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第83話 使用人がお嬢様の結婚問題に口出ししてくる

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扉の陰で、メイフィールド夫人以下ウチの使用人たちは、ハウエル商会の会長の決意表明を聞いて泣いていた。

「私どものお嬢様を……どうかお守りください」

「商会のお力で……」

おそらく、私の知る限り、最強の魔法使いは殿下だ。そしてセス様だ。


特に殿下は戦闘能力については群を抜いている。

セス様は文字通り冥界の魔王。たぶん、人の目を欺くことや、人の気持ちを見抜くこと、もしかしたら他人の気持ちを変えることすらできるかもしれない。その分戦闘力はさっぱりだけれど。

それに、あの二人は騎士団を始めとした国の捜査能力を自由に使えるだろう。

だから、多分、この点に関しては商会の力より、殿下の方が圧倒的だろう。殿下に任せておけば、おそらく放っておいてもリーマン侯爵家など草一本残らないのでは?

とは思ったが、忘れていたことが一つだけあった。

「バスター君」

私はこっそりバスター君を呼んだ。

彼は今も色白でいささか太り気味、商人のくせに精悍な感じのする兄の副会長と違って、いかにも柔和な雰囲気があるが、兄の副会長より頭は鋭いのではないか?

「あのね、リーマン侯爵家で聞いたのだけど」

「はい」

バスター君は緊張した面持ちで返事した。

「毒の入手先についてだけど、この前私と一緒に出掛けたグレイ様から手に入れたと言っていたの」

バスター君がハッとした様子になった。

何か思い当たることがあるのかもしれない。

「商人には商人同志、噂を聞くことがあるでしょう? 倉庫業者とか海運とか。もしかすると、外国産の毒かも知れない。私には毒の種類がわからなかったの」

「ポーシャ様にもわからなかったのですか?」

私はうなずいた。毒には種類がある。私は大抵の国産の毒なら知っている。子どもの頃、偽アランソン公爵ことジョン・スターリン男爵から、一杯プレゼントされたし、最近は悪獣に効くポーション作成のために熱心に毒を研究した。
だが、初めての毒だった。

なぜ、そんなものが我が国に入り込んでいるのだろう。

「会長にうまく伝えて。セス様にも頼んでいるけど、外国産の毒については商会の方が情報を得やすいかもしれない。でも、無理はしないで。セス様に毒は効かないけど、会長は危ないわ」

私は私の使用人や、ハウエル商会を守らなくてはいけない。

殿下? 殿下は自分で自分を守れる。セス様も。

アデル嬢やリーマン侯爵家は、多分氷山の一角。
悪獣退治は毒肉ポーションに任せて、この国に入り込もうとする悪の総帥を倒すのだ。


そう思いはしたが、ここで、致命的なことに気がついた。

「悪の総帥……」

このセリフ、絶対ダメだ。

セス様の大好物に決まっている。

悪の総帥 vs 魔王

「こりゃもう、ハウエル商会の出番ないかも」

色々あって疲れた一日だった。私は着替えて眠りについた。

「うん。任せよう。絶対ノリノリになる。きっと大丈夫。それどころか、セス様から出番、奪ったら一生恨まれそう」

おかげで、とことん安眠できた。


翌朝、私は、頬を赤らめた侍女に早朝から起こされた。

「殿下から花束が……」

そんなもので起こさないでほしい。まだ寝たりない。

そして花束と一緒に、とてもかわいらしい小鳥が一羽一緒に入って来た。

「この小鳥も一緒についてきましたの。なんてかわいらしい」

小鳥は、チチチ、チュルリ、チュチュチュと愛らしく鳴いて、侍女にまとわりついている。

ふわっふわの白い真ん丸な小鳥で尾羽と翼の一部が灰色だが、中に真っ赤な羽が隠されていて、飛び立つと一挙に華やかな色彩が目に入る。

「まあ、かわいい上に美しい」

侍女はすっかりその小鳥に魅了されているが、私はあいつの正体を知っている。
殿下の悪獣(鳥)のピヨちゃんだ。

「気を付けて」

ピヨちゃんは私の机の上に降り立つと、突然踏ん張ってウンウン言い出した。
そしてポトリとフンを落した。

よかった。机の上で。侍女の頭の上にでも落とされたらどうしようかと思った。

「ギャー」

侍女は叫んだが、ピヨちゃんは用を済ませてせいせいしたようで、サッと開いている窓から飛び立ってしまった。

「花はどっかに活けといて。朝食には下へ行くわ。先に手紙を読むわ」

侍女はピヨちゃんのお振る舞いと容姿のギャップに呆然として、黙って出ていった。

さてと。

緑と白の混じったような嫌な色の紙には、その後の経緯が書かれているはずだ。


手紙は相当長かった。
ピヨちゃんがウンウン言っていたはずだ。

『愛しい人へ (ゲ。ここは読み飛ばしてと) ……昨日、初めてあなたの気持ちを確認できて、とても嬉しかった。思い切って誓約のキスをしてよかった。あなたの唇が触れた時、僕の想いは受け入れられていたんだと……』

イライラしてきた。無駄に長い。大体、恥ずかしすぎる。目が上滑る。
しかも、本論はそこじゃないだろ、捜査結果を書かんかーい。

延々と色ボケが続き、最後の方にチョロっと肝心なことが書かれていた。

『侯爵家一家と使用人は全員拘束。別々に尋問しているが余罪はない模様。主にアデル嬢の暴走で、薄々当主の侯爵も知っていたらしい。アデル嬢の短慮には相応の処罰が必要と考えるが、毒の入手先についてセスが動いている。君を愛している』

最初と最後がなければ、なかなかいいレポートなのに。

ちょっと触るのをためらう柄の紙だったが、私は最初の部分と最後の部分を切り取って、捜査レポートだけ残した。

これで人前に出せる。

こっそりバスター君に見せなきゃいけない。

残ったクズは、誰も見ていないことを確認して、机の中にしまった。
捨てて誰かに読まれでもしたら、生涯の恥だわ。大事にしまっとこう。


朝食に降りて行くと、いつもより多い人数が私を待っていた。

「あら、今朝はにぎやかね」

「お嬢様の元気なお姿を確認したくて」

カールソンさんが涙目になって言った。使用人一同がウンウンとうなずいている。

まあ、私が死んだら、全員、失職だしね。

「そう言う意味ではなくっ」

「まったくどうしてウチのお嬢様は、こんなにひねくれてるのかしら」

「純粋に美人が死んだらもったいないですから!」

「お貴族様然として、使用人を奴隷のように扱う家が多いのに、ここんちは全然そんなことない! ここの家風は得難いです!」

「水仕事はつらいけど、お嬢様が手伝ってくださるんですもの」

(得意の家事魔法でチャッチャッと手伝っているだけだ)

若干、一言言いたくなるような感想もなくはなかったが、概ね肯定的な意見でよかった。

「そして、この際ですので、お嬢様に確認したいことがございます」

執事のカールソンが重々しく口を切った。

なにかしら?

「お嬢様の結婚についてです」

「はあ?」
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