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第58話 森の中で二人きりで
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運が良ければ、気持ちのいい草原の上なんかに着地できるが、木に引っかかって宙吊りになってみたり、池ポチャしてずぶ濡れになったりした。
「なんで池なんかあるんだろう」
濡れたスカートを絞りながら私は愚痴った。
殿下は持参した肉の他に、ウサギなどの小動物が近くを通ると、指先から魔力を発してさっくり射止めて、私に顎で指示した。
あれを運べと言いたいのだ。
「チ」
口の中でぼやいて、服を絞りながら私は泥棒魔法……もとい運搬魔法を使う。
「新鮮でおいしそうな肉が多い方が効果、あるだろ?」
まあ、言っていることに間違いはないけど。
「血抜きとかいろいろ考えなくていいから、楽だねえ」
そう言いながら、殿下はさっさと解体し、毒薬をかけろと言う。
「待って」
私はまず自分を乾かしてから、殿下も乾かした。これで出発できる。
この薬には二種類の毒が混ざっている。
媚薬は気化するもので、即効性だ。
これで悪獣を呼び寄せる。
肉に沁みる方の毒は遅効性。
媚薬に惹かれてやってきた悪獣たちは、さあどうぞと言わんばかりに置いてあるおいしそうな毒肉を、ついついガブリと食べて調子が悪くなると言う寸法。
媚薬に惹かれた悪獣たちがやって来る前に、こちらはさっさと退去しなくてはならない。だから、毒を回し掛けするのは最後の作業になる。
「絨毯の準備はできた?」
「いつでも来い」
殿下は絨毯の上で待っている。来いってなんだ。
「毒をかけるわ」
肉の上に毒を回し掛けるとすぐに殿下のところへ移動する。なぜだか、毎度嬉しそうに抱き込んで、すぐ移動する。
正直、悪獣が怖いので、不本意だが、殿下の腕の中に毎回突っ込む勢いだが、殿下はなんだかとてもうれしそうだ。
これを毎日続けた。
「どれくらい続く?」
殿下が聞いた。
そろそろ自分の本来の仕事が気になってきたのだろう。
「およそ三日。毒の瓶を百個くらい用意したの。だから、それがなくなるまで回ってみたい。効果があるなら、もっと作るわ。そして、うまくいくようなら、他の騎士たちにもお願いしてみたいわ」
「絨毯を自由自在に操れるだけの魔力がある人間が、何人いるかだな」
殿下はそう言って、絨毯を操作した。
今度は、森の中にポッカリと空いた空間だった。日差しが快い。
比較的広く、木も密集していなかったので見通しもいい。
「なかなかいい場所だ。休憩を入れよう」
殿下が宣言する。
「休むより、早く終わらせたいわ」
私は焦っていた。殿下の言う通り、殿下を戦線から長く離脱させるわけにはいかない。彼は重要な戦略だ。
「でもね、昼も食べないといけないし、休憩も必要だよ」
もっともらしく、殿下が説教するので、殿下自身はずっと昼ごはんもろくに食べず撃ち続けていたことを思い出させた。
「僕はいいんだよ。君はダメだ」
なんでだ。
「大体、基本的な体力ないでしょう」
殿下は肩をすくめた。
否定できないところがつらい。
「今にムキムキになってやる」
と言うと、殿下はプッと笑い出した。
「君は、僕が守るからいいんだよ」
推しにいろいろ世話を焼かれるとかえって変な気がする。
以前の殿下と違って、今の殿下はずっと痩せている。いや筋肉質になった。
嬉しそうにバスケットをかき回してサンドイッチを取り出した。
「今日は燻製の鶏か」
殿下は二人分の昼食を取り出すと、隣にべったりくっついて座った。
なんとなく離れるように座り直すと、余計くっついてきた。殿下に腕を回されると、動けない。
どうしたらいいんだろう。
殿下は嫌いじゃない。尊敬できる人だと思った。
だけど、これは何と言うか少し違うよね?
まるで殿下は鉄みたい。まったく動けない。殿下は私の頭に自分の鼻を突っ込んで、匂いを嗅いでいる。イヌじゃあるまいし、やめてください!
「冷たいな、婚約者なのに」
忘れていた。私、セス様を婚約したんだった。
「あ。殿下。私セス様と婚約することにしました」
「なんで池なんかあるんだろう」
濡れたスカートを絞りながら私は愚痴った。
殿下は持参した肉の他に、ウサギなどの小動物が近くを通ると、指先から魔力を発してさっくり射止めて、私に顎で指示した。
あれを運べと言いたいのだ。
「チ」
口の中でぼやいて、服を絞りながら私は泥棒魔法……もとい運搬魔法を使う。
「新鮮でおいしそうな肉が多い方が効果、あるだろ?」
まあ、言っていることに間違いはないけど。
「血抜きとかいろいろ考えなくていいから、楽だねえ」
そう言いながら、殿下はさっさと解体し、毒薬をかけろと言う。
「待って」
私はまず自分を乾かしてから、殿下も乾かした。これで出発できる。
この薬には二種類の毒が混ざっている。
媚薬は気化するもので、即効性だ。
これで悪獣を呼び寄せる。
肉に沁みる方の毒は遅効性。
媚薬に惹かれてやってきた悪獣たちは、さあどうぞと言わんばかりに置いてあるおいしそうな毒肉を、ついついガブリと食べて調子が悪くなると言う寸法。
媚薬に惹かれた悪獣たちがやって来る前に、こちらはさっさと退去しなくてはならない。だから、毒を回し掛けするのは最後の作業になる。
「絨毯の準備はできた?」
「いつでも来い」
殿下は絨毯の上で待っている。来いってなんだ。
「毒をかけるわ」
肉の上に毒を回し掛けるとすぐに殿下のところへ移動する。なぜだか、毎度嬉しそうに抱き込んで、すぐ移動する。
正直、悪獣が怖いので、不本意だが、殿下の腕の中に毎回突っ込む勢いだが、殿下はなんだかとてもうれしそうだ。
これを毎日続けた。
「どれくらい続く?」
殿下が聞いた。
そろそろ自分の本来の仕事が気になってきたのだろう。
「およそ三日。毒の瓶を百個くらい用意したの。だから、それがなくなるまで回ってみたい。効果があるなら、もっと作るわ。そして、うまくいくようなら、他の騎士たちにもお願いしてみたいわ」
「絨毯を自由自在に操れるだけの魔力がある人間が、何人いるかだな」
殿下はそう言って、絨毯を操作した。
今度は、森の中にポッカリと空いた空間だった。日差しが快い。
比較的広く、木も密集していなかったので見通しもいい。
「なかなかいい場所だ。休憩を入れよう」
殿下が宣言する。
「休むより、早く終わらせたいわ」
私は焦っていた。殿下の言う通り、殿下を戦線から長く離脱させるわけにはいかない。彼は重要な戦略だ。
「でもね、昼も食べないといけないし、休憩も必要だよ」
もっともらしく、殿下が説教するので、殿下自身はずっと昼ごはんもろくに食べず撃ち続けていたことを思い出させた。
「僕はいいんだよ。君はダメだ」
なんでだ。
「大体、基本的な体力ないでしょう」
殿下は肩をすくめた。
否定できないところがつらい。
「今にムキムキになってやる」
と言うと、殿下はプッと笑い出した。
「君は、僕が守るからいいんだよ」
推しにいろいろ世話を焼かれるとかえって変な気がする。
以前の殿下と違って、今の殿下はずっと痩せている。いや筋肉質になった。
嬉しそうにバスケットをかき回してサンドイッチを取り出した。
「今日は燻製の鶏か」
殿下は二人分の昼食を取り出すと、隣にべったりくっついて座った。
なんとなく離れるように座り直すと、余計くっついてきた。殿下に腕を回されると、動けない。
どうしたらいいんだろう。
殿下は嫌いじゃない。尊敬できる人だと思った。
だけど、これは何と言うか少し違うよね?
まるで殿下は鉄みたい。まったく動けない。殿下は私の頭に自分の鼻を突っ込んで、匂いを嗅いでいる。イヌじゃあるまいし、やめてください!
「冷たいな、婚約者なのに」
忘れていた。私、セス様を婚約したんだった。
「あ。殿下。私セス様と婚約することにしました」
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