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第21話 外圧
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メリンダの話はルイスを破壊した。
ルイスは泣きたいくらいだった。
自分のやった間違いは事実として厳然と残ってしまっている。なかったことにはできない。
メリンダは傷ついたし、今更ルイスがどうにか出来ることなんか、何もないのだ。
その上、生徒会室には彼女持ちのリア充が堂々と彼女付きで入室してきた。
苦手なモニカ嬢とナタリー嬢だ。
正直、歓迎しないが、入室を拒む理由はない。
次は何を言われることやら。ルイスの胃が収縮した。
彼女たちはパーティでの出来事をちゃんと承知していた。
ルイス推し活メンバーが友人にいるそうで、情報はダダ漏れだった。
「メリンダが言いそうな気はするわ」
「そうね。彼女は真面目ですものね」
「我慢強くて真面目なメリンダだって、あんな扱いを婚約者から受けたら、さすがに婚約を続けるのは難しかったでしょうからねぇ」
過ぎたことを、いつまでもグジグジと解説してくれるなんて、親切過ぎる。
「世間体的に言っても、あんな真似をされて黙っていたら、彼女の方になにか事情があるのかと勘繰られるかも知れませんから、婚約破棄してよかったと思うのですよ」
もしかして、メリンダに婚約破棄を勧めたことでもあるの?
ルイスは思わず疑心悪鬼になった。
「でも、メリンダは優しいから、婚約破棄に罪悪感を抱いているのかも」
「いや、悪いのは俺だ。冬祭りの件も、ダンスパーティのエスコートも」
「でも、メリンダが、あなたを傷つける結果になって、申し訳なかったと思っているんだったら……」
「え?」
ルイスは思わず顔を上げた。希望がある?
「その場合、絶ッ対に、ルイス様と親しくなんかならないと思いますわ、二度と」
完全否定にもほどがある。
「だって、メリンダは、愛がない、冷たいことに傷ついて婚約を破棄したのですよね」
「伝わらなかっただけなんだ!」
この期に及んで、どの口が言うか。イラッとしたナタリーが、冷たい薄ら笑いを浮かべた。
「だったら、メリンダは今の相手には、完ぺきに誠実でなくてはと考えると思います。ルイス様を不誠実だと絶縁したくらいですから、自分は、精一杯、今の相手に誠を尽くすと思います」
誠を尽くす! ジョナスに! 俺にではなくてジョナスに!
イケメンの絶望はなかなか絵になる。面白い。
「だけど、ルイス、まだよかったじゃないか」
アンドルーが慰めた。
「理屈ばかりを出してきたってことは、気持ちは残っているのかもしれない」
「うん。ジョナスが大好きだと言われたら、なにもかも終わりだ。だけど、そうじゃないなら……」
「よしんば、メリンダがルイスに気持ちを残していても、自分から動いて婚約破棄した以上、メリンダはルイスを拒否すると思うわ」
あくまでも、メリンダの女友達は怖い。ルイスの息の根を止めにかかっている。
「ですから、ルイス様はもう何をしても絶望ですわ……」
モニカ嬢がニタアっとルイスに向かって笑って言った時、ルイスは心底、ゾッとしたが、彼女は方策を伝授してくれたのだった。
「子爵夫人に取り入りなさい」
お茶会やダンスパーティで出会うチャンスは増え続けたが、あきらかにメリンダは彼を避けていた。
一方で、子爵夫人は、じゃんじゃん招待を受け続けていた。
「おかあさま、いい加減になさって!」
メリンダが文句を言うのには理由があった。
なぜなら、父が選ぶ茶会やダンスパーティは、どれも高位貴族からのものばかりで、子爵家のメリンダや公爵家のルイスは出られるが、出身が商家のジョナスは招待状が来ないので、出られないのだ。
従って、メリンダは、ジョナスのいないパーティーばかりに出席しなければならなかった。
しかも、数が多いので、ジョナスの出るパーティーへ出る余地がなかった。
どちらのパーティーに出るかと言われたら、高位貴族のパーティーを優先せざるを得ない。
メリンダは猛烈に困っていた。
「あら、だって、おとうさまがおっしゃったの。ルイスの家を立て直すのに、お金も時間も使ったけれど、娘はないがしろにされて結局捨てられたようなものだ、ルイスを使って、高位の家々に恩を売れるものなら、せめてのお返しだろうって」
そう言われると、断れとは言えない。
でも、茶会にしろダンスパーティにしろ、ちょっと油断すると、なにかややこしい雰囲気を纏った貴公子が近付くチャンスを狙っていたり、じっと見つめてため息をついていたりするのだ。
そして、見物人がいる。
今やルイスは髪もさりげなく整え、広い額ときりっとした眉、まつげに彩られた目や、形の良い鼻と口元が目立つようにしていた。
ただの無駄なイケメンだったのが、勝負イケメンに変身したのだ。
更に、すらりとかっこいい体の線がわかる服を着ていて、それが意味ありげにメリンダを見つめている。
メリンダは注目の的になってしまった。
まずい。とても、まずい。
こんなに注目されたことは、これまでの人生になかった。
しかも彼女の動向に注目しているのは、主に女子である。
ルイス様命の推し活メンバーなのだ。
同じ女子として、推し活の気持ちはなんとなくわかる。わかってしまう。
推しの希望は彼女たちの望みでもある。
もちろん、ルイスの売りはメリンダへの一途な愛なので、メリンダには優しいのだが、やはりなにか怖いような。
推し活メンバーには高位の令嬢も混ざっている。密かにその母上たちも、何気に注目していたりする。
ルイス程、水際立った美女になるのは無理だけど、少なくとも、努力はするべきじゃないかしら。
ルイスの恋人が、ガッカリするようなみすぼらしい女性だったら、また余計な一波乱が起きそうな……
メリンダにお金の心配はいらなかったのは幸いだった。
化粧にドレス、似合うアクセサリー、どんなに買い揃えても両親は喜んで彼女をチヤホヤした。
もっとも、あまり派手に装うのは、ルイスが地味目なだけに憚られる。程度が重要だ。さらに振る舞いにも気をつけないと。推し活令嬢を刺激するような言動は慎まねば……
「ルイスに合うように装うって、おかしいんじゃないかしら」
強く疑問を感じていたが、情け容赦なくやってくるパーティを無事乗り切るためには仕方なかった。
ルイスは泣きたいくらいだった。
自分のやった間違いは事実として厳然と残ってしまっている。なかったことにはできない。
メリンダは傷ついたし、今更ルイスがどうにか出来ることなんか、何もないのだ。
その上、生徒会室には彼女持ちのリア充が堂々と彼女付きで入室してきた。
苦手なモニカ嬢とナタリー嬢だ。
正直、歓迎しないが、入室を拒む理由はない。
次は何を言われることやら。ルイスの胃が収縮した。
彼女たちはパーティでの出来事をちゃんと承知していた。
ルイス推し活メンバーが友人にいるそうで、情報はダダ漏れだった。
「メリンダが言いそうな気はするわ」
「そうね。彼女は真面目ですものね」
「我慢強くて真面目なメリンダだって、あんな扱いを婚約者から受けたら、さすがに婚約を続けるのは難しかったでしょうからねぇ」
過ぎたことを、いつまでもグジグジと解説してくれるなんて、親切過ぎる。
「世間体的に言っても、あんな真似をされて黙っていたら、彼女の方になにか事情があるのかと勘繰られるかも知れませんから、婚約破棄してよかったと思うのですよ」
もしかして、メリンダに婚約破棄を勧めたことでもあるの?
ルイスは思わず疑心悪鬼になった。
「でも、メリンダは優しいから、婚約破棄に罪悪感を抱いているのかも」
「いや、悪いのは俺だ。冬祭りの件も、ダンスパーティのエスコートも」
「でも、メリンダが、あなたを傷つける結果になって、申し訳なかったと思っているんだったら……」
「え?」
ルイスは思わず顔を上げた。希望がある?
「その場合、絶ッ対に、ルイス様と親しくなんかならないと思いますわ、二度と」
完全否定にもほどがある。
「だって、メリンダは、愛がない、冷たいことに傷ついて婚約を破棄したのですよね」
「伝わらなかっただけなんだ!」
この期に及んで、どの口が言うか。イラッとしたナタリーが、冷たい薄ら笑いを浮かべた。
「だったら、メリンダは今の相手には、完ぺきに誠実でなくてはと考えると思います。ルイス様を不誠実だと絶縁したくらいですから、自分は、精一杯、今の相手に誠を尽くすと思います」
誠を尽くす! ジョナスに! 俺にではなくてジョナスに!
イケメンの絶望はなかなか絵になる。面白い。
「だけど、ルイス、まだよかったじゃないか」
アンドルーが慰めた。
「理屈ばかりを出してきたってことは、気持ちは残っているのかもしれない」
「うん。ジョナスが大好きだと言われたら、なにもかも終わりだ。だけど、そうじゃないなら……」
「よしんば、メリンダがルイスに気持ちを残していても、自分から動いて婚約破棄した以上、メリンダはルイスを拒否すると思うわ」
あくまでも、メリンダの女友達は怖い。ルイスの息の根を止めにかかっている。
「ですから、ルイス様はもう何をしても絶望ですわ……」
モニカ嬢がニタアっとルイスに向かって笑って言った時、ルイスは心底、ゾッとしたが、彼女は方策を伝授してくれたのだった。
「子爵夫人に取り入りなさい」
お茶会やダンスパーティで出会うチャンスは増え続けたが、あきらかにメリンダは彼を避けていた。
一方で、子爵夫人は、じゃんじゃん招待を受け続けていた。
「おかあさま、いい加減になさって!」
メリンダが文句を言うのには理由があった。
なぜなら、父が選ぶ茶会やダンスパーティは、どれも高位貴族からのものばかりで、子爵家のメリンダや公爵家のルイスは出られるが、出身が商家のジョナスは招待状が来ないので、出られないのだ。
従って、メリンダは、ジョナスのいないパーティーばかりに出席しなければならなかった。
しかも、数が多いので、ジョナスの出るパーティーへ出る余地がなかった。
どちらのパーティーに出るかと言われたら、高位貴族のパーティーを優先せざるを得ない。
メリンダは猛烈に困っていた。
「あら、だって、おとうさまがおっしゃったの。ルイスの家を立て直すのに、お金も時間も使ったけれど、娘はないがしろにされて結局捨てられたようなものだ、ルイスを使って、高位の家々に恩を売れるものなら、せめてのお返しだろうって」
そう言われると、断れとは言えない。
でも、茶会にしろダンスパーティにしろ、ちょっと油断すると、なにかややこしい雰囲気を纏った貴公子が近付くチャンスを狙っていたり、じっと見つめてため息をついていたりするのだ。
そして、見物人がいる。
今やルイスは髪もさりげなく整え、広い額ときりっとした眉、まつげに彩られた目や、形の良い鼻と口元が目立つようにしていた。
ただの無駄なイケメンだったのが、勝負イケメンに変身したのだ。
更に、すらりとかっこいい体の線がわかる服を着ていて、それが意味ありげにメリンダを見つめている。
メリンダは注目の的になってしまった。
まずい。とても、まずい。
こんなに注目されたことは、これまでの人生になかった。
しかも彼女の動向に注目しているのは、主に女子である。
ルイス様命の推し活メンバーなのだ。
同じ女子として、推し活の気持ちはなんとなくわかる。わかってしまう。
推しの希望は彼女たちの望みでもある。
もちろん、ルイスの売りはメリンダへの一途な愛なので、メリンダには優しいのだが、やはりなにか怖いような。
推し活メンバーには高位の令嬢も混ざっている。密かにその母上たちも、何気に注目していたりする。
ルイス程、水際立った美女になるのは無理だけど、少なくとも、努力はするべきじゃないかしら。
ルイスの恋人が、ガッカリするようなみすぼらしい女性だったら、また余計な一波乱が起きそうな……
メリンダにお金の心配はいらなかったのは幸いだった。
化粧にドレス、似合うアクセサリー、どんなに買い揃えても両親は喜んで彼女をチヤホヤした。
もっとも、あまり派手に装うのは、ルイスが地味目なだけに憚られる。程度が重要だ。さらに振る舞いにも気をつけないと。推し活令嬢を刺激するような言動は慎まねば……
「ルイスに合うように装うって、おかしいんじゃないかしら」
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