33 / 47
第33話 マッスル一家乱入
しおりを挟む
そのあとも、ドタバタと足音がした。
おかしいな。ヘンリー君一人ではないみたいだ。グスマンおじさんが一緒かな?
「ヘンリー、ローズ嬢はどこだ」
甲高い男の声がした。そして、二人、いや三人、ではなくて四人の男がドヤドヤと狭い部屋に入ってきた。
だいぶ絞れたけど、やっぱり横幅タップリのヘンリー君、その後ろから日焼けして筋肉隆々な中年男性、さらにもう一人日焼けして筋肉隆々な若い男性、そのうしろからグスマンおじさんが不安そうに顔をのぞかせた。
「あっ、君は誰だ。ロ、ローズさんに乱暴を働くなら容赦しないぞ!」
ヘンリー君がロアン様を見つけて叫んだ。
「お前が?」
ロアン様はタプタプのヘンリー君を鼻で笑ったが、その後ろの二人が黙っちゃいなかった。
「うちのかわいい息子に手を出したらただじゃ済まさないぞ」
一人が腕をまくって筋肉を見せびらかしながら叫ぶと、もう一人がぴったりした服の上からも分かるように胸筋を動かした。
「そうだ。かわいい弟なんだ」
最初はとにかく焦りまくったが、この時点で私は主人公役を降りた気がした。
もう、勝手にやってください。
四人はにらみ合いをしているが、私は悪くない。て言うか、ほとんど関係ないと思う。
「ローズ嬢は私の婚約者だ」
私にしゃべる時と全く違って、落ち着いた低い声でロアン様が言った。
「なんだと? 婚約者だと? 君は誰だ」
ヘンリー君が応酬した。
ヘンリー君、成長したねえ。ロアン様に口答えするだなんて。私はほっこりお茶を飲みながら観戦している気分になった。
「モレル伯爵家のロアンだ」
まあ、一応、決着は見たかな。領主の伯爵家、最強。
部屋には沈黙が広がった。
だが、一時の沈黙のあと、ヘンリー君が叫んだ。
「街の市場の売り子と婚約するのか、あなたは」
「そうだ、そうだ。ローズ嬢の両親は近くの村の羊飼いだぞ?」
「え? 薪集めしてるって聞いたけど?」
「俺は、日雇いで農作業を手伝ってるって聞いた」
なんだか情報が錯綜しているな?
しかし三人が一斉にロアン様の方を向いた。
「とにかく、伯爵家のご子息が、そんな街の市場の売り子と結婚だなんて考えられない」
「誰が市場の売り子なんだ」
ロアン様が問いかけた。そして付け加えた。
「ローズ嬢は、まずバリー商会の一人娘だ」
「「「「「はああ?」」」」」
グスマンおじさんも参戦してきた!
「聞いてないし!」
ロアン様以外の全員が、私の貧しい身なりをじろじろと見た。
「そ、それにご領主様のご子息が婚約されただなんて、聞いてないぞ」
「ローズ嬢も……もし、それが本当なら、嘘をついてたってことか?」
そういや一度ご結婚は? と聞かれたことはあった。尋ねたのは、グスマンおじさんだったけど。老婆の格好が面倒くさくなってきて、だんだん適当になってきた頃だ。なんで、婚約の有無まで聞くのかなあと思ってたけど、そういうことか。ヘンリー君の差し金だったわけね。
「嘘なんかついてませんわ。だって、了承していな……」
私の言葉に、おっかぶせるようにロアン様が話し出した。
「婚約発表は、先日の伯爵家のダンスパーティだったからな。それまでは公言していない」
「え?」
マッスル家の三人が顔色を変えた。
マッスル市場の経営者ともなれば、伯爵家のダンスパーティに招かれて当然だろう。
わざと招ばなかったのね、ロアン様。マッスル商会にちょっと失礼じゃない?
マッスル家はどうして招ばれなかったんだろうと思っていたに違いない。そして今、思い当たることが出てきたのだろう。
「お家騒動でローズ嬢は自邸を出なくてはならなくなった。従兄のジェロームが彼女との結婚を狙っていたからだ。伯爵からの指示で、私はローズ嬢の護衛をしていたんだ。まあ、薬作りは彼女の趣味だし、バリー男爵家は執拗だったから、マッスル市場で売り子をするのはいい隠れ蓑だと思って放置していた。昼間、マッスル市場のような人目の多いところでローズ嬢に手を出せば、市場の警備が駆けつけるだろうし、夜は伯爵家に来てもらって母の下で過ごしてもらっていた。婚約はバリー商会の両親があんなことになっていたので、宙ぶらりんで発表できなかった」
ロアン様は堂々と三人に言った。点々と嘘が混ざってるけど。
おかしいな。ヘンリー君一人ではないみたいだ。グスマンおじさんが一緒かな?
「ヘンリー、ローズ嬢はどこだ」
甲高い男の声がした。そして、二人、いや三人、ではなくて四人の男がドヤドヤと狭い部屋に入ってきた。
だいぶ絞れたけど、やっぱり横幅タップリのヘンリー君、その後ろから日焼けして筋肉隆々な中年男性、さらにもう一人日焼けして筋肉隆々な若い男性、そのうしろからグスマンおじさんが不安そうに顔をのぞかせた。
「あっ、君は誰だ。ロ、ローズさんに乱暴を働くなら容赦しないぞ!」
ヘンリー君がロアン様を見つけて叫んだ。
「お前が?」
ロアン様はタプタプのヘンリー君を鼻で笑ったが、その後ろの二人が黙っちゃいなかった。
「うちのかわいい息子に手を出したらただじゃ済まさないぞ」
一人が腕をまくって筋肉を見せびらかしながら叫ぶと、もう一人がぴったりした服の上からも分かるように胸筋を動かした。
「そうだ。かわいい弟なんだ」
最初はとにかく焦りまくったが、この時点で私は主人公役を降りた気がした。
もう、勝手にやってください。
四人はにらみ合いをしているが、私は悪くない。て言うか、ほとんど関係ないと思う。
「ローズ嬢は私の婚約者だ」
私にしゃべる時と全く違って、落ち着いた低い声でロアン様が言った。
「なんだと? 婚約者だと? 君は誰だ」
ヘンリー君が応酬した。
ヘンリー君、成長したねえ。ロアン様に口答えするだなんて。私はほっこりお茶を飲みながら観戦している気分になった。
「モレル伯爵家のロアンだ」
まあ、一応、決着は見たかな。領主の伯爵家、最強。
部屋には沈黙が広がった。
だが、一時の沈黙のあと、ヘンリー君が叫んだ。
「街の市場の売り子と婚約するのか、あなたは」
「そうだ、そうだ。ローズ嬢の両親は近くの村の羊飼いだぞ?」
「え? 薪集めしてるって聞いたけど?」
「俺は、日雇いで農作業を手伝ってるって聞いた」
なんだか情報が錯綜しているな?
しかし三人が一斉にロアン様の方を向いた。
「とにかく、伯爵家のご子息が、そんな街の市場の売り子と結婚だなんて考えられない」
「誰が市場の売り子なんだ」
ロアン様が問いかけた。そして付け加えた。
「ローズ嬢は、まずバリー商会の一人娘だ」
「「「「「はああ?」」」」」
グスマンおじさんも参戦してきた!
「聞いてないし!」
ロアン様以外の全員が、私の貧しい身なりをじろじろと見た。
「そ、それにご領主様のご子息が婚約されただなんて、聞いてないぞ」
「ローズ嬢も……もし、それが本当なら、嘘をついてたってことか?」
そういや一度ご結婚は? と聞かれたことはあった。尋ねたのは、グスマンおじさんだったけど。老婆の格好が面倒くさくなってきて、だんだん適当になってきた頃だ。なんで、婚約の有無まで聞くのかなあと思ってたけど、そういうことか。ヘンリー君の差し金だったわけね。
「嘘なんかついてませんわ。だって、了承していな……」
私の言葉に、おっかぶせるようにロアン様が話し出した。
「婚約発表は、先日の伯爵家のダンスパーティだったからな。それまでは公言していない」
「え?」
マッスル家の三人が顔色を変えた。
マッスル市場の経営者ともなれば、伯爵家のダンスパーティに招かれて当然だろう。
わざと招ばなかったのね、ロアン様。マッスル商会にちょっと失礼じゃない?
マッスル家はどうして招ばれなかったんだろうと思っていたに違いない。そして今、思い当たることが出てきたのだろう。
「お家騒動でローズ嬢は自邸を出なくてはならなくなった。従兄のジェロームが彼女との結婚を狙っていたからだ。伯爵からの指示で、私はローズ嬢の護衛をしていたんだ。まあ、薬作りは彼女の趣味だし、バリー男爵家は執拗だったから、マッスル市場で売り子をするのはいい隠れ蓑だと思って放置していた。昼間、マッスル市場のような人目の多いところでローズ嬢に手を出せば、市場の警備が駆けつけるだろうし、夜は伯爵家に来てもらって母の下で過ごしてもらっていた。婚約はバリー商会の両親があんなことになっていたので、宙ぶらりんで発表できなかった」
ロアン様は堂々と三人に言った。点々と嘘が混ざってるけど。
124
お気に入りに追加
563
あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでのこと。
……やっぱり、ダメだったんだ。
周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間でもあった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表する。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放。そして、国外へと運ばれている途中に魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※毎週土曜日の18時+気ままに投稿中
※プロットなしで書いているので辻褄合わせの為に後から修正することがあります。
※諸事情により3月いっぱいまで更新停止中です。すみません。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!

推して参る!~お友達の乙女を宰相の息子に推してたら、なぜか私が王子から求婚された~
ねお
恋愛
公爵令嬢アテナ・フォンシュタインは人の恋路のお節介を焼くのが大好き。
そんなアテナは、友人の伯爵令嬢ローラ・リンベルグが宰相の息子であるレオン・レイルシュタット公爵令息に片思いをしていることを聞き出すと、即座に2人をくっつけようと動き出す。
だが、レオンとローラをくっつけるためには、レオンと常に一緒にいるイケメン王子ランド・ヴァリアスが邪魔だった。
一方、ランドは、ローラをレオンの恋人にするために懸命に動くアテナに徐々に惹かれていってしまう。
そして、そんな王子の様子に気づかないアテナは、レオンとローラを2人きりにするために、自分を囮にした王子引き付け作戦を展開するのだった。
そんなアテナもランドのことを・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる