場所を失った。
ある日フェリシアは、アザミの茂みの中で、死にかけている白い蛇を拾った。
王国では、とある理由から動物を飼うことは禁止されている。
だがフェリシアは、蛇を守ることができるのは自分だけだと、密やかに蛇を飼うことにして──。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話
束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。
クライヴには想い人がいるという噂があった。
それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。
晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる