上 下
21 / 24

第21話 外圧

しおりを挟む
メリンダの話はルイスを破壊した。

ルイスは泣きたいくらいだった。

自分のやった間違いは事実として厳然と残ってしまっている。なかったことにはできない。

メリンダは傷ついたし、今更ルイスがどうにか出来ることなんか、何もないのだ。



その上、生徒会室には彼女持ちのリア充が堂々と彼女付きで入室してきた。

苦手なモニカ嬢とナタリー嬢だ。

正直、歓迎しないが、入室を拒む理由はない。

次は何を言われることやら。ルイスの胃が収縮した。



彼女たちはパーティでの出来事をちゃんと承知していた。

ルイス推し活メンバーが友人にいるそうで、情報はダダ漏れだった。

「メリンダが言いそうな気はするわ」

「そうね。彼女は真面目ですものね」

「我慢強くて真面目なメリンダだって、あんな扱いを婚約者から受けたら、さすがに婚約を続けるのは難しかったでしょうからねぇ」


過ぎたことを、いつまでもグジグジと解説してくれるなんて、親切過ぎる。


「世間体的に言っても、あんな真似をされて黙っていたら、彼女の方になにか事情があるのかと勘繰かんぐられるかも知れませんから、婚約破棄してよかったと思うのですよ」

もしかして、メリンダに婚約破棄を勧めたことでもあるの?

ルイスは思わず疑心悪鬼になった。

「でも、メリンダは優しいから、婚約破棄に罪悪感を抱いているのかも」

「いや、悪いのは俺だ。冬祭りの件も、ダンスパーティのエスコートも」

「でも、メリンダが、あなたを傷つける結果になって、申し訳なかったと思っているんだったら……」

「え?」

ルイスは思わず顔を上げた。希望がある?

「その場合、絶ッ対に、ルイス様と親しくなんかならないと思いますわ、二度と」

完全否定にもほどがある。

「だって、メリンダは、愛がない、冷たいことに傷ついて婚約を破棄したのですよね」

「伝わらなかっただけなんだ!」

このに及んで、どの口が言うか。イラッとしたナタリーが、冷たい薄ら笑いを浮かべた。

「だったら、メリンダは今の相手には、完ぺきに誠実でなくてはと考えると思います。ルイス様を不誠実だと絶縁したくらいですから、自分は、精一杯、今の相手に誠を尽くすと思います」

誠を尽くす! ジョナスに! 俺にではなくてジョナスに!



イケメンの絶望はなかなか絵になる。面白い。

「だけど、ルイス、まだよかったじゃないか」

アンドルーが慰めた。

「理屈ばかりを出してきたってことは、気持ちは残っているのかもしれない」

「うん。ジョナスが大好きだと言われたら、なにもかも終わりだ。だけど、そうじゃないなら……」

「よしんば、メリンダがルイスに気持ちを残していても、自分から動いて婚約破棄した以上、メリンダはルイスを拒否すると思うわ」

あくまでも、メリンダの女友達は怖い。ルイスの息の根を止めにかかっている。

「ですから、ルイス様はもう何をしても絶望ですわ……」

モニカ嬢がニタアっとルイスに向かって笑って言った時、ルイスは心底、ゾッとしたが、彼女は方策を伝授してくれたのだった。

「子爵夫人に取り入りなさい」




お茶会やダンスパーティで出会うチャンスは増え続けたが、あきらかにメリンダは彼を避けていた。


一方で、子爵夫人は、じゃんじゃん招待を受け続けていた。

「おかあさま、いい加減になさって!」

メリンダが文句を言うのには理由があった。

なぜなら、父が選ぶ茶会やダンスパーティは、どれも高位貴族からのものばかりで、子爵家のメリンダや公爵家のルイスは出られるが、出身が商家のジョナスは招待状が来ないので、出られないのだ。

従って、メリンダは、ジョナスのいないパーティーばかりに出席しなければならなかった。

しかも、数が多いので、ジョナスの出るパーティーへ出る余地がなかった。

どちらのパーティーに出るかと言われたら、高位貴族のパーティーを優先せざるを得ない。


メリンダは猛烈に困っていた。

「あら、だって、おとうさまがおっしゃったの。ルイスの家を立て直すのに、お金も時間も使ったけれど、娘はないがしろにされて結局捨てられたようなものだ、ルイスを使って、高位の家々に恩を売れるものなら、せめてのお返しだろうって」

そう言われると、断れとは言えない。

でも、茶会にしろダンスパーティにしろ、ちょっと油断すると、なにかややこしい雰囲気をまとった貴公子が近付くチャンスを狙っていたり、じっと見つめてため息をついていたりするのだ。

そして、見物人がいる。

今やルイスは髪もさりげなく整え、広い額ときりっとした眉、まつげに彩られた目や、形の良い鼻と口元が目立つようにしていた。

ただの無駄なイケメンだったのが、勝負イケメンに変身したのだ。

更に、すらりとかっこいい体の線がわかる服を着ていて、それが意味ありげにメリンダを見つめている。



メリンダは注目の的になってしまった。

まずい。とても、まずい。

こんなに注目されたことは、これまでの人生になかった。

しかも彼女の動向に注目しているのは、主に女子である。

ルイス様命の推し活メンバーなのだ。


同じ女子として、推し活の気持ちはなんとなくわかる。わかってしまう。

推しの希望は彼女たちの望みでもある。

もちろん、ルイスの売りはメリンダへの一途な愛なので、メリンダには優しいのだが、やはりなにか怖いような。

推し活メンバーには高位の令嬢も混ざっている。密かにその母上たちも、何気に注目していたりする。




ルイス程、水際立った美女になるのは無理だけど、少なくとも、努力はするべきじゃないかしら。

ルイスの恋人が、ガッカリするようなみすぼらしい女性だったら、また余計な一波乱が起きそうな……


メリンダにお金の心配はいらなかったのは幸いだった。

化粧にドレス、似合うアクセサリー、どんなに買い揃えても両親は喜んで彼女をチヤホヤした。

もっとも、あまり派手に装うのは、ルイスが地味目なだけにはばられる。程度が重要だ。さらに振る舞いにも気をつけないと。推し活令嬢を刺激するような言動は慎まねば……


「ルイスに合うように装うって、おかしいんじゃないかしら」

強く疑問を感じていたが、情け容赦なくやってくるパーティを無事乗り切るためには仕方なかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

【完結】儚げ超絶美少女の王女様、うっかり貧乏騎士(中身・王子)を餌付けして、(自称)冒険の旅に出る。

buchi
恋愛
末っ子王女のティナは、膨大な魔法力があるのに家族から評価されないのが不満。生まれた時からの婚約者、隣国の王太子エドとも婚約破棄されたティナは、古城に引きこもり、魔力でポーションを売り出して、ウサギ印ブランドとして徐々に有名に。ある日、ティナは、ポーションを売りに街へ行ってガリガリに痩せた貧乏騎士を拾ってきてしまう。お城で飼ううちに騎士はすっかり懐いて結婚してくれといい出す始末。私は王女様なのよ?あれこれあって、冒険の旅に繰り出すティナと渋々付いて行く騎士ことエド。街でティナは(王女のままではまずいので)二十五歳に変身、氷の美貌と評判の騎士団長に見染められ熱愛され、騎士団長と娘の結婚を狙う公爵家に襲撃される……一体どう収拾がつくのか、もし、よかったら読んでください。13万字程度。

悪役令嬢♂〜彼は婚約破棄国外追放死亡の運命を回避しつつ、ヒロイン達へ復讐を目論む〜

フオツグ
恋愛
パッケージの美女アナスタシアに釣られて買った恋愛シミュレーションゲーム【キュリオシティラブ】。しかし、その美女は性格最悪の、俗に言う悪役令嬢であったため、婚約破棄された後国外への追放を言い渡され、国外へ行く道中、事故で死亡してしまう運命にあった……。 アナスタシアの突然の死に涙する男子高校生は、美女アナスタシアの弟に転生してしまう。しかし、美女は男だった! 悪役令嬢♂の死の運命を回避し、嘘つきのヒロインと裏切り者の攻略対象に復讐する! この作品は小説家になろうにも掲載中です。

私なんか要らないんでしょう? 離婚よ! サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ~♪

百谷シカ
恋愛
「どうして僕を愛さないんだ! クソ! もう君なんか要らないよ!!」 遊んでばかりの夫は、そう泣き叫んで私を殴った。 その瞬間、使用人たちが私に群がり、全力で守ってくれた。 私はツムシュテーク伯爵夫人ロミルダ。 亡き先代当主から領地経営を丸投げされた、現当主の妻。 当主の自覚もなく遊んでばかりのお坊ちゃんに、もう愛想が尽きました。 ツムシュテーク伯爵家がどうなろうと知ったこっちゃないわ! 「離婚します。サヨナラ~♪」 そうして私自身の人生をエンジョイし始めたら、旅先で恋に落ちた。 コンラート・ヴェーグマンと名乗った彼が、王子様とも気づかずに……

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

処理中です...