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サジシーム
第124話 身代金が払えない場合にどうなるか
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城へ戻ると、客が来ていた。
以前に、川沿いの領主を訪問して歩いたことがあるが、その時に会ったことがあるベルビューの領主の家令だった。
「おお、これはベルビューの領主殿の……ええと、家令殿」
「以前に一度だけ、主人の城でお目にかかったことが有る、ギスタンと申します」
ベルビュー殿の、古い時代のついた小さな館と違い、レイビック城はほぼ新品で、大きくてやたらに立派な城だった。
客間は、特に広くて凝っていて、いい趣味で飾られていたのにもかかわらず、豪華すぎて、ともすると成金趣味と解される危険をはらんでいた。ギスタンは明らかに城の大きさと客間の豪華さに圧倒されていた。
「これは珍しい。このような北の果ての当家へお越しとは。ベルビュー殿は息災かな?」
「それが……」
ギスタンは、主人からの手紙をレイビック辺境伯に差し出した。
それはギスタン宛だったが、そこにはベルビュー殿一家がロンゴバルトに捕まり拘留されていること、このたび身代金を支払えば解放される見込みが出てきたこと、要求された身代金の額と期日が書いてあった。
フリースラントは注意深くそれを読んだ。
それは、彼自身が危ういところで難を逃れた、ロンゴバルトの奇襲劇の、難を免れ得なかった者たちの運命だった。
フリースラントは、自分が捕まらなくてよかったと、心底思った。
どれだけ要求されたか知れたものではなかった。
「かなりの額とお見受けするが……はばかりながら、これは払えるのだろうか?」
「それが……。到底、無理でございます。主人の分はかき集めて支払えるとしましても、ご子息の分が……」
「ご子息の分の身代金は別なのか」
「それで、それで……まことに、申し上げにくいことながら、なんとか金子をお借りできないものかと……」
そう言うことかと、フリースラントは納得した。
「それが、主人から手紙が参りましてから金子の算段をしておりましたところ、しばらくしましてから、手前どもが金の工面をしていると聞きつけて、ハブファン殿の使いが来られたのです」
ハブファン……
フリースラントは眉をしかめた。
「それで?」
「全額お貸しくださるということで。それはありがたかったのですが、利子が暴利でございました。カタは領地だとおっしゃるのですが、絶対に払えませぬ。計算しましたところ、三年で領地が流れます」
「ほう」
「進退極まりました」
フリースラントは考えた。
要は金を貸してくれということだろう。それは問題なかった。それくらいの金は簡単に用立てできる。
フリースラントは金に不自由なかった。ハブファンと違って高利貸しに、興味はなかった。それよりベルビュー殿を味方につけたい気持ちの方が勝った。
だが、それにしても、ハブファンのやり口には、やや腹が立った。
「ひどいやり口である」
彼は言ってみた。
「それは……おっしゃる通りです。弱みに付け込んだあまりの利子でございます。法外でございます」
「負けてくれと交渉してみたか?」
「もちろん。何しろ、払えませんので。そうしたところ、ほかにも、似たような申し出がたくさん来ており、当家だけを特別扱いするわけにはいかないのだと、もっともらしい言い分……」
「ほう?」
捕虜になった多くの家が困ったことになっているはずだった。だが、全員が、ハブファンなどに借金を申し込むだろうか。ハブファンの評判は、非常に悪いのだ。
「ギスタン殿。思うのだが、横暴だと他家もお考えなのではなかろうか」
「ハブファン殿のおっしゃる他家とやらがどれほどあるのか存じませんが、みなみな泣いていることでございましょう。まことに足元を見るようなやり口でございます」
「ギスタン殿。果たして、どれくらいの家が困った羽目に陥っているのだろうか?」
「わかりませぬ。主人の手紙には身代金の額のことしか書いてございませんので」
それはそうだった。それ以外のことを考える余裕はないだろう。
「ギスタン殿、私は思うのだが、ハブファン殿はやり過ぎではないか」
「それはもう、私どももそう思います」
「これは、金を返さず、領地を渡さない家が出てきても、おかしくないのでは?」
「しかし、法に違反いたしまする」
まじめなベルビュー家の家令らしい考えだった。
「法外な利子の方が、法を逸脱しているともいえるだろう。私はハブファン殿のような高利貸しなどしたことがない。ただ、金は持っている。この件については、考えてみよう。ベルビュー殿が出て来られたら、私のほうから出向くか、こちらにお越しいただければ、相談しよう。ただし」
ギスタンに向かって、フリースラントは条件を付けた。
「いいかね、ギスタン殿。この件に関しては、私に考えがある。ここへギスタン殿が来たことも、私に考えがあると言ったことも全部内密にお願いしたい。でないと……」
可能性がある……と思ったとたん、ギスタンは必死になったようだった。
「わかりましてございます」
ギスタンは頭が自分の膝に届きそうなくらい深い礼をした。
「とりあえず、主人が戻りましたら連絡を差し上げます」
「戻り次第出来るだけ早く。連絡をお待ちする」
数週間して、やつれ切った様子のベルビュー殿が、前触れもなく自身で現れた。
間違いなくベルビュー殿だったが、彼はげっそり痩せ、肉が落ち、一挙に年を取って見えた。
「おお、これは、ベルビュー殿」
あわててフリースラントは、自分で出迎えた。
以前に、川沿いの領主を訪問して歩いたことがあるが、その時に会ったことがあるベルビューの領主の家令だった。
「おお、これはベルビューの領主殿の……ええと、家令殿」
「以前に一度だけ、主人の城でお目にかかったことが有る、ギスタンと申します」
ベルビュー殿の、古い時代のついた小さな館と違い、レイビック城はほぼ新品で、大きくてやたらに立派な城だった。
客間は、特に広くて凝っていて、いい趣味で飾られていたのにもかかわらず、豪華すぎて、ともすると成金趣味と解される危険をはらんでいた。ギスタンは明らかに城の大きさと客間の豪華さに圧倒されていた。
「これは珍しい。このような北の果ての当家へお越しとは。ベルビュー殿は息災かな?」
「それが……」
ギスタンは、主人からの手紙をレイビック辺境伯に差し出した。
それはギスタン宛だったが、そこにはベルビュー殿一家がロンゴバルトに捕まり拘留されていること、このたび身代金を支払えば解放される見込みが出てきたこと、要求された身代金の額と期日が書いてあった。
フリースラントは注意深くそれを読んだ。
それは、彼自身が危ういところで難を逃れた、ロンゴバルトの奇襲劇の、難を免れ得なかった者たちの運命だった。
フリースラントは、自分が捕まらなくてよかったと、心底思った。
どれだけ要求されたか知れたものではなかった。
「かなりの額とお見受けするが……はばかりながら、これは払えるのだろうか?」
「それが……。到底、無理でございます。主人の分はかき集めて支払えるとしましても、ご子息の分が……」
「ご子息の分の身代金は別なのか」
「それで、それで……まことに、申し上げにくいことながら、なんとか金子をお借りできないものかと……」
そう言うことかと、フリースラントは納得した。
「それが、主人から手紙が参りましてから金子の算段をしておりましたところ、しばらくしましてから、手前どもが金の工面をしていると聞きつけて、ハブファン殿の使いが来られたのです」
ハブファン……
フリースラントは眉をしかめた。
「それで?」
「全額お貸しくださるということで。それはありがたかったのですが、利子が暴利でございました。カタは領地だとおっしゃるのですが、絶対に払えませぬ。計算しましたところ、三年で領地が流れます」
「ほう」
「進退極まりました」
フリースラントは考えた。
要は金を貸してくれということだろう。それは問題なかった。それくらいの金は簡単に用立てできる。
フリースラントは金に不自由なかった。ハブファンと違って高利貸しに、興味はなかった。それよりベルビュー殿を味方につけたい気持ちの方が勝った。
だが、それにしても、ハブファンのやり口には、やや腹が立った。
「ひどいやり口である」
彼は言ってみた。
「それは……おっしゃる通りです。弱みに付け込んだあまりの利子でございます。法外でございます」
「負けてくれと交渉してみたか?」
「もちろん。何しろ、払えませんので。そうしたところ、ほかにも、似たような申し出がたくさん来ており、当家だけを特別扱いするわけにはいかないのだと、もっともらしい言い分……」
「ほう?」
捕虜になった多くの家が困ったことになっているはずだった。だが、全員が、ハブファンなどに借金を申し込むだろうか。ハブファンの評判は、非常に悪いのだ。
「ギスタン殿。思うのだが、横暴だと他家もお考えなのではなかろうか」
「ハブファン殿のおっしゃる他家とやらがどれほどあるのか存じませんが、みなみな泣いていることでございましょう。まことに足元を見るようなやり口でございます」
「ギスタン殿。果たして、どれくらいの家が困った羽目に陥っているのだろうか?」
「わかりませぬ。主人の手紙には身代金の額のことしか書いてございませんので」
それはそうだった。それ以外のことを考える余裕はないだろう。
「ギスタン殿、私は思うのだが、ハブファン殿はやり過ぎではないか」
「それはもう、私どももそう思います」
「これは、金を返さず、領地を渡さない家が出てきても、おかしくないのでは?」
「しかし、法に違反いたしまする」
まじめなベルビュー家の家令らしい考えだった。
「法外な利子の方が、法を逸脱しているともいえるだろう。私はハブファン殿のような高利貸しなどしたことがない。ただ、金は持っている。この件については、考えてみよう。ベルビュー殿が出て来られたら、私のほうから出向くか、こちらにお越しいただければ、相談しよう。ただし」
ギスタンに向かって、フリースラントは条件を付けた。
「いいかね、ギスタン殿。この件に関しては、私に考えがある。ここへギスタン殿が来たことも、私に考えがあると言ったことも全部内密にお願いしたい。でないと……」
可能性がある……と思ったとたん、ギスタンは必死になったようだった。
「わかりましてございます」
ギスタンは頭が自分の膝に届きそうなくらい深い礼をした。
「とりあえず、主人が戻りましたら連絡を差し上げます」
「戻り次第出来るだけ早く。連絡をお待ちする」
数週間して、やつれ切った様子のベルビュー殿が、前触れもなく自身で現れた。
間違いなくベルビュー殿だったが、彼はげっそり痩せ、肉が落ち、一挙に年を取って見えた。
「おお、これは、ベルビュー殿」
あわててフリースラントは、自分で出迎えた。
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